がちゃS・ぷち

[1]前  [2]
[3]最新リスト
[4]入口へ戻る
ページ下部へ

No.2388
作者:joker
[MAIL][HOME]
2007-10-12 01:22:38
萌えた:1
笑った:12
感動だ:0

『ロード・オブ・ザ・召喚』

 あるよく晴れた日の昼休み。
 薔薇の舘で昼食をとっていた祐巳は、向かいで同じようにお弁当を広げている由乃さんに話しかけた。
「ねえ、由乃さん」
「なに?」
「わたし、マスターになっちゃった」
 …………
 由乃さんは一瞬、怪訝そうな顔をしたあと、目を伏せて何も無かったかのようにまたお弁当に箸を伸ばし、言った。
「なんの?」
「マスターと言ったら、サーヴァントのマスターだと思うよ?」
 すると、また由乃さんは怪訝そうな顔した。しかもさっきより深みが増している感じがする。
「サーヴァントって言ったら、日本語で、召し使いって意味よね」
「意味は分かんない」
「じゃあ、なんのマスターよ?」
「だから、サーヴァント」
「…………」
 一行に話しが進まない。
 このままでは話が進まないと思った由乃さんは、もう何か、やけくそになりながら、自分のお弁当からきんぴらごぼうを一つ摘まんで祐巳のお弁当のご飯の上に置いた。
「就職された祝い」
「意味が分かんないよ?」
「マスターが、好き嫌いしちゃダメでしょ?」
「由乃さんも好き嫌いダメだと思う……」
 何の論理を持ってその答えが出てくるのか、とても不思議に思われる。
「というか、由乃さん。いつもの流れを無理矢理通さなくてもいいんじゃない?」
「祐巳さんが何のマスターか分かっているのがいけないのよ!」
ばん、と机を叩いてぐわっと叫ぶ由乃さん。
 そして祐巳を睨みつけて、そのお弁当の中にあった玉子焼きをかっさらい、そのままパクッと食べてしまった。
「よ、由乃さん。それ、私のとっておき……」
「等価交換よ!」
「…………」
 理不尽だった。
「私のピーマンもあげるから、それでいいでしょ!」
「…………」
 不条理でもあった。
「だいたい、マスターってなによ! いままでも、神さまやら死神やらオッパッピーやら十分わけわからなかったのに、今さら何になるっていうのよ!」
「……オッパッピーってなに?」
 吠える由乃、呆れる祐巳。
 ちなみに、オッパッピーはOcean Pacific Peaceの略である。
 と、その時。舘の一階の扉が開く音と閉まる音が同時にしたかと思うと、ドタバタゴンと誰かが階段を上ってきた。そして、その誰かさんはビスケット扉の前で一端停止し、すぐに扉を開け放つと、こう申し立てたのである。

「今! マスターの話をしていたわよね? 祐巳さん?」

 それは、今日は乃梨子ちゃんと桜の木の近くでお昼をとっていたはずの志摩子さんだった。
 というか一体どこで聞いていたのだろうか? どうやら志摩子さんには対蔦子さん用アイキャッチ以外に地獄耳もステータスに追加した方がいいみたいだ。
 ちなみに、乃梨子ちゃんは引きずられて来たのか、志摩子さんの足下でズタボロになっている。ちなみにちなみに、祐巳の隣では由乃さんが、そうか。あの最後のゴンはコレの音だったのか。と呟いていた。というより非道だった。
 そんな私達を気にせずに、志摩子さんは足に絡まっていた乃梨子ちゃんの手を無造作に外すと、私達に向き直った。
「わたしも気づいていたわ! 今日の祐巳さんは一味違うって!」
「「そ、そうなんだ……」」
 若干引き気味の紅黄の薔薇さまを無視して、志摩子さんは目を輝かせて祈るように胸で両手をくんでいる。
 ちなみに、乃梨子ちゃんは今は部屋の隅で瞳子の手当てを受けている。時折「ちょっと痛いよ〜瞳子ぉ」とか「我慢して乃梨子! ほ、ほらこれでいいでしょ」とか「うん。ありがとう瞳子」とか「あ、あたりまえですわ! 親友なんですから」とか「はは。瞳子、顔真っ赤だね」とか「ななな、何を言ってるのよ! 乃梨子!」とか聞こえてくるけど、気になってなんかないし、嫉妬なんかしていないし、乃梨子ちゃん後でぶっとばすとか思ってなんかいない。時折じゃなくて、きっちり全部会話を聞いていたとしても、断固として気にしてはいないのだ。
「? どうしたのよ、祐巳さん。しかめっつらなんかして」
「………………」
 やはり無理だった。
 そんな私達をさらに無視して、志摩子さんはさらに暴走しはじめる。
「マスターと言えば、何かを自分の支配下におく事を許された選ばれた人間。かつての劉玄徳やアーサー王の様な多くの偉人に与えられる特権! そして今日、廊下で桂さんから何かを受け取る祐巳さんからは」
 そう言って、両手を組んだままくるりと一回転した後、窓に向かって両手を広げ、遠くの輝かしい太陽を見つめる様な空っぽの目で、何かを思い出すように虚空を見つめて、
「カリスマに満ち溢れていたわ」
 そう言って、聖母の様に微笑んだ。
 やはり、分からない人には分からないのだろう。
 そりゃあ桂さんと比べたら誰だってそうだ。
「一応聞いておくけど、由乃さん、私、カリスマあった?」
「んー、何故か申し訳なさそうなかんじと感謝してるかんじがあったから、カリスマって言うより借りますって感じだったわ」
 さすが名探偵由乃さん。真相をついている。ちなみに借りたのは一昨日録画しわすれたドラマだ。
 そんな事より、なにやら先ほどから瞳子が、おずおずと言ったかんじで私の後ろに控えている。
「どうしたの? 瞳子。別に乃梨子ちゃんとどんな関係でも私は気にしないよ?」
「へ? あ、違うんです! その事じゃありませんし、それは――」
 ――誤解です!

 言葉にはできず。
 必死な想いを込めて、おろおろしながら祐巳を見上げる。

 ――――ものすごく慌てている瞳子。
 祐巳は、悲しげに瞳子の目を見つめたあと。

「分かってる。大丈夫だよ、瞳子。私は、これから(一人で)頑張っていくから」

 ポン、と肩に手をおく音。
 祐巳は瞳子の答えを待たず、静かに手を離した。
「違う……違うんです、お姉さま」
 瞳子は絶望した顔して、呟きながら膨大の涙を流していた。

 しばらくして漸く落ち着いた瞳子は、先ほどからずっとプリプリと頬を膨らまして不機嫌を体全体で表している。というか、もの凄く可愛い。この姿を見れたのならば、今までのやりとりもきっと、間違いなんかじゃないんだ!! と思えてくるからフシギダネである。I am the bone of 'Love to my Drill'.
「お姉さま! 一体何をニヤけているんですか!」
 どうやら顔に出ていたらしく、瞳子がさらに怒って怒鳴る。その声で祐巳は漸く、はっ、と我に帰った。どうやら、夢(妄想)を見ていたらしかった。
「ああ、ごめんごめん。それで何かな、瞳子」
 ずっと見ていたかったけど、これ以上怒らせると後がさらに恐い。果たして、ここまで妹に頭が上がらない姉がいただろうか? あ、令さまがいた。
 改めて、瞳子に向き直ると、瞳子は、コホンと一拍おいて口を開いた。

「あそこにいるのは誰ですか、お姉さま」

 瞳子が指を指した先には、リリアンの制服を来た見たこともない、金髪で翠色の瞳をしたとても綺麗な美少女が、重箱に入ったご飯やおかずをハムハムコクコクと一心不乱に食べていた。
【続く】


(コメント)
joker >まつのめ様に了承を得たのでこちらに投稿しました。(No.15808 2007-10-12 01:29:25)
joker >まつのめ様に了承を得たのでこちらに投稿しました。(No.15809 2007-10-12 01:37:26)
mim >"I, drill M@ster!", Yumi-P said. (No.15810 2007-10-12 02:13:48)
くま一号 >……とらちゃん?(No.15811 2007-10-12 06:13:36)
とおりすがり >あかいあくま、祐巳に日陰桂ですね(^^;(No.15812 2007-10-12 06:27:18)
あうん >「館」ではなく、「舘」なのに笑いが止まらなかった(No.15813 2007-10-12 06:36:41)

[5]コメント投稿
名前
本文
パス
文字色

簡易投票
   


記事編集
キー

コメント削除
No.
キー


[6]前  [7]
[8]最新リスト
[0]入口へ戻る
ページ上部へ