がちゃS・ぷち
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No.1830
作者:タイヨーカ
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2006-09-04 19:58:48
萌えた:1
笑った:1
感動だ:7
『いつかただ、ありのままで』
もしもこの仮面をとることが出来るのなら、今すぐにでもそうしたい。
でも、それは無理なんだ。
それが、私だから。それこそが私だから。
いつかただ、ありのままで
「ごきげんよう、乃梨子さん」
「ん、ごきげんよう」
選挙から数日経ったその日も、瞳子は乃梨子に以前変わりなく喋りかけてくる。
どうもやりにくいと感じる乃梨子だが、瞳子もなにか思うところがあるのだろうと思い、
自分も以前と変わらない関係を続けている。
「…瞳子さん、なにか変じゃない」
「そりゃあ変にもなるだろうけどさ、今はそっとしとこうよ」
乃梨子の言葉に、可南子さんは少しだけ苦い顔をするが、「友達思いなのは結構ね」と、
どこか皮肉めいた言葉を残して去っていった。
「(友達思い…ねぇ)」
実際のところ、自分は果たして友達思いなのだろうか。と、乃梨子は最近思考する。
祐巳さまに瞳子の事を聞かれても、なんだかんだでお茶を濁している自分が、果たして本当に
友達思いなのかと。
瞳子は、今自分がどうするべきかは分かっているはずなのだ。少なくとも、乃梨子の目からは
そうとれる。でも、それができない。いや、しないのだろう。
それが瞳子の被る、分厚い仮面なのだろうか。
それを取ることができるのは、乃梨子の知っているうちでは1人だけだ。
「(はぁ…なんで瞳子のことでこんなに頭悩ませてるんだろうな私は)」
それもひとえに友情のため。ということにしておいた。
わかっている。これは私のただのわがまま。
ただの自己満足。
…そして、それで傷ついている人がいることも。わかっている。
でも、人間いままでの信念を次の瞬間にはいそうですか。とかき消せれるものじゃない。
少なくとも、私は。
「ねぇ、乃梨子ちゃん。瞳子ちゃんの様子、最近どう?」
「え?そうですね…べつに、これといって…」
仕事中に、私はいつものように聞いた。
そして乃梨子ちゃんはいつものように、少し目を逸らしながら、言葉を濁す。
そりゃあ自分だって分かっている。今の瞳子ちゃんがどんな状態なのかも。
それでも。それでも。祐巳は一度は決心したのだから。
簡単に諦めてなるものか。
「意気込みはいいけど、どうするつもりなの?」
「う……そ、それはまたこれから考えることだと思うし」
由乃さんはぶっきらぼうに言うけど、ちゃんと祐巳を心配してのことなのだろうから、
その言い方もどこか暖かく感じる。なんと思いつつも、祐巳はお弁当のウインナーをひょいとつまみあげた。
「あーあ。私超能力者だったらよかったのになぁ」
祐巳の呟きに、由乃は「なに言ってるんだ」って感じの目を向けてきた。
「だ、だってテレパシーかなにかがあったら…」
「まぁ、祐巳さんが欲しかったら別にいいけどさ」
由乃さんはまるで子供のわがままを聞くみたいな顔でそう言った。
祐巳としてはそれなりに本気で思ってたりしたのだが、それはそれで拙いんじゃないか。とも考えてしまった。
「(あぁ、段々と思考がずれてく……今は瞳子ちゃんのこと考えてたはずなのに!)」
でも、それをかき消すような人がいる。
……あの人だ。あの人が、私の仮面をはがしていく。
いやではないのだろう。自分でも不確かだけど、そうは思う。
でも、私の中の別の私は、それを嫌う。
素直になるのを、嫌う。
選挙から数日経ったある日の朝。瞳子はマリアさまの像の前でお祈りをしている祐巳さまを見つけた。
「………」
「………」
瞳子が隣に立っているのにも気付かず、祐巳さまは祈り続けている。
果たして、どんな事を考えているのか。
「(…そんなこと、私には関係ないですけどね)」
いつも通り、瞳子は瞳子の仮面を被って、祐巳さまの隣で祈る。
「よし……っと。って瞳子ちゃん!?」
「…ごきげんよう、祐巳さま」
驚きの表情のまま動かない祐巳さまを見ながら、そういえばちゃんと話すのは久しぶりじゃないか。
などと瞳子は考えていた。
そして、どこか懐かしい笑顔を向けられた。
「え……っと、ごきげんよう!」
「…ごきげんよう。朝から元気ですわね、祐巳さまは」
それだけ言って、瞳子はクルリと背を向けて歩き出した。
振り向く直前、なぜか祐巳さまは笑顔だったけど、そんなのは気にしないで、黙々と。
素直になったら、私はどうなるのだろうか。
そもそも、今の私は本当に仮面なんて被っているのだろうか。
だけれど、久しぶりに見た、祐巳さまの笑顔を。もう一度…いや、もう何回か、見たいとも思った。
そう、自分の中でこのモヤモヤが片付いたら、そしたら、私も素直になってみようか。
そして、祐巳さまのあの笑みに負けない、私の笑みを見せてあげようか。
そう。いつか。ただ、ありのままに。
(コメント)
mim >「由乃さん」 「うん?」 由乃がなおざり気味に返事をすると祐巳さんは言葉を続けた。 「私、超能力者になっちゃった」 「……なんだって?」(No.12799 2006-09-06 00:19:44)
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