【3311】 タイミングを逃さずに一撃入魂  (ex 2010-09-30 22:26:37)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:これ】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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9月16日(金) I公園

 I公園では、9月2日の金曜日に異空間ゲートが1回だけ開いた。
 このときには、魔物の姿はなく、すぐに異空間操作装置によりゲートが閉じられる。

 8月の末から、魔法使いたちによる結界を張る訓練は毎日続いている。

 しかし、9月2日の異空間ゲートの発生以来、実に2週間もの間異空間ゲートの発生はなく、I公園は緊張感はあるものの、平穏な時間が過ぎている。

 そして、9月17日から19日までの3連休の間、隔週で休暇をとるリリアンの薔薇たちも、休暇を前に穏やかな時間を過ごしていた。

「まさか、これで終わり、ってことはないよねぇ」
「ないわね」
「うわ・・・。ばっさり切られたよ」
「あたりまえでしょう? 山梨のおばばさまが、3ヶ月から6ヶ月、って言ったのよ。
 もうその時期に入ったんだから、今はその言葉を信じて警戒を強めるときじゃないの」

「でも、さすがに暇だねぇ。 この2週間、ゲートすら開かないんじゃここに来る甲斐もないね」
「ふぁ〜あ。 ・・・・・・暇。 ・・・・・・聖、何か面白いことしなさいよ」
「ちょ・・・。なんでわたしなのよ!」
「祥子が祐巳ちゃんでも連れてきてくれたら、いじって遊べるのに・・・」
「お・・・お姉さままで! いくらなんでも緊張感なさすぎです!」
「そうは言ってもねぇ・・・」

 5人の薔薇十字所有者。 そばで警戒に当たる騎士団からは「リリアンの戦女神」たちとして一目置かれている彼女たちであるが、話をしている内容と言えば、まぁこんなものである。

「9月も半ばだってのに、暑いわねぇ・・・。祥子、なんとかしなさいよ」
「またですか・・・。 もう仕方ないですわね・・・『ダイヤモンド・ダスト』っ!」
 祥子が杖を上空に振り上げると、上空からフワリ・フワリと雪の結晶が降り始める。

「私の魔法は、こんなことのために使うものじゃありませんのに・・・」
 祥子は不満そうであるが、自分自身も暑さに辟易していたのかすぐに魔法を使うところは可愛いところである。

 そういえば、公園のあちらこちらでアイスウォールの小さな柱が立っている。
 騎士団も暑さにまいっているようだ。

「げっ・・・35度もあったのか・・・。 暑いはずだわ」
「異常気象だわ。 これって環境破壊のせいなのか、魔界と繋がる前兆なのか・・・」
「暑くて・・・暇で・・・。 これが魔界の攻撃だとしたら・・・。 魔界、恐るべし」
「馬鹿なこと、言ってんじゃないわよ」



 その時、ゴゴゴォォォォォォ・・・と不気味な音が響く。
 グラリ・・・と地面が揺れる・・・。
「地震?」
 たしかに、それは地震だった。 震度は2〜3程度と小さいが、地面が揺れている。

「ちょっと! 池! 池を見て!」

 I公園の中央にある池の水面が揺れている。
 池の中心から、岸にむけ、波紋が広がる。
 水面が泡立ち、ボコッ!ボコッ!と水泡が弾ける音がする。
 そして・・・水位が見る見る下がっていく。

「異空間ゲートが、池の底に開いたんだわ」
 蓉子が冷静に言う。
「予測していたことよ・・・。緊急警報! これは大きいわよ!」



 公園内に散っていた魔法使いが、結界師がすべて池の周囲に集まる。

 不気味な音がさらに大きくなる。
 次第に、地面の揺れが大きくなる。
 震度4から5、そして5から6へ・・・
 立っているのも辛くなるほど揺れが大きくなってゆく・・・

「異空間に、池の水が流れ落ちている?」
「それにしても、揺れが大きい!!」

 その時、池の中央部から、稲妻のような光が天に伸びる。

「あれは!!」
「なにか出てきた!」
「なんだ、あれは!!」

 池の中央部から、邪悪さを塗り込めたような漆黒の尖塔がせり上がる。

「これが・・・これが『魔界と現世を結ぶもの』なのか!?」
 池の周囲に緊張が走る。
 どう見ても、尋常ではない妖気を感じる。
 吐き気がするほどの殺気を、この場に居る戦闘に慣れたものたちは感じていた。

 何か異変が起きた場合・・・。 魔界から現世に侵略してくるものがあった場合・・・。
 その時は、結界をもって、『魔界と現世を結ぶもの』を覆い尽くす。
 それが異空間対策本部と小笠原研究所から出された最重要指令だった。

「作戦通りにいく! 号令と共に結界を張る!」
「おう!!」

 魔法使いが、結界師が、池の周囲に定められた結界ポイントに集結し、手順どおりに結界を張る。

「セーフティ・ワールド!」
「水神術・水流壁!」
「ブリザード・ストーム!」
「アイス・ウォール!」
「神明結界! 四門!」

 絶対防御魔法が、黒い尖塔を周囲12箇所から覆い尽くす。
 その防御障壁を6箇所から水流の壁が覆う。
 さらに、絶対零度の氷結魔法が水流を凍らせ、氷の障壁が浮かび上がる。
 最後に、神々しい気を纏った結界が4箇所から氷の障壁を覆う。

 現時点での人間の考えうる最強の結界が池の周囲に張り巡らされた。

 その名を 『十二菊花氷柱結界』。

「この結界をさらに2重に張る! いくぞ!」

 池の底からせり上がる尖塔は鋭い針のような先端が現われた後、四角い屋根のような石が次に現れ、さらに石柱が現われる。
 四角い石柱が10mほども地上に現れた後、さらに一回り大きい石柱があらわれ、次々に大きさを増しながらせり上がってくる。

「この形は・・・。 まるでピラミッドだ!」
「いや、この形・・・どこかで・・・。 明王院か?!」

 池の底から現れたそれは、明王院「千体不動尊供養塔」に酷似していた。

 ただ、まったく違うのは、4面に彫られているべき不動明王が、各面に18体の魔王像になっていること。

 暗黒のピラミッドは階段状の部分が6段。 約60mの本体が出現した段階でその動きを止めた。

 最上部の尖塔からは時たま稲光のようなものが光る。

 しかし、それ以外は不気味な静けさが広がる。

 あれだけ大きかった地面の揺れも収まり、ゆらゆらと黒い瘴気を立ち上らせるピラミッドに騎士団員たちの瞳は釘付けになった。



「なにか出てくるぞ!」

 暗黒のピラミッドの四辺のそれぞれ中央部に四角い穴が開く。
 その穴から、各1体ずつ恐ろしい妖気を纏った魔物が姿を現す。

「あれは・・・っ! アンドロマリウス か?」
 南の一辺から現れたのは、巨大な白蛇を手に巻きつけた人型。醜悪な顔面は憤怒の形相をしている。

 そして、北の一辺から現れたのはダンタリオン。
 一つの体のあちこちに、無数の老若男女の顔が浮かび上がっている。それぞれの顔が恨み、妬み、僻んだ顔をし呪詛を呟く。

 さらに東の一辺からは翼の生えた馬に乗った美男子。
 美しい顔のセーレ。
 しかしその手に持った凶悪な首狩り鎌が残忍さを物語る。

 最後の西の一辺からは、5つ光の星型。 真ん中に巨大な目が睨むその姿は・・・
「デカラビア・・っ! こんな凶悪な魔物まで・・・」
 デカラビア・・・魔界において30の軍団を率いる。「惑い、謀反、降伏」を司るという、地獄の大公爵である。

 ついに、その姿を現すソロモン72柱の魔王たち。

 いずれも魔界において巨大な軍団を率いる者たち。
 これまで騎士団が相手にしていたC級の魔物が可愛く見えるほどの巨大な妖気がピラミッドの周囲を覆う結界に満ちる。

「こんなやつらに結界を攻撃されたらまずい! 迎え撃つぞ!」
 騎士団にも大いなる闘気が満ちる。

 ついに、魔界と現世の本格的な戦いの火蓋が切って落とされる。



「神明結界!開っ! ”朱雀”!」 
 結界師の神通力による結界は、東西南北の神獣の覇気を纏うことで、すり抜けることが出来る。
 薔薇十字所有者5名は、南の一辺から現れた魔物と相対すべく、結界内に飛び込む。
 
「相手は、アンドロマリウスっ! B級の魔物よ。 覚悟していくわよ!」
 蓉子の号令が響く。

「前衛左は令、右に聖、わたしが中央! 江利子と祥子は後方から支援! 隊列を乱すな!」

 5人は一陣の風となり、アンドロマリウスに挑む。
 これまで、魔物たちを軽く蹴散らしてきた蓉子たちであるが、さすがにこの妖気に気が引き締まる。

「刹那五月雨撃!」
 江利子の最大の技、絶対に防御不可能な矢がアンドロマリウスに殺到する。
 と、その手にとぐろを巻いていた巨大な白蛇が大きな口を開け・・・ 江利子の矢をすべて飲み込んだ。

「アギダイン!」
 祥子の最強の高温魔法がアンドロマリウスに迫る。
 グォン! と激しい音がし、高温の球体が爆ぜる。
 爆ぜた高温の球体は、白蛇ごとアンドロマリウスを包み、白蛇が弾け飛ぶ。

「今よ! 令! 聖!」 蓉子の檄が飛ぶ!

「はっ!」 令が一瞬息を止め、瞬駆で、アンドロマリウスの脇を駆け抜け、胴を一直線に薙ぐ・・・、と、その令の超長刀の一撃を弾けとんだ白蛇が、一本のステッキに姿を変え受け止めた。

 次の瞬間、アンドロマリウスの表情に苦悶の色が浮かぶ。
「スレイ・カトラス!」 風のように反対の脇をすり抜けた聖に、左手を一本もって行かれたのだ。

「もらった!」 
 蓉子の必殺の剣がアンドロマリウスの脳天に振り下ろされる。

 グシャッ・・・・。 
 嫌な音がしてその場に落ちたのは、巨大な白蛇の首だった。

 アンドロマリウスは、蓉子に切り落とされそうになった瞬間、白蛇との位置を一瞬にして入れ替え難を逃れたのだ。

 江利子の弓と祥子の魔法で敵の行動範囲を絞り、左右を令と聖の高速にして回避不可能な斬撃で攻撃方法を封じ、蓉子が止めを刺す。

 薔薇十字所有者5人による必殺の陣形。

 (まさか、この必殺陣がいとも簡単に破られるとは・・・)
 さすがの蓉子も魔王のレベルの高さに驚く。

 後ろに跳び下がったアンドロマリウスは、その反動で空に飛び上がり体を高速回転させる。
 切り落とされた左腕の付け根から、血が鋼鉄以上の硬さで石礫のように5人に襲い掛かる。

「甘いっ! 伍絶切羽!」
「ジオダイン!」
 江利子の矢が、高速で回転するアンドロマリウスの右肩、左肩、右足、左足を射抜き、心臓にも突き刺さる。
 例え、敵がどのような動きをしようと的確に狙った箇所を射抜く江利子。

 そして心臓に突き刺さった矢が避雷針になり、正確に祥子の雷撃呪文が竜が口を開けるように飲み込んでゆく。

 江利子と祥子の遠距離攻撃系の二人による必殺の合体電撃攻撃。

「ウガァァァァァァッ!!」
 アンドロマリウスは電撃に飲み込まれながらも、残った右手で空中を薙ぐ。

 とたんに巻き起こる巨大な衝撃波。

 一瞬にして、蓉子が、令が、聖が衝撃波に飲み込まれ、十数メートルも飛ばされる。

「ガ・・・ガハッ!!」
 令の口からゴボッと血の塊があふれる。
 令の体を恐ろしいまでの衝撃波が直撃し、内臓の一部が破壊されたような痛みが走る。

「令っ!」
 江利子が妹に目をやったとたん、切り落とされたはずの巨大な白蛇の首が江利子の喉に襲い掛かる。

「マーシフル・アーク!」
 すんでのところで、聖の下段蹴りからの突きが白蛇の下あごを砕き、地面に叩きつける。

「油断するな! 江利子!」
「くっ・・・。 わかってるわよ! 二連影隠撃!」
 江利子の矢が巨大白蛇を地面に縫い付ける。

「マハラギダイン!」
 祥子の高熱呪文が白蛇を飲み込み、こんどこそ爆発・蒸発させた。

「ウォォォォーーーッ!」

 アンドロマリウスの雄叫び。
 体に突き刺さっていた江利子の矢がその場にガラガラッと落ちる。

 そして、自分の周囲を素早く見渡すと、うつ伏せに倒れている蓉子に狙いを絞る。

 アンドロマリウスは、一瞬体を沈め、右手一本で地面に倒れ付す蓉子に襲い掛かる。

「蓉子ーーーー!!!」
 聖が必死で蓉子に声をかける。

 その声に、ピクリッとだけ反応し、かすかに目を開ける蓉子。

 しかし、その時にはアンドロマリウスの節くれだった右腕が引き絞られ、高速の突きの衝撃が空気を切り裂く。
 10mもの距離を刹那の動きで跳んできたアンドロマリウスの体が蓉子に覆いかぶさる。

 その場に倒れていた蓉子に逃げる場所はない。
 必死で体を回転させ逃れようとするが、アンドロマリウスの攻撃スピードははるかそれの上を行く。

「蓉子ーーーー!!!」
 悲痛な聖の叫び。

 ズブッ・・・・ 絶望的な音が聞こえる・・・・・
 アンドロマリウスの下敷きになった蓉子は、その姿勢のままピクリ、とも動かない。

「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁ!! 死ぬな! 蓉子ー!!」

 聖の体が、一瞬純白に輝き、アンドロマリウスに襲い掛かる。
 「スパイラス・ブレイド!!」
 全身のバネを千切れるほどに回転させ、手に持った短剣でアンドロマリウスの体をスパイラル状に切り刻む。

 ズバババァァァーー! さしものアンドロマリウスの体が、聖の体を中心に引きちぎられてゆく。

「どけ!! こいつっ!!」
 回転を止め、必死で立ち上がった聖が、動きを止めたアンドロマリウスの体を蹴り上げる。

「蓉子!! 蓉子!!」
 真っ青な顔の聖。

「死ぬなっ・・・、蓉子ーー!、蓉子ーー!! わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いつも飄々として涙など見せない聖の目から、涙が後から後から溢れ出る。



「・・・・・・うるさいわよ・・・。 私はこんなことで死なないわ」
「・・・え?」
 アンドロマリウスであったものの残骸の下から蓉子の声がした。

「ちゃんとこいつの心臓に突きを入れといたわよ。 誘いこんだだけなのに・・・。
 わたしが、こんなのに負けるとでも思って?」

「お姉さまっ!」
 ようやく祥子が蓉子と聖のもとに駆け寄る。

「二人とも心配しない! それより、令は大丈夫なの?」

 令は、江利子の肩を借りて、ようやく起き上がろうとしていた。
「だ・・・大丈夫です。 ちょっと、直撃を食らってしまいました・・・」
「令・・・。ありがとう。 あなたが庇ってくれなかったら、わたしも聖も無事ではいられなかったわ」

 令は、アンドロマリウスの衝撃波が襲ってきたときに、あえて自分の身を盾に、蓉子と聖を守ったのだ。

 令が衝撃波を一人で引き受けた瞬間、蓉子はわざと飛ばされ気絶した振りをして、自分に攻撃の目を向けさせ、おそらく油断して突っ込んでくるであろうアンドロマリウスを一突きで倒そうとした。
 そして、聖のほうは、その身軽さを生かし、飛ばされながらも、アンドロマリウスの次の攻撃に備えていたのだ。

「まったく・・・。無茶するんだから・・・」
 江利子の顔はまだ真っ青なままだった。

「あなたが死んだら・・・。わたしはどうすればいいのよ・・・」
 何時もの冷静な顔が影を潜め、まるでウブな少女のようにワナワナと震える江利子。

 しかし、さすがにこんな時にでも蓉子は冷静さを失わない。

「さすがに72柱の魔王だけのことはあるわね・・・。 残り、3箇所はどうなってる?」
「やばいかも・・・行ってみるか!」
「ここからなら、東が近い。 行くわよ! 江利子は令についていてあげて!」
 蓉子が、聖と祥子を伴い、東の辺に駆けて行く。

 そこで見たものは・・・

 12人のものであったはずの残骸・・・・。
 すべての体から、頭蓋骨が失せている。
 
 そして、悠々と出てきた入り口に帰ってゆく、魔王セーレの後姿であった。



 結局、東西南北から出現した魔物は4体のみ。
 うち、一体は薔薇十字所有者の手によって倒された。
 しかし、残りの3箇所の状況は悲惨であった。
 6人1チームで魔王に臨んだ騎士団は、必死に魔王と戦闘を行ったが、ものの3分も持たず倒された。
 第2波の6人1チームも相手にされず、ほとんどの騎士団員が絶命した。

 しかし、不思議なことに出現した魔物は、少しだけ戦闘をした後、結界に攻撃を加えることなく、ピラミッドのなかに帰っていったのだ。

 このことは何を意味するのか・・・。

 この場に居るものに、その答えはまったくわからないことであった。


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