「あぁぁーーーあぁぁーーーー」
「うん、良い感じに仕上がってきたようね」
「はい、ありがとうございます」
私は褒められたことが嬉しく、元気な声で挨拶する。
「これなら今回の役もしっかりと務まりそうね」
役と言っても、セリフはほんの少し。
まぁ、脇役だ。
それでも初めて貰えたセリフつきの役だ、頑張ろうと思う。
「あっ、ごめん、後は自主練習をやってね」
そう言って、私を見ていてくれた典さまは、今練習に戻ってきた瞳子さんの方に向かっていった。
仕方がない。
瞳子さんと典さまは、お二人で舞台をやられるのだ。
典さまも瞳子さんも素質があり。
私のような、才能の無い人間が邪魔をするわけにはいかない。
でも、私に瞳子さんの半分でも才能があったなら……。
「練習しよう」
私は友人達の方に練習に戻る。
後ろの方では、私には決して強く注意などしない典さまの叱責が聞こえる。
それを、羨ましいと思うことはいけないことなのだろうか?
「お二人とも凄いね」
「そうね、特に瞳子さんは紅薔薇の蕾に見せたいでしょうしね」
私の横で練習していた友人達も、二人の様子が気になるようだ。
確かに瞳子さんの方も今まで以上に気合が入っている。
その理由を考えるのは簡単で、瞳子さんが学年の終わりに成って作ったお姉さまに素敵な舞台を見せたいのだろうとわかる。
しかも、瞳子さんのお姉さまは、祐巳さま。
現紅薔薇の蕾にして、来年度は、紅薔薇さまと呼ばれる先輩だ。
噂では、典さまも瞳子さんを妹にしようとしたらしいが、瞳子さんは祐巳さまを選んだ。
それは紅薔薇さまと呼ばれる言葉に惹かれたのではなく。瞳子さんには祐巳さまが必要だったのだと、見ているだけで分かる。
だから、少し前に流れたような変な噂は今度は流れていない。
それでも典さまが振られたことにかわりはない。
「でも、楽しそう」
二人を見ていると本当に楽しそうだ。
典さまは、全部分かっているのだろう。
だから、才能も無い私は静かに見ているしかない。
「あら、何所に行くの?」
「お手洗いに」
私は、何だか疲れてしまい外に出る。
外は、冬だというのに暖かい日差しがさしていた。
「何をしているの?」
「と、瞳子さん!!」
私は不意に声をかけられ驚いてしまう。
声をかけていたのは、さっきまで考えていた相手だったからだ。
「何だかこちらをジッと見ていたから、何か用なのかしらと思ったのだけど」
「ち、違う、違う」
「そう、それなら典さまの方かしら?」
その言葉に、私はビクッと緊張する。
「今度は、当たりみたいね」
「う〜」
何も言えない。
「どうしたの?」
「瞳子さんは、祐巳さまの妹に成ったのよね」
「えぇ、本当に大変だったわ。私も悪いのだけれど、祐巳さまも要領が悪いから」
そう言う瞳子さんは笑顔で笑っている。
「典さまのことが好きなのでしょう?」
「!!ど、どうしてそれを!?」
「いや、見ていれば分かるし、私も祐巳さまに対して同じだったから分かるの」
同じって、どこが同じなのだろう。
私には、瞳子さんのように演技の素質も無ければ、好きな人に踏み出す勇気もないというのに。
「嫌われるくらいなら今のままで、嫌われるのなら徹底して嫌われた方が良い」
「?」
「貴女は、どっち?」
それは、嫌われるならこのままが良い。
「でも、コレってどちらも同じなのよ。自分に対して後ろ向きでしかないの」
言われれば確かにそうだ。
「だから、同じ。私の場合には、祐巳さまではなく友人が助けてくれたのだけれどね。だから、貴女にも小さな助けに成ればと思ったの」
そう言った瞳子さんの表情は優しい。
「それじゃぁ、私は練習に戻るから、後は貴女しだい」
そう言って瞳子さんは練習に戻り、私は一人取り残された。
「そんな事、言われても」
その勇気さえない。
だけど、練習している瞳子さんと典さまを見ていると、瞳子さんの代わりにあそこに立ちたいと思う。
私には、瞳子さんのような才能は無い。
だったらせめて自分に出来ることを頑張ろうと思った。
私に出来るのはそれだけだから。
声援が聞こえる。
舞台が上手く言ったのだ。
「お疲れ様、良かったよ。上手く笑いも取れたじゃない」
「は、はい!!」
舞台が終わり、典さまが楽しそうに褒めてくれた。
私にはこれで十分。
満たされる。
『桃子さん、桃子さん。そのお腰につけた吉備団子、一つ私にくださいな』
吉備団子一つで、鬼ガ島に行った雉のように。
薔薇のかんむりP173をベースにしています。
一応はチェックはしましたが、ネタが被ったらごめんなさい。
あと、このキャラはオリですが、徹底的に後ろ向きです。
『クゥ〜』