※菜々半壊れ注意です
「ふんふふ〜んふふ〜ん」
薔薇の館では、いつも通りにみんなが仕事をすすめていた。
祐巳さまと瞳子さまは仲よさそうに喋っていて、志摩子さまと乃梨子さまも会話の片手間に仕事。
といった感じだ。
そして、由乃さまはというと……
「由乃さま、これはなんですか?」
「きりん!!!」
由乃さまは、自信満々の顔で菜々にそれをみせた。
はぁ。
思わず溜息もつきたくなってしまう。その4歳児が書いたようなきりんは、何を隠そう書類にデカデカと
書かれているのだ。しかもペンで。
由乃さまには困ったものだ。菜々は常々そう思っているが、母性本能がくすぐられるのか別に不快ではなかった。
島津由乃さま。菜々の姉であり、高校生とは思えない幼さが残る黄薔薇さまである。
身長、小学生なみ。頭脳、小学生高学年程度。可愛さ、異常(菜々主観)。
さて、ところでこの落書きされた資料はどうしようか。と菜々は頭を悩ます。
紅薔薇組みは相変わらずイチャイチャしてるし、白薔薇組みも以下同文。
結局菜々は、まぁ、なんてことはない。いつも通りに妹らしく躾ければいいだけだ。という結論にたっした。
『妹らしく躾ける』という文の不思議さは、もはやすでに消滅している。
「由乃さま、書類に落書きしちゃダメですってあれほど…」
「も〜!なな!由乃さまじゃなくておねえちゃんでしょ〜!」
それを言うならお姉さまじゃないのか。なんて言おうとしたけれど、とめどなく鼻から赤色の液体が
タレ流れてくるため菜々にはどうしようもなかった。
「ひっ!な、菜々ちゃん大丈夫?ティッシュティッシュ…」
どうやら菜々が鼻血を噴出しているのに気付いたらしく、祐巳さまが慌ててカバンをあさっている。
が、いっこうにティッシュは姿を現さない。
「もう、お姉さま落ち着いてくださいませ。ティッシュなら瞳子も持って……あら?」
ツンツンデレデレしながら瞳子さまもカバンをあさるが、一向にティッシュは姿を現さない。
というか、菜々としてはもういっそどうでもよくなってきた鼻血問題だったが、そこに由乃さまが近づいてくる。
「だいじょぶ、なな?ほらティッシュ」
わざわざイスに乗って菜々の身長にあわせるように、『こより』にしたティッシュを近づける。
「も〜、しんぱいさせないでよね〜」
ブッ
うわ〜!!菜々ちゃん!?菜々ちゃん!?
大変!救急車を…
いや、志摩子さんそこまでしなくても…
なな〜!なな〜!
由乃さま落ち着いてくださいませ!!
……あ〜。結局躾けできなかったなぁ。
それが、菜々が安らかな顔で気絶する前に考えたことだった。鼻血面で。
次の日。
教室でお弁当を食べていた菜々のもとに、由乃さまはわざわざ現れた。
「どうしたんですか、よし…お姉さま。そんなに暗い顔で」
「……きのうは、ごめんなさい」
しゅんとした顔で、由乃さまは頭を下げた。教室がざわめく。
これは拙い……。
「お、お姉さま!一緒にお弁当食べましょうそうしましょう」
このままでは在らぬ噂を立てられかねないと判断した菜々は、由乃さまの腕を掴み、自分の弁当を掴むと
そそくさと教室を飛び出した。
校舎裏の比較的人通りが少ない場所に腰を下ろした菜々は、涙目で菜々を見上げている由乃さまを見た。
「…由乃さま、そんな顔しないでくださいよ。私別に気にしてませんから」
というかむしろ逆ですから。なんだか幸せな気持ちになれましたから。
なんて言ってはみるが、由乃さまの顔色は変わらない。むしろ涙目がより涙目になったような。
「……ごめんね゛」
「だから気にしないで下さいって。よしよし」
よしよししてあげると、由乃さまの顔はとたんに満面の笑みに変わった。
扱いやすい……いや違う、純粋なんだなぁ。恐らく。
「えへへ。ごめんねなな」
「だからいいですから。それより、お弁当食べましょうよ」
ようやく機嫌が直った由乃さまは、カバンからお弁当を取り出した。
さて、じゃあ私も。とお弁当に手をつけようとした菜々だが……
「……」
「あれ?ななのおべんとうなかはいってないよ?」
チラリと見ると、歩いてきた道にはまるで目印かのごとくおかずやらご飯やらが落ちていた。
いくら急いでいたとはいえ、これはないだろう、私。
などと軽く絶望を感じていると、由乃さまはなにか思いついた顔で菜々を見た。
「なな、いっしょにたべよ!」
言いながら、由乃さまはお弁当を差し出してくる。
「…ありがとうございます、お姉さま」
「とうぜんだよ!!」
由乃さまは嬉しそうな顔で、座った菜々の膝の上に座った。
可愛い可愛いお姉さまと一緒にいられる時間を幸せに思いながら、菜々は由乃さまのお弁当を一緒に食べたとさ。
「はい、なな。あーん」
「…あーん」
「あれ?どうしたのなな。はなぢでてるよ?」
「気のせいですよ、お姉さま」
終われ!