【3636】 ローキックで削れ  (れいむ 2012-03-25 00:35:42)


「全国のリリアンファンのみなさま、ごきげんよう。とうとうやってまいりました『第一回福沢祐巳争奪バトルロイヤル 戦う10人の子羊たち』。実況は私、山口真美。解説は新聞部部長にして、山百合会を

知り尽くした女、築山三奈子でお送りします」

「一言余計よ。でもとうとうやってしまったわね」

「そうですね。祐巳さんを一週間、昼夜問わず自由に出来る権利を賭けて10人が争うこの試合。最初は実現が危ぶまれましたが、山百合会全面バックアップのもと、ここリリアン女学園特設リングでの開催と

なりました」

「あなたどうやって山百合会を説き伏せたの?後学のためにも是非とも聞きたいわ」

「えっと・・・・・。さあ、選手の入場です。実況にあたっては選手の敬称を略させていただきます」

「ごまかしたわね」

「特設ステージへと続く花道を行く一人の戦士。真っ白な体操着をまとい、鉢巻には『祐巳さま命』の文字が染め抜かれています。『祐巳さまはわたしの天使だった。純粋で無垢だったあの頃の祐巳さまを今一

度この手に入れる!』祐巳さん信奉者にしてストーカー、細川可南子。今、リングに立つ!!!!」

「一度はあきらめたはずなのに、あきらめ切れなかったようね。男嫌いは直ったようなのに」

「内情をいろいろとご存知のようで」

「それは、まあ。あ、次の選手が」

「次は山百合会からの参戦です。『お姉さま命。どこまでもついて行きます、例えそれが命を賭けることになろうとも、わたしは一歩も引きません。それが妹道なのです!』究極の妹道を突き進む白き薔薇のつ

ぼみ、二条乃梨子の登場だぁぁぁぁ!!!!!」

「白薔薇のつぼみは初め不参加のはずだったのに、突如参加表明をして周りを驚かせたわね。ただ理由を聞いても一切ノーコメント。いろいろと想像できるのだけれど、どれも確証が無いの。あなた何か聞いて

いる?」

「それが・・・。わたしもしつこく取材したんですが」

「情けないわねえ。それでも次期部長なの?」

「お姉さまに言われたくありません。おっと、会場からどよめきが聞こえます。他の選手が体操服を選ぶ中、なんとスクール水着を着ての登場だぁ。『一目見たときからずっと気になる人でした。反発した時も

ありました。でも、やっと受け取ったロザリオにかけてお姉さまは誰にも渡さない』最強のツンデレ娘、松平瞳子。ここに推参!!!!!」

「祐巳さんの妹として負けられない気迫が服装に表れているわね。まったいら瞳子と呼ぶ人もいたけれど、なかなかのものじゃない。Cの65と云ったところかしら」

「お姉さま、見ただけで分かるんですか?」

「あら、あなた見て分からないの? もっと観察眼を養わないと」

「お姉さまの場合は特殊すぎます。そんな目で見てるから特ダネを逃すんです」

「なんですってぇ!!」

「さあ、続いて2年生の登場です。『わたしが最初に出た友達だった。無印の頃はあんなに出番が多かったのに。ワン・エピソードで主役を張ったくらいではこの思いは晴れない』出番のためにわたしは鬼にな

る。ノーネーム桂、参戦!!!」

「思い切ったわねぇ。モブ・キャラから参戦してくるとは予想外だったわ」

「最初から祐巳さんに絡んでいましたからね。そのあとの扱いがトラウマになっていたようです。さて、2年生二人目はある意味リリアン女学園一の有名人。『炎を撮るには炎の中に、戦いを撮るには戦いの中

に入るしかない。究極の1枚のためにわたしはリングに立つ』天下無敵の盗撮魔、武嶋蔦子。カメラを携えての入場だぁぁぁ!!!!」

「究極の1枚って祐巳さんのムムムな1枚じゃないの? 他人には絶対に見せられない祐巳さんの写真をたくさん持っているってうわさよ」

「うわさはうわさでしかありません。新聞部がうわさに振り回されてどうするんです」

「何言ってるの。そこから真実を暴き出すのが新聞部の・・・」

「はい、はい。さぁ、誰がこの人の参加を予想したでしょう。『面白いことは見逃さない。それこそが黄薔薇の遺伝子。わたしこそが黄薔薇の真の後継者。お姉さま一筋のわたしだけれど、たまには親友を攻め

てみたい』お姉さま、支倉令を従えて、イケイケ青信号、島津由乃。いざ出陣!!!!!」

「令さんは由乃ちゃんの参加を聞いてショックのあまり寝込んでしまったとか、『わたしより祐巳ちゃんを取るの』と泣きついたという情報もあるわね。由乃さんと戦うことなんて考えられない、と参加を見送

ったと聞いたわ」

「今回、ロサ・フェティダはバトルロイヤルでは珍しいセコンドに就くわけですが、一部では何か計画があるのでは、と噂されております。そして場内の歓声が一段と大きくなりました。由乃さん以上に予想外

の参加表明でした。しかしある意味、参加は当然なのかもしれません。『SSでのカップリング数では祥子さまに負けてはいない。サイズなら勝つ自信がある。私こそが真の相手だ』ナイスボディと天然キャラ

の究極コンボを携えて藤堂志摩子が頂点を目指す」

「彼女は小寓寺秘伝の古武術を修めているそうよ。今回の出場の目的はその古武術が世界最強であることを実証する第一歩と位置づけて、優勝を世界制覇への足がかりにしようとしているとの噂もあるわね」

「どこかで聞いたような話ですね。この試合ってそんなに権威あるんですか? さあ、ロサ・フェティダの不参加を埋めるためではありませんが、遠いイタリアからまさかの参加です。『歌うことしか見えなか

ったわたしに学園生活の楽しさを教えてくれたのは祐巳ちゃんでした。祐巳ちゃんと出会えたことでわたしの運命は変わりました。彼女そのものがわたしのリリアン女学園!』もうひとつの薔薇、蟹名静。イタ

リアより凱旋!!!」

「静さんはこの試合のためにイタリアで声楽を学ぶ傍ら、総合格闘技を学んでいたという話もあるわ。ひょっとしたら参加者の中で一番勝利に貪欲なのは彼女かもしれないわね」

「イタリアに行ってまで何してるんでしょう。さあ、場内の興奮はヒートアップしてまいりました。ついに真打の登場だ。『祐巳がいない世界なんて考えられない。祐巳さえいれば後はもう何もいらない。私の

半分は祐巳で出来ている』天下無敵の妹依存症、小笠原祥子、ここに降臨!!!!なんと、ただひとり制服を着ての登場だ」

「自信と薔薇さまの自覚の現れでしょう。戦いの場に在っても淑女のたしなみを忘れないという。ただ、彼女には只ならぬ意気込みを感じるわ」

「そうですね。ロサ・キネンシスはこの試合に備えて『祐巳さん絶ち』をした。との情報も入っております」

「え?あの祥子さんが。どのくらい?」

「資料によりますと・・・2日のようですね」

「それだけ?」

「初めは1週間のつもりだったようですが、4日目にして禁断症状が出てドクターストップがかかり急遽中止、その後に再開した模様です」

「どんな禁断症状が出たのか非常に興味があるのだけれど。そこのところをじっくりと聞きたいわね」

「すみません。そこまでは取材できていません」

「ちっ。だらしが無いわねぇ。ところで、祥子さんが9人目。10人の乙女たちと言うからにはもう一人参加選手がいるのよね」

「もちろんです。シークレット・ファイターとはこの人でした。『祐巳ちゃんの最初の相手はわたしだった。わたしが祐巳ちゃんのぷくぷくを発見したのだ。あの抱きごこちを再びわが腕に』天下無敵のすけこ

まし、佐藤聖。OG枠での特別参加です。会場の歓声が怒号のように響き渡る中、今リングに駆け上がる!!!」

「先代の薔薇さまなんて思いもよらなかったわ。ところでOG枠なんて、最初の予定にあったかしら?」

「最初は予定に無かったんですが、開催を耳にしたご本人が是非にと・・・。おっと、場内がざわめいております。あ、佐藤聖の胸に『1年桃組福沢祐巳』のゼッケンがついています。これは祐巳さんから借り

た体操服と判断してもいいのでしょうか」

「いえ、これは聖さま一流のフェイクね。服のサイズが違うわ。祐巳さんのものだったら、胸がきつくて余裕がないはずだし。恐らく他の選手の動揺を誘うために自分の体操服のゼッケンだけ替えているだけだ

と思うわ」

「動揺しているのはひとりだけのような気もしますが、少なくともロサ・キネンシスに対しては有効だったようです」

「この動揺が試合展開にどう影響を与えるか注意しておく必要があるわね」

「そうですね、注意しておきましょう。さて、今宵リングに集いし10人の乙女たち。戦いの果てにあるものは栄光か、それとも死か。たとえ自らの屍を晒すことになろうとも悔いはない。栄光の先にあるもの

を己の腕で掴み取るまでは一歩も引かない。それがマリア様の庭に集う仔羊たちの真の姿だ。さあ、10人の乙女たちが己の意地をかけた壮絶な戦いのリングが今、鳴り響く!!!さて、お姉さま。試合展開を

どのように予想されますか」

「バトルロイヤルは自分以外の全員が敵なのだけれど、まず誰が標的になるかが問題でしょうね。強い人ほど標的になり易いの。そういう意味では優勝候補と目されている祥子さんや志摩子さんがまず標的にな

りそうね。彼女たちが前半どのようにしてその局面を切り抜けるか、で試合の流れが決まると思うわ」

「なるほど。リング上では探り合いが続いています。さて最初に動くのは誰でしょうか。あ、ノーネーム桂が小笠原祥子に向かって行きました。これはどういうことでしょう」

「先ほど言ったように強い人ほど標的になり易いけれど、そのためには呼び水として誰かが先陣を切らなければ状況は動かないものよ。そういう意味では桂さんの動きは一見無謀に思えるけれど、自らが先陣を

切ることで他の人を動かす作戦は間違いではないわ」

「お姉さまの言葉どおり小笠原祥子に攻撃が集中しています。反撃できるのか小笠原祥子。攻撃をじっと耐え忍ぶかのように動かない。それとも動けないのでしょうか」

「いや、動かないだけよ。しかも攻撃を耐えているだけでなく、反撃の機会をうかがっている様子ね」

「おや、攻撃している選手たちがじりじりと後退している。あ、『薔薇さまの威光』だ。早くも大技の『薔薇さまの威光』を出してきました、小笠原祥子。薔薇さま慣れしていない一般生徒はなす術がありませ

ん」

「三人の薔薇さまの中で『薔薇さまの威光』を一番得意としているのが祥子さんで、歴代の薔薇さまの中でもその威力はずば抜けていると評判なのよ。山百合会の関係者はともかく一般生徒は太刀打ちできない

わ」

「ご覧下さい。あまりの威力にノーネーム桂が場外へ弾き飛ばされました。立ち上がることが出来るのか。この試合では20カウント以内にリングに戻らないとリングアウトにより失格となります。しかし、ノ

ーネーム桂、立ち上がれない、足に来ているようだ。モブ・キャラの意地を見せることができるのか。「祐巳さんの親友の座を勝ち取って、苗字をこの手に入れてみせる」試合前にそう語っていた桂。だが、無

常にもカウントは進んでいく。必死にリングに上がろうとしていますが、足が上がらない。今、20カウント!ノーネーム桂、無念の敗退です」

「彼女以外は山百合会に関わりがあった人ばかりだったことが、一番の敗因かもしれないわね」

「これもモブ・キャラの悲劇なのかもしれません。さて、リング上では再びこう着状態に陥っています」

「でも少しずつ、動いているわ。どうやら今度は志摩子さんが標的にされそうね」

「なるほど。確かにじわじわと志摩子包囲網が作られつつあります。しかし先ほどの教訓からか、先陣を切って動くものはありません。おっと二条乃梨子が動いた。藤堂志摩子へ一直線だ。あえてノーネーム桂

と同じ作戦を取るのか。いや違う!二条乃梨子の標的は藤堂志摩子ではありません。その背後にいた武嶋蔦子だ。武嶋蔦子のカメラ攻撃の前に立ちふさがり、身を挺して藤堂志摩子を守った。これは意外な展開

ですね」

「いえ、今の動きで乃梨子ちゃんが何故この試合に参加したのか理由がわかったわ! 彼女は志摩子さんの手助けをするために参加したのよ」

「なるほど、参加理由を口にしなかったのはそのためだったのですね。おっと武嶋蔦子、藤堂志摩子と二条乃梨子へ連続カメラ攻撃だ。苦しそうな二人です。あ、佐藤聖が突っ込んできた」

「今回、白薔薇ファミリーだけが三姉妹とも参加しているのだけど、志摩子さんが参加を決めたら他の二人が参加してきた点に注目したいわ。志摩子さんを中心にした何らかの動きがあるはずよ」

「佐藤聖が武嶋蔦子の前に立ちはだかった。この人も藤堂志摩子のために参加しているのか。強力なカメラ攻撃の前にどう立ち向かう。いや、武嶋蔦子はなぜか攻撃しない。佐藤聖が一方的に攻めたてています

。お姉さま、これはどういうことでしょうか」

「おそらく聖さまは蔦子さんの致命的弱点を攻撃しているようね。どうやら幻と言われている蔦子さんのセルフポートレートを入手したのでしょう」

「若気の至りでつい撮ってしまったというアレですね。あ、武嶋蔦子がとうとうひざをついた。佐藤聖に押さえ込まれます。跳ね返す力はもう残っていない。カウントスリー。武嶋蔦子、無念の敗退です。この

敗退をどう見ます?」

「蔦子さんが早々と敗退したのも驚きだったけれど、聖さまがあれほどの隠し玉を持っていたことのほうがもっと驚いたわ。アレがあればわが新聞部はこの先ネタに苦労しないのに」

「そんな他人まかせでどうするんです。自分で探してこその特ダネです」

「と、ともかく。あのゼッケンといい、聖さまはまだまだ何かを隠し持っているのではないかしら」

「やはり、佐藤聖には注目すべし、というところでしょうか。その佐藤聖何と今度は藤堂志摩子を後ろから羽交い絞めにしています。何が起こった白薔薇ファミリー」

「あれは羽交い絞めじゃなくて、胸を揉んでいるわ!」

「本当ですね。現山百合会では一、二を争うという豊満な胸が佐藤聖の両手でガッシと掴まれています。藤堂志摩子が苦悶の、いや恍惚の表情を浮かべています。在学中は『千の乳を揉んだ女』と呼ばれ、何人

もの生徒を中毒者や病院送りにしたといわれる佐藤聖の超絶技巧だ!」

「志摩子さんは慣れているはずなんだけど、久々だから耐え切れないのかしら。もう腰が砕けているわ」

「優勝候補の一角だったロサ・ギガンティア。藤堂志摩子はもう限界のようです。目の前の展開に呆然とする二条乃梨子。お姉さまを守りきれなかった後悔の念か」

「いえ、あれは自分が日ごろ志摩子さんを満足させていなかったことがわかって呆然としていると見たわ」

「それはどういう意味なんでしょう」

「分からなければそれでもいいの。あ、由乃さんが来た」

「先ほどまで松平瞳子とキャラをぶつけ合っていたのですが、じりじりと押され気味だった島津由乃。松平瞳子の攻撃をかわして猛然と突っ込んできた。おっと、藤堂志摩子と二条乃梨子に体当たりだぁ。これ

は止めを刺しにきたのでしょうか」

「うーん。由乃さんの表情から察するに、助けに来たけれど勢いあまって弾き飛ばしてしまった、というところかしら」

「あー。本当ですね。場外に向かって手を合わせていますが、弾き飛ばされた二人は動けません。このまま二人はリングアウトというところでしょうか」

「猪突猛進の由乃さんのパワーは半端じゃないもの。リングに戻るのは難しいでしょうね」

「そうですね。昨年までの島津由乃とは比べものにならないこのパワー。昨年の手術は心臓だけでなく、さまざまな改造手術を施されたとの噂を信じたくなるような動きです。その島津由乃、佐藤聖の攻撃をか

いくぐりリングの上を縦横無尽に駆け巡る」

「得意技の『GOGO青信号』だわ。先ほど二人を吹き飛ばしたことからも分かるように、相当な破壊力を持っているの。まともに当たったら相当なダメージを追うはずよ」

「リング上の選手たちも分かっているのでしょう。必死に避けていますが、無傷ではいられません。ですがそれは島津由乃も同じです。しかし、そんなことはお構いなくリングの上を引っ掻き回しています。あ

、混乱に乗じて蟹名静が佐藤聖に仕掛けた。佐藤聖は島津由乃に気を取られていたのか、なす術もなく抱きつかれ、唇まで奪われてしまった」

「いえ、聖さまはカウンター狙いだわ。ちゃんと抱きしめ返している」

「本当です。佐藤聖も蟹名静をちゃんと抱きしめている。いや、右手が服の中に入っている。抱きしめながら胸を揉むという複合技を繰り出してきた」

「静さんは志摩子さんを通じて聖さまを研究済みとの情報もあるけれど、底の知れない聖さまをどこまで研究できたのか疑問よね」

「もっともです。しかし蟹名静の攻撃の前に佐藤聖のひざが徐々に崩れ始めている。ここでひざを屈してしまうのか、佐藤聖」

「あら、静さんも立っているのがやっとの様子よ。唇は奪えたけれど舌は入れられてしまったようね。さらに胸を揉まれたのが効いてるみたい」

「どうやらそのようですね。反対に佐藤聖は盛り返してきた。さて、勝負の行方は?崩れ落ちたのは蟹名静だ。立ち上がれない、必死に立とうとしていますが佐藤聖に押さえ込まれてしまった。蟹名静、恍惚の

表情で今カウントスリー。無念の敗退です」

「ぎりぎりの攻防だったわね。これで聖さまはずいぶん体力を消耗したわ。今後の戦いにどう影響を与えるのかしら」

「そうですね。佐藤聖は隅で死んだ振りをするようです。一方リング中央ではまだ島津由乃が『GOGO青信号』だ。松平瞳子を弾き飛ばし、細川可南子に向かう。迎え撃つ細川可南子、なんと巨大化した」

「あれはDVDのオマケで見せた荒技ね。まさかここで出してくるとは思わなかったわ。これは禁断の荒技とされていて、使うだけでかなりの疲労が蓄積されるはずよ」

「まさに捨て身の荒技です。しかし、その破壊力は桁外れだ。島津由乃が果敢に突っ込んでいくが微動だにしない。うなりを上げた腕の一振りが島津由乃を襲う。コーナーポストに叩きつけられたぁ。そこをめ

がけてタックルだ。疲労の色が濃い島津由乃は動けない。どうする、島津由乃」

「由乃さんは元々身体が弱かったせいもあって、あまり技の種類が豊富ではないのよ。オリジナルは『GOGO青信号』くらいかしら。今の状態を考えるともう使える技はないと思うわ」

「そうすると、なす術もなくやられてしまうでしょうか」

「黄薔薇のつぼみのプライドにかけて、起死回生の作戦がある、と信じたいところね」

「さあ、細川可南子がもう一度タックルだ。これで最後だと言わんばかりの猛ダッシュ。ああっ、ここで『名探偵よしのんの迷推理』が炸裂!信じられないこの威力。巨大化した細川可南子さえ場外へ吹き飛ば

した」

「今のは間違いなくリミッターを外してるわ。そうでなければこの威力が説明できない。でも、リミッターを外しての大技は由乃さんにとっても致命的なはず。彼女自身も相当ダメージを受けているはずよ」

「その言葉どおりもう目は虚ろだ、コーナーポストに身体を預けてやっと立っている状態です。ここでセコンドから黄色のタオルが投げ込まれた。島津由乃無念のリタイアだ」

「悔しいかもしれないけど仕方がないわね」

「いま、抱えられてリングを降ります島津由乃。しかし、まだやれたのに、とセコンドを罵倒しています。『令ちゃんの莫迦ぁ』の声が会場内に響き渡ります」

「戦う気力は衰えていないと思うけれど、ダメージを考えると仕方がないでしょう。セコンドの判断は正しいと思うわ」

「これでリング上に残っているのは佐藤聖、小笠原祥子、松平瞳子の3選手となったわけですが、それぞれの選手の今までの戦いぶりはどうだったのでしょう」

「祥子さんは『薔薇さまの威光』や『お姉さまの威厳』と云った大技を連発して敵を寄せ付けなかったのに対して、聖さまは胸揉みや唇を奪うテクニックを駆使して相手を粉砕してきた。瞳子ちゃんは目立たな

かったけれど、キャラのぶつけ合いやツンデレ攻撃でうまく敵をさばいてきたわ」

「三人の中では、やはり小笠原祥子が優勢でしょうか」

「どうかしら。彼女の『薔薇さまの威光』や『お姉さまの威厳』は他の二人にはあまり効かない技よ。わたしとしては瞳子ちゃんがまだドリル攻撃を本気で繰り出していないことが気になるわ」

「さてこれからどう動くのか。まずは小笠原祥子が『お姉さまの威厳』に加え第三の大技『究極のお嬢さま』で一度に二人に攻撃を仕掛けた。しかし、この攻撃の中で佐藤聖が松平瞳子に襲い掛かる。これはど

ういうことでしょうか」

「聖さまは受け慣れているから、あまり効いていないのでしょう。慣れていなくてダメージを受けている瞳子ちゃんを襲ったのだろうけれど、それ以上にスクール水着の誘惑に負けたのだと思うわ。揉みがいの

ある胸に引き寄せられたというところかしら」

「胸元から手を入れればすぐ素肌という魅力に抗いきれなかったという訳ですね。対する松平瞳子、ここで満を持してのドリル攻撃だ。二つのドリルがうなりをあげる」

「わざと技のぶつかり合いね。どうなるか見ものだわ」

「佐藤聖が二つのドリルを掻い潜り抱きついた。あ!必殺技『ヘンタイ親父』が炸裂した。背中に怖気が走ります、松平瞳子。必死に絶えています。しかし、そのもだえ顔はかえって『ヘンタイ親父』にパワー

を与える結果となります。これは苦しい。起死回生のチャンスはあるのか」

「ここまで来ると難しいわね。経験の差が歴然としているから。瞳子ちゃんは潔癖症だからその手の経験が少ないのよ」

「お姉さま、その裏事情の入手先はどちらですか」

「時々祐巳ちゃんが愚痴を・・・・。ほほほ、何でもないわ。入手先は秘密よ」

「もうバレバレです。松平瞳子、すでにひざが落ちかかっている」

「スクール水着の場合、他の服装に比べて『ヘンタイ親父』のダメージが大きいのよ。服装選びで失敗したわね」

「もうダメだ、松平瞳子ダウン。立ち上がれません。さあ、松平瞳子がマットに沈んだ今、残っているのは二つの薔薇のみ。最後に笑うのはどちらの薔薇なのか、両者ともに満身創痍、残った力を振り絞って相

対します」

「聖さまは接近戦、祥子さんは離れて戦うタイプだからお互いやりにくいわね」

「この場合離れて戦うほうが有利なんでしょうか」

「一概には言えないわ。祥子さんの技は聖さまには効かないものが多いのよ。先ほどの祥子さんの攻撃でも聖さまはあまりダメージを受けてないわ」

「なるほど。ということは佐藤聖がどうやって接近戦に持ち込めるかが勝敗の鍵を握ると言っていいでしょうか」

「一般的にはそのとおりなんだけど、今回はどうなるか分からないわ」

「両者お互いに出方を窺っているようだ。佐藤聖が動いた。あ! なんと言うことでしょう、小笠原祥子が突如として血まみれだ。顔が真っ赤に染まっています。何が起こったというのでしょう」

「聖さまが何かを祥子さんに差し出したように見えたけれど」

「ただいま情報が入りました。佐藤聖は小笠原祥子の目の前に祐巳さんが着替え中の写真を突きつけた模様です」

「ひょっとして祥子さんのあれは鼻血?」

「そのようですね。追加情報です、先ほどの写真はプールの更衣室で撮られたものとのことです。小笠原祥子さらに出血、また新たな写真を見せられたようだ」

「気力を高めるための『祐巳さん断ち』が裏目に出たようね」

「あまりの出血に足元がふらつく。とうとうマットに倒れこんだ。もう立ち上がれないのか、小笠原祥子。リングの上では佐藤聖が勝利を確信したかのようにガッツポーズだ。果たして10カウント以内に立ち

上がることが出来るか、小笠原祥子。それともこのまま佐藤聖が勝利を握り締めるのか」

「今の祥子さんの倒れ方は非常に危ないわ。あの様子だと意識が朦朧としているのではないかしら」

「だとするとこのまま勝敗が決してしまうのでしょうか」

「そうね、でも祥子さんのプライドを考えるとこのままで終わるとは思えないのだけれど」

「あ、お姉さまの言葉どおりです。小笠原祥子が立ち上がりました。傷つき、血は流しても、まだ目は死んでいません。まだ戦える、まだ負けてはいない。ロサ・キネンシスの名は伊達ではありません。我こそ

がリリアンの頂点に君臨する薔薇の花。小笠原祥子ここにあり。一方の佐藤聖、勝利の女神はすでに我が手中、無駄な足掻きにはきっぱりと引導を渡してやるとばかりに迎え撃つ」

「聖さまも見かけほど余裕があるとは思えないわ。お互い最後の攻防になるでしょう」

「その佐藤聖がバックを取った。後ろから胸を鷲掴みだ。テクニシャン佐藤聖の真骨頂。一気に落とそうというのか。なんと後ろからの『ヘンタイ親父』だ。大丈夫か小笠原祥子」

「祥子さんのひざが震えてきているわ」

「あ、本当です。ひざが崩れ落ちそうだ。もうここまでか、小笠原祥子」

「いえ、祥子さんはまだ勝負をあきらめてはいない。何かのチャンスを探っている顔よ」

「それはお姉さまの思い込みじゃ・・、こ、これは『究極のお嬢さま』? 小笠原祥子、ここで最後の大技が炸裂だぁ」

「これは『究極のお嬢さま』じゃないわ。これは『究極のお嬢さまのわがまま』よ」

「なんと、ここで幻の大技『究極のお嬢さまのわがまま』を出すとは。底知れぬパワーの持ち主だ。高ピー、自己中、ヒステリーの三大コンボ。まさに起死回生の『究極のお嬢さまのわがまま』。先代のロサ・

キネンシスに「これを捌けるのは祐巳ちゃんしかいない」と言わしめた小笠原祥子の超必殺技だ。あの佐藤聖が振り回されている。おっと、弾き飛ばされてリングから落ちてしまった」

「それだけ祥子さんの技の威力が強いということでしょう。20カウント以内に戻ることは出来るのかしら」

「どうでしょう。立ち上がれません、佐藤聖。リング上ではまだ『究極のお嬢さまのわがまま』が吹き荒れている。今、10カウント。もう時間がない佐藤聖。やっと立ち上がったがリングには上がれない、こ

こで力尽きるのか。残り5・4・3・2・1、試合終了。勝者、小笠原祥子。混戦を勝ち抜いたのはやはりこの人だった。『第一回福沢祐巳争奪バトルロイヤル 戦う10人の子羊たち』栄冠と祐巳さんを手に

したのはロサ・キネンシス、小笠原祥子選手でした。実況は新聞部、山口真美。解説は新聞部部長、築山三奈子でお送りいたしました。皆さま、ごきげんよう」

「ごきげんよう。ところで、第一回ってことは第二回もやる気なの?」



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