【3822】 いつもと違う奇天烈なことをいつやるの?今でしょ  (イチ 2014-02-16 00:05:22)


【No:3817】【これ】


〜聖の下宿先〜

下宿先に着くと、尋問が始まるかと思いきや、
晩御飯をご馳走になり、布団まで用意してもらうという好待遇が待っていた。
4人分の布団を用意している聖様に感心してしまった。
まるで私が来るのが分かっていたみたいだ。
そんな考えが浮かんだものの、怒涛の展開に私は疲れきっており、真っ先に寝入ってしまった。
そして翌朝、江利子様と蓉子様の話し声で目が覚めた。
外は雨模様で、隣では、聖様が気持ちよさそうに眠っていた。

「蓉子、本当にあの子に協力するの?止めにしない?」
「江利子、何を言っているの。昨日、見て分かったわよね?彼女がここに居るのは、私達にだって責任があるの」
「分かっているわ。でも、あの子を見たとき思ったのよ。奇跡が起きたんじゃないかって…」
「そうね。奇跡よね。でも、良いわけないわ。あの子には、あの子が生きている場所があるはずだわ。
それに、あの子は、私たちが知っている‘由乃ちゃん’ではないのよ?」
「それも分かっているわ。でも、今の言葉…令にも言える?」
「…もちろんよ。江利子、あなたが本当に令の為にそう言ったのだとしたのなら、同情だけはしたと思うわ。
でも、今のあなたを見ていると同情すら出来ないわ」
「どういう…意味かしら?」

何となく空気が張り詰めていくのを感じた。
さすがにまずいと感じ出て行こうとしたとき、聖様に肩を掴まれた。
その手は、私に任せてと言っているようだった。

「ふわぁ〜。おはよ〜。何々、2人して。私に内緒の話かしら?」
「…何でもないわ。ああ、私、悪いけど用事を思い出したから失礼するわね」
「もう行っちゃうんだ、これから面白くなりそうだけど?まっ、用事ってんなら止めはしないけどね」
「…蓉子も良いわよね?」
「ええ。私に江利子の行動を縛る権利はないわ」
「それはどうも。じゃあ、ごきげんよう」

そう言って江利子様は去っていった。
さっきからずっと、私の存在は江利子様に無視されているようだった。
何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか。
その後、私たちは無言で昼食(私にとっては、朝食兼昼食だけど)を済ませた。
江利子様が作ったという味噌汁は、何だか苦く感じた。


〜続・聖の下宿先〜

昼食を済ませると、静かに蓉子様が口を開いた。
聖様は、何やらパソコンと睨めっこしている。
大学のレポートでもやっているのだろうか。

「それじゃあ、こちらの話を聞いてもらっていいかしら?」
「あっ、はい。あ、あの、私の話はいいんですか?」
「ええ。ファミレスで私達も近くの席で聞いていたから、そちらの事は把握しているつもりよ」
「全然気付かなかった…」

蓉子様は、まず、私が死んだという事について詳細を教えてくれた。
令ちゃんは、気が動転していてのだろう。多少話が端折られていた。
私の病状は、3年生になっても良くなってなかったらしい。手術は効を奏さなかったのだ。
そのため、様子を見ながら登校していたのだが、帰り道で信号を横断中にうずくまってしまい、
事故に遭ったとの事だった。

「それで、ここからが本題ね」
「はい」
「小説の中の話だけだと思っていたけど…論理的に考えると、どうやってもこの結論しかないの。
そう、あなたは並行世界から来たと。根拠の大半は、あなたが此処に居るからなんだけどね」
「…はい」

なんとなく、そうなんだろうなと思いはした。
でも、蓉子様が仰ったように、そんなの小説の中の話でしかない。
だから、ずっとそう思わないようにしていた。
だって、私が読んだことのあるその類の小説の主人公は、大抵がろくな目に遭ってなかったから。

「私…どうなるんでしょう?」
「安心して。そんなに心配する必要はないと思うわ。志摩子、いいわよ」

そう言うと、部屋の奥から志摩子さんと白猫が現れた。
私が声を掛けようとすると、急にどこからともなくポップな音楽が流れ始め、志摩子さんは煙に包まれた。
そして、煙が晴れると…

「ま、魔法少女志摩子にお任せ!!」
「…え?」
「え、えっと…魔法少女志摩子にお任せ!!」
「………」
「ま、魔法…うっ…うう…」

志摩子さんは、三角帽子を被り、真っ白なローブを身にまとっていた。
そして、ちゃんとお決まりの杖も持っていた。
というか、名乗りが恥ずかしいならやんなければ良いのに。
既に泣き出しそうだし。

「志摩子さん、どうしてここに?蓉子様が呼ばれたんですか?」
「違いますよ、由乃様。魔法少女志摩子です」
「んっ?誰?」

どこからか声がして声の主を探してみると、それは先程の白猫から発されていた。
私が吃驚していると、その猫はみるみるうちに、その姿を変えた。

「えっ、乃梨子ちゃん?」
「はい。私、魔法少女志摩子の使い魔なんです。それより、ちゃんと分かっていただけましたか?
“魔法少女志摩子”ですからね」
「あっ…うん、分かった。分かったから、服を着たほうがいいわよ」
「えっ?はっ!!み、見ないで下さい〜!!」

乃梨子ちゃんは、すぐさま志摩子さんの後ろに隠れた。
恥ずかしいのなら、元の姿に戻ればいいのに…。
ちなみに、聖様はニヤニヤしながら乃梨子ちゃんを眺めていた。
セクハラ親父健在だ。

「こほん。話を戻すわね。志摩子、お願い」
「分かりました、蓉子様」
「ちょっと待って下さい、蓉子様。いったい、魔法少女志摩子は何者なんですか?」
「そうよね。志摩子、いいかしら?」
「はい。ええっと…私、藤堂志摩子。リリアン女学園に通う普通の高校生。
でも、「志摩子さん、そういうの要らないから」
「えっ…ガーン」
「ちょっとぉー!!由乃様、何を言っているんですか!!ショックのあまり、自分でガーンって言っちゃっているじゃないですか!!」
「だってぇ」
「だってじゃないです!!」

志摩子さんは部屋の隅でうずくまっていたものの、私は話を続けたかったので、
取り敢えず謝る事にして、既に猫の姿に戻っていた乃梨子ちゃんに説明を求める事にした。

「ごめんね、志摩子さん。乃梨子ちゃん、代わりに聞いてもいいかしら?」
「納得出来かねますが、話が進まないので良しとします。先ず、私と志摩子さんはこの世界の住人です。
それを前提にして聞いてください。先ず、私たちは秘密結社ロサ・カニーナと戦っていたのですが、「ごめん、ちょっと良い?」
「由乃様、何ですか?」
「いや…何ていうか、それは拾ったほうが良いのかどうか分からなくて」
「あの、私ボケてないです。確かに、由乃様からすれば荒唐無稽な話だとは思いますが、
私たちにとっては生の体験なんです」
「ごめん…」
「いえ、気になさらないで下さい。話、続けますね。
私と志摩子さんは、戦いの後暇だったので、並行世界に遊びに出かけたりしていたんです」
「ふーん…あっ、ちょっと待って。それ出来るなら、私を元の世界に戻せないの?」
「それが出来ないんです」
「何でよ?」
「私たちが並行世界に行ったときに、ある人物から忠告を受けたからです」
「ある人物って?」
「それは、時空の守人ユミ・フクザワです」
「ごめん、それはさすがに拾いたいんだけど…」
「ですよね。私たちも最初は驚きましたし。でも、当然私たちが知っている祐巳様ではないんです」
「そ、そうなんだ。それで、どういう忠告だったの?」
「それはですね、自力で時空を越えるぶんには良いらしいのですが、それを手助けすると
恐ろしい目に会うそうなんです」
「恐ろしい目に?」
「はい。恐ろしい目に遭うそうです、ユミ・フクザワが」
「えっ?」
「ですから、ユミ・フクザワが恐ろしい目に遭うから止めてねって、本人から言われました」
「それ、忠告って言うの?」
「そう…ですね。お願いですかね」
「まあ、それは可哀想だから止めとくけど、それじゃあ、私どうすれば良いのよ」
「やっと本題ですね」
「そうね。だいぶ、遠回りしたけどね」

やっと本題に来た。
果たして私はどうなるのだろうか…。

【続く】


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