【806】 どこへ行くのか姉妹船バイヲ・ハザードォ  (一体 2005-11-03 23:18:46)


  この作品は壊れ系ギャグで、スールオーディションのifというネタがかなり古い作品です。



 「ごきげんよう、ねえあなた、お姉さまはいる?」
 「ごっ、ごめんなさい」
 
 たったった

 「あっ、ちょっ、待っ!」 

 残酷なお断り声が、切羽詰った由乃さんの耳にこだまする。
 由乃さんのスール勧誘に逃げ惑う乙女たちが、今日も0円スマイルのようなひきつった笑顔で、由乃さんの魔の手ををくぐり抜けていくのだ。……うーん、みんなもう正体知ってるからなあー。
 引くことを知らない心身に流れるのは、太いザイル並の神経。
 江利子さまにつつかれてても乱れないように。……十分乱れてるけど。
 いったん宣言したことは翻らさないように、つっぱって歩くのが由乃さんのたしなみなのだ。
 もちろん、ギリギリいっぱいで暴れまわるといった、はしたない由乃さんはいつものこと。

 島津由乃さん。
 黄薔薇の蕾であるこのお人は、もとはおしとやかな令嬢を装っていたという、問題ある銀河系最強のはっちゃけたお嬢さまなのだ。
 由乃株急降下! 手術前の面影をまったく残していない血の気の多いこの性格で、神をも恐れぬイケイケぶり。
 幼稚舎から大学(予定)まで一貫して被害を受けている令さまの乙女心は悶絶ものなのだ。
 キャラは生まれ変わり、信号が黄点滅(ゆっくり)から赤信号(イケイケ)に二回ほど切り替わったら平静ではいられない凶悪さで、うっかり逆らおうものならわがまま育ちのキケン度100%由乃爆弾が導火線に出火される、という仕組みがいつも燻っている危険な火薬庫であるのだなこれが。

 

 「そうじゃないでしょ!」 
 
 ドコッ!!
 
 (うん、ナイスパンチ) 
 
 祐巳の目の前で、由乃さんが体重の乗った見事なパンチを高田君に放っていた。
  
 祐巳の親友でもあり黄薔薇の蕾である由乃さんが、高田君をビシバシと調教、ではなく指導しているのだ。  
 この光景は、高田君の嗜好がまっとうな道からドリフト走行イニシャルMにまっしぐら、というわけではなくて、これにはある理由があったりする。

 それは、今から少し前に由乃さんが前黄薔薇の江利子さまから由乃さんが、自分の妹を紹介する、という、およそマリアさまでも不可能ではないだろうかと思うような約束をしてしまったことから始まった。

 約束の期限は、十一月にある令さまの交流試合の日。ちなみに、今日から3日後の土曜日だ。
 で、今日にいたるまでにオーディション等いろいろと試してみたものの、結局、妹を捕らえる事ができなかった由乃さんは妹を自力で捕まえる事を諦めある作戦を発動させることにした。
 その作戦内容は、替え玉の妹を用意して江利子さまを騙す、という目を覆いたくなるようなトンデモ作戦だったりする。
 ちなみに替え玉の高田君は、令さまの着替えプロマイドと限定版プロテイン(何が限定なのか祐巳にはさっぱりだけど)でこの役を受けたらしい。……安い男だ。

 由乃さんから再度、高田君に指導の声がかかる。
 
 「いい、返事は」
 「ウッス。・・・・・・じゃなかった、はい」
 「・・・・・・まあいいわ。じゃあ次、趣味は」
 「身体作り」 

 どぼぅ!!

 高田君が身体作りと言った瞬間、これまたいい音がした。

 「そうじゃないでしょ!!」

 鬼だ、由乃さん。
 高田君はその目に涙を浮かべていた。気持ちはわかる、わかるよ高田君。でも、助けてあげないけど。
 鬼教官から再度指導が入る。

 「はい、もう一度。趣味は?」
 「お、お菓子作りです。ビスケットからプロテインまでなんでもやります!」(涙声)

 最後のはたぶん違うと思う。だが、由乃さんは満足そうに笑みを浮かべていた。……先は見えたな。


 ______________________________________

 今日は運命の交流試合当日。祐巳の目の前には2人の美少女が火花を散らしていた。
 美少女の二人は言うまでもなく、前黄薔薇さまである江利子さまとその永遠のライバルを自称している由乃さん。
 祐巳は、その二人の向かい合う姿からバチバチッと火花が聞こえてくるような錯覚さえ受ける。

 ……そして、あまり言いたくはないのだが。もう一人、彼女らのとなりに怪物がいた。

 それは、一言でいうなら「パッツンパッツン」だった。 

 おそらくは令さまの制服を借りたのであろうか? だが、女子高生の平均値の身長を遥かに上まわるだろう令さまの制服を着ても、その鍛えぬかれえた肉体を隠すことは出来なかったみたいだ。祐巳にはその全身からは「む〜ん」というようななんともいえない漢のオーラが湧き上がってくるように見えた。

 むう、スカートのプリーツははちきれんばかりに、白いセーラーカラーは引きちがれんばかりに、ピッチリとフィットするのが高田君のたしなみらしい。……おえ。
  
 「あなたが、由乃ちゃんの妹?」
 「ウス……ぎゃっ」ぐりっ

 なにかを踏みつけてぐりぐりする音が聞こえたのは祐巳の気のせいだろう。そういうことにしとこ。

 「は〜い、江利子さま。そうですよ。この子が私のかわいいスール、高田まがね子ちゃんです」

 全然かわいくないし、なんて嫌な名前なんだろう。

 「素敵な名前ね」

 だめだ、もう祐巳にはついていけそうにない。二人の間には目には祐巳には見えないなにかが見えてるのだろう。できれば、祐巳の目の届かないところでひっそりと幸せになってほしい。

 「誉めてくださってありがとうございます。よかったわね、まがね子」
 
 祐巳は思う。それは人として誉められていいのか、と。

 「まがね子ちゃんは、母性本能をくすぐるタイプね」
 
 祐巳としては、こんなのに母性をくすぐられるほど人生追い詰められたくはない。むしろ、くすぐられるのは野生本能あたりではないだろうか。

 「うーん、まがね子ちゃんって少しいいづらいわね」

 うん、確かに人として言いづらい名前だと思う。 

 「お好きに呼んでください、江利子さま」
 「そうだ。じゃあ、まがちゃんて読んでいいかしら」
 「ぶっ!!」

 ま、まがちゃん。なんて禍禍しい呼び名なんだ。

 「はい。喜んで」 

 喜ぶな、そこ。  

 「それじゃあ、まがちゃん。ちょっとお聞きしたいのだけど」
 「ウ、はい、なんでしょう江利子さま」
 「なにか趣味などあるのかしら?」

 来た。がんばれ、まがちゃん。あの(無駄に)厳しかった練習を思い出すんだ。逝け逝け!GO!GO!

 「お、」

 「お」、お菓子のお? がんばれ。

 「お菓子」

 やったね高田君、死ななくてすんだね。……ちぇっ、ちょっとだけ残念。
 だが、やっぱりまがちゃんは祐巳の期待を裏切らないでくれた。

 「お菓子と身体を少々たしなんでおります」

 びしっ!!

 由乃さんがチョップをかました。少々おいたが過ぎたようだ。
 江利子さまが目を丸くしている。

 「身体??」
 「ほほほほほ、なにを言ってるのかしらねこのバカチンは、このっ!このっ!」

 びしっ! びしっ! と、由乃さんが高田君にチョップをかます。
 さすがに祐巳は高田君が可愛そうに見えた。むろん、助けてあげないけど。
 しばらくチョップを受けていたまがちゃんはおもむろに立ち上がり、真っ直ぐと江利子さまを見据えその口をゆっくりと開いた。

 「江利子さま、お話があります」

 祐巳には、まがちゃんからやる気のオーラが立ち上っているように見えた。

 (おおっ、ひょっとして先ほどの失点を取り戻す気なのか? 頑張れ、まがちゃん!)

 由乃さんも口を出す様子はない。どうやらやらせて見る気だ。
 まがちゃんがやる気満々に口を開いた。

 「ぼくのお姉さまになってください!」
 
 ・・・・・・あー、えーと、どうやらまがちゃんは命がいらないみたいだ。

 ひゅっ!

 次の瞬間、祐巳の隣にいたはずのまがちゃんがいなくなった。あれ?
 ただ、気がつけば赤く輝く流星のようなものが壁に向かって飛んでいくのが見える。 
 一筋の流星は一直線に飛んでゆき。

 ビタン!! 

 と、壁にヤモリのように張り付き。

 ずるずる

 と、緩やかに下に落ちていった。

 まがちゃんに何が起こったのかはわからない。ただ、それを知ってるのは由乃さんの右手にある血のついた竹刀だけではないだろうか、と祐巳は思うのであった。

 「ほほほほほほー!! 江利子さま、それでは失礼させていただきますわ。祐巳さん、いくわよ」
 「う、うん!」

 由乃さんはまがちゃんをひこずって江利子様の前から引き上げようとした。祐巳も慌てて由乃さんの後を追おうとしたとき、祐巳の背後から声がかかる。

 「祐巳ちゃん」
 「え、は、はい」
 「あの子のことこれからもよろしくね。こうみえても可愛い孫だとは思っているのだから。あ、由乃ちゃんには内緒よ」

 祐巳は思わず嬉しくなった。やっぱり江利子さまは卒業しても江利子様だ。
 祐巳も笑って江利子さまに返した。

 「はい。これまでもなんとかうまくやってこれたので、これからもうまくやれるとは思います……かなりギリギリですが」
 「ふふっ。ありがとう祐巳ちゃん。由乃ちゃんに言っといて、確かにはいろんな意味で希少価値高かったけど、もう少し人間らしいのにしなさいって」

 それはそれで、まがちゃんにあんまりじゃあないだろうか。まあ無理も無いけど。・・・・・・あれでは希少価値がある、というより故障個所が(かなり)あるといったほうが正しいだろう。

 祐巳は苦笑を浮かべたあと、江利子様にお辞儀をして後にしたのであった。

 「おそい!!」

 由乃さんは案の定怒っていた。祐巳は慌てて言い訳をすることにする。

 「えっと、江利子さまと話し込んじゃって」
 「話し込んで? うっかり口をすべらせてボロをだしてないでしょうね」

 あれ以上どうボロをだせるのだろう? 祐巳はそう思いながら由乃さん右の方を見る。
 そこにはうっかり口をすべらせてボロボロになったまがちゃんがいた。・・・・・・哀れな。

 「まあ、なんにせよ大成功だったわ」

 ・・・・・・なんだろう?今とても不思議な言葉を聞いたような気がするが?
 だ・い・せ・い・こ・う・・・・・・ってなにが?? まがちゃんを吹っ飛ばした技のことだろうか?

 「えっと、由乃さんなにが成功なの?とっても聞きたいのだけど?」
 「もう、なにをいってるの祐巳さん。見事に江利子さまを騙しおおせたじゃない」

 なにをイッてるのだろう由乃さん。見事に自分自身を騙しおおせている。あれが大成功と呼ぶならばこの世界から失敗という言葉はいらないんじゃないだろうか?

 「・・・・・・そうでもないと思いますよ。あの人、見破っていましたもの」

 ボロ雑巾のような、まがちゃんが口を開いた。

 「何を?」とさっぱりわからない口調で由乃さんが聞く。
 むしろ祐巳には、なんでそこで由乃さんの口調が疑問系なのかさっぱりわからない。

 「自分に、資格がないってことを」
 「資格が、ない?」

 ある意味、今の由乃さんにピッタリの言葉だ。

 「自分の顔はゴツイので、メイクをしてきたのですけど、失敗しました。いつのまにかメイクが落ちていたのに、気が付きませんでした」

 ほら、と、顔をぬぐってみせるまがちゃん。その時、由乃さんの目に映ったものは。

 「あ、あなた」

 まがちゃんが顔をぬぐったその下から、あるものが祐巳たちの目に飛び込んできた。
 
 「ヒヒヒヒ、ヒゲぐらい剃ってきなさいー!!」

 と、いうわけで、それを見た由乃さんはリミッター解除、再び楽しいお仕置きタイムがまがちゃんを襲う。・・・・・・南無。

 バキ!! ドカ!! ボコ!! ぷしゅー 

 「はー はー ふん! あきらめないわよ。どこかで私に恋焦がれている一年生がいるわ!」

 コゲコゲになってる、のまちがいじゃあないだろうか?・・・・・・特に約一名。
 そのあと由乃さんが、あなたのせいで、あなたのせいで、とまがちゃんにダウン攻撃をかましていた。・・・・・・殺さないでね。
 
 おそらく、根本的な問題は「女装」がまちがいだったんじゃあないだろうか。
 由乃さんのはっちゃけをみながら、祐巳はそう思うのであった。
 
 
 これで本当に終わり・・・と思ったがさらに後日談があった。
 
 ここは一年椿組、ジャンボ可南子、ドリル瞳子、ノリブッダの3巨頭を擁し、他のクラスから「グラップラーツバキ組」と恐れられているガチンコ系バーリトゥードゥなクラスである。

 先生が教壇で口を開いた。

 「ミナサン、大変嬉しいことがアリマス。今日から新しい仲間がフエマス」
 
 みなざわついる、だがそれはワクワクといった感じではなくどちらかというと、みんな、なんで?といった感じだった。

 生徒の空気を感じ取ったのか、先生が再度口を開いた。

 「みんなの言いたいことはワカリマス。何でこの次期に転向生が?と思うことデショウ。実は彼女は最近あることに目覚めて、この学校に本人たっての希望で転入してまいったというコトデス。ですからみなさんもぜひ歓迎してあげてクダサイ、では入ってクダサイ」

 そう先生が言った後、ガラッと扉が開き……怪物が入ってきた。

 どすどすどす。

 教壇まできたそれは、みんなの方に正面を向きとろけるような笑顔でこう挨拶した。

 「高田まがね子です。前の学校ではまがちゃんと呼ばれてました。よろしくお願いします」

 そして、クラスのみんなもこちらこそお願いしますわ、と返していた。
 だが、だれも気が付かない。生徒の内3人が「ぶっ!」となにかを口からスクランブル発射してたのを。そしてその怪物は、スクランブルした3人ほうに笑顔をむける

 「……きちゃった」

 (きちゃったじゃねぇぇー!!!!)×3

 終わり
 
 連載が終わるまで他のSSをやらないつもりでしたが、新規の人にも読めるように&気分転換に初心にもどってこのようなものを載せてみました。こんな馬鹿作品を最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
 この作品は、スールオーディションが出た時にそのパロディのSSのオチだけをまとめ直したものです。ノリと勢いだけで書いただけのものですので、あまり細かいところは気にしないでください(汗
 あ、高田まがね子ちゃんは、あるお方のSSから(勝手に)拝借させていただいております。


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