がちゃS・ぷち

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No.1901
作者:オキ&ハル
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2006-10-07 03:27:37
萌えた:6
笑った:0
感動だ:21

『力ある言葉』

もちもちぽんぽんしりーず
【No:1878】【No:1868】【No:1875】【No:1883】【No:1892】―これ


「ねぇ、シンデレラ、あなたも舞踏会に行きたい?」
「えーと、まぁ、からかわないでくださいな。私なんかいけるはずないじゃありませんか?」
「オッケー。」
桂さんの言葉に、私は「よしっ。」と声を漏らした。
隣とそのまた隣に座る志摩子さんと蔦子さんからぱちぱちという拍手の音が聞こえる。
「とりあえずほとんど覚えてるじゃない。」
「きっと大丈夫だと思うわ。」
土曜日曜と二日休みを挟んで月曜日
私と桂さん、蔦子さんそして志摩子さんの4人は、講堂の裏でお弁当を食べつつ文化祭に向けて練習をしていた。
「でも、聞いたときは本当に驚いたわ。まさか祐巳さんがシンデレラだなんて。」
桂さんは台本をぺらぺらとめくっている。
「でも、祐巳さんらしいって言えばらしいわね。」







「ずいぶん待ったのよ。」
蓉子さまの言葉に、私の体は歓喜で溢れそうだった。
「申し訳ありません。」
謝っているはずなのに顔がにやける。
「まったく。」
それを咎めるはずの蓉子さまも、どことなくに嬉しそうだからお相子ってやつだろう。
「蓉子、嬉しいには分かったから、その子を紹介してもらえない?」
紅薔薇さまの言葉にここがどこであるかを思い出す。
蓉子さまも同様のご様子で、一瞬はっとした顔をした。
「あ、はい、えー・・・」
少し考えた後、蓉子さまは私の横に移動して右手を背中にまわすと軽く押した。
どうやら私が言え。ということらしい。
「い、一年桃組35番福沢祐巳です。」
頭を下げてクラスと名前を言う。
「フクザワユミさんね。漢字でどう書くの?」
紅薔薇さまは腕を組んで聞いてきた。
「福沢諭吉の福沢、しめす偏に右で祐、巳年の巳です。」
「目出度そうで良いお名前。ねぇ?」
白薔薇さまは聖さまに話しかけている。
勢いでここまで来たものの、蓉子さまにあった後のことを一切考えていなかった、どうしよう。
「それで、蓉子は祐巳さんをスールにするつもりなのね。」
「はい。」
お二人のはっきりとした声に、今の事態をゆっくりと理解し始める。
「ロザリオはいつ渡すの?」
「別に今でもかまいませんが。」
「そう。」
私が事態を認識している間にも事態はどんどん進む。
「じゃあ、お願いするわ。」
「はい、祐巳ちゃん。」
蓉子さまは私の肩に手を載せた後くるっと回転させ、蓉子さまと私が向かい合うようにたった。
「じっとしててね。」
言葉とともにセーラー服の襟のところに指を入れると、『ちゃら。』と金属音がする。
「わぁ。」
何故かとっさに体が動き蓉子さまの腕をつかんだ。
「な、何?」
いきなりの行動に少し驚かれた様子。
「い、いえ、なんとなく。」
そう、なんとなく。
「祐巳ちゃんは蓉子の妹になりたくないの?」
「いえ、とてもなりたいです。」
紅薔薇さまの問いに間髪あけず答えた。
「じゃあ、この手は何?」
「あー、そのー・・・私なんかが紅薔薇の蕾の妹になってよろしいんでしょうか?」
そう思っちゃうのだ。
「だって、私、蓉子さまみたいに頭良いわけでもないし、志摩子さんや由乃さんみたいにかわいいわけじゃないし。」
しりつぼみで、かつ言ってることは情けないけど、だって思っちゃうんだもん。
「別にそんなの気にしなくて良いのよ。」
蓉子さまは優しく言ってくれる。
「そうなんですか?」
不安。
私が此処にいて良いんだという
私が蓉子さまの隣にいて良いんだという確固たるものが私には無い。
「くすっ、祐巳さんは不安なわけね。」
白薔薇さまが笑いながら。
「ねぇ、提案があるんだけど良い?」
紅薔薇様と黄薔薇さまが何も言わず白薔薇さまを見た。
「今度の文化祭、山百合会はシンデレラをやるのだけど、貴女シンデレラをやらない?」
「は?」
私の口から出た言葉を無視して話を先に進める。
「要は資格があるかどうかが不安なんでしょう?だからテストするのよ。
そして、その出来を紅薔薇さま、つまり祥子ね、が審査するの。どうかしら?」
「私は構わないわ。」
「私も構わないけど。」
白薔薇さまが目でそれぞれの薔薇さまに問うと、了承が2つ。
「蓉子ちゃんは?」
私は蓉子さまを見た。
蓉子さまも私を見た。
「・・・祐巳ちゃんが良いと言うなら。」
「祐巳さんは?」

白薔薇さまの声が遠くから聞こえてくるみたいに感じる。

私は蓉子さまの目を見たまま答えた。

「はい、やらせてください。」




「さすが主人公、ずいぶんな量ね。」
蛍光ペンで印のしてあるところを桂さんは指でなぞっている。
「志摩子さんは全部覚えたんでしょう?」
「ええ、でもシンデレラって初等部でも中等部でもやったから。」
蔦子さんの質問に答えた志摩子さん。
確かにシンデレラをやる場合、間違いなく志摩子さんが選ばれる気がする。
「はー。」
それに比べて私ときたら。
「でも祐巳さん、今やったら結構出来たじゃない。」
「ありがとう、桂さん。」
お褒めの言葉が疲れた脳に沁みる。

『とりあえず練習は来週から始まるから、週末に一通りは覚えてきてね。』

蓉子さまに言われてしまったものだから、週末は常に台本を手にしていた。
「文化祭まで2週間か。私も写真部で大忙し。」
「ちゃんとお姉さまと見に行くわよ。」
「あら、それじゃ祐巳さんとの浮気写真でも出しておこうかしら。」
「それは止めて、蔦子さん。」
2人のやり取りに志摩子さんとクスクスと笑う。

(お姉さま・・・か)






その日の放課後、私は掃除場所の音楽室にいた。
此処は他のところに比べて楽なので嫌いではない。
「もう、終わりにしましょう。」
クラスメイトの一人の呼びかけで後片付けを始めていると、ガラガラという音とともに入り口のドアが開いた。
「ごきげんよう。」
「ご、ごきげんよう、紅薔薇の蕾。」
突然の登場に皆が口々に挨拶をする。
それら一つ一つに微笑みを返す蓉子さま。
「福沢祐巳さんに用事があるの。」
その言葉に、言った本人を含め全員の視線が私に集まる。
「な、なんでしょう?」
「練習場所へ案内するのよ。・・・皆さん、今度の文化祭で山百合会でシンデレラをやるの。」
私以外が、大なり小なり「キャー。」と声を上げた。
「配役は、まだ秘密だけどね。それで、祐巳さんを山百合会に居ないタイプということで是非とお誘いしたの。楽しみにしててね。」
「はい。」
クラスメイトは、頬を赤くさせながら(頭の中で劇を想像しているのだろう)返事をすると、「鍵は閉めていくからお帰りになって良いわよ。」と言う蓉子さまに、「頑張って下さい。」「必ず見に行きます。」と言って、部屋を出て行く。
私も、「羨ましい。」とか「羨ましい。」とか言われたけど、どこか納得しているようだった。
誰も居なくなって2人。
「・・・まるで私がピエロみたいじゃないですか。」
ちょっとだけ頬を膨らまして怒ってる感じにする。
「私は褒め言葉で言ったのよ。もっとも。」
蓉子さまは、口を少しだけ上げて笑う。
「相手がどう取るかは自由だけど。」
・・・それで分かった。
「それと、新聞部にも言っといたわ。ただ、劇が終わった後にコメントを載せるって条件だけどね。」
私のために色々やってくれたんだ。
「蓉子さま。」
「祐巳ちゃんを妹にするためだもの。」
そう言ってなんでもないことの様に笑う蓉子さまをやっぱり大好きだと思った。



「ダンスですか?」
「そう。」
隣に立つ紅薔薇さまの問いに首を横に振って「いいえ、無いです。」と答える。
「そうなの?黄薔薇さま。」
「何?」
黄薔薇さまはCDラジカセにCDを入れていた。
「ダンスって2年生からだったかしら?」
「多分そうだったと思うけど。」
答えながらスイッチを入れると、体育館中に音楽が響き始める。
目の前では、ダンス部が円状になって踊り始め、その中心で蓉子さまは聖様と、志摩子さんは江利子さまと踊っている。
「うわー。」
これこそ贔屓目が山ほど入ってるかも知らないけど、ステップを踏む蓉子さまは誰よりも綺麗だと思った。
蓉子さまはなんとなくダンスよりも日本舞踊が似合いそうな気がしていたけど、澱むことなく緩やかに鮮やかに舞う姿に目を引かれる。
「まぁまぁかしらね。」
「これでですか?」
紅薔薇さまは意外と辛口なんだろうか。
「そんなに厳しいわけじゃないわよ。」
「えっ?」
「くすくす、貴女って顔に出やすいタイプなのね。」
「うーあー。」
何にも言い返せない。
「体育で初歩はやってるし、聖ちゃんも江利子ちゃんもかなり器用だからそこそここなしてるんだけど、細かいところで合ってないわね。」
「蓉子さまと志摩子さんは?」
「蓉子はきちんと予習してきたようね。それと志摩子ちゃんは、日舞をやってたらしいから覚えが早いわ。」
そこまで分かるってことは、やっぱり紅薔薇さまの腕前は相当なものなんだろうか。さすがお嬢様。
「でも、真面目過ぎる蓉子がどうなるか楽しみね。」
横目でこっちを見てくる。
「祐巳ちゃんがどう絡んでくるかしらね。」
「あ・・・はい。頑張ります。」
その言葉に、今から目の前で行われていることを自分がしないといけないことに気付き、ちょっと落ち込む。
音楽が止まると、紅薔薇さまは立ち位置や足の運びの指導で隣を離れた。
「どう?慣れそう?」
紅薔薇さまの代わりか、少し離れた位置に居た白薔薇さまが近づいてきた。
「見てるだけで挫折しそうです。」
正直な感想を言う。
「祐巳ちゃん、スリッパ脱いで。」
「え?はい。」
言葉に従ってスリッパを脱いだ途端、白薔薇さまに手をとられた。
「さ、行くわよ。」
「何処にですか?」なんて言う間もなく、ダンス部の間をすり抜けて円の真ん中へ連れて行かれる。
「実際にやってみたほうが早いわよ。手を出して。」
「はい」
「ワルツだから3拍子ね。123、123。」
「・・・はい」
「顔を上げて。」
「・・・はい。」
そうは仰いますが白薔薇さま、視線が痛いんですよ。
ダンス部の方も紅薔薇さまの隣に居たときからちらちら見ていたし、ましてや円の中。
そして、お相手が白薔薇さまなんですよ。
360度全ての角度から、びりびりと音がしそうな視線を感じる。
もし心が読めたなら、「あんた何様!?」の大合唱が聞けること間違いなしだと思う。
「ねぇ祐巳ちゃん、蓉子ちゃんの妹になりたくないの?」
耳元でそっと囁かれる。
「なりたいです。」
「じゃあ顔を上げて。」
「はい。」
下げていた顔を上げると白薔薇さまの顔が「良く出来ました。」とでも言っているように笑っていた。
音楽が流れ出す。
(123,123・・・)
視線はまったく衰えないけど、私には気にしてる余裕なんて無かったんだ。
頭の中のリズムだけを頼りに足を運ぶ。
「上手上手、少しくらい足を踏んだって良いから。」
白薔薇さまの声にほっとする。
そんな気の抜けた瞬間、視界の端に蓉子さまが入った。
(蓉子さまだ。)
「余所見をしないの。」
注意の声に、慌てて頭の中から蓉子さまを押し出そうとする。
(123、123,123、・・・)


結局、一時間半の練習で両手の指の数以上余所見をして注意された。








かちこちになった体を精一杯伸ばす。
「ふふっ、そんなに疲れたの?」
「だって、ダンスなんて初めてなんですもん。」
口ではそう言っても、蓉子さまと2人での帰り道、心の中はうきうきしていた。
「それにしては上手だったわよ。」
「本当ですか?」
「でも、何回も注意されていたようだったけど?」
「・・・あはははは。」
笑って誤魔化した。
まさか、貴女に見惚れてましたなんて、本人の前で言えるわけない。
「そういえば、文化祭のとき花寺から何人位いらっしゃるんですか?」
話題を変えた。
「生徒会長一人よ。」
「お一人ですか?」
もっと来るものだと思っていた。
「大きな声じゃ言えないんだけどね。」
蓉子さまは立ち止まるとそっと私の耳に顔を近づけてきた。
(キャーーーーーーーーーーーーー!?)
口から出そうになる声を慌ててふさぐ。
「お姉さまって、男嫌いなの。」
「紅薔薇様が?」
「そう。」
蓉子さまは、顔を離してまた歩き出した。
精神衛生上良かったような、残念なような、複雑な心境で後を追う。
「らしいと言えば、らしいでしょ?」
「言われれば、そうですね。」
「ひとつ前の紅薔薇さまにも言われているの。「祥子のためにもお願い。」って。」
「・・・出来るんでしょうか?」

「さぁね。」

そんなことを言いながらも、蓉子さまの顔は出来ないなんて思ってないって感じだった。

蓉子さまがそう思うなら、きっと大丈夫なんだ。







その日の夜

「ねー祐麒、高等部の生徒会長って知らない?」
とりあえず弟の『祐麒』に情報を求めてみる。
「祐巳、俺中等部なんですけど?」
「中等部でも、来年は高等部でしょ。興味とかないの?」
「・・・どんな理屈だよ。まぁ良いや。俺が知ってるのは。」
「うんうん。」
「確か、名字が『柏木』で2年で生徒会長ってことと、」
「ち、ちょっと待って。2年生?生徒会長って2年生でなれるの?」
「なれたんだからなれるんじゃない?それと、成績優秀で格好良くて、家がすごいらしいね。・・・どうした?変な顔して。」
「いや、別になんでもないよ。」
「しかし何でまた急に?」
「今度文化祭の手伝いで来るから知っとこうかな〜って。」
「ふーん。」


王子様がそんなすごい人だなんて。

明日からもっと頑張らないと。

なんとしても紅薔薇さまに認めてもらうんだから。










でも、眠りに落ちる瞬間いつも思うんだ。








思うだけだった今までに比べて



頑張れば妹になれるんだ。





なんて幸せなんだろう。








今回は説明に費やしてしまいました。ある意味前編後編の前編なので仕方ないのですが山場を作れなかったな。ピアノ入れようと思ったんですが、なんか無理やりな感があったので諦めました。それとくま一号さん、残念でしたね。(オキ)
今回は本当に難しかったです。ほんとに山場が無かった気がする。(ハル)



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