ずびびびぃいいいいいむ。
何だかあまり聞きたくないような音が響くのは、紅薔薇のつぼみ福沢祐巳、黄薔薇のつぼみ島津由乃、白薔薇さま藤堂志摩子の三人が居る薔薇の館会議室だった。
「んー……」
ごっくん。
祐巳は、しばしの沈黙の後、溜まっていた何かを飲み下した。
「……祐巳さん、風邪?」
「あはは、うん。ちょっどやっちゃっだみだい」
「随分な鼻声ね。熱は?」
「ぞれはだいぞうぶなんだげど、もうはだづばりが酷ぐって」
「それは大変ね」
由乃と志摩子は、心配半分、呆れ半分の表情を浮かべていた。
ずびびびぃいいいいいむ。
紅薔薇さま小笠原祥子、黄薔薇さま支倉令、白薔薇のつぼみ二条乃梨子の三人が来て、フルメンバーが揃った山百合会。
いつものように仕事を始めたのだが、相変わらず祐巳の鼻を啜る音が、静かな部屋に鳴り響く。
「……祐巳、風邪?」
「はい。おがげではだづばりが酷ぐっで」
「熱は無いの?」
「ええ、ぞれはだいぞうぶですが、ごのはだづばりにはへぎえぎしてばす」
もう、仕方が無いわねぇ。
そんな目付きで軽く息を吐いた祥子は、
「確かここに、ちょうど良い物があったと思うけど……」
館据付の救急箱を棚から取り出し、ガサガサと中を探る祥子。
「あったわ。祐巳、これを使いなさい」
「ぞ、ぞれは!?」
祥子が手にしたものは、“胸に塗ることによって、呼吸が楽になる薬”だった。
「一人では塗りにくいでしょうから手伝ってあげるわさぁおいですぐに楽になるからぐずぐずしないで急いで早くなさいもうのんびりしないの準備はいいのじゃぁ行きましょうか」
一息でそう言った祥子は、祐巳の手首をガッチリ掴み、そのまま引っ張って会議室を後にする。
『………』
残された一同は、黙って見送ることしか出来なかった。
しばらくして、祥子と祐巳が帰ってきた。
祥子は満足したような表情で、祐巳は顔を真っ赤にして俯いたままで。
もちろん全員、何があったのかは分かっている。
恐らく、ほとんど無理やり薬を塗られたのだろう。
羨ましそうな顔で、紅薔薇姉妹を見る黄薔薇姉妹と白薔薇姉妹だった。
「あ」
しばしの後、志摩子が小さく声を上げた。
「どうしたの? 志摩……お姉さま」
「あら、どうしたの乃梨子? 顔が赤いわよ。風邪? 熱でもあるの?」
こちらに顔を向けた乃梨子の頬にイキナリ手を伸ばし、そのまま撫でさする志摩子。
突然のことだった上、柔らかく暖かい志摩子の手の平の感触に、乃梨子の頬が一瞬にして赤く染まる。
「し、志摩子しゃん、何するですきゃ?」
「ああ、どうやらあなたも呼吸が苦しそうで言葉使いが変だわ。そうだわ、確か良い薬が……」
館据付の救急箱を棚から取り出し、ガサガサと中を探る志摩子。
「あったわ。乃梨子、これを使いなさい」
「しょ、しょれは!?」
志摩子が手にしたものは、先ほど祥子が祐巳に使った、“胸に塗ることによって、呼吸が楽になる薬”だった。
「こういうのはちゃんとしっかり塗らないと効き目が出ないから私が塗ってあげる大丈夫よ乃梨子あなたは私に任せておけば問題ないからさぁいらっしゃい遠慮することなんてないのよ」
一息でそう言った志摩子は、乃梨子の手首をガッチリ掴み、そのまま引っ張って会議室を後にする。
『………』
残された一同は、黙って見送ることしか出来なかった。
しばらくして、志摩子と乃梨子が帰ってきた。
志摩子は満足したような表情で、乃梨子は顔を真っ赤にして俯いたままで。
もちろん全員、何があったのかは分かっている。
恐らく、かなり艶めかしい雰囲気で薬を塗られたのだろう。
羨ましそうな顔で、白薔薇姉妹を見る黄薔薇姉妹だった。
「………」
ガタリと音を立てながら、由乃は無言で立ち上がった。
そのままシンクの前に立ち、なにやらお茶の用意をしているようだ。
「は〜い令ちゃん。美味しいお茶を淹れたから召し上……って、きゃぁ♪」
後半のわざとらしくも棒読みの台詞で、いきなり令に紅茶をブッカケル由乃。
「うわぁ!?」
慌てて避けようとするも、椅子に座ったままだと、禄に動けるハズもなく。
令は、幸い……なのかどうなのか、大して熱くない紅茶を浴びるハメに。
「あー、ゴメンナサイ。シミになっちゃうわすぐに洗い落とさないと」
言うが早いか由乃は、バケツに一杯の水を、令の頭から浴びせかけた。
当然令は、頭の天辺からつま先までびしょ濡れ。
何か言いたげに由乃をジト目で見るも、相手はまるで悪びれた様子なし。
「ああ、これでは拙いわ。このままだと風邪をひいてしまうかも。そうだ、確か良い薬が……」
館据付の救急箱を棚から取り出し、ガサガサと中を探る由乃。
「あったわ。令ちゃん、これを使って」
「そ、それは!?」
由乃が手にしたものは、先ほど祥子と志摩子が、祐巳と乃梨子に使った、“胸に塗ることによって、呼吸が楽になる薬”だった。
「すぐに着替えないといけないけどその前にしっかり身体を拭いて必要な処置を施しておかないといけないわ大丈夫私がちゃんと塗ってあげるから安心してていいのよほらさっさと行くわよ」
一息でそう言った由乃は、令の手首をガッチリ掴み、そのまま引っ張って会議室を後にする。
『………』
残された紅薔薇白薔薇姉妹は、内心「無茶するなぁ」と思いながらも、黙って見送ることしか出来なかった。
結局、薬が効いたのか翌日にはだいぶ回復していた祐巳と、もともと風邪なんかひいてなかった乃梨子はともかく、頭から水を被った令は、めずらしく学校を休むことになってしまった。
「あの薬、効かなかったのかな……」
由乃は、祐巳さえ呆れかえるトンチンカンなことを、本気で口にしていた。