注意…あまり、乃梨子と瞳子が好きな人は読まないほうがいいかもしれません。
「ごきげんよう、祐巳様」
マリア像の前。
ボーっとしていた祐巳に声を掛けたのは、後輩の瞳子。
「あ、瞳子ちゃん。ごきげんよう」
人懐っこい笑顔で返す祐巳。
その視線は、瞳子の縦ロールに注がれている。
「…祐巳様。どこを見ているんですか?」
「え?それはもちろん」
「この縦ロールですか」
祐巳が『ドリル』と言う前に、瞳子はそっけなく言った。
「うん。今日もきちんとセットされてるね♪」
「ありがとうございます。それよりも、こんなところで話してたら遅刻してしまいます。急ぎましょう」
祐巳の方を見ようともせず。
愛想笑いも浮かべず。
ただ、淡々と言いながら、祐巳の横を通り過ぎる瞳子。
「あ、待ってよ、瞳子ちゃん」
慌てて追いかける祐巳。
(あ。今なら、抱きつけるかも)
背を向け、無防備な瞳子に足音を立てないよう近づく祐巳。
その差は着々と埋まり、残り僅かとなったとき、祐巳は瞳子に飛び掛かろうとした。
「言い忘れてましたわ、祐巳様」
「え?」
前を向いたまま、祐巳に語りかける瞳子。
「私の縦ロール。若干、危険になりましたから気をつけてくださいね」
そう言いながら、ポケットからスイッチを取り出す。
それを押すと、縦ロールがゆっくりと回転し始めた。
「へ?」
祐巳が困惑しようとどうしようと、縦ロールは止まらない。
徐々に速くなってきている。
今では、もう目で追えないほどの速さで回転している。
「理解できましたか。これでもう、祐巳様は私に抱きつくことは出来ませんわ」
俯いてしまった祐巳。
瞳子は前を見ているので、祐巳の肩が震えているのに気づいていない。
「うわぁぁぁん!瞳子ちゃんのいじめっ子ぉぉぉ!!」
そう叫びながら、祐巳は走り去ってしまった。
しかし、瞳子はその場を動かず、ため息をついた。
そして、携帯を取り出すと、どこかに電話をかけた。
「…これでいいんですの、乃梨子さん」
『ばっちりよ、瞳子』
どうやら、電話の相手は乃梨子のようだ。
『これで、後は瞳子に嫌われたと勘違いした祐巳様を私が慰めれば…』
受話器の向こう側から瘴気を感じたが、瞳子は可能な限り、無視することにした。
「で、報酬の事は覚えてますわね」
『確か、祥子様の隠し撮り写真百選だよね?もう用意してあるから、後で渡す』
「分かりましたわ。楽しみにしています。では、また後ほど」
電話を切ろうとした瞳子だが、『ちょっと待って』という声が聞こえてきたので、切らずに耳を傾けた。
「どうかしましたの?」
『どうしても、一つ気になってたんだけどさ』
「はい」
『どうやって、縦ロール回転させたの?』
今まで立ち止まらずに動いていたのだが、歩みを止め、斜め上を向いて何かを小声で呟くと、また歩き出した。
口元を歪めた笑顔を浮かべながら、空き教室を見上げた。
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空き教室。
そこに蹲っている生徒がいた。
先ほどまで、瞳子と話していた乃梨子だ。
足元には双眼鏡が転がっている。
「どうやって、縦ロール回転させたの」
乃梨子にとってみれば、純粋な疑問。
ちょっとした好奇心があったので、聞いてみたのだ。
(瞳子、笑ってた)
瞳子と目が合ったとき、乃梨子は戦慄した。
乃梨子がこの空き教室にいることは、彼女には話していない。
しかし、彼女は迷いもせずに、乃梨子を見ながらこう言った。
『乃梨子さん。世の中には知らないほうが幸せってこともあるんですのよ』
いつも通りの彼女の喋り方だった。
いつも通りの彼女の声だった。
だが、何かが違った。
確実に、何かがおかしかった。
乃梨子の錯覚だったのかもしれない。
「でも、何かが」
言いかけて、乃梨子は止まった。
『何か』に見られている。
辺りを見渡したが、教室内には乃梨子しかいなかった。
「…気のせいか」
乃梨子は安心すると、鞄と双眼鏡を持ち上げ、出入り口に向かおうとそちらに振り返った。
「?」
そこには、もちろんドアがある。
ただ、何か違和感を感じた。
「ちゃんと、閉めたはず」
乃梨子とドアの距離は、十mといったところだろう。
そのドアが半開きになっており、そこから『何か』が彼女を覗いている。
「っ!?」
理解してしまった。
それは、彼女の友人であり、先ほどまで下にいた瞳子であった。
顔だけ見せ、何か言っている。
その時、乃梨子は分かってしまった。
口の動きを見ただけで何を言っているのか。
『ちゅ・う・こ・く・は・し・ま・し・た・わ』
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「ねえ、志摩子さん。乃梨子ちゃん、最近来ないね」
「ええ。連絡がとれないの」
乃梨子の行方は誰も知らない…。
後書き
すいません!何か勢いで書いてしまいました。
自分、乃梨子と瞳子好きですよ?
不愉快だと思った方、すいません。