私は賢者聖。三賢者(通称Magi)のうちの一人、白の賢者(マギ・ギガンティア)だよん。
なに? いつもに比べて口調が軽い気がするって?
はっはっは、無茶言うなよ。私に蓉子みたいなクソ真面目なナレーションつけれるもんか。今日はほら、書いてる人も違うことだし外伝って感じで一つよろしく。全てはタイトルが悪いんだ。しっかし、書いてる人とかタイトルってなんのことだろうね? 神様のお告げってのはよく分からない。
神様のお告げと言えば、私が旅してる原因もお告げが原因だったっけ。黄の賢者(マギ・フェティダ)こと江利子がお告げを聞いたとか、なんとか。
全く、あのデコチンが変なことを言い出さなけりゃ、私もあんな目には合わなかったのに。どうせマギ・デコチンのことだから、面白そうなことを適当に言い出しただけなんだ。いずれ飽きたら「ごめん、あれウッソー♪」とか言い出すに決まってる。その時の蓉子のリアクションが楽しみだ。
おっと話がそれちゃった。そうそう、今回は私がいつものように蓉子にぶっ飛ばされてから起こったことを話そうと思う。
蓉子に吹っ飛ばされた私は、かなり半死半生の態で山裾に着陸した。いや、自分でもかなり芸術的に死にそうな角度で着陸したと思うよ。血とかぴゅーって感じで出てたからね。正に真紅の噴水。紅き白賢者の噴水。紅なのか白なのかはっきりしろって話だよね。まぁ目出度そうではあるけれど。
とにかく私自身は目出度いどころの話じゃなくて、結構死線をさ迷ったんだ。どうも蓉子は勘違いしている感が否めないけれど、私だって人並みに死ぬことだってあるんだよ、多分。
そんな私を拾ってくれたのは、名もない一人の少女だったんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
目を覚ました私を覗き込んでいたのは、おかっぱ頭が可愛らしい女の子だった。私を見る目はキラキラしていて、一発で私は看破したね。
あ、この子はミーハーだなって。
自慢するけど私は結構イイ顔してるんだ。そうじゃなきゃ、普段からセクハラなんてしてられない。同じセクハラでも私がやるとオフザケで、一般人がやると犯罪になるって寸法だ。
私を見るその子の目は、そんな私の美貌に惹かれている子の目だったね。
ぶっちゃけ、私は思ったよ。
――これ、ヤッちまえるんじゃね?
相手の子はきっと、革命が起こったら自分も追っかけ革命する感じのミーハー。
しかも名もなき女の子だ。フルネームは名乗らなかった。
「・・・桂です」
と目を背けながら言ってたけど、あれはフルネームを言えない『わけアリ』と見た。
目の前にはわけアリのミーハー少女、しかも蓉子はいない……とくれば、そりゃ、選択肢は一つだと思う。
私は爽やかに足を組みながら言ったもんだよ。
「 や ら な い か ?」
かくして私は、街の処刑場で白装束に身を包む羽目に陥った。
フルネームも言えない名もなき少女が、三賢者に次ぐ有名な賢者、並の賢者(マギ・カツーラ)だなんて思わないじゃないかっ! あそこで口説くのは礼儀だし、私が白の賢者であるアイデンティティでもあるのだ!
しかし、現実は厳しい。
私はこの街の有力者であるマギ・カツーラに手を出そうとした罪で切腹を命じられようとしている。
「汝、白の賢者。汝はこの並の賢者に不埒な真似をせんとした。それに間違いはないか?」
「いや、まぁ……そうだけど……」
「なんたる破廉恥なっ!」
正直に応えた私に観衆からブーイングの嵐が巻き起こる。
いや、確かに悪いことをした気がしないでもないっ! しかし何もそこ(切腹)までしなくてもいいじゃないか、と思う。ちょびっと!
「黙りなさい! 悪をくじき、善を尊ぶ! それがこの、並の賢者のポリシーです!」
ぅわ、久々の出番だからって気合い入りすぎだよマギ・カツーラ!!
「悪には罰を!」
「セクハラには罰を!」
「浮気性には罰を!」
「切腹!」
「切腹!」
「切腹!」
「切腹!」
「切腹!」
「切腹!」
:
:
:
かくして私は人生最大のピンチに陥りかけたんだ。
え? それからどうしたって? ふふふ、聞いておくれよ。そこに颯爽と現れたのも、やっぱり一人の名もなき女の子だったんだよ。
彼女は私を見かけて、ずっと後を追っていたらしいんだ。美しいってことは武器だよね。
そんで、その女の子が私を救い出し、匿ってくれたってわけだ。彼女が運営しているっていう酒場に。
私は彼女に感謝したよ。それはもう、心から。誠心誠意、彼女の好意に応えようと思ったね。うん。
だってそれがさ、人の取るべき道ってもんだろう?
「……言い訳は、以上かしら?」
そう言う蓉子は凄く怖かった。眉がひくひく痙攣している。
どうやら、私の釈明はお気に召さなかったらしい。
「え、えーと……だから、まぁ、彼女とお話していたのは、感謝の意を伝えるため」
「伝えるために、酒を呑み、口説いていた、と?」
「……はい」
ギロリと睨む蓉子に私は項垂れた。
なんとも情けないけれど――酒を煽りつつ、酒場の女の子を『子猫ちゃん』と呼んでいる場面を見られたら、これ以上の抵抗なんて出来っこない。
どーせ、私の作り話なんて端から信じてもらえないだろうしね。
「――覚悟は良いわよね?」
にっこり微笑む蓉子に、私は覚悟を決めた。
【No:74】デモ三賢者東風吹かば ……の裏側(聖の陳情より)