がちゃS・ぷち
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No.3125
作者:パレスチナ自治区
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2010-01-22 01:15:04
萌えた:13
笑った:1
感動だ:0
『一途な想い』
ごきげんよう。【No:3121】の続きです。
基本祐沙視点です。
一部ヤンデレ?っぽい表現があります。
『今日は二人とも、お弁当を作ってきてくれたんだ。志摩子さんのは凄く豪華で、由乃さんのは可愛かったんだ〜』
『へ〜。そうなんだ』
『由乃さん、何度も失敗したみたいだけど諦めないで作ってきてくれたんだ。志摩子さんがわたしや由乃さんの為に『活きのいい子』をさばいて来たって言ったときにはびっくりしたけど、そこまでしてくれるなんて嬉しいな』
『よかったね、祐巳ちゃん』
『うん!明日も作ってきてくれるみたい』
『そう…なんだ…じゃあ、わたしこれからあんまり早起きしなくてもいいのかな…』
『えへへ、そうだね。いつもごめんね?』
『いいんだよ?でも祐巳ちゃんだって御返ししなくちゃね?』
『そうだね!祐沙ちゃん、お料理教えてね?』
『うん…わかった』
この時の祐巳ちゃんの弾けるような笑顔と声はわたしにとって嬉しさと寂しさとで複雑だった。
祐巳ちゃんの笑顔は大好き。これこそがわたしの最大の幸せ、喜び。
彼女と笑い合えるのは最高の贅沢だ。
でも、祐巳ちゃんにお弁当を作ってあげられないのはとっても寂しい。
学校が違うわたし達。せめてわたしが作ったお弁当だけでも、祐巳ちゃんと一緒にリリアンへ…
そうすることで、祐巳ちゃんの学校生活に少しでも糧になればと思って、今まで毎朝という訳ではないががんばって来た。
それがもう必要ないというのはとっても寂しかった。
小さい頃のわたしは、あまり祐巳ちゃんが好きではなかった。
というよりは無意識的にライバル心というものを持っていたんだと思う。
みんな朗らかに笑う祐巳ちゃんが大好きだった。
みんなに祐巳ちゃんが褒められたり可愛がられたりしていると、わたしはいつも機嫌が悪かった。
だからわたしは親戚のみんなからあまり好かれてはいなかったと思う。
そんなわたしは実力でみんなを見返してやろうとお母さんの手伝いやピアノのお稽古、お習字。小学校に上がると塾にも通い出して勉強だって頑張った。
その頃のわたしはそれ以前よりも気が張っていて友達だっていなかった。
祐巳ちゃんに『一緒に遊んで?』と催促されても突っぱねていた。
当然、弟の祐麒君はわたしの事を怖がっていてほとんど一緒に遊んだ記憶は無かった。
まあ、その頃の努力の見返りは十分すぎるほどあるけど。
一人でいることが多かったのだが、隣に来てくれていたのはいつでも祐巳ちゃんだった。
どんなに突っぱねてもお構いなしにわたしのところに来てくれる。そしてわたしにだけ微笑んでいてくれた。
わたしの意地など所詮はちっぽけでくだらないものだったのだ。
祐巳ちゃんを受け入れてからわたしの世界は180度変わった。
なかなか上達しなかったピアノの腕もぐんぐん伸びていったし、勉強だって。
友達もたくさんできた。
祐巳ちゃんにはいろんなものをもらった。
だからどんどん彼女が好きになっていった。
いつか彼女の一番になりたいと強く思うようになった。
それから歳月が過ぎて、今だに同じ部屋を共有するほどになった。
でも、わたしは祐巳ちゃんの『妹』なのだ。
そういう意味では確かにわたしは祐巳ちゃんにとって『一番』なのだが、わたしのなりたい『祐巳ちゃんの一番』ではないのだ。
そしてそれはどんなに頑張っても成れないものだということが分かった。
その事が浮き彫りになったことが何より寂しかった。
それでも、祐巳ちゃんの幸せのためならわたしは『妹』に徹しようと思った。
あれから志摩子さんと由乃さんはだんだん暴走をし始めているらしい。
祐巳ちゃんの悩みはもっぱらその事だ。
普段は鍔迫り合いをしている二人なのだが、時には結託し、祐巳ちゃんに近寄ろうとする人を蹴落とそうとしているようなのだ。
心の優しい祐巳ちゃんの事だ。その光景を見て志摩子さんたちにも、彼女たちの被害者たちにも心を痛めている筈だ。
最近の祐巳ちゃんも笑顔は少し曇っていて疲れも見える。
わたしにとっても辛い事だ。
「ゆ〜さちゃん!」
「?!だ、だあれ?」
「私だよ」
「あ、かぐらさん」
頭を二つのお団子に結っていてる、わたしのクラスメイトだ。
「どうしたの?かぐらさん」
「もの悲しげなピアノの音が聴こえてきたからね。何か悩み事でも?」
「は〜…フォルテール奏者のかぐらさんにはお見通しなわけ…か」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、今のは誰が聴いたって解ると思うよ?」
「そう…」
「私でよかったら聞かせてもらえないかな?」
「…わたしのお姉ちゃんがね…元気無いの」
「それで?」
「なんでも、親友二人がお姉ちゃんの取り合いを始めちゃって…そのやり方がエスカレートしていて…」
「あ〜…その気持ちわかるよ」
「そうだよね。かぐらさんもそういう立場だもんね」
「あはは…」
疲れた感じに乾いた溜息をもらすかぐらさん。
「ごめんね?かぐらさんだって大変なのに」
「いいんだよ?祐沙ちゃんのピアノ、大好きだから。ちょっとでも力になれれば嬉しいもん」
「ありがとう、かぐらさん」
数分、かぐらさんと笑い合っていた。
ちょっと癒された。
「ねえ、凄い足音が聞こえるね」
「うん…この足音は絶対ちほちゃんだよ」
ばたん!
わたしが使っている練習室の扉がノックもなく、勢いよく開く。
「かぐらーー!!」
ショートカットで小柄なちほちゃんだ。
「ほんとだ」
「自己防衛本能がね、最近発達してきてるの」
「かぐら、ひどい!!」
ちほちゃんはほっぺをぷくっとふくらませて怒っている。
普段大食いの彼女はほっぺが凄く柔らかい筈だ。なんだか可愛いな。
「だ、だってね、ちほちゃん」
「祐沙もひどい!」
「え?何で?」
なぜわたしに矛先が?
「あたしのかぐらを勝手に独り占めして!!」
「私、ちほちゃんのものってわけじゃぁ」
「かぐらさんの方がここに来たんだよ?」
「でも。ずるい!!」
「本当ですよ、祐沙さん?」
ぞくっとするようなどすの利いた声が部屋の入口付近から…
「琴美さん…」
「祐沙さん…どうして私とかぐらさんの邪魔をするのですか?」
「ご、誤解だよ、琴美さん…」
「それとかぐらさん…」
「ひゃい?!」
「私から逃げているわけじゃないですよね?」
「え?」
「いつも祐沙さんの所にいるような気がするのですが…違いますよね?」
怖い…
「あ、当たり前だよ!れ、練習前に祐沙ちゃんのピアノ聴くと調子がいいんだよ〜。ほんとだよ?」
「祐沙さん…」
怖すぎです!かぐらさんもわたしに振らないで!!
「ちょうしに…」
「だ、だ、大丈夫だから!!かぐらさんはデュエットのパートナーは琴美さんたちの中から選ぶって言ってるから!!」
そういうと琴美さんはほっとした表情になる。
「そうですか…」
「でも、私祐沙ちゃんともデュエットしてみたいよ?」
空気読んでよ!!
「そうなんだ。でもわたし歌うの苦手だから…」
「え〜。それじゃあ、考えといてね」
「わ、わかった」
「あーーーーー!!かぐら先輩、こんなところにいたーーー!!!」
「もう!未羽さん!!もう少し静かにして!!」
更にかぐらさん大好きな一期生コンビまでやってきた。
「また福沢先輩といっしょにいるーーーーー!!どうしてですか?!かぐら先輩!!」
「それに関しては私も未羽さんと同意です」
「…織歌ちゃんまで」
「先輩は、福沢先輩が好きなんですかー?」
「うん、大好きな友達だよ」
「本当にそれだけですか?」
「だからそうだって」
だんだん、場の雰囲気が悪くなっている。
仕方ない、ここはかぐらさんを逃がして…
かぐらさんにしかわからないようにアイコンタクトをする。
「それにしても、かぐらさんの周りは本当に賑やかだよね。本当に飽きないよ」
普通ならごくごく平凡な台詞なのだが、これに絶対未羽ちゃんが引っかかって来る筈。
「あーーーー!!それ、どういう意味ですかー!うるさいってことですかーー?!」
「ちょっと!!どういう意味よ!!」
あら。ちほちゃんまで釣れた。これは儲けだね。
「ふふふ。どうでしょう?」
「むきーー!!福沢先輩なんてシスコンのくせにーーー!!!」
「ちょっと、未羽さん!」
みんなが騒いでわたしに意識が向いている間にかぐらさんはこっそりと部屋から抜け出すことに成功したようだ。
「かぐらさんは?」
一番冷静だった琴美さんがいち早く気付いてしまったようだ。
「かぐら!逃げたわね!!」
ちほちゃんが部屋を飛び出すと、つられて未羽ちゃんたちも出ていった。
「祐沙さん…かぐらさんと何か示し合わせたのですね?」
「そ、それは…」
「いずれ話し合いましょうね?それでは」
最後に凄く不気味な発言をした琴美さんが出ていった。
「ふぅ…かぐらさん、休む暇もないね」
かぐらさんの騒動になぜか巻き込まれてしまうけど、そんなに嫌じゃなかったりしている。
同時刻・リリアン女学園
「祐巳さん、イチゴショートを作って来たのよ。召し上がれ」
「祐巳さん、私はクッキー作って来たわ。食べて!」
「それ、令様が作ってくれたの?」
「違うわよ!!」
はぁ…どうしてまた始まっちゃうのかな…
お姉さま、令様、乃梨子ちゃんは完全に傍観を決め込んでいて助けてはくれない。
でも今日は薔薇の館の内部ということで一般生徒に醜態をさらさずに済んでいるのが救いだと思う。
「ねえ令」
「何祥子?」
「今日、お姉さま方が遊びに来ると連絡があったわ」
「それなら、私のところにもあったよ」
「聖様たちにお会いできるのですか?楽しみです」
「聖様はオヤジだから気を付けてね、乃梨子ちゃん」
「はい、令様」
聖様たちが来るんだ。それならこの騒ぎを鎮めてくれるかも…
「ゆ〜みちゃん!!」
「ギャアウ!!」
「「聖様!!」」
いつの間に背後に?!
「みんな久し振り!!祐巳ちゃんも相変わらず…いいね〜」
「聖様…今はやめた方が…」
「なんで?」
「なんででも!!」
「ヤ〜だ。やめない!!」
「聖様!!本当に!!」
「なんだよ祥子まで」
「命が惜しければ…」
そうお姉さまが行ったと同時だった。
チャキ…
がちゃり…
嫌な音がして、聖様の動きも止まった。
「お姉さま。祐巳さんから離れてくださらない?でないとこの『デリンジャー』の餌食になってしまいます」
「志摩子さんが引き金を引く前に首が飛びますよ?」
何とも物騒な事を…
「志摩子に由乃ちゃん…冗談が…」
「うふふ…決して…」
「不本意だけど、志摩子さんに同意です」
「し、しまこ…そんなの使ったら…確実に大きな音が鳴って…」
「大丈夫です。背中に押しつければ音なんてしません」
「そ、そんなわけないでしょ…」
「さあ…『デリンジャー』をくらってじわじわと…」
「それとも『村雨』でスパッと?」
「どっちもいや…だから…」
「祥子!!あれはどういうこと?!」
遅れて入って来た蓉子様がお姉さまに詰め寄っている。
「どうって…怖いです…」
「あら〜。面白い事になっているわね」
「江利子!」
「冗談よ」
聖様は私から離れた。
「大丈夫だった?祐巳さん」
「変なことされなかった?」
「う、うん…だいじょうぶ…だよ」
「私がちゃんと守ってあげますからね?」
「私だって!!」
「駆け出しの剣士に何が出来るのですか?」
「なんですって?!」
結局今日も二人はやりすぎだった。
―――――――
「はあ…」
祐巳ちゃんは今日もかなり疲れているようだ。
「祐巳ちゃん、今日はどうしたの?」
すると祐巳ちゃんは涙目になってしまった。
「志摩子さんたちがね…」
嗚咽しながら祐巳ちゃんは今日学校であった事を話してくれた。
祐巳ちゃんの事が大好きだという二人なら信頼していたのに、どうやら見当違いのようだ。
このままでは祐巳ちゃんがいつリリアンを辞めたいだなんて言い出すかわからない。
事態は深刻だ。
そうだ!
「ねえ、祐巳ちゃん。明日学校おやすみでしょう?」
「…え?」
「祐巳ちゃんの学校を見学したいな〜。それで祐巳ちゃんに案内してもらおうと思って」
そうすることによって祐巳ちゃんの気分転換になるかもしれない。
「でも、明日仕事があるよ?」
「今の時期そんなに忙しい?」
「う〜ん。それもそうかな。お姉さまに訊いてみるよ」
「うん」
祐巳ちゃんは祥子さんに電話をかける。
「大丈夫だって」
「よかった、リリアンなんて何年振りだろう」
小学校卒業まではわたしもリリアンに通っていた。
「三年振りでしょ?でも高等部の校舎は初めてだね」
「そうだね、楽しみ!」
「えへへ」
そう。そうやって笑っているのが一番だよ、祐巳ちゃん。
初めての高等部の敷地。
綺麗な銀杏並木をしばらく行くと言わずと知れたマリア像がわたし達を迎えてくれた。
祐巳ちゃんの真似をしてわたしもお祈りをする。
ちらっと祐巳ちゃんを見るとまだ一生懸命にお祈りをしていた。
早く元の生活に、志摩子さんたちに元に戻ってほしいんだね。
やっぱり祐巳ちゃんは優しいな。
そう思いながら少しでも祐巳ちゃんの想いがマリア様に届くようにともう一度お祈りをした。
校舎の中は歴史の重みで厳かな感じだ。
わたしの学校も負けてはいないけど、景色が真新しいのでよりそう感じる。
「ねえ祐沙ちゃん」
「何?」
「悪いんだけど、これに着替えてきてくれる?」
祐巳ちゃんは言いながらわたしにバッグを渡す。
「どうして?」
「今日一日はリリアンの生徒だよ」
どうやら祐巳ちゃんの予備の制服が入っているようだ。
恥ずかしい気もするが、せっかくなので着てみることにした。
「どうかな?」
「似合ってるよって当たり前だよ。祐沙ちゃんとわたしって顔とか体つきとかほとんど同じだもん」
「それもそうだね」
祐巳ちゃんの制服。なんだかほわっとする。
「それじゃ、祐巳ちゃん。早く、早く!」
駆け出そうとすると…
「お待ちなさい」
「へ?」
祐巳ちゃんが急に口調を変えた。
「ど、どうしたの?」
「呼び止めたのは私で、その相手は貴女。間違いなくってよ。」
なんだか聞き覚えがある…
………、あ!ああ。一年生の時祐巳ちゃんが一時期興奮気味に祥子さんとのなれ初めを話してくれたっけ。
わたしは祐巳ちゃんに向き合い姿勢を正す。
「持って」
祐巳ちゃんが制服の入っていたバッグをわたしに渡す。
それを受け取ると祐巳ちゃんはわたしのタイに手を掛ける。
「タイが、曲っていてよ。身だしなみはいつもきちんとね。マリア様がみていらっしゃるから」
「………」
「………ぷ」
「あははは!!」
「祐沙ちゃんひどい!!」
「先にふいたのは祐巳ちゃんでしょ?」
「しかもトイレの前でなんて、決まらないのは当たり前だよね」
「ほんと!」
久しぶりに祐巳ちゃんの明るい笑顔を見れた。
よかった…
「音楽室はここだよ」
「いい雰囲気ね」
「このピアノでお姉さまと初めて連弾をしたんだ」
「そう…」
ピアノのふたを開ける。
さすがにマリア様が見守っている学園だけあって鍵盤の一本一本、隅々にまで手入れが行き届いている。
確か祐巳ちゃんが弾いたのはグノーの『アヴェマリア』だった。
『ミ』の鍵盤に指を置いて、たどたどしく弾き始める。
「祐沙ちゃん、もっと上手でしょ?」
「えへへ。ありがとう」
そしてしばらく一緒にピアノを弾いていた。
「さすがに祐沙ちゃんについていくのは無理だね…」
「祐巳ちゃんだって続けていたらそんなこと無かったと思うよ?」
「ねえ、祐沙ちゃん。どうして『桜立舎学苑』に行ったの?」
「えっとね、蟹名静さんって人に勧められたからだよ」
「ええ?!」
「どうしたの?そんなに驚く?」
「驚くも何も」
「静さんは今はイタリアなんでしょ?」
「知ってるんだ」
「本人から聞いたからね」
「いつ知り合ったの?」
「それはね…秘密」
「え〜。どうして?」
「ふふふ。それはね、静さんとの思い出は祐巳ちゃんとの思い出と同じくらい大事だから…ほら、わたしって秘密主義だし」
「そんなの知らないよ〜」
そう言いながら祐巳ちゃんが抱きついて来た。
「でも、そういうのっていいね」
「ありがと」
祐巳ちゃんは私の首元を気にしている。
「ねえ祐沙ちゃん。このネックレス」
「ああ、これ?これはね、祐巳ちゃんが中等部の時の修学旅行で買ってきてくれたやつだよ」
「いけないんだ〜。リリアンはアクセサリー禁止だよ?」
「大丈夫だよ。わたし『桜立舎学苑』の生徒だし」
「も〜。没収です!」
祐巳ちゃんはわたしのネックレスを首から外すと、真剣な顔をしてわたしと向き合った。
「ねえ、貴女。お姉さまはいて?」
また祥子さんの真似だね?
「はい。双子ですけど。お姉ちゃんが居ます」
「違っていてよ。その『お姉さま』ではなくこの学園においての『お姉さま』よ」
「それなら、いません」
「よろしい。ではこのロザリオを受け取って?」
「でも…わたし、お姉ちゃん以外を『お姉さま』にする気は…」
すると祐巳ちゃんはとたんに表情を崩した。
「もう…それじゃあこのネックレス、返せないでしょ?」
「わかった、ごめん、ごめん」
「このロザリオを受け取って?」
「えっと、はいおうけ、します?」
祐巳ちゃんはちょっと笑いながらネックレスをかけてくれる。
「語尾が疑問形じゃなかったら満点でした」
また抱きついて来た。
「ねえ、『桜立舎学苑』には『姉妹制度』みたいなのってないの?」
「『スール』ではないけど『チューター』ならあるよ。ほとんど同じだと思うけど」
「そうなんだ…そういえば小さい頃あんまり仲良くなかったよね」
「ごめんね?」
「いいんだよ。でもどうしてこんな風にわたしを受け入れてくれたの?」
それは…
「それもね…ひみつ……なんだ…」
わたしは祐巳ちゃんの『妹』。だから話せない…
その時、
「祐巳さん。こんなところにいたのね」
「探しちゃったじゃない」
志摩子さんと、由乃さんだ。
祐巳ちゃんは少し怯えているみたい。
どうして?
この二人は…昨日の事があれば当り前か。
わたしは湧き上がる怒りをぐっとこらえる。
「祐巳さん、そちらの方は?」
「祐沙ちゃんだよ」
「ああ。あの祐沙さんね」
「わたしのことを知っているの?」
「ええ、この間話してくれましたから」
「私たちの最大のライバルかしら?」
「ライバル?ありえないよ」
「だって、祐巳さんが一番好きな人だって」
「それは『妹』としての話よ」
「でも、決着を付けておかなければならないわね」
「決着って…」
この二人、ちょっとした錯乱状態なのかしら?
それなら…
「ねえ?志摩子さんに由乃さん」
わたしは祐巳ちゃんの声と表情を真似する。
まあ、真似しなくても似ているかもしれないけど。
「な、何かしら」
「そ、そうよ」
「ちょっといい?」
二人に笑顔で近づく。
そんなわたしを二人は訝しげに見ている。
そして…
「志摩子さん、だーい好き!!」
「由乃さんも、大好きだよ!!」
そう言いながら二人の頬にキスをした。
いくらわたしが祐巳ちゃんじゃないとはいえ少しは効果があったようで、二人は目を丸くしている。
「い、今のは…」
「祐巳さん…」
「え、違うよ。祐沙ちゃんだよ」
「っでっでも…」
「祐巳さんと同じ匂いが…」
それは当然。祐巳ちゃんと同じシャンプーを使っているのだから。
「お二人さん、少しは目が覚めた?」
「え?」
「ま、まあ…」
「それなら、もう祐巳ちゃんの取り合いなんてやめて」
「なぜかしら?」
「貴女たちのやり方で祐巳ちゃんだけじゃなく、いろんな人にも、志摩子さんなんて拳銃でお姉さまを脅したんでしょ?由乃さんも」
「……」
「ショックで声が出ないの?」
「私、祐巳さんに夢中で…」
「私も…でも、ただ祐巳さんを守ろうと…」
「守る必要なんてないでしょ?」
「それは…」
少し震えている祐巳ちゃんを抱きしめる。たぶんもう一息。
「貴女たちが祐巳ちゃんを大切に思っていてくれているのは分かったわ。でもこれじゃあだめよ。他人を脅して蹴落として、そんな卑怯ものに祐巳ちゃんは振り向いたりはしない」
「「――!!」」
「お願いだから目を覚まして。お弁当合戦くらいなら、リリアンに乗り込んだりはしないよ。もっと違う形で祐巳ちゃんたちのリリアンに来たかった」
「祐沙さん…」
「ごめんなさい、私たち間違っていたし、どうかしていたわ」
「志摩子さん、由乃さん…」
二人からはもう変な雰囲気な消えていた。
それからまた毎日のようにお弁当合戦が繰り広げられているようで、結局わたしもお弁当と作る日が減った。
でも、
「やっぱり祐沙ちゃんのお弁当が一番安心するね」
って言ってくれる。
“ふふふ…やっぱり祐巳ちゃんの一番はこのわたしみたい。諦めかけていたけど、その必要はなさそう…ふふふふ…”
※補足
デリンジャー:『バック・トゥ・ザ・フューチャーV』にてビフ・タネンの先祖?であるビュフォード・タネンが所持していた拳銃。これに撃たれるとすぐに死ぬのではなく内出血によりじわじわと死んでいく、という設定があった。今回の志摩子さんの台詞もこれに基づいています。ちなみにこの映画のシリーズにおいて一番体を張っているのはタネン役のトーマス・F・ウィルソンさんでしょう。肥やしに三回突っ込みましたし。
フォルテール:『ソルフェージュ』というゲームに登場する魔導楽器。魔力がないと弾くことはおろか音を出すことすらできない、という設定がありました。主人公の『宮藤かぐら』はこの楽器を通してヒロインたちとの絆を深めていきます。この楽器は演奏者の感情を感じ取りその時の感情によって音が明るくなったり暗くなったりする特殊なものでした。
あとがき
ただの祐巳×祐沙のイチャイチャ話に…すみません…
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