がちゃS・ぷち

[1]前  [2]
[3]最新リスト
[4]入口へ戻る
ページ下部へ

No.119
作者:柊雅史
[MAIL][HOME]
2005-06-28 03:25:01
萌えた:5
笑った:22
感動だ:4

『地雷を踏んだロサ……?』

薔薇の館を陰鬱とした空気が支配していた。
どのくらい陰鬱としているかといえば、どよ〜んというおどろおどろしい文字が、そこらじゅうに浮いているんじゃなかろうか、と思えるくらいに陰鬱としていた。
原因は明らかだ。
「…………」
黙々と書類にせっせと何かを書き込んでいる祐巳さん。
彼女こそがこの空気の発生源である。
別に祐巳さんが一生懸命仕事をしているのが悪いわけじゃない。問題はその表情。むすっとした表情で、お怒りオーラを発散させているその様は、普段が普段だけに一際薔薇の館を沈んだ空気に変貌させる。
「――え、えっと……」
堪えきれなくなったように、令ちゃんが立ち上がった。
「の、飲み物でも淹れようか?」
「私、手伝う!」
素早く立ち上がる由乃に、腰を浮かしかけた乃梨子ちゃんが無念そうな顔になった。
誰だってちょっとこの空気からは逃げ出したいと願うのだろう。由乃は令ちゃんの後に続いて給湯室に逃げ込み、はふぅと溜息を吐いた。
「参った……」
令ちゃんががっくりとしゃがみこんで頭を抱える。
「まさか、祐巳ちゃんがあんな風になるなんて――」
「私も予想外。祐巳さんって怒ると怖いのね……」
普段好い人が怒ると本当に怖い。祥子さまも志摩子さんも、みんながみんな現状を打破できずにいる。
「せめて、祐巳ちゃんが怒っている理由が分かれば――」
令ちゃんの呟きに、由乃はほんの5分前、祐巳さんが薔薇の館に来る直前のことを思い浮かべた。


「――最近、祐巳と瞳子ちゃんの仲はどうなのかしら?」
ふと思い出したように言い出したのは、祥子さま。優雅にカップを受け皿に戻しつつ視線を向けた先は、やはり乃梨子ちゃんで。
「どう、と言われましても。特に進展はないようです」
「そうなの。――あの子ったら、何をぐずぐずしているのかしら」
祥子さまがもどかしげに爪を噛む。
「祥子、そういうことは言わないの」
「大体、あの子は肝心なところでいつもそうなのよ。鈍感というか、変なところで遠慮しすぎだわ。どうしてあんな性格なのかしら?」
嗜める令ちゃんに対して、祥子さまはここぞとばかりに文句を垂れる。祐巳さんがいないと祥子さまは強気だ。
「そ、そういえば、祐巳ちゃんといえば。最近少し丸くなった感じするわよね?」
祥子さまがぐちぐち言い始めたので、令ちゃんが話題の転換を図る。
「言われてみれば。最近、祐巳さん食欲旺盛みたいだからね」
にやにやと笑いつつ応じる由乃。
「まぁ、注意する気は全然ないけど」
「そこは注意して差し上げた方が……」
乃梨子ちゃんが苦笑する。
「祐巳さん、甘いものも好きですものね。この間もぺろりとケーキを二つも食べてたわ。大丈夫かな、とは思ったのだけど……」
志摩子さんが笑いながら言う。なんだ、志摩子さんも由乃と同罪ではないか。
限度を越えるとアレだけど、友人がちょっとくらい太るのは、なんとなく嬉しいものだ。なんていうか……安心する、みたいな?
なんとも複雑な乙女心だと思う。
「祐巳ちゃん、麦茶にも砂糖入れるって言ってたもんね」
令ちゃんが笑いながら首を振る。
「あれはちょっと、私もどうかと思うのよ。紅茶とかならともかく、麦茶っていうのは」
「あ、でも、瞳子ちゃんも麦茶に砂糖を少し入れる、って言ってたわよ」
令ちゃんの意見に由乃は思い出す。
「この間、ちょっとミルクホールで一緒になったのよ。そこでそんなこと言ってた」
「一体どういう経緯でそんな話になったのよ?」
「ん? ミルクホールって夏場は麦茶置いてるじゃない。そんな話から発展して」
言いながら、確かになんて話をしていたんだろう、と由乃は苦笑する。でもまぁ、由乃が瞳子ちゃんと話をするとなれば、どうしてもそういう無難な世間話をするしかない。互いに大して相手に興味もないので、あまり話題がないのだ。
「……そういえば、私のいとこもそんな風にして飲んでました」
「あら、そうなの?」
「はい。――まだ5歳の子ですけど」
乃梨子ちゃんの答えに、一瞬一同が黙りこみ。
「……それって、祐巳の味覚が5歳児並ってことかしら?」
祥子さまの呟きに、薔薇の館は笑い声に包まれた。


そしてその直後に扉が開き。
むっつり顔の祐巳さんが、それはもうお怒りモード全開の声音で「ごきげんよう」と挨拶したのだった。



「容疑者は絞られるわね」
「そう?」
令ちゃんが紅茶を淹れる傍らで、由乃は推理する。

紅薔薇さまこと祥子さま――祐巳さんへの愚痴+5歳児並発言
黄薔薇さまこと令ちゃん――祐巳さん太った宣言+砂糖入り麦茶否定発言
白薔薇さまこと志摩子さん――祐巳さんケーキ二つ食い現場放置
白薔薇のつぼみこと乃梨子ちゃん――祐巳さん5歳児疑惑発端

間違いない、この中のどれかの発言が祐巳さんを怒らせてしまったのだ。
「犯人は山百合会の中にいる――!」
「そりゃそうでしょうよ」
令ちゃんが呆れたようにつっこみを入れた。
「で、由乃の推理はどうなったわけ?」
「そうね……やっぱり、この中で一番酷い発言をした人物と言えば……」





              リリアン女学園・祐巳さん激怒事件簿解決編へ続…かない


(コメント)
柊雅史 >さて、地雷を踏んだのは誰でしょう?(笑)(No.383 2005-06-28 03:25:18)
くま一号 >15分前瞳子ちゃんが「もうっ、祐巳さまに砂糖なんか用意してあげませんっ」と力一杯すねた。(No.384 2005-06-28 05:31:31)
くま一号 >そこへ全員で地雷を踏み荒らし倒した(No.385 2005-06-28 05:32:03)
篠原 >黄薔薇のつぼみこと由乃さん――瞳子ちゃんの秘密を聞き出した(笑)(No.388 2005-06-28 18:02:08)
柊雅史 >Σ(゚ロ゚ 篠原さま、正解・・・。同じ思考回路ですネ。(No.392 2005-06-28 23:08:05)
柊雅史 >祐巳「……私、瞳子ちゃんが砂糖麦茶派なんて知らないよ! 由乃さん、ズルイ! 瞳子ちゃんとミルクホールデートして、そんなこと話すなんて!」 って感じで。(No.394 2005-06-29 02:32:15)
篠原 >しまった、正解だったのか! しかもなんて妄想どおりな、もとい、予想どおりな(No.396 2005-06-29 18:08:34)
篠原 >一応考えた結果でもありますが。改ページされたことだし、こっそり『解答に至る経緯』のフォローを。(No.407 2005-06-30 18:08:35)
篠原 >「志摩子さんはどうして由乃さまが原因だと思ったの?」(No.408 2005-06-30 18:09:12)
篠原 >「あの祐巳さんが」 乃梨子の疑問に志摩子さんは穏やかな笑顔を浮かべて答えてくれた。(No.409 2005-06-30 18:10:17)
篠原 >「あれだけ怒る理由ってなんだろうって考えたら、瞳子ちゃんのことくらいしか思いつかなかったのよ」(No.410 2005-06-30 18:10:45)
篠原 >「そうか。言われてみれば確かに、あの祐巳さまが幼稚園児並とかまん丸とか言われたくらいであそこまで怒るとも思えない」(No.411 2005-06-30 18:11:32)
篠原 >「…だから、答えは他にはありえないってわかったの」(No.412 2005-06-30 18:12:04)
篠原 >「やっぱりわかっちゃうんだね、志摩子さん」 乃梨子は志摩子さんに尊敬の眼差しを向けた。(No.413 2005-06-30 18:12:34)
篠原 >「なんとなく、ね」 答える志摩子さんの笑顔はとてもきれいで。ああ、やっぱり志摩子さんは凄い。あらためて乃梨子はそう思うのだった。(No.414 2005-06-30 18:13:02)
くま一号 >原因は瞳子ちゃんしかないってとこまでは当たってたんだけどなあ(No.423 2005-07-01 11:36:11)
柊雅史 >しまった、そういうアプローチされたら簡単に分かってしまうか!(No.503 2005-07-05 02:43:28)

[5]コメント投稿
名前
本文
パス
文字色

簡易投票
   


記事編集
キー

コメント削除
No.
キー


[6]前  [7]
[8]最新リスト
[0]入口へ戻る
ページ上部へ