がちゃS・ぷち

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No.3265
作者:クゥ〜
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2010-08-27 17:38:09
萌えた:6
笑った:3
感動だ:18

『過去の亡霊遠い記憶の幻影』

 「暑い〜」
 白薔薇さまが、残暑に悲鳴を上げている。
 確かに、まだまだ暑いけれど。妹も出来たのだ、もう少ししっかりして欲しい。
 「なに、祥子。その非難するような目は」
 「いえ、ただ暑いと言っているだけでは、暑くなるだけではと思いまして」
 暑いと言いながら、こちらの視線に気がつくのだからやはり白薔薇さまは気が抜けない。
 「そうね、確かに暑いと言っていても仕方ないし、怪談でもしようか」
 「どうして、そうなるのですか?」
 祥子は、白薔薇さまの提案に文句を言ったが、白薔薇さまの提案に紅薔薇さまや黄薔薇さまたちが食いついてきた。
 「良いじゃない、祥子」
 「そうね、休憩がてらやってもいいわね」
 「お姉さままで」
 「それじゃ、まずは私ね。やっぱりリリアンの怪談と言ったら朝靄の幽霊ね」
 その話は、その手の話に疎い祥子さえ聞いたことのある話で、リリアンでもっとも信じられている怪談だった。
 「その生徒は、どうしても調べ物をしたいと朝早く学園に登校したらしいわ。朝靄が銀杏並木を覆っていたけれど、気にすることなくマリアさまのお庭までたどり着いたらしいの」
 「おっ、新作」
 この怪談の基本は同じ、ただ目撃例が多いのか。様々な話が存在している。
 「それで何時ものようにお祈りをしたらしいけれど、フッと見れば横に同じようにお祈りをしている生徒がいたらしいわ。その生徒は怪談話を知っていて少し怖かったけれど、挨拶をしたらしいの」
 「おお、偉い偉い」
 「だた、挨拶したときに彼女は、相手の甘栗色の髪が左右に結ばれているのに気がついてしまったの」
 朝靄の幽霊の特徴は、その髪型。左右に結んだ甘栗色の髪。
 「彼女の挨拶を受けて、彼女はゆっくりと振り返り。挨拶を返してきた」
 「まずいねぇ」
 そうまずい。
 彼女は、挨拶の後。一緒に行きませんかと誘って来たらしいわ。それでようやく彼女は相手が噂の幽霊ではないかと怖くなって逃げ出した」
 「あちゃ〜」
 「それはダメね」
 「そう、彼女は逃げ出したその生徒を朝靄の中、追いかけてきたの」
 ……。
 『んなこと、してません!』
 祐巳は、そう毒ついた。
 相手は現白薔薇さま。だが、このリリアンに数十年住み着いている幽霊としては、見えないこともあり関係なかったりする。
 祐巳は幽霊だ。
 名前意外は何も思い出せないけれど、長いことこのリリアンに憑いている。
 『まったく、毎年毎年。夏になると人を悪霊みたいに話題にして』
 マリアさまのお庭に通う学生さんたちでも、祐巳を見れる人は少ない。だから、挨拶が出来た相手と話したいなぁと思って憑いていくだけなのに、何時しか怨霊扱い。
 悲しいことこの上ない。
 『別のところに行こうと』
 祐巳はフラフラと、まだ祐巳の幽霊話で盛り上がる薔薇の館を出て彷徨い歩く。
 祐巳は日がな一日、リリアン女学園の高等部敷地を渡り歩いている。
 別に、マリアさまの前だけに居るわけではない。
 ただ、敷地からまったく出られないから、どうやら高等部に地縛されているのは分かっている。
 祐巳は、成仏の仕方も、どうして地縛されているのかも分からない幽霊なのだ。
 ただ、不思議と霧の濃い朝は、マリアさまのお庭の前に向かう。
 何かるのかも知れないけれど、祐巳には分からない。
 『おっ?』
 楽しそうな声が聞こえる。
 フラフラ向かうと、新聞部で夏の特集としてリリアン幽霊話の記事を練り上げているところだった。
 狂い咲きの校舎裏の桜。
 動くマリア像。
 薔薇の館の十三番目の階段。
 これは祐巳には関係ない。しかも、狂い咲きの桜以外はただの噂。
 マリアさまの前の朝の幽霊。
 音楽室の幽霊。
 古い温室の幽霊。
 こちらは、すべて祐巳の目撃談のようだ。
 『またかぁ……そんなに噂するなら、今度からここに入り浸ろうかなぁ』
 以前、祐巳の怪談で盛り上がっていた部活の部室に頻繁に来て姿を見られ続けるという悪戯をしたことがある。
 『で、あの部室、開かずの間に成っちゃったんだよね』
 部活の生徒もその頃は半減し悪い子としたなぁと思ってはいる。
 「でもさぁ、こんな話していると出るんだよね」
 「そうそう」
 『そうそう』
 キャーキャー言って騒いでいる。
 「そうだ、撮ってみる?もしかしたら写るかも」
 「やだ、本気?」
 「まぁ、面白そうじゃない」
 『うん、面白いね』
 祐巳も頷く。
 「それじゃ、一枚」
 新聞部の生徒が集まったので、当然、祐巳も加わる。
 「いくよー」
 カメラの機械音が鳴った。
 覗き込む生徒たち。
 少ししてざわめき。
 そして、悲鳴が上がった。
 祐巳は、悲鳴を聞きながら部室を後にする。
 ……あっ、また悪戯しちゃった。
 そう思うが、まぁ、いいかと結論を出す。
 さて、今度は何処に行こうかな。
 祐巳はフラフラと再び彷徨う。
 フラフラと。


 朝靄の中、祐巳はマリアさまの前に立っていた。
 幽霊だって、祈りたい。
 「ちょっと、そこの貴女」
 不意に声をかけられる。
 久々に祐巳に気がついてくれた生徒が居る様子。
 『はい』
 リリアンの幽霊らしく、ゆっくりと体で振り返る。
 『ごきげ……』
 「持って」
 唐突に差し出される鞄。
 受け取る。
 「タイが乱れているわよ」
 そう言って、祐巳のタイに触れた。
 びっくりした。
 祐巳に気がついた生徒はいたものの……話しかけると逃げるし……触れてきた生徒なんて初めてだったから。
 「これでいいわ、身だしなみには気をつけてね。マリアさまが見ているわよ」
 話をすることも出来ずに、呆然と見送る。
 相手は確か、現紅薔薇の蕾。
 小笠原祥子とかいっていた。
 『……』
 祐巳は言葉無く、しばらく呆然としていた。
 ……。
 驚き、しばらくして祐巳は祥子の後を憑いて行く。
 憑いて、観察する。
 霊感そのものはないみたい。
 『偶然、波長があっただけかな?』
 触れたのには驚いたが、本当に見えるわけではないらしい。
 結局、放課後に薔薇の館に着くまで、憑いて回ったけれど。祥子が祐巳に気がつくことはなかった。
 「んっ?どうしたの祥子」
 祥子は自分の手を見ていた。
 「いえ、何だか朝から……いいえ、何でもないでしょう」
 「そう、ところで学園祭の劇のことだけれど。明日、王子役の花寺の生徒会長さんが来られるから」
 「えっ?ちょっと待ってください。王子役は令ではないのですか?」
 「あぁ、私は代役、練習相手だよ」
 「聞いていません!どういうことですか!?」
 おや?
 何だか面白い話が出てきたみたい。
 飽きたので別の場世に移動しようかなと思っていた矢先、紅薔薇の蕾のヒステリーが始まった。
 『あは』
 何時もながらの激しい口論。
 見ていて楽しいと思うのは、悪霊の感じがして少し嫌なのだけれど。こればかりは仕方が無い。
 「妹も居ないよな貴女には、そんなことをいう権限は無いわね」
 「妹ですって……」
 妹とは当然、このリリアン女学園高等部の姉妹制度の妹のこと。
 当然、祐巳に姉妹はいない。
 そして、祐巳が見ている間に様々な姉妹が受け継がれていく。
 その中に祐巳は、入れない。
 「どうしたの?」
 妹を作れと暗に言われた祥子は、自分の手を見つめていた。
 「……あぁ、成る程。私、あの子の事を思い出しうとしていたのですわ」
 なにやら独り言で頷く祥子を、現薔薇さまたちが眺めている。
 「私、どうやら妹にしたい生徒を見つけたようです」
 「本当なの?」
 「えぇ、ただ、名前どころか学年さえ知らないので、妹に出来るかは分かりませんが」
 「……何よそれは」
 祥子の話しに呆れた空気が流れる。
 そこに飛び込んできた生徒が二名。
 一人は、つい最近白薔薇の蕾になった一年生の志摩子。一人は、写真部の自称エースである蔦子。
 「どうしたの、貴女たち?」
 その慌てた様子に、紅薔薇さまが驚いている。
 「申し訳ありません、祥子さま」
 蔦子は、自己紹介もほどほどに、テーブルに写真を置いた。
 「こ、これは?」
 『嘘』
 そこには朝靄の中、マリアさまの前で寄り添う二人の生徒の写真。
 一人は優しい顔の祥子。
 そして、もう一人は……祐巳だった。
 「これって……」
 「あぁ、この生徒です。私が妹にしたいと思ったのは」
 祥子の言葉に、周囲が凍りつく。
 ……えっ?
 それ以上に、祐巳は驚いていた。
 妹?
 幽霊なのに、ドキドキが止まらない。
 「祥子、貴女、この相手が誰だか分かっているの?」
 「そう言う白薔薇さまはお分かりなのですか?て、皆さんどうしました」
 「祥子」
 呆れ顔の紅薔薇さま。
 「お姉さま?」
 「この相手って、マリア像の前の朝靄の幽霊よ。分かっていて」
 「幽霊?」
 はい、幽霊です
 「ですが、私は彼女のタイを直して上げましたよ。幽霊って触れるのでしょうか?」
 それは祐巳の方が驚いた。
 「そうよね蔦子ちゃん」
 「え、えぇ。私はただ、紅薔薇の蕾の写真を撮っただけですので……たぶん、噂の幽霊かと」
 「そう……」
 蔦子の言葉に再び写真に視線が向かう。
 「祥子、貴女。取り憑かれてはいないでしょうね?」
 「それは無いと思いますが」
 えぇ、取り憑いてはいません。
 ただ、憑いて回っているだけです。
 「でも、何だかこの写真の幽霊……驚いた表情していない?」
 「照れているようにも見えるわね」
 「何だか、幽霊ぽくないというか……ねぇ」
 どうやら落ち着きが出てきたのか、幽霊もとい祐巳の評価に変わってきている。
 「祥子は、除霊とか出来る人は知らないの?小笠原のツテとかで」
 写真を見ながら、白薔薇さまが怖い提案をする。
 『除霊は嫌だな』
 祐巳の声など、誰にも聞こえない。
 「そうですね……一応、心アタリがありますから、明日にでも来て貰いましょう」
 「それが良いわね」
 「あっ、この写真は返すわね」
 白薔薇さまは、手にしていた幽霊写真を蔦子に返そうとしたが、それを祥子が止める。
 「その写真、明日まで私が預かっていてもよろしいかしら」
 「えぇ、かまいませんが」
 「祥子、除霊した方がよくない?」
 「そうかもしれませんが、どうせ明日まで誰かが持っていないといけないのなら私が持っていたいのです。何だか、この子の表情をもっと見ていたくなって」
 「そんな事を言うと、家にまで憑いて来るよ」
 「その時は、明日呼ぶ除霊さんが駆除してくれますから、大丈夫ですわ」
 ニコニコと笑いながら、祥子は写真を受け取る。
 祐巳は複雑な気分のまま、薔薇の館から抜け出て彷徨う。


 何時しか日は暮れ、もう生徒の姿は見えない。
 大学のある方には明かりが見えるけれど、祐巳はいけない。
 暗い校舎は、肝試しにはピッタリ。ただ、その中を歩く幽霊にはあまり関係は無い。
 『明日、除霊出来る人を呼ぶって言っていたな』
 今までも何度も除霊を受けては来たが、本当に除霊できる人は居なかった。でも、幽霊の感なのか、明日は本当に嫌な予感がする。
 『そろそろ除霊されるのもいいかな』
 そんな事も思ってしまう。
 祐巳はフラフラ彷徨う。
 ボーとしていた。だからだうか、来てはいけない場所に近づいてしまった。
 『やっば!』
 そこは校舎の裏庭。
 狂い咲きの桜がある場所。
 生徒たちは、マリアさまの奇跡とか呼んでいるが。幽霊の祐巳には、本能的に危険を感じる場所だ。
 人で言えば、高層ビルの屋上の角って感じがするような場所。
 『危ない、危ない』
 祐巳は慌てて逃げ出す。
 幽霊にだって怖いものはあるのだ。



 次の日、祥子に呼ばれた除霊が出来るらしい人が薔薇の館にやってきた。
 やってきたのは五人。
 なかなかに大所帯。
 「若杉葛(つづら)といいます」
 葛と名乗ったのは、五人の中で一番背の低い女の子。それでも、祥子と同年代というのだから驚き。
 「鬼切部千羽党、鬼切り役。千羽烏月(うづき)」
 どう見ても刀にしか見えない物を手にしているのは、祥子のような長い黒髪の少女。
 「烏月さん、それじゃ、彼女たち困ってしまいますよ。あっ、私、羽藤桂(けい)って言います」
 長い髪を左右でまとめているのは、何だか少しぽややんとした感じの少女。
 祐巳は、何だか美味しそうだなと思った。
 「ユメイと申します」
 「サクヤだよろしく」
 残り二人は、名前だけ名乗った。
 二人はあまり詮索されたくないのか、黙ってしまうが、祐巳はサクヤに本能的に恐怖を感じていた。
 様々な五人の様子に、山百合会の人たちは戸惑っているが、それ以上に祐巳の方は動けなくなっていた。
 何が動けないって、見ているのだ。五人とも祐巳を、薔薇の館の部屋に入ってきたその瞬間から。
 「それでは小笠原さま、取り憑いた鬼を滅ぼせばいいのですね」
 そう切り出したのは、烏月だった。
 「えっ、あの」
 「もしかして居るのですか?」
 「えぇ、そこに」
 どうやら事態を把握したのか、紅薔薇さまが質問し。すぐさま祐巳の方に指が向けられる。
 『まぁまぁ、待ちなさいよ』
 その声は突然に聞こえた。
 「ノゾミちゃん」
 突然現れたのは、左右の色が違う奇妙な着物を着た、ショートヘアーの女の子だった。
 「きゃぁ!」
 「これは」
 ノゾミの姿は見えるのか、山百合会のメンバーが騒がしくなる。
 「ノゾミかい、どうかしたのかい」
 サクヤと名乗った、怖い人がノゾミを見る。
 『その子、生霊よ』
 「生霊だって?」
 「それでも鬼なら切るのが早い」
 「お待ちになって」
 霊能者たちの話で進んでいるところに、祥子さまが声を上げる。
 「もしも、生霊なら切らないで欲しいの。元には成るのでしょうが、同じリリアンの生徒なら助けてあげたいですから」
 「依頼者の小笠原さまの要望なら仕方がありません、まぁ、この事態は予測していましたから、桂おねーさんすみません血を彼女に飲ませてあげてください」
 「うっ、まぁ、仕方が無いのかな?」
 「桂さん」
 「あの、何を?」
 「彼女は贄の血と呼ばれる特別な血を持っているんです。その血は、魑魅魍魎に神に成れるほどの力を与えるのです」
 祐巳の前に差し出される、赤い血は、吸血などしたことの無い祐巳にとっても甘美な美酒のように見えた。
 そっと、一口だが口にする。
 『この娘!』
 最初に気がついたのは、同じ幽霊のノゾミだった。
 たった一口だったが、それだけで姿が浮き上がり。
 濃く色がついていく。
 「こ、これは!?」
 祐巳は幽霊などではなく、一人の人間としてその姿を現そうとしていた。
 『これは驚きだわ』
 「これはいったい、ノゾミ。何が起こったのか分かるかい?」
 『あら、分からないの?この匂い』
 「それは分かっている、だが、どうして体が作られた?」
 「お二人とも、私たちにも分かりように説明してくれませんか?」
 ノゾミとサクヤだけで話が進行しているのを、葛が止めた。
 「あっと、すまないね。この娘……桂なみの贄の血を持っているよ」
 その言葉にザワついたのは葛たちだった。
 『しかも、この娘の本体。つまりは本当の肉体は、どこかに封印されているか。ユメイのように異空間ともいえる場所にあるかでしょうね。それが贄の血が呼び水となってか、完全でなくても姿を作ろうとしているのよ』
 「普通の人間でも触れるねこれは」
 「私のときとは、かなり違うようですね」
 今や、祐巳の体は普通の人と変わらない状態にまで成っていた。
 「あれ、私」
 声が普通に出た。
 「貴女、お名前は?」
 戸惑う周囲をよそに前に出てきたのは祥子だった。
 「ふくざわ……」

 「福沢祐巳」

 薔薇の館に、祐巳の名前が響いた。









 夏だし怪談もの書きたいなぁと思いまして……あと、後半の登場人物はアカイイトから来ています。

                                      クゥ〜


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