【No:3544】【これ】
〜続き・翌日・放課後〜
部活は無いため、直接薔薇の館に向かおうと席を立った時、廊下側が騒がしい事に気付いた。
こんな事、前にもあったような…ああ、お姉さまが来たときか。あのときは、ほんと大変だった。
お姉さまが来られたのかな?そんな事を考えていたら、不意にクラスメイトに話しかけられた。
聞いてみると、ロサ・キネンシスから、私を呼んで来て欲しいと頼まれたとの事だった。
この騒ぎは、ロサ・キネンシスか。お姉さまといい、薔薇の館の面々の人気は凄い。
…私って凄い人たちと一緒に居るんだな。
「ごきげんよう、ロサ・キネンシス」
「はい、ごきげんよう。菜々ちゃん」
「何か私にご用でしょうか?」
「ちょっと手伝って欲しい事があるの。一緒に来てもらっていいかなぁ?」
「分かりました。ただ、「ああ、由乃さんには言ってあるから大丈夫だよ」
「すみません。ありがとうございます」
普段、失礼ながら抜けているなぁと思っちゃう部分があるけど、
節々で、ロサ・キネンシスは、やっぱりロサ・キネンシスなんだなって思う。
「じゃあ、行こっか」
「はい」
付いて行くとそこは写真部だった。
今のところ特に行事の予定は無いから、撮影の依頼の必要性はなかったはずだけど…
「蔦子さん居る〜?」
「ごきげんよう。皆、待ち侘びてるわよ。そうそう祐巳さん、場所提供したんだから約束忘れないでよ?」
「ごきげんよう。うん、忘れてないから安心して」
「さすが祐巳さん。さぁ、こっちこっち。あなたもね」
「はい」
皆?約束って?
ロサ・キネンシスに促されて部屋に入っていくと、
そこにはお姉さまを除いた山百合会の面々+笙子様が居られた。
「お姉さま方、ごきげんよう」
「笙子ちゃん、お茶お願いね」
「はい、蔦子様」
「ロサ・キネンシス、この集まりは一体…」
「名づけて!!“由乃さんに振り回されるんではなく、たまには振り回して、尚且つ、楽しんでしまおう大作戦!!”の作戦会議」
「えっと…作戦名が長過ぎやしませんか?」
「じゃあ、略して…FT大作戦!!かな」
「ロサ・キネンシス、前のときと比べて語呂が悪いですね」
「乃梨子ちゃん、それを言っちゃあおしめぇよ」
「…どっかで聞いた事あるようなセリフですね。では、気が済んだと思いますので、そろそろお座り下さい。菜々ちゃんもね」
「乃梨子ちゃん…」
ロサ・キネンシスの作戦名で、なんとなく趣旨は分かったけど、それを私に言っていいんだろうか。
私は敵側だし。
いや‥だからこそ、私をお姉さまの居ない部屋に連れ出して、皆で口封じ?…ちょっと怖いかも。
「という訳で、今言った通りなんだけど、どうかな?」
「申し訳ないですが、私はロサ・フェティダ・アンブゥトゥンです。それが答えです。
たとえ、今までお姉さまが皆様に迷惑かけまくっている事実があってもです」
「ん〜手ごわい。じゃあ、こう言ったらどうかな。菜々ちゃんは、由乃さんが悔しがる顔を見てみたくない?
それに、この状況なら私達に協力しても問題ないと思うけどなぁ」
「……」
や、やばい。何て、甘美な誘いなんだろうか。
今まで、お姉さまのイケイケな顔とか色々な顔を見てきたけど、悔しがる顔なんてのは見たことがない。
これは是非とも見たい気がしてきた。
それに、改めてこの状況を考えると海千山千の先輩方なんだな〜って思う。
よし、決めた!!
「…はい、分かりました。それで、何をするんですか?」
「それはこれから説明するね。乃梨子ちゃん、始めよっか」
「はい。では、作戦会議を始めます。司会進行は、私、二条乃梨子が務めます。ロサ・キネンシス、改めまして作戦内容をお願いします」
「うん。この後、薔薇の館において昨日の妹交換の件について、誰が誰の妹になるかについて話し合う事にします。
そして、重要なのがここです。先日話し合ったとおり、ここで乃梨子ちゃんを由乃さんの妹に出来ないとミッション失敗です。
それが成功すれば全体として成功です――これで良かったよね?志摩子さん」
「ええ、祐巳さん」
「あの…」
「菜々ちゃん、どうぞ」
「ありがとうございます。質問ですが、なぜ乃梨子様がお姉さまの妹になると、お姉さまが悔しがる事に繋がるんでしょうか?」
「それは、お姉さまに代わって私が。先ず、乃梨子は私と違って部活動に入っておらず都合が良いの。第二に、基本的に乃梨子は小姑なのよ。
たとえ、ロサ・フェティダがイケイケ状態になっても、重箱の隅をつっつくかのように小言を浴びせるのは確実というわけ」
「はい、作戦としては理解出来ました…」
う〜ん、普段の乃梨子様はロサ・ギガンティアの世話女房なのに、そんなに上手くいくのかな。
でも、付き合いの長い瞳子様が言うのだから間違いないんだろうな。
それに、乃梨子様ご本人が否定しないのが何よりの証拠だね。
「他に何か質問ある方いらっしゃいますか?――はい、では次にいきたいと思います。
形式的なものですが、瞳子はロサ・ギガンティア。菜々ちゃんは、ロサ・キネンシスの妹になる設定です。菜々ちゃん良い?」
「はい」
「では、以上で作戦会議を終了します。後は、手はず通りお願いします」
そうして私たちは、蔦子様と笙子様に別れを告げ、薔薇の館に向かった。
私個人としては、この作戦は失敗すると思う。
何事にも失敗は付き物だ。
それに…お姉さまがこっちの予定通りの行動を取るわけがない。
お姉さまを甘く見ないで欲しい…って、何だ今のは。
最近、お姉さまに変な期待をし過ぎだ。
自重しなくっちゃ。