【3313】 心構えは出来ていた私は誓う貴女を守ると  (ex 2010-10-04 21:23:07)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:これ】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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 想像をはるかに超えていた・・・。
 B級の魔物。 ソロモン72柱の魔王たち。

 魔法・魔術騎士団の誇る6人一隊のパーティがなすすべもなく魔王の犠牲となった。
 それも、2波連続で。
 最初に魔王に挑んだパーティは騎士団の中でも選りすぐりの猛者が集まっていたというのに。

 その中で、通常のパーティより1名少ないにもかかわらず、魔王アンドロマリウスを倒した薔薇十字所有者への騎士団の畏敬と尊敬の念は並々ならぬものがあった。

 しかし、その薔薇十字所有者5名のパーティをしても決して楽な戦いではなかった。
 『最高の軍師』といわれる蓉子の必殺の陣形は破られ、もっとも頑健であった支倉令が負傷した。

 巨大な衝撃波は、令の内臓に障害をもたらした。
 通常であれば全治4週間の大怪我であったが、魔術医療による急速な組織再生と、令の持つ非常な回復力で、全治1週間と診断された。

 この戦いでの唯一の救いは、魔王であっても倒すことは可能であるとわかったこと。
 まったく、手も足も出ない、ということではなかったのだ。

 人間側が鍛え、それなりの力を手に入れ、相手の弱点をつくことが出来たなら・・・。
 そのときには、例え魔王であっても倒れるのだ。

 しかし、その手段がほとんど見当たらない。

 これからも、すべて薔薇十字所有者に頼るのか。
 いくら、彼女たちが 『リリアンの戦女神』 として、絶大な攻撃力を持っていたとしても、所詮16歳〜18歳の少女である。

 政府、異空間対策本部、魔法・魔術騎士団、小笠原研究所、それぞれの機関の苦悩は深い・・・

 しかし、時間が残されていないのも事実だった。

 今回、魔王たちは単純に1戦だけ終えると暗黒のピラミッドに引き上げていった。

 たんなる顔見世だったのか、それとも、何時でも侵略・占領できるのだ、ということをアピールし、人間の恐怖の時間を長引かせることが目的なのか。

 あるいは、魔界の瘴気が満ちていない現世では、いくら魔王といえど、活動時間が限られているのか。

 様々な推測がされたが、どれも憶測の域を出ない。

 しかし、魔王が出現するのを待ち構えて迎撃するよりも、『少しでもピラミッドの中に進入しその情報を得る』こと、それが現時点での最優先課題だった。



〜 9月18日(土) 早朝 暗黒ピラミッド前 〜

 ピラミッド探索に志願してきたのは、以外にも各国の諜報機関であった。
 魔術騎士たちが躊躇しているのを尻目に、最新の電子機器を持ち出してきた。
 自走式の撮影ロボットや、一瞬で数mのファイバースコープを伸ばす機械など。
 また、サンプル採取用の無人ロボットなどが投入される。

 人間のピラミッドへの進入は危険であるが、このような機械なら『ピラミッドの内部情報を得る』ということに関しては有効である。
 早速、電子機器捜査チームによるピラミッド探索作戦が実施に移された。



 暗黒のピラミッド、明王院「千体不動尊供養塔」のそれに酷似した魔界の建物。
 その4辺に開いた入り口は、横3m縦6mほどの大きさであった。

 そして、ピラミッド内部の回廊。 これは、横6m高さ8mほどの大きさがあった。
 通常、建造物内の出入り口、回廊の大きさはそこに居住するものの大きさによって決まってくる。

 つまり、このピラミッド内にいる魔物たちの大きさは、最大でも横3m縦6m以内、ということである。
 しかも、あまり大きすぎる魔物であれば、回廊に2体が並んで立つことができない。

 であれば、この広さ、人間の6人一隊のパーティに都合が良く、魔王を一体ずつ撃破できるのではないか、と予測される。
 蛇のように長い魔物でなければ、この建物に居るのはそれほど巨大な魔物ではない、ということだ。

 また、天に向かって伸びるピラミッド状の建築物であるにかかわらず、上階への階段はなかった。
 あるのは、わずかに地下へ傾斜したスロープ。 真っ直ぐに地下へと伸びている。
 この建物は、上空ではなく、地下にその本体があるのだ。

 また、壁面を構成する石のように見える物質はこれまでに現世で知られているどの鉱物とも違った。
 見た目は玄武岩のようであるが、漆黒の石はまるで成分が違う。
 サンプルを採取しようとしたロボットは、硬度9の鉱物でさえ削り取ってくることの出来る性能を持っているが、まったく削り取ることが出来ないでいた。
 現世では知られていない、まったく未知の超硬々度の鉱物である、と推測されただけだった。

 そして、回廊を進む探査ロボットのカメラは、回廊の先に巨大な扉があることを撮影していた。
 扉の中には何があるのか・・・。 それはまったく不明であった。
 なぜなら、扉が自動的に開いたときに中に入った瞬間・・・。
 操作ロボットは爆発、炎上し、その使命を半ばに破壊されてしまったからである。



〜 同日、午後 〜

「どう思う?蓉子」
 と、聖が蓉子を見ながら問う。

「まず、4辺のそれぞれの入り口から、地下へ降りるスロープがある。 そして、それぞれ、最下層につくまでに18体の魔王が守護している」

 蓉子は、テーブルの上で両手を組み、軽く目を閉じながら聖の問いに答える。

「なるほど。 それで、各面に18体の魔王像が彫られているわけだ」

「推測だけど、探査ロボットが地下に下りていく間、他の入り口に出なかった。
 つまり、4つのスロープがそれぞれ地下に延びている、と推測できるわけ」

「つまり、上手く行けば、72柱の魔王全部と戦闘するんじゃなく、18体とだけ戦闘すれば最下層に行ける、ってことね?」

「途中で繋がってなければね」

「そして、最下層にはソロモン王が待っている、ということですね?」
 祥子も蓉子の意見には全く反論がない。 蓉子の見解を受け入れ、そのうえで確認するように質問を行う。

「・・・ええ、そうね」
 蓉子も軽く頷き、聖と祥子を見ながらしばし考え込む。

「最下層についた瞬間、残りの54体の魔王が一挙に押し寄せる、ってことは?」

「最悪、考えておかないとならないでしょうね」

「うわ・・・勘弁してよ・・・。 アンドロマリウス一体でも苦労したのに・・・」

「希望的観測だけど、ソロモン72柱の魔王たちは、天から堕ちた堕天使も多いの。
 ソロモン王から使役はされているけど、もともと心から忠誠を誓っているわけではない、と言われているわ」

「どういうことでしょうか?」

「ソロモン王は72柱の魔王、彼らの尊大さを危険視し、真鍮の壷に封じこめて『バビロンの穴』と呼ばれるバビロニアの深い湖に沈めたと言われているわ。
 つまり、彼ら魔王を信用しては居ない。 自分の使役できる範囲で魔王の力を使役している、ということ」

「つまり、72柱の魔王を全員を同時にすべて意のままに動かすことは出来ない、ってこと?」

「ええ。 だから最初の戦闘も、4体しか現れなかった。
 それ以上の魔王を同時に使役することはいくらソロモン王でも出来ない、と考えることが出来るわ」

「なるほど。 そう考えれば納得もいくか・・・
 つまり、最初の戦闘では、『地上に出て様子を見に一回だけ戦闘すること』なんて命令をした、と考えられるのね」

「そうね。 それと4辺に分かれている理由として、地獄の勢力は東西南北に分かれて統治しているということもあると思うわ」

「それって?」

「たとえば、アンドロマリウスは、地獄の南の大いなる伯爵。だから南の入り口から姿を現した。
 そして、東の入り口から出てきたセーレは、26の軍団を支配する地獄の強大な君主、東の王であるアマイモンの配下だとされているわ。
 まぁ、アマイモンなんてとんでもない悪魔はさすがにソロモン王も使役できないでしょうけど、その配下くらいは使役している、ってことかしら」

「つまり、4つの方角に、それぞれ魔王を配置しているから、どれか一つ攻略すれば最下層までたどり着けるかもしれない、そういうことね」

「あくまで希望的観測だけどね」

 ここは、魔法・魔術騎士団の戦略研究室に併設された控え室。
 水野蓉子、佐藤聖、小笠原祥子の3名は、騎士団に招かれ、操作ロボットの撮影した画面を先ほど見せられたばかりだった。

 ピラミッド攻略の会議に、薔薇十字所有者として招かれたのだ。
 鳥居江利子は、支倉令のつきそいで病院に行っているのでここには3名のみ。
 
 もっとも、水野蓉子が居る以上、山百合会の全頭脳と全決定機関がここにある、と言っても過言ではないが。

「で、東西南北のどこから攻めればよさそうなの?」

「一概には言えないわね・・・
 たとえば、72柱の魔王筆頭の”バアル”=”ベルゼブブ”は、東方を支配している。有名なアガレスも東方よ」

「蝿の王?! あの有名なベルゼブブ!! そんなの、戦いたくもないな」
「あたりまえよ・・・。 あんなの気持ち悪くて戦うどころじゃないわ。 東が一番危険、あとはどこも大して変わりがないかもね」

「で、ピラミッド攻略、いつ出発するつもり?」
「まず、令の回復待ちね。 令がいないんじゃ戦力半減だもの。 この1週間、騎士団には持ちこたえてもらわないと・・・。
 ほんとうは、それが一番気になるんだけど」

「”倒す”戦いじゃなく、あくまでも”守る”戦いなら、なんとかなるって騎士団も言ってたし。
 それを信じるしかないわね」
「ええ、私たちだけじゃない。 みんなで力を合わせて世界を守ることに意義があるんだから」

「お姉さま、例のものですが、もう少々時間が掛かります。ただ、まだ試作品といえる段階でもありません。
 まだ、直線で100m程度の移動だけしか成功していないそうです。 でも元々の原理は構築されていますし、あとは時間の問題です」

「ん? 何の話?」

「瞬間的に定点ポイントにワープするアイテムよ。
 特にダンジョンで有効らしいわ。 『ルーラ』 という特殊な古代魔法がブルガリアに残っていたそうなの。
 それを、小笠原研究所でアイテム化する研究をお願いしているのよ」

「つまり、命綱、ってかんじ?」

「そう。 たとえ魔王を倒したとして、傷薬もすべて使い切ったら、それ以上は進めない。
 だから一刻でも早く地上に戻らないといけない。 でも、帰る途中に別の魔王に遭遇するかもしれない。
 そんなときに、そのアイテムがあれば、生存する可能性が高くなる」

「それがないと、ピラミッド攻略は無理ってことね。 でも祥子がその魔法をおぼえればいいんじゃないの?」

「冗談言わないでください! 古代のブルガリアの呪文ですよ? 魔導式の構成も違うし、ものすごい演算が必要だそうです。
 現代のブルガリアの魔法使いでも使える人がたった一人。
 それも呪文を唱え始めて発動するまで1時間近く掛かるんですから! いくらわたしでも演算式をすべて古代ブルガリア語で行えません!」

「あ〜ごめん、祥子。 そこで魔法の構成を語られても、わたし、さっぱりだから」
「あ・・・。すいません。 思わず熱くなってしまいました」

「いやいや・・・。 で、そのアイテムの試作品が出来て、令が回復したらいよいよピラミッドって感じ?」

「そうね・・・・・。 要請はある、と考えておかないとね。 この世界を守るために力を与えられた。
 それが私たちであるなら、責任は果たす。 これ、あなたと令が言ったことよ」

「そうだね。 うん、やろう! 蓉子も江利子も祥子も令もいる。 わたしたちに出来ないことなんてないさ!」

「頼りにしているわよ。聖。 昨日、私のために泣いてくれたあなたですもの、ね」
 蓉子は、少しだけ悪戯っぽい顔をして聖を見つめる。

「うわ・・・。こんなときに恥ずかしい話しないでよ」
 急に真っ赤になった聖は、そっぽを向いた。



 K病院の個室。 支倉令が入院している。
 付き添いでついているのは、鳥居江利子と島津由乃の二人だった。

 いくら頑健な令とはいえ、内臓に疾患を負ったのだ。
 現在は魔導医術による急速な組織再編が行われている。
 この治療には非常な痛みが伴うため、今、全身麻酔で眠っている。

「江利子様・・・。 令ちゃんは大丈夫でしょうか」
「令は、蓉子と聖を守るため、自分から衝撃波をもろに受けたわ。
 最悪、内臓破裂で死んだかもしれない・・・。 このわたしが真っ青になったわよ」

「ひどい・・・。 令ちゃんをこんなにするなんてっ! 許せない!」
「思った以上に魔王は強かった。 わたしの刹那五月雨撃を防ぐことが出来る魔物なんて初めて見たわ」

「そう・・・ですか」
「ええ、それに祥子との合体攻撃さえ致命傷にはならなかった。 いいえ、効いてさえ居なかったかもしれない」

「そんな・・・。 そんな魔物があと70以上もいるんでしょ? そんなに戦ったら・・・。こんどこそ令ちゃん、死んじゃう・・・」

「ええ・・・。先日の戦闘でも、騎士団の精鋭が30人以上お亡くなりになったわ。
 これからも、犠牲は増え続ける・・・。 でも、誰がこれをとめるって言うの?」

「そ・・・。それは・・・。 でも、令ちゃんだけ戦わすことは出来ません!」

「ええ、そうね。 相手は不死の王よ。 しかも恐ろしい魔王を使役する。 こちらも不死じゃない限り勝てないかも、ね」

「わたしが・・・。私がもっと強かったら・・・。
 江利子様、どうすればわたし、薔薇十字を貰えますか?」

「あなた・・・。薔薇十字を取りにいくの?」

「無理・・・ですか?」

「今はまだ無理でしょうね。 あなた、一年前の令よりも強いかしら?
 その問いに「もちろん」って答えることが出来たら、薔薇十字の受け取り方を教えてあげるわ」

 由乃の顔に悲壮な覚悟が浮かぶ。

「わかりました。 江利子様、これからわたし修行してきます。 今日はありがとうございました。
 あと・・・。令ちゃんのこと、お願いしますっ!」

 由乃は江利子に一礼すると、振り返ることなく令の病室を出て行った。



 ピンポ〜ン。
 福沢家の玄関チャイムがなる。

「は〜い」 いつものように、のんびりとした祐巳の声。
 ついで、パタパタとスリッパの音がしてドアが開く。
「祐巳さん、ごきげんよう」 いつになく神妙な顔で由乃が立っていた。

「あれ〜? 由乃さん、ごきげんよう。 今日は病院じゃなかったの?」
「それどころじゃないわよ! 祐巳さん!」

 (うわ〜、いつもより青信号、イケイケGOGOの由乃さんだ・・・)

「祐巳さん、あなた薔薇十字を取りに行く気は無いの?!」
「え・・・。え〜っと。 あ〜、お姉さまが選挙で当選したら、その後くらいにはいこうかなぁ、って思ってるけど・・・」

「遅い!」
 足を肩幅に開き、びしっと指を祐巳の鼻先に当て宣言する由乃。

「今は、魔界と現世が繋がった大変な時期よ! 今こそ薔薇十字所有者が一人でも欲しいの!
 わたしも取りに行くから、祐巳さんも来なさい!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 今すぐなの?」
「決まってるじゃない! 今すぐ! い ま す ぐ 、よ!」

「あのね、由乃さん、ちょっと空を見たほうがいいよ・・・」
「なにいって・・ん・・の・・・」
「ほら、もう夕方だから、ね。 あ、そうだ今、志摩子さんと二人で夕食を作ってたのよ。 食べてかない?」

「う・・・。わかったわ。 ではお邪魔します」
 時間の観念さえ忘れていた由乃は、すこし赤くなって、福沢家の玄関に入った。

「で、でも、夕食を食べたら、薔薇十字を取りに行く相談に乗ってよね!」
 テレを隠すようにそう宣言すると、 「志摩子さん〜。 ごきげんよう」 と軽い挨拶で台所へ。

 (ヤレヤレ・・・。今夜は賑やかになりそうだなぁ) 
 祐巳は一人で苦笑した。



「この煮込みハンバーグ、美味しいね!」
「ええ、先日、令さまが来たときにレシピを教えていただいたので、作ってみたのよ」
「祐巳さんも料理上手だけど、志摩子さんもすごい」
「うふふ、二人で自炊しているから、かなり腕前が上がったかも。 山梨でも交代で料理を作っていたから」

「そうなんだ〜。 わたしも山梨で修行しようかなぁ?」
「え・・・。 由乃さん・・・。 悪いことは言わないわ。 おばばさまの 『お仕置き』 マジで死ぬから」
 ガタガタと震えだす志摩子。
「よ・・・よほどトラウマになってるみたいね・・・」
 由乃はその 『おばばさまのお仕置き』 の内容を聞こうとしたがあきらめざるをえなかった。

「それで、由乃さん、どうして急に薔薇十字を取りに行こうって話になったの?」
「令ちゃんが怪我をしたでしょ。 もう令ちゃんの入院姿なんて見たくないの。
 私が薔薇十字を持って、もっと強くなったら令ちゃんを守れるじゃない!」

「まぁ、そりゃそうだけど・・・。 そもそも、どこにいけば薔薇十字をもらえるか知ってるの?」
「あれ? 祐巳さんは知らないの?」
「うん」
「志摩子さんは?」
「知らないわ」
「「「え〜〜〜〜〜っ!!!」」」 3人が声をそろえる。
 
「由乃さん・・・」
 祐巳が気の毒そうな目で由乃を見る。
「ちゃんと調べてから来ようよ。 それじゃ、さっきどこに連れて行くつもりだったの?」
「いや・・・あの・・・。 祐巳さんなら知ってると思って・・・。 ごめん」

 ピンポ〜ン。
 また、福沢家の玄関チャイムがなる。
「祐巳ちゃ〜ん、志摩子〜。 ただいま〜」
 すこし疲れた声がする。
「あ、聖様、帰ってきた」 
 祐巳がぱぁっと顔を輝かせて玄関に走る。

「おかえりなさい、聖様、あ、蓉子様もおかえりなさい!」
「ただいま、祐巳ちゃん。 お〜、いい匂い。 今日は煮込みハンバーグだね!」
「はい、いっぱい作ってますから! それに由乃さんも来てます!」

 聖と蓉子を迎え、台所に先導する祐巳。
「お〜そりゃ賑やかでいいね。 ・・・ただいま、志摩子、由乃ちゃん」

「「お帰りなさい、蓉子様! 聖様!」」
「さっそく、準備しますね。 ちょっと待っててくださいね〜」

 いそいそと、蓉子と聖の食事の準備を進める祐巳。

「ほんと、祐巳ちゃんいい奥さんになるわ」
 と、蓉子が褒める。
「いえいえ。 今日の煮込みハンバーグは志摩子さんですから〜。
 とっても美味しいので、食べすぎには注意ですよ」
「お、志摩子のハンバーグか。 うん、こりゃ美味そうだ!」
 聖もにこやかに料理を褒める。

 志摩子も嬉しそうに祐巳の隣で笑っていた。

(ふ〜・・・。 これで、由乃さんの熱も少し下がってくれればいいけど・・・)
 祐巳がちら、っと由乃の様子を伺う。

「ま、それは無理なんじゃないかしら?」
 
「蓉子様・・・」
 あいもかわらず、祐巳の考えは蓉子に筒抜けのようである。


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