がちゃS・ぷち

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No.213
作者:春霞
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2005-07-13 02:37:26
萌えた:2
笑った:1
感動だ:5

『フィナーレ唯一のガールフレンド』

くにぃさま作 【No:210】 『夢の中でシンプルで素敵な小さな胸』 から繋げてみました。 


                  ◆◆◆ 


 うわあ、やっぱり機嫌悪そうだな。

 昼間のアクシデントのせいで、どうにも空気がぎこちない。 夕食はどれもこれも、とても美味しかったはずだけど。 由乃が親の敵にかぶりつく勢いで、無言でがしがし箸を動かしてるのが怖くって、何を食べたのかちっとも覚えていないし。  お風呂も、貸切家族風呂を奨められたのに、「いえ、広いほうが好きだから」 って、スッタカすったか大浴場に行っちゃうし。 うー、失敗したなあ。 

「もう、寝ようか。」

 間が持たなくて、ガチャガチャと切り替えていたTVのリモコンを放り出して、仲居さんが敷いてくれていた、広めの布団に潜り込む。 由乃の方を見ず、そのまま無理やり目を閉じてしまう。
 パチン。 空虚な大騒ぎをしていたTVがぷっつりと切れる。 微かに衣擦れの音がして、由乃が布団に入ってくる気配。 でも、やっぱり布団の中の距離は遠くて、剣の1本や2本は余裕で置けそうだ。 
 はあ。 しょうがない。 今日はこのまま眠って、明日し切り直しだ。 頭の中で羊を数え始める。 夜気に混じる由乃の薫りは、気が付かない事にする。

 はるか遠くに聞こえるのは潮騒だろうか。 こんな山あいまで海の声が聞こえる。 
 静か、だな。 
 ひと一人、隣に寝ているとは信じられないくらいの静寂に、むしろ祐麒は悲しくなった。 

 ………… え? 震え? 布団を伝わってくるのは、誰かが震えている振動。 誰かって、ここには俺と由乃しか居ないわけで。
「由乃?」 がばっと起き上がって由乃の顔を覗き込むけど、暗くて判らない。 ナイトスタンドのスイッチを入れると、由乃の顔がすぐそこで。 睨んでいた。 涙目で。 唇をわななかせて。 
「由乃?」 濡れた頬に触れようとして、何とか思いとどまる。と、
「意気地なし。」 ぷいとあさっての方に顔を背けて、由乃が吐き出す。 
「なによ、意気地なし。 どうせ私は、貧乳ですよ。 祐巳より小さいですよ。 傷物ですよ。 ばかばかばかばか。」 がばりと起き上がりざまに、枕をつかみ、ぽかぽか殴りつけてくる。
「うわっぷ。 ちょ、ちょっと。 ま、って。 よ、し、の。 ふぎゅ。」 
 部屋中から飛んで来る、枕、座布団、お菓子に、湯のみ…。 「湯のみ?!」
「って、それはまずいよ。 落ち着いて。」 慌てて止めるべく、腕を掴もうとする俺。 捉まるまいとする由乃。  短く激しい攻防ののち、なんとか両腕を確保。 手首をガッチリ握って投げられないようにする。

 背後からすっぽり抱きすくめる形になって、由乃の顔が見えない。 やれやれ、このまま立ちっ放しなのもなんだし、湯飲みも置かせたいし。 
「こっち、おいで。」 抱きしめたまま縁側による。 障子の向こうは、昼間のように明るい。 いつの間にか月が出ていたのか。 潮騒に聞こえたのは、深い山の葉擦れの音だったのかもしれない。 ごうごうと風が鳴っている。 

 安楽椅子に座って、膝の上に由乃を乗せて、 「湯飲みを置いて。 こっちを向いて?」
手を弛めてやると、ようやく湯飲みをテーブルに置いてくれた。 そのまま今度は細い腰を抱きしめてお願いする。「ね。こっちをむいて?」 

「昼間は悪かったよ。」ちっともこっちを向こうとしない由乃に、まずは謝罪から。
「でもね、あれは事実を確認しただけで。 侮辱するつもりは何も無いんだよ。 それは間違えないで。 そもそもタプタプなのはむしろ苦手なんだし。 だいたい、僕は由乃が好きで。 だからその、、由乃が小さいからって、僕が君を嫌いになるはずないだろう? 」 
「でも、」 
「それに!!」 由乃の言葉をさえぎって続ける。 「曲りなりにも由乃の恋人で、なんの偶然か由乃の親友の弟の、僕としては。 胸の傷の経緯は、君自身からも、お節介な姉からも。 ちゃんと聞いているし、解っている。 由乃がそれを誇りにすれ、悔やんでもいないことも。 なのになぜ。 自分を傷物だなんて、卑下するんだい?」 

「……」
 片方の手で腰を抱いたまま、もう一方で由乃の顎を掬い上げる。 
「泣かせてごめん。」 
 一杯に涙を湛えて綺羅綺羅している両目にやさしく口付けして、涙を舐めとる。 なんども何度もまぶたに口付けをして、だんだん緊張が緩んできたかな。 時折、子犬のようにくふん と鼻を鳴らすなかにも、だんだん艶めかしさが混じってくる。 微かに口元が開いて、これはきっと接吻を待っているんだろうな。 でも、 
 がばっ。 浴衣の胸元をはだけてささやかな双丘を露わにすると、その右側の下の方に、強く強く跡が残るようにキスをする。
「ふぎゃん。」 子猫のように可愛い声を上げる、その顔を覗き込むと、恥ずかしいのと、悔しいのと、嬉しいのと、何か、色々ごちゃごちゃになった実に複雑な表情をしている。
余りに可愛らしくてクスクス笑って居るうちに、おや、拙い。 だんだん怒りの成分が多くなってきた。

 おっと、爆発しないうちに。

 今度は唇に深く深く口付けを。 ながく永いその果てに、目元をほんのり染めた由乃。
 彼女に一つだけ釘をさす。

「覚えていて。 忘れないで。 僕の、世界でただ一人好きなひと。 唯一のをんな。 それは君。 由乃だということを。 覚えていて。」 
 膝の上の彼女が、きゅっと抱きついてくる。 

 窓の外には、白々とした満月が。 

 夜が、更けていく。 



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v1.0 改訂:宿が「海の近く」という春霞の誤解を訂正しました。 2005.11.16 


(コメント)
春霞 >祐麒は姉でも苦労しているのにね。 由乃が相手では大変だが。 これも運命だ。 頑張れ。 (No.724 2005-07-13 02:38:54)
春霞 >ケテル・ウィスパーさん。 すいません。結局似たような所へ落としてしまいました。 (No.727 2005-07-13 03:00:47)
春霞 >くにぃさん。 繋げて見たんですが、いまいち。 足りなかった。 色々と。無念。 (No.741 2005-07-13 19:08:57)
くにぃ >っていうか私がねじ曲げた時空が予定調和的に元へ戻ってきたみたいな感じです。(笑(No.743 2005-07-13 19:22:08)
ケテル・ウィスパー >いいんじゃないでしょうか? 私が思いもよらなかった展開に気付かされた気分です。(No.756 2005-07-14 00:51:45)
ケテル・ウィスパー >あと・・・・・・ごめんなさい。これ書いていいかな・・・・・。 書いちゃいますけど。(No.757 2005-07-14 00:52:30)
ケテル・ウィスパー >第1日目の宿泊先「大沢温泉ホテル」は山の中にあるんです。 その辺の描写足りなかったかもしれませんね。(No.758 2005-07-14 00:54:18)
ケテル・ウィスパー >しかし不思議な掲示板ですね。 二次創作で書いたものに、さらに二次創作が付くなんて、これって三次創作?(No.759 2005-07-14 00:56:11)
マリみて放浪者 >この場を借りさせてもらいます。初めまして。ケテルさまの小説を含めこの旅行話良いですね。さすがユキチ。決めてくれてますよ。由麒好きな私としましても気に入っています。バスの中での会話も。(No.762 2005-07-14 01:34:30)
ケテル・ウィスパー >マリ見て放浪者様いらっしゃってましたか。 で、私の上のコメント『私のその辺の描写が足りなかった』です。 言葉足らず申し訳ないです。(No.775 2005-07-14 16:39:13)
春霞 >ケテル・ウィスパーさん。 すぃぃぃまっせぇぇぇん。 折角素晴らしい舞台を整えて頂いたのに。 (No.780 2005-07-14 19:46:10)
春霞 >海、山を間違うとは。 詳しく確認せずに伊豆=海の直感で書いてました。 確かに山あいだ。 (切腹  orz (No.781 2005-07-14 19:51:05)

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