※この話はオリキャラメインのリリアン話です。
関係各所の皆様にはあらかじめ謝っておきます。……ごめんなさい。
『【No:1648】約束の時が近づく身を焦がす未練さよならだけが人生』から続けてみた。
こんなはずじゃなかった。
ロザリオを受け取ったあの日、あまりに不釣合いな姉妹だって思わなかったこともない。
お姉さまである芽衣さまは、見た目は金髪な美人さんで、ちょっとロリ入った円な瞳が可愛くて、性格は良く言えばアグレッシブで悪く言えばエゴイスティックで。
一方の私はどこにでも居るような、ちょっとドジッ子属性がなきにしもあらずな普通の女子高生で……。
いつか飽きられて、妹じゃいられなくなることがあるかもしれない、ないかもしれないなんて考えたり考えなかったり。どっちなんだ。
でも。
誤解とはいえ、こんな風にお姉さまから決別を言い渡されてしまうなんて思ってもみなかった。
ロザリオを奪われてしまうなんて思ってもみなかった。
誤解なら解けば良い――。
それはそう。
でも、鎖を引きちぎられた首筋の痛みは『もう遅い』と、そう私に告げているかのようだった。
くじいた足を引きずってでも追いかけなかったのは、立ち止まって欲しかったことの裏返し。
それでも私を信じてるって態度で示してもらいたかったのだ。
でもお姉さまは帰ってこない。
雨はだんだんと勢いを増して私を濡らしていった。
絶望的、というほど絶望していないのはきっと私が冷たい人間だからだろう。
そんな冷たい人間はお姉さまに決別されて当然だ。
きっとこれは一つのきっかけだったんだ。
考えてみれば今までこういう事にならなかったのが不思議なくらいだ。
私はお姉さまに振られたくらいで自分の存在を失ってしまうほど情熱的な人間ではない。
だからこんな時でも、冷静にそんなことが考えられるのだ。でも、その一方でそんな冷めた自分を寂しく思ってもいる。
「ぬれちゃうわよ?」
背後から傘がさしかけられた。
私はかろうじて傘が意味を持つくらいの濡れ具合だった。
そのリリアンの女生徒に似つかわしくない黒い男物の傘に入れてもらって、その見知らぬ生徒の心配そうな顔を見て、初めて自分が『投げやり』な気持ちになっていることに気付いた。
私が『生徒』だと思ったのは彼女がリリアン高等部の制服を着ていたからだ。
落ち着いた物腰からすると上級生らしかった。
「あの」
「事情はしらないないけど、この冷たい中、濡れて帰ったら風邪を引くわよ?」
そう言って彼女は少し首をかしげた。
彼女の私と同じくらいのセミロングが傘の中で揺れる。
「はい」
冷たくなっていた私の心に、この見知らぬ先輩の心遣いはとても温かく感じた。
「傘、持ってる?」
「あ、はい教室に戻れば」
「降りそうなのに置いてきたの?」
色々ごたごたあって天気予報を見てせっかく持って来た傘は教室に置き忘れていた。
いや、もし降って来たらお姉さまに相々傘をねだってしまおうなんて思っていたんだっけ。
多分その事が念頭にあって無意識にも置いてきてしまったのだろう。
でも、そんな企みももう二度と出来ないのか……。
あの直後はあんなに冷静だったのに何故か目頭が熱くなった。
彼女は私が俯いて涙を落としているのに何も訊かずに校舎まで付き合ってくれた。
「ここまででいいわよね?」
「は、はい。ありがとうございました」
「じゃあ、ごきげんよう」
「ごきげんよう……、あ!」
つられて挨拶をしたあと、彼女の名前も聞いていなかったことに気付いたが、彼女はさっさともと来た道を引き返して行ってしまった。
呼び止めて名前を聞き出すのも変なのでそのままその姿を見送った。
同じ学校に通っているのだからまた会う事もあるだろう。
彼女の後姿は、制服の黒と大きな黒い傘でまるで黒い茸が歩いているみたい、なんて思った。
*
どんなに落ち込んでも次の朝は来る。
沈んだお日さまがまた昇るように、深海魚のようだった私の心もどうにか回遊中のマグロくらいには回復したと思う。
誤解だけでロザリオを引きちぎるなんて、芽衣さまもやりすぎだ、なんて思えるくらいに。
翌日は昨日の一日中どんよりしていた天気が嘘のように良く晴れていた。
「良ちゃん!」
マリアさまの庭でお祈りしているといきなりハイテンションな呼び声が聞こえた。
聞き覚えのない声だ。
いやまてよ? 何処かで聞いたような……。
「はい? 私を呼びました?」
「そうよ、呼んだのは私、呼ばれたのはあなたで間違いなくってよ?」
まあ名前を呼ばれたのだから間違いないのであろうが、その何処かで聞いたようなフレーズで答えた彼女は。
「あ!」
「ごきげんよう。あ、ではないでしょう?」
そう言って微笑んだのは昨日の黒い茸の彼女だった。
「ご、ごきげんよう!」
慌ててそう言いなおした。振り返りざまバカみたいに口をあけて「あ!」なんてリリアンの淑女らしからぬ失態だ。
「あら、元気が良いわね。どう? お姉さまと仲直り出来そう?」
そう言って、彼女は「元気でよろしい」みたいにうんうんと頷いた。
『仲直り』と言われてちょっと驚いたけど、そりゃ、見てたよね。あんな目立つところであんなパフォーマンスをみせてたら。
「い、いえ、まだ」
そう答えた。まだ仲直りとか考えるほど思考が回っていないのだ。
「まあ、芽衣さんも結構意地っ張りなところあるけど。頑張りなさい」
「えっと、ご存知なんですか?」
「それは知ってるわよ、彼女目立つし」
まあそれはそうだ。
帰国子女にして金髪の美少女。その上あの性格だし。
というか、『さん』ってつけてるってことはやはり先輩だ。
「あなたのこともよ」
「えっ」
思わず声が裏返った。
「そんなに驚く事ないじゃない。有名人の妹になったらそれくらい覚悟しなきゃ」
「ま、まあそうですけど……」
そういえば昨日名前を名乗らなかったのにさっき名前を呼ばれたっけ。
「持って」
そう言って彼女は手にしていた鞄を差し出した。持てってこと?
開いているほうの手で鞄を受け取ると、彼女はからになった両手を私の首の後ろに回した。
(な、なに?)
何が起こったのか一瞬わからず、私は目をつぶり首をすくめた。
が、しゅるしゅると布の擦れる音が聞こえて何をされているのか判った。
「あ、あの。何を」
とりあえず顔が近すぎるので上の方を向いて訊いた。
「タイが曲がっていてよ」
「はぁ」
「一度やってみたかったのよね。タイ直し」
「あの、タイ直しはいちいち完全にほどいたりしないかと」
「人それぞれよ」
「聞いたことありません」
「ああっ、あなたが話し掛けるから曲がっちゃったじゃない。やり直し」
そう言ってまたタイを解き始めた。
「あの、ですね」
ちょっと顔が近くて、この体勢疲れるんですけど……。
彼女の髪は私と同じくらいのセミロング。
でも色は重そうな黒髪で、適当にうねってはねているのはくせっ毛だろう。
「ううん、上手く結べないわ」
また解いてしまった。
そうしているうちに、登校してきた生徒がなにやら奇異の視線を向けては、お祈りをしてまたちらちらとこちらを見ながら去っていく。
いい見世物になってるんですけど……。
「そうだわ、向かい合ってるからわからないんだわ」
「はあ?」
「後ろ向きなさい」
そう言って彼女は私を180度回転させた。
そして後ろから抱きつくように胸の前のタイに手を伸ばした。
まあ自分が結んでいる時のようにやろうとしたのだろうけど……。
(これじゃ、見えないし意味ないじゃん)
と、思っても口に出さないのはここでのたしなみ。か?
「よし。結べたわ」
もう180度回って私が見たものは、いやに爽やかな笑顔のくせっ毛の先輩の顔だった。
(さっきより曲がってますけど)
と、思っても口に出さないのは、やはりここでのたしなみであろう。
そのとき、
「ちぇすとーーーーー!!」
っと、聞き覚えのありすぎる声が聞こえたかと思うと、くせっ毛の先輩の姿が一瞬ぶれて見えなくなった。
「え?」
一瞬遅れてざっぱーんと水に何かが飛び込んだような音が聞こえた。
いや、これだけこんな所ですったもんだしていればそうなった事は十分想像できたはずだった。
「なに、やってるの?」
そう、さっきまで茸の先輩が立っていた私の目の前には、朝の陽射しに輝く金色の髪を耳の上で二つ縛った、円な瞳が萌えポイントな、昨日まで愛しき私のお姉さま『だった』お人が眉を微妙に吊り上げて立っていた。
「……お、おね、芽衣さま?」
一瞬迷ってそう言いなおすと、お姉さまは目を細めて言った。
「ふうん、もう新しいお姉さまを見つけたのね。それともあたしへのあてつけ?」
「あてつけ!? そんな……」
「昨日はひとみさん、今日は綾さま」
ああ、綾さまっていうんだ。なんて感心している場合じゃなくって。
「そんなにあたしのことが嫌いならもっと早く言えば良かったのよ!」
「ち、違う」
「何が違うのよ。昨日はあたしも頭に血が上ってたからって思ったわ。話を聞かなきゃって。聞いてからでも遅くないって。だから……。でもこれはなんなのよ!」
お姉さまは私のちょっと曲がってしまったタイをビシっと指差した。
「これは……」
「あたしがバカだったんだわ。それでも良には好かれてるはずだからって勝手に舞い上がって」
「お姉さま!」
「もう言い訳なんて聞きたくない! 聞きたくないっ!」
「言い訳じゃ」
「せっかく鎖も直してきたのにっ! こんなもの!」
「あっ!」
お姉さまはポケットから取り出した鎖、いやロザリオだった。
昨日まで私の胸にかかっていた、昨日の放課後お姉さまが引きちぎったロザリオ。
お姉さまはそれをマリアさまの庭の池に投げつけた。
キラキラと朝日を浴びてきらめきながらそれ水面に飛び込み暗い水底に吸い込まれて行った。
「あーあ」
くせっ毛の先輩、名前は綾さまといった。ロザリオと入れ違いに陸に上がった彼女は、たった今漬かっていた水面を見ながら言った。
というか、濡れた髪の毛が顔に張り付いて怖いんですけど。
お姉さまは親の敵を見るような視線でやはり水面を睨んでいた。
綾さまはなにか震えながら言葉を続けた。そりゃこの時期服のまま水浴びしたら寒いでしょうに。
「あなた、考えなさすぎよ。本当は仲直り……」
「うるさい!」
お姉さまは綾さまの言葉を遮るように言った。
「じゃあ、いいのね? えくしゅっ! 良ちゃんを、私が貰っちゃっても?」
(え?)
お姉さまはぐっとなって、でも言葉は発っさなかった。
「鎖を直して来たってことは、良ちゃんの首にまた掛けたかったんじゃなくて?」
(ええ!?)
そうか。そういえば「せっかく鎖も直してきたのに」って言っていた。
もしかして、もしかしたら私の未練かもしれないけど、お姉さまにまだ愛想つかされてないって、思ってもいいのかな?
「まあ、本名偽って学校に来てるような人間じゃ妹に愛想つかされても仕方がないかな?」
「なっ!」
(え? 本名って?)
芽衣さまって本名じゃなかったの?
お姉さまは明らかに驚愕と動揺と敵意の混じった表情で綾さまを睨んでいた。
「なんでそれを!」
「知ってるかって? そ・れ・は……、あー、なんか頭がくらくらするわ」
って、顔色、青いですよ? 急いで保健室に行った方がいいのでは?
でもその前に。
「あ、綾さま、本名って」
「それは本人に聞いたほうが良いんじゃらいから?」
ろれつが回ってないし。
綾さま、大丈夫ですか? なんかがちがち震えてますけど。
私はお姉さまの方に顔を向けた。
お姉さまは私の方を見て、眉をハの字にして申し訳なさそうな不安そうな表情をしていた。
「その前にあーたも言うころがあるえしょ?」
「え?」
お姉さまに言わなければならないこと。
そうだ。
なんか綾さまに引っ掻き回されてしまったけど、昨日の誤解と今日の誤解を解かなければ。
ほら、と綾さまが背中を押してくれる。というか綾さまはは早く教室行って着替えるなりしてください。
「あ、あの、私」
「良」
「え?」
お姉さまは俯いたまま。前髪が目にかかって表情は良く見えない。
「愛想つかしたよね。こんな思い込みが激しくて、すぐ突っ走っちゃってさ。あなたも迷惑だったでしょ、こんな姉をもって」
「そ、そんな」
「でもね、あたしは、良が好きだ」
「お、お姉さま……」
「繋ぎとめられるものなら繋ぎとめたかった」
だから、ロザリオの鎖を直してきた。それは判った。
「でもずるいよね。自分は嘘ついてて身勝手だよね」
これがお姉さまなのだろうか?
俯いてうな垂れて。
これが、自分勝手で無駄に元気で人の迷惑なんてこれっぽっちも考えないで人を引きづり回すあのお姉さまなのか?
「愛想つかされて当然だよね……」
こんな、こんな。
「お姉さま!」
「まだ、あたしのことお姉さまと呼んでくれるの?」
お姉さまは顔を上げた。
不安そうな子犬のような目。
こんなのお姉さまじゃない。
「当たり前です! お姉さまは確かに、自分勝手だし思い立ったら考えないですぐ突っ走るしそれで周りに迷惑かけても平然としているし、だから妹の私が尻拭いに走り回る事も多いけど……」
「……ごめん」
謝るお姉さまの態度が余計に私を苛立たせた。
「でも! それが私のお姉さまです。そんなところもひっくるめて私はっ!」
拳を握り締めてそこまで言った時点で私は回りの様子に気がついた。
ええっと、マリアさまのお庭の前にぐるっとこちらを見てる目、目、目。
かーっと顔が熱くなった。
ギャラリーの中には当然のように蔦子さまと真美さまもいた。
もしかして、朝っぱらから大恥かいたってやつ?
「うー、さぶい……」
「ってまだ居たんですか!」
すぐ近くで綾さまが震えていた。
「だって、面白そうだし……」
時間がやばくなって、ばらばらとギャラリーが去っていく中、私はお姉さまと見詰め合っていた。
「お姉さま……」
お姉さまはもう子犬の目をしていなかった。
「良! ちょっと待ってて」
「え? ええ!?」
というかいつもの目に戻っていたのだ。
そしていきなり靴とソックスを脱ぎ捨てたかと思うと、
「お姉さまっ!」
私に制止する隙を与えず、マリアさまのお庭の柵を乗り越えて池に飛び込んでしまった。
飛び込んだといっても足からだ。お姉さまはスカートの裾が濡れないように捲り上げで無理矢理結んで落ちないようにして、そんなに深くない池の奥のほうへ進んで行った。
「この辺りよね?」
「おねーさま! 汚いですよ」
「あら、マリアさまのお庭か汚いだなんて。でもちょっとぬるぬるするわね」
そう言いながら制服の袖を捲り上げ、池に手を突っ込もうとしてかがんで、「あれ」っと髪の毛が水面につきそうになったのに気付いてまた起き上がり、髪の毛を団子のように丸めてゴムで留めた。そうやって両側の髪をお団子にして今度こそ水中に手を突っ込んで探し始めた。
そうなのだ。
お姉さまはこういう人だった。
思い立ったら即実行。人の意見なんてどこ吹く風。遅刻になってもお構いなしだ。
「もうちょっと右だったと思うわ。あ、そうじゃなくてもっと後ろの辺」
なんか綾さまも残ってナビケートしてる。
というか復活したのか?
「綾さま、制服濡れてて寒くないですか?」
「大丈夫よ。なんか熱くなってきたし」
ってそれは熱が出てきたっていうのでは?
「どうしてそこまで……」
してくれるのですか? って聞こうと思ったら、
「あったー!」
お姉さまの声があがった。
お姉さまは誇らしげにロザリオを掲げ持っていた。
「それで間違いない?」
「間違いないわよ。ほらここ、あたしが直した所」
そう言ってロザリオの鎖をつまんで見せた。
ここからでは良く判らないんだけど。
「あの、それをそのまま私の首にかけるつもりですか?」
マリアさまのお池にどっぷり漬かって、アメーバーやらミジンコやらツリガネムシやら色々移住してきているのでは。
お姉さまはもうかける気満々でロザリオの鎖を両手で広げて掲げていた。
ちょっと緑っぽくなってる所もなんか嫌。
「良、受け取ってくれないの!?」
お姉さまの表情が曇る。
「ええ? いえ、そういうわけでは。というかそういう問題じゃないんですけど」
「そういえば、まだ、私のことどう思ってるのか聞いてないわ。そうだったのね……」
どこか遠い目で呟くお姉さま。
ああもう。
「好きですよ! 好きっ! 私はお姉さまのこと大好きです!」
「じゃあノンプロブレムね」
ぱあっとお姉さまは微笑んでそう言った。
「いや、なんで帰国子女らしからぬ日本語的発音?」
そんな突っ込みをしてしまうのは、もう追い詰められていたからだ。
っていうか綾さま、どうして背後から羽交い絞めにするんですか?
「あーあったかい」とか言って密着しないでください。体温が奪われますって! あんた雪女か!
その間にもお姉さまはにっこり笑って緑色の何かが所々についた水の滴る鎖を輪にして迫ってくるし、
ってあー、冷っこい! ちょっとまっ、手も濡れてるし、ああっ、鎖が「くちゃ」って感触でっ! あっ! ちょっと、待って、なんでわざわざ襟の下にっ!
そのまま濡れてる手でそのまま抱きつかないで!
って、私の制服で手ぇ拭くなっっ!
(終わり?)
(じゃなくて、もうすこし)
さて。
そろそろ謎解きをしなければならない。
あのあとは綾さまが転んで池に落ちたとか何とか言い訳して遅刻は免れてしまった。
『しまった』というのはその辺のお姉さまの立ち回りがあまりに見事だったから。
そして、昼休みになって、熱を出して保健室で寝ていた綾さまを見舞いに行ったときお姉さまは言った。
「あ、あんた、もしかして」
「やっと思い出したのね」
綾さまはだいぶ回復しているようだった。
お姉さまは続けて言った。
「が○ゃS投稿研の前にあったSS同好会時代に自分のHPを放置してt「あーっ!」」
綾さまはお姉さまの言葉の途中で大声を出した。
「そ、それは葬り去った黒歴史よ! それより私が来た意味わかってるよね?」
「うぅっ、それは……」
お姉さまは、ぐっとなって言葉に詰まってしまった。
私はお姉さまに代わって綾さまに訊いた。
「あの、いったいどういうことですか?」
「松野芽衣ってのは偽名なのよ。まあ通り名を使うのは別に悪くないんだけど、問題は私に間違われるような偽名を使ってたってこと」
「間違われる?」
通り名ってことは本名がどうあれ今まで通り芽衣さまでいいんだよね?
綾さまは、意地悪そうな笑みを浮べてお姉さまに向かって言った。
「というわけで、私の名前を言ってみな。『路夢』さん?」
ろむ? お姉さまの本名はろむっていうのか。
苗字か名前かわからないけど。
「良ちゃん、苗字も名前もなくただの『路夢』よ。R・O・Mでろむ!」
「ろむろむいうな!」
お姉さま、そう呼ばれるのが嫌いみたい。
しかし、さすが帰国子女といったところか。っていうかどこの国だ?
綾さまもさりげなく地の文を読まないでください。
えーっとつまり、
「松野綾さま?」
「違う、松ノ芽綾」
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※作中の登場人物は多分実在の人物とはなんら関係はありません。ええありませんとも。
※まつのめはBADEND撲滅委員会なんて知りません。
※綾と言う名前がペンネームの元になったオリキャラの名前だなんて誰にも判りません。