【2704】 君の声が聞こえる  (さおだけ 2008-07-13 18:37:04)


なんで私は志摩子の章を後回しにしてるんだろう?

祐巳の章  【No:2692】(再会編) 【No:2694】(過去編)
蓉子の章  【No:2687】(始り編) 
祥子の章  【No:2680】(再会編) 【No:2684】(過去編)
乃梨子の章 【No:2672】(始り編) 【No:2697】(現世編)
志摩子の章 【】(再会編)
由乃の章  【No:2696】(前世編)
瞳子の章  【No:2702】(始り編)

本編 【No:2663】→【No:2664】→【No:2665】→【No:2666】→【No:2668】→【No:2669】→【No:2673】
    →【No:2674】→【No:2675】→(【No:2676】)→【No:2679】→【No:2682】→【No:2683】→
    【No:2686】→【No:2695】→【No:2701】→【ここ】




  ■■ SIDE 蓉子



カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

時計が時を刻むように正確に、私の中で確かだったものが変わっていった。
生まれてから十と数年だったと思っていたものが否定され、また付け足されていく。

カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

何十、何百もの【世界】をえて、私は今の【私】を形成していたのだと知る。
どこかの世界で私は聖と一緒に暮らしていた。
またどこかの世界で、私は江利子と一緒に暮らしていた。
祥子が最愛の妹である祐巳ちゃんをさらって駆け落ちしたりした。
祥子と祐巳ちゃんが仲違いをしてスールではなくなったりした。

カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

私は自らを殺めた。
といっても自分で刃を心臓に向けたのではない。
私はただ、【聖の代わりに自分から】死んだのである。
目の前で聖が死んでしまうくらいなら。
最愛の聖が死んでしまうくらいなら、私が。

カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

目が覚めたら白い空間で私の背には羽がついていた。
私を見ている【お姉さま】が、何かを言おうとして口をつぐんでいる。

カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ

私はアウリエルと呼ばれるようになった。
暫くして【あの子】が死んだ魚のような目で現れた。
そのまま私の妹になったけど、祐巳はその後1年、ずっと泣いていた。

カチリ カチリ カチリ カチリ カチリ カチ……


「じゃぁ祐巳、貴女がアウリエルを勤め上げたらまた、世界で会いましょう」

  
                              カチリ 。





私は、どうして祐巳の事をちゃんと理解してあげられなかったのだろう。
今の世界で私は、祐巳に傷があるという事を知っていた。
なのに触れなかった。壊してしまう事が怖くて。祐巳が消えてしまいそうで怖くて。

『ごめんなさいっ……おねえ…さ……私、だって………』

『怖かったよぉ……もぅやだ…独りはやだよぉ……』

この世界で再会した祐巳がどうして泣いているのか。
本当は、知っているはずだったのに……!
あの時に私に呼びかけた【彼女】はなんて言っていたのだった?
私はちゃんとあの言葉の真意を理解してあげられていたのか?

『全く、泣き虫なのだから……祐巳は』




    カチリ 



「え、あの、お姉さま、この家見たとおり何もないのですが……」
「フライパンくらいはあるでしょう?」
「………フライパン…あったかな……」
「ないの!?じゃぁどうして自炊できて……ないわよね、当然」
「あ、あはははは」

「……これだけ、ですが?」
「そう。嘘よね」
「くっ」
「続きは?もしかして祐巳、貴女私に隠し事が出来ると思ってるの?」
「め、滅相も無いです、はい…」
「じゃぁ続けて」


「あ、起きられたんですね」
ツインテールの、小動物チックな小柄な少女。
私を見て無邪気な笑みを浮かべていた。









……………………………ああ、そうだったのか。
記憶のない私に本当に嬉しそうに笑ってくれたのは、自分を騙すためか。
そこまで私に説明したくなかったのは、前世の話しをしたくなかったからか。
どうして家に何もないのか。
どうして最初に私の誘いを断ったのか。
どうして祥子をいつも【さま】付けで敬語まで使っていたのか。
ようやく、
 全てが繋がった。

黒い羽がついていた頃から、私は祐巳を知っていた。
ううん、その前の前世から、ずっと昔から、私は祐巳を孫として見ていた。
お日様の笑顔を浮かべる祐巳を知っていたから妹に迎えた。
また山百合会で一緒になりたかったから、私は天使を卒業した。

『紅薔薇さま?どうかしたんですか?』

『蓉子さまからも聖さまに言ってくださいよ!』

『お姉さま、会議の時間ですよ?』

近づいては遠ざかる距離。
笑顔の合間に密かに陰を落とし、でも笑う祐巳。
私の妹である祥子を良い方向へと導き、共に歩いていった祐巳。
どうして、どうして理解してあげられなかったのか。

『じゃぁ祐巳、貴女がアウリエルを勤め上げたらまた、世界で会いましょう』

『………はい、お姉さま。また会える日を楽しみにしています』

無理をして作った笑顔だったなんて、最初から分かっていたのに。



  ■ ■ ■



「痛い……」

頭がガンガンする。
何百もの世界の記憶をいっきに投げ込まれたものだから、頭がパンクしそうだった。
私はようやく地面に伏していた事に気付く。隣には祥子まで寝ていた。
ここは病院の庭で、誰にも見つかっていない事が奇跡だった。
もしも見つかっていれば検査やらで騒がしくしていただろう。

「……祥子、起きなさい」

芝生の上で寝ている祥子の肩を揺すり、強制的に起す。
眉を顰めた祥子はうっすらと瞼を開け、私を見つめた。

「おねえ、さま……?」

「起きなさい。遅刻するわ」

「はい……?」

祥子はぼーっとしながら状況の把握に努める。
本当に、このままでは遅刻してしまう。
私は祥子にドスの利かせた声をかけた。

「貴女の最愛の祐巳を救済する舞台に、遅れてしまうわ」



  ■■ SIDE ■■



コレホドマデニ世界ガ理不尽ナノハ、ドウシテナノダロウ。
何度モ幸セナ人生ヲ謳歌デキル人間トドコマデモ不幸ナ人間。
コノ差ハドウシテ生マレタノダロウ。

声ガスル。

助ケテ。アノ人ヲ助ケテ。
死ニタクナイ死ニタクナイ死ニタクナイ。
ヤダ、モット一緒ニイタイ………!

声ガ、スル。



  ■■ SIDE 乃梨子



呻くお姉さまに対してしてあげられる事が、思い浮かばなくて。
ただただ私は、自分の無力さを呪っていた。
隣にいた瞳子がお姉さまを抱きしめていたことで夢魔に汚染されそうになる。
どうしればいいのだろう。
私には何ができるのだろう。

助けて。

お姉さまを、助けて。

誰でもいい、なんでもする。だから助けて!





「どきなさい、これより祐巳さまの応急処置に入ります」

ミカエルさまが私と瞳子をお姉さまから引き離し、祐巳さまを宙に浮かせてた。
触れないように力を制御しながら運んでいるのだろう。
瞳子はミカエルを見て、なぜだか睨み付けた。

「お姉さまを救えるのですか!?」

「やってみないと分かるわけないでしょう?」

睨みながらも抵抗したり邪魔したりはしない。
悪魔である瞳子には天使のお姉さまの存在を救えない。
もともとは同じものなのに、管轄が違うから力の使い方が分からないのだ。
ミカエルは呻く祐巳さまを見つめながら話しをする。

「私は最善を尽くす。だから貴方達も出来ることをしなさい」

「できる、こと?」

「あるでしょう?祐巳さまの【妹】なら」

「……………」

私はしばらく呆然として、瞳子を見つめる。
瞳子も瞳子で何をすべきかは見当がついたようだった。

「なら、お任せしますわ」

瞳子は立ち上がってそっぽを向いた。
私も同じくして立ち上がり、もう一度だけお姉さまを見つめる。
いってきます。

「………貴女でも一応は友達ですものね、可南子さん」

瞳子の言葉に驚いたような目を向ける。
けれどそれはすぐに真剣みを帯びたものに変わる。
それを確認する前に、私と瞳子はこの場から去っていたけれど。



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