「令ちゃん、私のどこが好き?」
ある晴れた春の日の休日。
何の前振りもなく、不意に頭に浮かんだフレーズを私はいきなり切り出した。
令ちゃんはベッドの上で壁にもたれて文庫を読み(たぶん、コスモス文庫のブルー)、私は床に敷いたクッションに寝転がって、ティーンズ向けのファッション雑誌をパラパラとめくりながら、令ちゃんの部屋で二人きり、のんびりと過ごしていた。
どうせヘタレな令ちゃんのことだから、オロオロしながら「全部、由乃の全部が好きだよっ」っていうんだろうな。
令ちゃんは、文庫から顔を上iげると私の顔見ながら、
「でんぶ」
ほらやっぱり、でん・・・、
「へっ?」
私は、祐巳さんもかくやという感じの間の抜けた(由乃さんっ ひどいよ!by 祐巳)返事を返してしまった。
「由乃の臀部が好きだよ」
令ちゃんはそう言うと、視線を少し下げて私のお尻を見た。その視線に恥ずかしくなった私は、慌てて下に敷いていたクッションに座り直してお尻を隠した。
その悲しそうな顔は何?、令ちゃん・・・。
私は、俯きながら「そ、なんだ」と呟くのが精一杯だった。火照る顔を意識しながら無性に恥ずかしくて、いつものように「令ちゃんのバカー」と叫ぶこともままならない。
私のおしり、好きなんだ令ちゃん。
うまく思考が働かなくなった私は俯いたまま、
「じ、じゃあ江利子様は?」
と心にもないことを尋ねてしまった。
「お姉さまはおでこ、かな」
やっぱり、凸か。令ちゃんがお尻マニア?でなくてよかった。
「お姉さまのおでこの丸みは、由乃のお尻によく似ているから」
なっ、なんですとーっ!!あの凸と私の尻は同じ形ですかーっ!まさか令ちゃん、それが理由で妹になったわけじゃないよねー?
予想外の言葉に思わず顔を上げると令ちゃんは、ニッコリと微笑んで、
「由乃は私のどこが好き?」と問いかける。
テンパって、思考がついて行かな私は、
「れ、令ちゃんの全部が好きだよ」と答えるのが精一杯だった。
令ちゃんは嬉しそうに微笑むと
「ありがとう、嬉しいよ」
と言って、文庫に視線を落とし、それきり何も言わなくなった。
茹で上がった私は、クッションに顔を埋めて令ちゃんが好きと言ってくれた自分のお尻を右手で撫でてみた。
今日からはちょっと念入りに洗ってみようか、な。