ストパニとのクロス
【No:2620】→【No:2633】→【No:2641】の続き
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「花園さん、それはだめよ」
蓉子が戒めるように言う。
「私たちは学園長からあなたを案内するように頼まれているの。
だから、あなたが嫌がろうが案内はさせてもらうわ」
「・・・わかりましたわ」
一瞬考える素振りを見せた後、静馬は蓉子に従った。
そして、祐巳を見据えて言った。
「でしたら、祐巳が案内してちょうだい」
「へ?それはもちろん。薔薇さま方やお姉さまも一緒に案内してくれますよ」
「いいえ。祐巳だけでいいわ」
「花園さま。それはどういう意味かしら?」
睨み付けるような顔で祥子が言うが、そんな祥子に静馬は臆することなく涼しく答える。
「こんなに大勢で行きますと、目立ってしまいますでしょう?その上、私は他校生。
これでは普段のリリアンが見られませんわ」
「それなら、何も祐巳じゃなくても良いのではありませんか?」
「祐巳とはごく親しい仲ですもの。祐巳とでしたら私も緊張しないで済みますから」
(緊張って・・・絶対してないでしょう・・・)
さらりと言ってのける静馬を、祐巳は呆れた目で見ていた。
「別にいいんじゃないの?祐巳ちゃんに任せましょうよ」
「黄薔薇さま?!何をおっしゃって・・・!!」
「校内を案内するだけでしょう?誰でもいいじゃない。
それに、お客さまが祐巳ちゃんを指定してるのよ?断る理由がないでしょ」
「ですがっ・・・!」
江利子の言うことは最もだった。
祥子には返す言葉がなかった。
「祐巳ちゃんも、いいわよね?」
「はい、黄薔薇さま。私は構いませんが・・・」
祐巳は伺いを立てるように一方を見つめた。
そこには、鬼のような形相をした祥子の姿が。
(こ、こわっ・・・)
「反対!」
「よ、由乃?!」
「祐巳さん一人に案内に行かせるのは反対です!」
戸惑う令を余所に、由乃は江利子に突っかかる。
「それは何故かしら。お客さまが祐巳ちゃんを望んで、祐巳ちゃんも了承したのよ?
本人同士がいいって言うんだから、部外者がどうこう言うべきじゃないと思うけれど?」
江利子はニヤリと笑いながら続けた。
「それとも、由乃ちゃんには何か他に理由があるのかしら?
もちろん、私が納得する理由じゃなきゃだめよ」
「くっ・・・!」
由乃は言葉に詰まった。
だって、静馬と祐巳を二人きりにしたくなかっただけなのだから。
「反論はないわけね。だったら祐巳ちゃんでいいじゃない。
蓉子もそれでいいわよね?」
「え、ええ。私は構わないけれど・・・」
蓉子は困惑した顔で周りを見渡した。
今まさにハンカチを引き裂かんとしている祥子。
逆毛を立てる猫のように唸っている由乃。
面白くなさそうな顔をした聖。
困った顔をして見守る令と志摩子。
何を考えているのかよくわかからない静馬。
おろおろとしている祐巳の姿がそこにはあった。
しかし、江利子は気にしない。
「それじゃあ、祐巳ちゃん。時間がなくなってしまうから行ってきてちょうだい」
「祐巳。行きましょう」
江利子の声を聞き、静馬が祐巳の手を取る。
「は、はい。・・・お姉さま?」
祐巳は祥子の様子を伺った。
「何?」
・・・確実怒ってる。
その口調は物凄く冷たかった。
「・・・行ってまいります」
今は何も言うべきではない。
そう悟った祐巳は静馬の手を引き、そそくさと薔薇の館を後にした。
「何を企んでるのよ?!」
窓から祐巳と静馬が出て行ったことを確認すると、聖はすぐさま江利子に詰め寄った。
「あら、人聞きが悪いわね。私は何も企んでなんかないわよ」
「じゃあ、どうして祐巳ちゃんを案内に行かせたのよ?」
「それはさっきも言ったじゃない。
お客さまが祐巳ちゃんを指定したの。断る理由がないでしょう?
聖こそ。どうしてそんなに嫌がるのかしら?」
「別に。嫌がってなんかないわよ」
ニヤリと笑いながら聞く江利子に、聖はぶっきらぼうに答えた。
そんな聖を見て、更に江利子は笑みを深めた。
(さあ、祐巳ちゃん。楽しませてちょうだい)
江利子がそんなことを思っているとも知らずに、祐巳は静馬を案内するのであった。