「ふむ」
自他共に認める写真部のエース、武嶋蔦子は自ら撮った写真のできばえに満足そうに一つ頷いた。
その写真に写っているのはマリア像の前の3人の少女だった。
マリア様のように目の前の二人を見守る紅薔薇さま。
その前で向かい合う二人の少女。
かすかに頬を染めつつロザリオを相手の首にかけている紅薔薇のつぼみ。
うやうやしくそれを受けるドリ………もとい、もう一人の少女。
紅薔薇のつぼみの妹誕生の瞬間だった。
もちろんアップでの表情も捉えてある。
我ながら見事と言う他ない。まるで某P45のような完璧なタイミングの写真だった。
これで祐巳さんもついに妹持ちか。
それは長いこと、本当に長いこと、待ちに待っていた瞬間でもあった。
蔦子はかすかに感傷めいたものを感じて、その写真に改めて視線を落とした。
「蔦子さま」
「おっと」
ひょいと覗き込んできた笙子ちゃんの視線から隠すように、蔦子は写真を裏にした。
「あ、何ですか。何で隠すんですか?」
「これはまだ公表の許可もらってないからね」
「えー」
笙子ちゃんはかえって興味を惹いちゃいますよ言わんばかりの目をしてにじり寄ってくる。
「どんな写真なんですか」
「んー……内緒」
軽く片目を瞑ってみせて誤魔化してみる。
どうせすぐに知れ渡るだろうけど、正式なお披露目があるまではさすがに見せるわけにはいかない内容だ。
と、何故か一瞬固まった笙子ちゃんは、
「……ずるい」
と小さく呟いた。
だって、その表情は反則です、蔦子さま。片目を瞑るって、ウ、ウィンクじゃないですか。
「いや、ずるいと言われても」
少し困ったように笑う蔦子さま。
「私のやり方は知ってるでしょう? こればっかりは、いくら笙子ちゃんでもダメよ」
「………」
うう、蔦子さま、ホントにずるい。
『いくら笙子ちゃんでも』なんて言い方をされたら、ちょっと特別扱いをされてるみたいで、頬が緩んできちゃうじゃないですか。
頬に両手をあてながら笙子はその場でくるりと後ろを向いた。
ダメだと言われて恨めしい顔をしようとしているそばから緩んでいく頬が、なんだか熱いやらゆるゆるやらで凄いことに。
ああ、これはまずい。今凄くヘンな顔になってる。
「笙子ちゃん? すぐに見せてあげられるようになると思うから、ね? そんなに拗ねないで」
「べ、別に拗ねてるわけじゃありません」
それじゃただの駄々っ子じゃないですか。
ただちょっと、顔が緩みきっててお見せできないと状態といいますか、こんな顔を写真に撮られたらしばらく出てこれません。
笙子は頬を叩いて緩んだ顔を普通の笑顔レベルにまで引き締めた。
本当に困った子だ。
拗ねて後ろを向いてしまったらしい笙子ちゃんに、蔦子は苦笑した。
相変わらず何を考えてるかわからないというか、突拍子も無い行動にでる子だ。その、読めなさ加減が面白かったりもするのだけど。
少し甘いかなという自覚は、ある。
「許可が貰えたら真っ先に見せてあげるから」
「えっ? 本当?」
なぜかペシペシと自分の頬を叩いていた笙子ちゃんがくるりと振り向いた。
「本当」
蔦子は苦笑ではない笑顔でそう応える。
「あ、でも他の人には内緒なんですよね?」
「それはその時の状況にもよるけど、まあそうね」
「はい」
すっかり機嫌が直ったらしい笙子ちゃんは、なんだか凄く嬉しそうな笑顔を浮かべながら大きく頷いたのだった。