No.269の翌日です
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「ふぅ」
朝、マリア様の前でお祈りを済ませた祐巳はため息をついた。
昨日はなんとなく盛り上がって、そのままロザリオを受け取ってしまおうって気になったところで、蔦子さんが水を差したもんだから「邪魔をされた」みたいに感じてたけど、あとで冷静になってみるとやっぱり祐巳のほうも勢いに流されていた気がする。
祥子さまも蔦子さんの言葉で考えてしまったということはあそこで保留になってしまったのがかえって良かったのかもしれない。
祐巳のほうは良くても祥子さまはまだ初対面なんだからちゃんと祐巳のことを知ってもらってから正式に妹になった方がきっと良い結果になると思うのだ。いや、そう考えるのがポジティブシンキング?
「ごきげんよう、祐巳さん」
っと、噂をすればカメラを構えた蔦子さん。
「ごきげんよう、蔦子さん」
「朝からマリア様に百面相?」
「やだ、蔦子さん撮ったの?」
「もちろんよ」
そんな「私を誰だと思ってるの」って言わんばかりの得意顔されても。
「ごきげんよう、祐巳。それから蔦子さん」
「あ、祥子さま、ごきげんよう」
なんてタイミング。昨日の三人がまた揃ってしまった。
「持って」
祥子さまは祐巳の前に立って鞄を差し出した。
そして祥子さまは自然な動作で……
「祐巳、私の妹になりなさい」
「あ、はい」
ロザリオの輪を広げて祐巳の首にかけた。
…………。
え?
「ええーー!!」
「朝から大きな声をあげないの」
「だ、だだだだだ」
道路工事ならぬ、今日は機関銃だ。
「だって祥子さま、これって……」
「お姉さまって呼びなさい」
そう言って平然と祐巳のタイを直す祥子さま。
「みだしなみには気をつけないと。マリア様がみていらっしゃるわよ」
そして祥子さまは鞄を取り返すと校舎の方へ向かった。
「あ、お姉さま」
祐巳は慌てて後を追った。
「どうして、って顔してるわね」
「はい」
「昨日の夜よく考えたのよ」
そうか、祥子さまはあれから良く考えた上で今日の行動にでたのか。
いきなりでびっくりしたけど、きっと深い思慮があってのこと……。
「考えたけど、思いつかなかったわ」
「へ?」
あまりに予想と違うお言葉に思わず変な声を出してしまった。
祥子さまは続けてこう言った。
「あなたを妹にしない理由よ。いいのでしょう? いまだってとても自然に『お姉さま』って呼んでくれたじゃない」
「あの、昨日の今日で、私のこと良く知ってるわけじゃないですよね」
「昨日のことで十分」
妹にする理由として十分ってことらしい。
「でも」
「あとは姉妹になってから分かり合えば良いでしょう?」
それは確かにそうなんですけども……。
「私は祐巳のこともっと知りたいわ」
駄目だ。殺し文句だ。
この日、紅薔薇のつぼみは公式に祐巳を妹にすると言う宣言をし、その内容が載ったリリアンかわら版の号外は放課後になる前にはもう出回っていた。