がちゃS・ぷち

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No.1711
作者:春日かける@主宰
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2006-07-21 05:52:46
萌えた:20
笑った:2
感動だ:7

『すべてが後ろに迫るその日までサヨナラ』

──暑い。なんて暑いのだろうか。

細川可南子は、走っていた。
真夏の炎天下を、まるでマラソンランナーのように走っている。
バスケット部の練習ではない。自主的な運動でもない。可南子は、追われていた。

全身から流れる汗。荒い息。
既に両手は惰性で振るだけであり、足だっていつ止まるかわからない。

右目に、汗が入る。これで何度目だろう。

全てが、厭になっていた。
立ち止まれれば、どれだけ楽だろう。
これが夢であったら、どれだけ幸せだろう。

可南子は走る。振り返る事も出来ない。
後ろを見るのが怖い。自分に迫り来るそれを認識する事を拒否している。

給水所なんてない。
沿道にだって人はいない。
いや──この世界には可南子以外の人間がいないのかも知れない。

脳裏によぎるのは、様々な言葉。

「──別に、私には関係ありませんわ──」これは松平瞳子の声だ。

「──そういえば、来週だよね──」これは、島津由乃の声。

「──早く準備しなくちゃ、大変だよ?──」二条乃梨子の声である。

「──明日、楽しみだね──」福沢祐巳の声が、最後に響いた。

可南子は、バランスを崩した。
小さく悲鳴を上げて、熱された鉄板のようなアスファルトに、無様に転がる。

迫る。迫る、迫る、迫る!

可南子は見てしまった。
おびただしい数の数字。空を覆い尽くし、全てを飲み込み、過去にしていく。
叫び声を上げるより早く、可南子は時間に飲み込まれた。

*****

「……か、可南子ちゃん?」
祐巳は、ひどく驚いた声を上げた。
目の前に現れた可南子は、派手に転んだのか、衣類がぼろぼろであった。
膝や腕は大きな擦り傷で出血しているし、顔面は汗と血と涙でぐちゃぐちゃである。
「……申し訳ありません、祐巳さま……。遅刻した上に、このような格好では、遊園地には、とても──」
言いかける可南子に差し出されたのは、ハンカチである。
「まず、顔を拭いて」
「──はい」
「歩ける? 歩けるなら、私の家においで。手当てしなくちゃ」
「……は、はい……」
「よし、可南子ちゃん、元気出して!」
「……はい!」

遊園地デートは中止。
その代わり、祐巳の部屋に行く事が出来た、可南子なのであった。


(コメント)
春日かける@主宰 >初参加です。よろしくお願いします。あと、別にホラーとかじゃないので気楽にどうぞです。はい。(No.11645 2006-07-21 05:53:34)
YHKH >これは祐巳×可南子SSとして認識して宜しいのでしょうか?だとすればごっつぁんです!(No.11657 2006-07-21 19:36:45)
ひろっぴ >……可南子を追いかけていたのは祐巳との待ち合わせ時間、ということでFA?(No.11661 2006-07-21 23:54:43)
ひろっぴ >っていうか、可南子の焦りの書き方が上手いなぁ……(No.11662 2006-07-21 23:56:07)
ROM人 >時間からなんですよね。 もの凄い形相をした真美さんと蔦子さんに追われてるんでなく。(No.11667 2006-07-22 01:12:24)
砂森 月 >追ってくるものは時間、ですか。展開が上手いですねぇ。(No.11670 2006-07-22 01:44:33)
沙貴 >サクッと読めて心にぐっと残る。ぐっじょぶです。(No.11695 2006-07-22 21:17:27)

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