がちゃS・ぷち

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No.2338
作者:彷徨うコロンタ
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2007-07-22 19:24:37
萌えた:1
笑った:8
感動だ:0

『やり遂げて下さいねある晴れた午後突然に』

※始めに・・・

  この作品内の人物相関及び学年等はほぼ原作通りです。
  この作品内の山百合会メンバーは以下の通りです。
 
   紅薔薇姉妹  祐巳   瞳子
   黄薔薇姉妹  由乃   菜々
   白薔薇姉妹  志摩子  乃梨子

  この作品内の時間軸はマリア祭終了後です。

  以上の内容を確認の上で本作品をお楽しみください。




 月曜日の放課後、薔薇の館の会議室・・・・

 先ほどまで、この室内に覆っていたお茶会での優雅なフインキの代わりに、今までに無い緊張感が静かに漂っている。

 今、山百合会のメンバー全員が、お互いの顔を鋭い視線で見合わせている。

「何で、こんな事になったのだろう?」

 福沢祐巳は、自分の周りで行われている光景を見ながらそう思った。

 きっかけは自分だと理解しているが、ここまで事が大きくなったのは自分の責任ではない。

 しかし、この展開に「まった」をかけなかった時点で、自分も同じ穴のムジナとなってしまった。

 そしてこの事が、これから始まる不運の始まりである事に、祐巳はまだ気が付かずにいた。 
  




マリア様が見てるif
福沢祐巳の絶叫 <前編>
紅い子狸が薔薇の館の中心で「○○〜!!!!」と叫ぶ@





 事の起こりは、朝方までの雨が嘘の様に晴れ渡った月曜日の放課後。

 週末に行われたマリア祭の後片付けや反省会が終わった後で、薔薇の館でのお茶会の時の、祐巳が発した何気ない提案からだった。



 一通り予定していた雑務が終了したので、薔薇の館の二階にある会議室では、山百合会のメンバー全員が手分けして慰労会を兼ねたお茶会の準備をしていた。

 テーブルの上には入れたての紅茶の他に、由乃からの差入れ(作ったのはもちろん令だが)のドライフルーツ入りの手作りケーキが、人数分切り分けられてお皿の上に並んでいた。



「それでは、皆さんにカップが行き渡った所で、お疲れ様の乾杯でもしましょうか?」
「賛成ー!とゆうことで、乾杯の音頭は祐巳さんヨロシク!」
「えっ、私がやるのー!別に由乃さんか志摩子さんでも良いんじゃないの〜!?」

 突然の展開に慌てて辞退しようする祐巳に、同じ薔薇様の親友達は、申し合わせた様にもっともらしい理由で説得にかかった。

「まぁ〜あれだ!蓉子様の時からの恒例ってことで、簡単で良いから諦めてやってよ祐巳さん!」
「そうね、お二人のように変に畏まらず、祐巳さんらしい挨拶で良いからお願いできるかしら?」

 どうやら二人は結託して、この機会に挨拶事は全部祐巳に任せてしまえ、とする魂胆でいるらしい。

 そんな二人の企みに気付きつつも、これは逃げられないと観念した祐巳は、苦笑いを浮かべつつその申し出に乗る事にした。

「う〜ん、じゃー判った。二人がそこまで言うなら・・・・え〜と、それではご指名を頂ましたので私から一言」

 そう言って少し真面目な表情をして席を立った祐巳は、紅茶の入ったカップを手に取り、同じく祐巳に習って席を立ったメンバーに挨拶を始めた。

「では、色々ハプニングもありましたが、皆さんの協力により無事にマリア祭をやり遂げる事ができました。ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げて、祐巳はメンバーに感謝の気持ち伝えた。



 そして頭を上げた祐巳は、瞳子と乃梨子に視線を移して話を続けた。

「特に瞳子と乃梨子ちゃんには、初めての事だらけで色々大変だったけど、一生懸命私達をサポートしてくれてとても助かりました。どうもありがとう」

 祐巳はニッコリ微笑んで、2人の苦労をねぎらった。

「そそそそっ、そんな事は妹とし当たり前の事ですわ。だから、改めて御礼を言われる事でもありません!全くおかしな事を言うお姉さまですわ!!」
「本当に素直じゃないね瞳子は。それにそんな顔して言っても、全然説得力が無いよ」
「何かおっしゃいましたか乃梨子!?」
「いいえ、何でもありません」

 大好きな姉の笑顔をまともに喰らい、嬉しやら恥ずかしいやらで耳の先まで真っ赤になった瞳子は、その動揺を誤魔化すため、普段より甲高い声で思ってもいない事を口にしたが、どうやら乃梨子にはお見通しようだ。

「そうね、祐巳さんの言う通りだわ。瞳子ちゃんも乃梨子もお疲れ様」

 そう言うと志摩子は、隣にいる乃梨子の頬にそっと手を添えて彼女の苦労をねぎらった。

「ししししっ、志摩子さんにそう言って貰えるだけで、ががががっ、頑張ったかいがあったよ!」
(うぁー、志摩子さんの手は相変わらず柔らかくて暖かいなー。このままペロッと舐めたらどんな味かなー?いや、むしろ舐めたい!う〜んでも、舐めたら志摩子さんに変な妹と思われるかな?いやいや、ここはそう思われてもペロッと行くべきだー!)

「ちょっと乃梨子。お取り込みのところ悪いけど、お姉さまの話が続かないから早くこっちに帰って来てくれない?」

 思わぬ姉のスキンシップに、いつもの冷静さを遠い彼方に置き忘れ、妄想大爆発中の乃梨子である。

 そんな乃梨子に瞳子は、本人に聞こえるように鋭い突っ込みを入れるが、聞こえないフリをして志摩子の温もりを心置きなく堪能するのであった。



 そんな白薔薇姉妹から、祐巳は隣に立つ菜々の方に視線を移して話を続けた。

「それと、今回は主賓の側にいて参加できなかったけど、今日から正式に山百合会のメンバーとして色々お手伝いして貰うから、これからはヨロシクね菜々ちゃん」
「まぁ〜、仕事内容は追々教えていくけど、何か分からない事があったら遠慮なく私やみんなに聞きなさいね。菜々」
由乃も姉らしく
「分かりました。そのあたりも含めてお姉さま共々、皆さん改めてよろしくお願いします!」

 とんでもない事をサラッと言い放った菜々に、由乃は素早く反応した。

「ちょっと菜々!何でそこで私込みなのよ!!」
「いや、何となく成り行きと言うか、言葉のあやと言うか・・・・」
「それじゃ答えになってないわよ!!」
「それに、私達は姉妹なのですから一蓮托生と言うか、毒を食らうなら皿までと言うか・・・・」
「・・・・何を言いたいのか何となく分かるけど、少し言葉の使い方が違うような感じがするのは私だけかしら?」

 どうやら、話が違う方向に進みつつある事に、由乃は少し考える表情になるが、それとはお構い無しに菜々の話は続く。

「もしかしてお姉さまは、私と一緒に山百合会で仕事をするのがお嫌なのですか?」
「そそそそっ、そんな事、一度だって思ったことは無いわよ!!!」

 突然の展開に動揺つつも、少し怒りながらもはっきり答えた由乃。

「なら、よろしいじゃないですか!?」

 と言ってニッコリ微笑む菜々に、流石の由乃もこれ以上言い返すことも出来ず「まー良いや別に・・・・」なんて言いながら話を終わりにしてしまった。

 どうやら、黄薔薇家における姉妹の微妙な力関係は、先代の血を色濃く受け継いでいるようだ。



 すぐ脇で起こった黄薔薇の姉妹騒動に、一応の決着を確認した祐巳は、改めて全員を見渡し挨拶の締めに入ることにした。

「それでは最後に、マリア祭が無事に終了した事と、新たなメンバーを迎えた、新生山百合会のこれからの前途を祝して。乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」

 紅茶を飲んで一息ついた祐巳に、由乃と志摩子は「お疲れ様」の意味を込めて、お互い手に持つカップを祐巳に向けて掲げた。

 どうやら、二人から合格点を貰えたと判断した祐巳は、少し恥ずかしい表情をしながら、御礼の変わりに同じようにカップを掲げたのであった。



「ところでお姉さま。今後の山百合会の活動予定はどうなっているのですか?」

 各人が思い思いに雑談を始めた直後、突然振られた菜々からの質問に、由乃はちょっと記憶を整理するように、こめかみに人差し指を当てながら答えた。

「え〜と、確か今後の活動のメインは秋の学園祭になるから、今は色々な雑務をこなしつつ、学園祭に向けての準備をするって感じでいいのかな?志摩子さん」
「そうね。本格的に忙しくなるのは、夏休み後半からの自主登校期間ぐらいからだから、それまでは比較的時間の余裕があるわね」

 由乃の問いかけを補足する形で答える志摩子に、菜々はお礼を言いつつ隣にいる由乃にとんでもない宣言をした。

「そうゆうことなら、もうしばらく部活動に集中できますね。それでは、一緒にレギュラーを目指して特訓しましょうお姉さま!」
「ちょっと待ちなさい菜々!あなた私の実力を知ってて言ってるの!?」

 いきなり妹からの宣言(しかも自分込みで)にびっくりして、ちょっと情けない受答えした由乃。

「まぁ〜ある程度は。けど、やるからには一度はレギュラーですよ!お姉さま!!」
「少し引っかかる答えね。だけど、そんなことは私だって思っているけど・・・・」

 生まれてから15年以上もまともに運動できず、手術して一年以上経って、やっと人並みに運動ができるようになった剣道初心者。

 一方、家に道場をかまえており、中等部から代表として試合に出場し、すでに新入生の中で部の代表候補の実力をもつ人間とを一緒にされても困るのである。

「そんな!お姉さまは私と一緒に練習するのがお嫌なのですか?」
「そんなこと一言も言ってないでしょう!」
「それに私、一度で良いから試合をするお姉さまを応援したいんです!だから一緒にレギュラー目指しましょう。お姉さま」

 そんなことを妹から聞かされ、断る事が出来る姉はいないだろう。

「・・・・わかったわよ。やればいいのでしょう!やれば!!まったくこの子は・・・・」

 思わぬ聞いた「応援したい」に、由乃は、気恥ずかしさを誤魔化すように少しツンケン気味であるが、菜々の宣言を渋々受け入れたのである。

 どうやら旨い事菜々に丸め込まれ、特訓に付き合うはめになった由乃であった。



 それまで、黄薔薇姉妹の間に交わされた「特訓宣言」を隣で聞いていた祐巳は、急に「そうだ!」といって握りこぶしを手のひらで叩いた後に、みんなに向かって話を始めた。

「ちょっと今週の活動の件で、一つ提案があるのだけど良いかな?」

 突然そう言った祐巳に、残りのメンバーは「何事?」とそれぞれ表情に浮かべ、それから祐巳に視線を移して話の続きを待った。

「新学期が始まってから今まで、私達は土日の休み関係無く活動してたでしょう。だからこの機会に休養を兼ねて、今週の活動をお休みにするってのはどうだろう?」

 そう言うと、祐巳は由乃と志摩子に意見を求めた。

「私は賛成〜!マリア祭が終わって、この先は特に急ぎの仕事が入ってないでしょう?だったら今週ぐらい休みでも良いんじゃない」

 由乃は即効賛成したが、志摩子はちょっと考えた風な表情で、思い付いた疑問を祐巳にぶつけた。

「私も休むことには反対ではないけれど、完全に休むのはどうかしら。まったく仕事が無いって事でも無いのだから」

 確かに、志摩子の言う事はもっともである。いくら細かい雑務だけといっても、塵が積もれば「立派な仕事」になってしまい、後から大変なことになる可能性もある。

「じゃあ、お昼休みにここで食事をした後で、集中して仕事を片付けるという事では?」

 祐巳が、その辺りを考量して出した折衷案に、志摩子も「それなら大丈夫ね」と賛成してくれた。

 しかし、乃梨子と瞳子から思わぬ反対意見が上がった。

「待ってください祐巳様。この場所はすぐ埃が溜まるから、食事をする前に掃除しとかないと埃っぽくてまずいですよ」
「それに、朝の内にポットに水を入れてお湯の準備をしとかないと、お昼に直ぐお茶を入れられないですよ。お姉さま」

 流石は、現役でそのような雑務を行っている人からの意見は的確である。

「確かに二人の意見も一理あるわね」「そうね」

 由乃と志摩子は、「さてどうしよう」といった感じでそれぞれお互いの顔を見て、そして祐巳にそのまま視線を送った。

「その点なら考えがあるのだけれど・・・・」

 祐巳は、しばらく頭を中を整理した後、おもむろに答えた。

「代表者一名が毎日交代で、朝と放課後の時間を使って掃除とお湯番をするのはどうだろう。この部屋の中だけなら毎日やれば、1人でもそれほど時間も掛からないと思うから」

 どうやら祐巳からの提案は、特に反対の意見も無くなり「それなら問題無いかな」「私もそれでしたら構いません」言った具合に、5人は賛成の意味を込め祐巳に向かって頷いた。



「今回はとても素晴らしい司会進行でしたわ。流石はお姉さま」「ありがとう瞳子」

 妹からの久々の褒め言葉に、とても気を良くした祐巳だったが、

「でも祐巳様、その1名はどのように決めるつもりですか?しかも、明日からとして5日間ですから5人分ですね。しかも1人余りますけど」

 乃梨子からの指摘の瞬間、祐巳は「あっ!しまった!」といった感じの顔をした後。

「ごめん。そこまで考えていなかった。どうしようか?」と言って、とても困った表情でみんなに助けを求めた。

 ここまで、薔薇様らしくスムーズに話を進めてきた祐巳だったが、最後来て「うっかり祐巳」が顔を出してしまった。

 瞳子からは「褒めた直ぐにこれですか。お姉さま!そんな事では・・・・<以下省略>」「うぅ〜ごめんね瞳子」といったいつもの会話が展開されていた。

 そんな祐巳に、志摩子は助け舟を出した。

「それなら、アミダくじで決めたら良いのではなくて。6本引いて、一つは免除にすれば良いし」
「流石は志摩子さん。なら私がアミダ作るね」
「お願いね乃梨子」

 志摩子の提案に素早く反応した乃梨子は、自分のカバンからルーズリーフを一枚出しアミダくじを作ろうとした時。

「ちょっと待った〜!!」

 由乃は、大きな掛け声と共にスッと手を伸ばし、乃梨子の作業を差し止めた。

「いきなり何ですか由乃様!!」

 突然の由乃の行動に、流石の乃梨子もちょっとキツイ口調になってしまったが、そんな事を気にした風でもなく由乃は話を進めた。



「それなら、これを使って決めましょう」

 そう言うと、テーブルの下に置いてあるカバンをしばらく漁ったと思ったら、目的のものが見つかったらしく、満面の笑みを浮かべてみんなの前に差し出した。

「「「「「トランプ!?」」」」」

(なんでカバンからトランプが?)という視線を、全員から浴びてることに気づかない振りをして由乃は説明を進めた。

「これを使って勝負し、負けた人が罰として掃除とお湯番するってことで良いんじゃないの」

(あ〜あ、由乃さんに変なスイッチが入っちゃった・・・・しかも罰って何?)菜々を除いた4人は、お互いの顔を見渡して軽くため息を付いた。

 ここで、由乃を止めないと大変なことになる。本能では分かっているが、余り関りたくないと思い、祐巳は3人に「どうしよう」と視線を送ったが、他のみんなもを同じ思いらしく、お互い視線を交わしあった。

 そんな由乃に菜々は。

「ちょっと待ってください!お姉さま!!」

 4人が由乃を説得するのに躊躇してる時に出た、奈々からの待ったに(おぉ〜!菜々ちゃん頑張れ!!)と心の中で声援を送った。どうやら、今年の黄薔薇の蕾は一味違うらしい。

 由乃も、突然の妹からの横槍に少し警戒したのか、いつもよりキツイ口調になる。

「何よ菜々!あなた私の案に反対なの!?」

 そんな由乃のキツイ口調に、怯むどころか目をキラキラした満面の笑顔で。

「そんなとんでもない。面白そうじゃないですか!今すぐ始めましょう!!」

 菜々は反対どころか、全力で賛成のようだ。しかも、由乃以上にやる気満々である。

(・・・・江利子様降臨?・・・・)

 菜々が由乃を止めてくれる事に期待した4人は、彼女に関してとても重要な事を失念していたのである。

 菜々は、「面白い事が大好物のアドベンチャー少女」だと言う事を。そんな彼女に由乃の提案は「猫にマタタビ」である。恐るべき黄薔薇の家系といったところだ。

「それじゃ菜々。カードをきってみんなに配ってくれる」
「はい!お姉さま!!」

 今年は、この2人をどうやって止めたらいいか?いや、誰が止めに入るかを、4人がその役目を譲り合っている間に、「暴走特急を運転するリトル凸」(もとい由乃と菜々)は、ドンドン先に話を進めてしまっていた。



「ところで、何のゲームで勝負します?」
「そ〜ねぇ、時間もないから、「ババ抜きで一発勝負」でどうかしら?」
「それを、今から5回やって全部決めてしまうのですか?」

 そう言う由乃は、ワイパーのように人差し指を振りながら「ちっちっち、甘いわね!」と言って、菜々に自分の考えを説明した。

「そんな事したら勿体無いじゃない。何のためにお昼に集まると決めたの?」

(いや、決して罰ゲームをやる人を選ぶためではないよ・・・・絶対に)

 今の4人の心の中は、虚しい突込みが響き渡るだけだった。

「今回はこの後の片付けと明日の朝の分で、明日の放課後以降は、毎日お昼に集まった時に決めればいいわ」

 由乃の壮大?なプランに菜々は直ぐに食いついた。

「それは楽しみですね!では、今から皆さんにカードを配りますね」

 菜々はジョーカーの有無を確認したのち、馴れた手つきでシャッフルすると、手早くカードを配り始めた。

 どうやら、ここは黄薔薇姉妹の敷いたレール(いや提案かな?)に乗って行くしか、この事態を収めることはできないと判断した4人は、お互い諦めた表情で配られたカードを手元に集めたのであった。



「やぁ〜ババ抜きかぁ〜。みんなには悪いけど、この勝負は貰ったかな!?」

 もはや退き帰せないと悟ったので、せめて気分だけでもと切替えた祐巳は、自分の手札を整理しながら何故かとても機嫌が良い。

「あら祐巳さん。いきなり勝利宣言?」
「勝負は終わるまで分かりませんよ。祐巳様」

 そんな祐巳に、黄薔薇姉妹は素早く牽制を送った。既に、勝負が始まった感じである。

「祐巳様が、ババ抜きに強いって聞いたことある?志摩子さん?」
「いいえ、聞いたことはないわ」

 こんな時でも、白薔薇姉妹は落ち着いて動向を見守っている。

「ところでお姉さま。もしかしてババ抜きが得意なのですか?」

 瞳子は、ちょっと信じられないと言った表情で祐巳に尋ねた。

「去年のお正月に、初めてお姉さまのお宅に泊まりに行った時にね、私はお姉さまと組んでババ抜きをしたけと、その時は一回もビリにならなかったんだ」

 だから自信があるの。と嬉しそうに話す祐巳に、(それって、祥子様と一緒だから負けなかったのでは・・・・?)と5人は心の中でそう思った。

 そうしている内に、全員が準備出来たのを確認した由乃は、おもむろに開始の合図を出した。

「それでは、第一回 山百合会主催 居残り当番を賭けたリリアン初夏の陣!行ってみよう!!」
「「「おぉ〜!!!」」」
「「「ぉー」」」

 対照的な掛け声を響かせ、本日の勝負が開始された。



「はい、お姉さま。カードをどうぞ」「・・・・ありがとう。瞳子」

 そう言って、瞳子は祐巳に最後のカードを手渡し、4番目に上がった。

 自分の手札を確認しながら、祐巳はとても焦っていた。

 あの時に会得?した「奥義!マリア様の心でフォーカーフェイス大作戦!!」を、この勝負の間すっと発動し続けたので、たとえジョーカーが手札に在っても、相手にそれを悟らせることなく勝負を進めてきた。

 しかし、始めに菜々が上がり、その後乃梨子、由乃と続いて瞳子が上がり、あっという間に祐巳と志摩子の一騎打ちになってしまった。

 お互いの手札は、祐巳はジョーカー込みの2枚に対し志摩子は1枚。しかも志摩子が引く番である。

 ここで、志摩子にジョーカーを引かせないと祐巳の負けが決定(=罰当番)である。それだけは絶対に避けたい。

「それでは祐巳さん。引いても良いかしら?」

 色々と考え込んでいた祐巳は、志摩子の声を聞くまで、相手を待たしている事に気が付かなかったのである。

「あっ、ゴメン志摩子さん。」

 祐巳は、慌てて自分の手札を志摩子に出そうとしたその時。

「お姉さま。ちょっと待ってください!」

 そう言って、瞳子は祐巳の手札の持つ手を掴むと、そのまま素早く手前に引っ込めたのである。

「今の心理状態で勝負しても勝てませんわ。お姉さま」
「瞳子!今更、待ったは無しだよ」

 瞳子の鋭い指摘に、乃梨子の警告が飛ぶ。姉のため、また自らの薔薇の名のため、2人とも当事者以上にピリピリしているようだ。

「まあまあ、2人とも。今から慌てたところで、どうにかなる物でもないわ」
「そうですよ」

 既に、2人とも上がった余裕の黄薔薇姉妹は、そんな空気を逆撫でするように、ニヤニヤしながら事の成り行きを見守っていた。



「聞いてくださいお姉さま。このままカードを出しても、表情の変化で手札がばれてしまいます」

 祐巳は、瞳子の話を一瞬でも聞き逃さぬよう、真剣な表情で聞き入っている。

「ですから、自分も見ないようにカードをシャッフルした後、そのまま伏せて出します。それなら、お姉さま自身が分からないので、表情を見られてボロを出す事もないですわ」
「そうか!それなら勝てる気がしてきた。ありかとう瞳子!」

 祐巳は瞳子の両手を包み込むように握ると、嬉しそうにブンブン大きく上下に振った。

「ちょっとやめてください、お姉さま!そうゆうことは、この勝負に勝ってからにしてください!!」

 瞳子は、突然の姉の行動に顔を真っ赤にしてその手を離すと、現在自分たちが置かれている状況を説明する。

「いいですか、ここで負けたら紅薔薇の名に傷が付くのですよ!それだけは絶対避けなければなりません。分かりましたか?お姉さま!!」
「わかった瞳子。私、頑張るね!」

 祐巳は瞳子にそう言うと、自分に見えないようにカードをシャッフルし始めた。



 そんな紅薔薇姉妹を視線の端で見ながら、乃梨子は志摩子の後ろに立った。

 そして両肩に手を置くと「志摩子さんは負けない。大丈夫。絶対に勝てる。」と念仏を唱えるように繰り返し呟きながら、志摩子に静かに声援を送っていた。

 その気持ちに応えたい志摩子は、右肩に乗る乃梨子の手を、開いている左手で包み込むように握り、静かに祐巳がカードを出すのを待っていた。



「う〜ん、よし!じゃあどうぞ、志摩子さん!」

 祐巳は、シャッフルした2枚のカードを、全員に見えないようにテーブルに上に伏せて置くと、志摩子の取り易い位置に滑るように差し出した。

 志摩子は、しばらく2枚のカードを見比べたが、やがて1枚のカードを選んで、静かに手元に引き寄せ自分の手札と見比べた。



 マリア様に祈る紅薔薇姉妹・・・・。

 事の成り行きを見守る黄薔薇姉妹・・・・。

 先ほど引いたカードを確認する白薔薇姉妹・・・・。



「ごめんなさいね、祐巳さん」

 志摩子は、ニッコリ笑って自分が持ってる最後の組カードを、中央にあるカードの山に置いた。

「うそ〜!!!!」

 祐巳はそう絶叫すると、あまりのショックにテーブルの上に力なく伏せてしまった。



「・・・・それでは、第一回の罰当番は祐巳さんに決まりました。後の片付けは祐巳さんに任せて、今日はこれにて解散しましょう。じゃあ帰ろうか菜々?」
「はいお姉さま!それでは皆さんごきげんよう」

 由乃はそう宣言すると、菜々と一緒に部屋から出て行く。

「・・・・え〜と、祐巳さん、今日はだめだったけど、勝負は時の運と言うし、明日は勝てると思うから・・・・多分」
「それじゃ瞳子、後はよろしく。祐巳様ごきげんよう」

 志摩子も乃梨子も後に続いて部屋から出て行った。

 そして部屋には、未だショックで動けない祐巳と、そんな祐巳の扱いに困った瞳子と、テーブルの上に乗った宴の残骸が残されただけだった。



「さあ、お姉さま!早く復活して片付けてしまわないと、いつまで経っても帰れませんよ!」

 2人が取り残されて、幾らか時間がたっただろうか?いい加減待ち疲れた瞳子は、祐巳にカツを入れるために立ち上がった。

「う〜ぅ・・・・だって瞳子」
「そんな情けない声を出さないで下さい。私も一緒に片付けますから」

 それを聞いた祐巳は、顔だけムクっと向けて「えっホント?」いった表情で瞳子を見た。

「明日は朝練があって駄目ですけど、今は手伝いますから早く起きて下さい。」

 瞳子は、テーブルに乗った洗い物の食器類を、まとめて流し台の方にもって行きながら祐巳に行動を促した。

「うん。ありがとう瞳子」

 祐巳も、自分がやらなきゃ行けない事を思い出し、部屋を掃除し始めた。

 しばらくお互い無言で掃除していたので、思ったより早く片付けは終了した。



 部屋の戸締りを確認して、帰宅のため部屋から出ようとした時、祐巳は瞳子に呼び止められた。

 しばらくの間、話をしようかどうか迷っていたみたいだが、瞳子は意を決して話を始めた。

「お姉さま。先ほど志摩子様が言われた通り、勝負は時の運です。ですから、明日は絶対勝てます。自信を持ってください。」

 瞳子は、そう一気に話すと「ふぅ〜」と全身の力を抜いた。

「うん、私もそう思うよ。だから2人で、明日の勝利をマリア様にお祈りして帰ろう」

 そう言うと、祐巳は瞳子の手を引いて部屋を後にした。





次回に続く・・・・





「あとがき」と言う「言い訳」です。

 皆様の投稿作品に触発されて、今回初めて投稿しました。よろしくお願いします。

 とにかく、学校の読書感想文や、レポート課題をまともに書いたことがないため、漢字の使い方、句読点の付け方、文章の言い回し等が旨く書けず、あまり読みやすい作品じゃないとは思いますが、生暖かい目で見てください。

 今作は副題の通り「祐巳メイン」で書きました。しかし、何故か黄薔薇姉妹が祐巳の出番を食う勢いで動き回り、その分、白薔薇姉妹は扱いが薄くなってしまいました。中々バランス良く扱うのは難しいです。

 この後、<中篇><後編>と<番外>を一つぐらい書いて、完結の予定で考えています。

 最後に、色々ツッコミどころ満載の内容ではありますが、初心者なので大目に見てください。

 それでは次回また・・・・


(コメント)
クゥ〜 >ごきげんよう。楽しくよませてもらいました、続き、楽しみにしています。(No.15607 2007-07-23 00:30:07)
くま一号 >5日で血の雨が降る来年度山百合会? おもしろそう。 「暴走特急を運転するリトル凸」吹いた。(No.15615 2007-07-23 07:31:47)
彷徨うコロンタ >クゥ〜様、くま一号様、貴重なコメントを頂きまして、ありがとうございます。(No.15622 2007-07-24 23:05:11)
彷徨うコロンタ >文章を書くことが不慣れですが、なるべく早く続きを投稿したいと思います。(No.15623 2007-07-24 23:08:06)

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