【2266】 桂  (joker 2007-05-16 04:38:43)


 前の席は桂さんだ。

 ある日の授業中、桂さんがうとうとしていた。そういえば、昨日はテニスの大会があって、応援しに行った由乃さんが言ってたっけ。
 その大会には新人戦なる種目があり、桂さんも一生懸命に頑張ったらしく、7位に入ってたと由乃さんが教えてくれた。それで、「あぁ、微妙だね」と返したんだっけ。
 そうか。だから桂さん、疲れているんだね。いつもなら、背中をつついて起こしてあげるんだけど、この授業は当てられる事もないし、今日はこのまま寝かせておいてあげよう。
 多分、先生も気付かないし。



 前の席は桂さんです。

 2年になって最初の席替で前になった桂さんという人は、どうやら祐巳さんの友達のようです。
 この前もホールで祐巳さんと話しているのを見かけたばかり。
 その時、祐巳さんを見て「あぁ、友達が多いのね」と羨ましくもあり、少しだけ寂しく思ってしまった。
 私は高校に入って友達というものは、薔薇の舘にいる由乃さんや祐巳さん以外にほぼいないと言ってもいいぐらいだ。私の性格のせいもあるのだけれど、やはり、薔薇さまという立場は予想以上に周りと壁を作ってしまっている。
 でも、最近は由乃さんにも友達が出来始めた様だ。前までは私と同じように、あまり周りと接して無かったようにも思えるが、最近はどんどん、なんというか……、突き進んでいる。
 そんな二人を見ていると、私だけ取り残された感じがしてならない。私も二人に負けない様に頑張らなくてはならない。

 ……なぜこんな事を考えていたのかしら?



 私の前の席は桂さんだ。

 まさか、偶然見に来た演劇部の劇で、目の前に桂さんがいようとは。確かこの人は祐巳さんの昔からのお友達。俗にいうボンユウだ。
 だけど、私や志摩子さんが最近のボンユウ度をほぼ独占してしまい、今や祐巳さん一番のボンユウの座から滑り落ちた人だ。
 しかししかし、そうは言っても、かつて祐巳さんに親友と言われたお人。その時は「あれが?」とか言ってしまったけど、冷静に考えると意外と驚異の人なのだ。
 ここは一つ、祐巳さんの親友として色々話してみなければ。ここであったが百年目というやつだ。

「ねえねえ。貴女、桂さんでしたわよね?」
「…………」
「ねえ」
「…………」
「……ちょっと、何とか言いなさいよ」
「……声かけてくれた」
「はぁ?」

「由乃さん! 貴女が一番の親友よ!」


一つ戻る   一つ進む