【No:843】朝生行幸さんにのせられて
「祐巳、今までありがとう。これからは私、新しいパートナーと共に過ごして行くから」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。お幸せに」
「でも、私とあなたは、ずっと姉妹ですからね」
「はい、もちろんです」
ここは新婦の控え室の隣。小笠原祥子は純白のウエディングドレスを着付けている最中だった。
お姉さまを着替えを手伝ってあげながら純白のウェディングドレスで美しく飾られていく小笠原祥子を、涙を浮かべて見つめる祐巳。
祥子は、祐巳をそっと抱いてやった。
「祐巳、ここにいたのね。」
「桂、肝心な時にどこへ行ってたのよ。もう着替え、終わるわよ。」
「なに言ってるの。ほら、祐巳がベールを店に忘れていったからあわてて取ってきたのよ。」
「あーごめんごめん。」
「ふふふ、あいかわらずね。祐巳を置いて結婚してしまうのが心配になってしまうわ。」
「お姉さま、そんなことありません。桂さんがいてくれますから。」
「そうね。これからも祐巳をよろしくおねがいしてよ。桂さん。」
「は、はい、祥子さま。」
そう、祐巳と桂の二人は、一緒にウエディングドレスのデザイナーブランドを作って、このホテルに店を構えているのである。
各界が注目する小笠原家のお姫様の結婚式は、祐巳と桂の最初の大仕事だった。
「祐巳が作ってくれたウエディングドレスで結婚式なんて、夢みたいだわ。」
「ありがとうございます、お姉さま。」
「祥子さま、できました。それではまた控え室へ。」
「ありがとう、桂さん」
廊下へ出ると、すぐ前に祐巳と桂の店のガラスドアが見える。
店の名前は……
「はっ!」
気がつくと突っ伏して寝ていた祥子。
ここは薔薇の館。
一人だけだったので、誰かが来るまで待っている内に、どうやら寝入ってしまったらしい。
「ふう、私はだれと結婚するのかしら。せっかくだからそこまで見せてくれればいいのに、夢も気が利かないわね…」
なんか勝手な文句を言っている。
「どんな夢をみたの? 祥子」令が聞く。
「結婚式なんだけど、だれと結婚するかわからないうちに目が覚めちゃったわ。」
「花寺の小林君じゃないだろうね。」
「はあぁ? どうして小林君なのかしら?」
「いやその、なんでもない。」
「ね、祐巳が桂さんと一緒に店を開いていて、ウエディングドレスを作ってくれたのよ。」
「私がお姉さまのですか。それは夢でもうれしいですけど、桂さんと?」
あ、それって。オチは鈍い祐巳にもわかったけれど、お姉さま相手に怒るわけにはいかない。
「それで、そのショーウインドウに書いてあった店の名前は?」
「桂ゆみ ブライダルセンター」