がちゃS・ぷち

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No.3396
作者:ついーと
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2010-11-22 22:14:24
萌えた:0
笑った:15
感動だ:1

『志摩子、闇討ちドロップキック』

【 はじめに 】

※ 藤堂志摩子 の一人称SSです。登場キャラは志摩子、乃梨子、祥子、名無しオリキャラです。
※ 桂さんも名前が出てきますが、扱いは悪いです。
※ 設定時期は祐巳がリリアン高等部二年生の秋頃。原作の設定など無視してしまっています。
※ 志摩子の性格が原作よりも著しく壊れてしまってます。また志摩子以外でも性格が壊れたキャラが出てきます。




「 私立リリアン女学園 環境整備委員会 」

それは学園生活をより豊かで快適に過ごすために学園内の環境を整える活動を行う組織の総称である。
その活動は敷地内の美化、学園内にある設備の保持など多岐にわたる。
もっとも、この活動内容はあくまでも一般生徒に知られている「表」の一面である。
そう彼女達の活動には「裏」の一面があるのだ。
それは一般生徒はおろか、環境整備委員会に所属している生徒の中でも極一部の人間にしか知られていない存在である。

「 私立リリアン女学園 環境整備委員会 特殊清掃部隊 」

その活動内容は学園内の秩序を乱す者の排除、処分、管理などを秘密裏に行うこと。
例え人であれど学園内の環境を荒す者を許すことなかれ、という信念のもと活動を許された、まさに「掃除のプロ」としての活動である。

これは、そんな私立リリアン女学園・環境整備委員会・特殊清掃部隊に所属する一人の少女の物語である。
彼女の名前は藤堂志摩子。
またの名を「白薔薇さま」もしくは、「微笑の白い悪魔」という。




1.

「きゃー遅刻、遅刻!」
朝の静寂なるマリア様のお庭に、乙女の声と足音が慌ただしく響きわたる。
「昨日、テレビが面白くてついつい夜更かししちゃったのよねぇ」
どうやら遅刻してしまいそうなようすだ。
その証拠に周りには他に誰もおらず、時刻を見れば既に朝のお祈りの時間である。
「マリア様、ごめんなさい。帰りにちゃんとお祈りしますから、今朝だけは許して下さい」
「いいえ、許しません。学園の秩序を乱す者にはお仕置きです」
「え?・・・・・ッ!!」
突如、マリア様の像の前で手を合わせていた少女の姿が消え、そこへ別の少女が現れた。
遅刻してきた生徒と入れ替わるように現れた少女は、肩より長いふわふわとした巻き毛を風になびかせながら微笑をたたえている。
「ふぅ。またつまらないものを蹴ってしまったわ」
彼女、藤堂志摩子の学園での朝はこうして始まるのだった。


志摩子の朝は早い。
特殊清掃部隊の仕事がある日は一般生徒の誰よりも早く学園に来て、マリア様へのお祈りを済ませた後は学園内を隅々まで巡回し、異常がないか確かめる。
その後は教室へ行き、教科書などの荷物を仕舞い、予鈴間際までゆったりと予習などしながら過ごす。
もちろん特殊清掃部隊としての活動がない日などは、薔薇の館へ赴くこともある。
予鈴から1時間目の授業までのあいだは先生のお手伝いなど、何かと理由をつけて任務につく。


午前中の授業の間も気は抜けない。
もっとも宿題を忘れたり、居眠りや授業中にこっそりおしゃべりをしている生徒を注意するためではない。
彼女達は風紀委員ではない。
あくまで学園内の環境の秩序を乱す者に対して行動を起こす部隊なのである。
例えば、滅多にいるわけではないがプリントの切れ端やゴミなどを床に捨ててしまう生徒がいないか見張っているのである。
チェックしておいて、ある程度の減点が溜まったら制裁・・・もとい処分を下す、という仕組みである。
志摩子自身としては、消しゴムのカスを床に捨てている生徒もチェックリストに加えたいのだが、それでは流石に半数以上の生徒が減点対象となってしまう。
なので基本的には特殊清掃部隊で決められている項目に反することをした生徒のみを減点している。


今朝の場合も遅刻者を討伐したのではなく、朝の静寂なマリア様のお庭を乱す者として討伐したのである。
なお、遅刻者の管理は風紀委員の仕事である。




2.

昼休み。
志摩子は妹の乃梨子と共に中庭の日当たりのいいベンチで昼食をとっていた。
もちろんここでも、お昼の残りをその辺に捨ててしまったり、パックの飲み物を放置して行ってしまう者がいないか目をひからせる。
もっとも傍目からは和やかな姉妹のランチタイムにしか見えないのだが。
と、ふいに怪しげな気配を志摩子は感じとる。この気配は特殊清掃部隊の後輩のものだ。
「ふふふ、そうね。ああそうだわ、乃梨子。悪いのだけれどお昼休みのあいだに薔薇の館にこの書類を届けてくれないかしら。私はこれから少し用事があって行けなくて。お願いできるかしら?」
「うん、いいよ志摩子さん。どなたかにお渡しした方がいいの?それともテーブルの上においておけばいいのかな?」
「ありがとう、乃梨子。祥子さまか令さまがいらっしゃればお渡ししてちょうだい。いらっしゃらなければ、そのままおいてきて大丈夫よ」
「OK!他になにか伝言とかある?」
「そおねぇ?それじゃあ、放課後は委員会があるから薔薇の館には顔を出せないかもしれないって皆に伝えておいてくれる?」
「うん、わかった。じゃあ志摩子さん、行ってきます!」
「ふふ、行ってらっしゃい乃梨子」
駆け出しそうな勢いで歩く乃梨子を、手を振り優しい微笑で見送る志摩子。


乃梨子の姿が見えなくなると志摩子は人気のない方へ歩きながら呟くように話しだす。
「掃除当番の日とはいえ、姉妹の時間に水を差されるのは少し不愉快だわ」
「申し訳ございません、志摩子さま。乃梨子さんもご一緒だったのでこのような形での接触お許し下さい」
どこからともなく志摩子の耳に声が届く。
「それで何のご用かしら?仕事はちゃんとやっているわよ」
「実は志摩子さまが手掛けられた朝の一件のことで」
「朝の?ああまた彼女達ね」
「はい、遅刻者としての処罰を風紀委員側が要求してきております。どうやら朝の騒ぎの生徒、校門で一度守衛さんと接触していたようでして」
「なるほど、それで遅刻手続きがあるわけね。いいわ、もう風紀委員に引き渡しても」
「しかし」
「もうほとんど聴取も終わったし、後は処罰のみ。それに朝のあの娘には別件での減点も少ないし風紀委員に渡したところで環境整備側には何ら問題ないわ」
「かしこまりました。ですが派閥問題もございますし、上には何と?」
「今言った通りよ。それに風紀委員側に貸しを作っておいたほうが何かと動き易いでしょうし」
「はい。ではそのように」
「ええ、後はお願いね」


一般生徒に対する特殊整備部隊の活動に対して風紀委員側は色々と介入してくる。
曰く、一般生徒の公序良俗問題への規制および処罰権限は風紀委員に課せられた職務であるため、その他組織による強制介入は違法とし、一般生徒の安全を守る責務を遂行するためにその組織との対立も辞さない、とかなんとか。
要は昔からある権力争いのようなものである。
志摩子としては、そんなことをしている暇があれば少しは学園内の環境改善に努めて欲しいところであった。




3.

午後の授業間も午前とほぼ変わらず志摩子の任務は続く。
志摩子は黒板に板書される文字をノートへ丁寧に移しながらも、その思考は自分の内側へと向いてしまっていた。
朝のこと、そして昼の出来事を考えていた。


乃梨子には特殊清掃部隊で活動していることを話していない。
もちろん祐巳や由乃、祥子と令にも秘密にしている。これは言わないのではなく、言ってはならないからだ。
学園内の環境を荒す者を秘密裏に処理するため、その存在を公にするわけにはいかないからだ。
ただ志摩子がまだ1年生の頃、山百合会幹部の中で蓉子だけは知っていた。
学園内の全てを把握する薔薇さま、それが水野蓉子だった。今年、その役目を引き継いだのは志摩子である。
理由は二つ。
一つ目は、祥子や令の潔癖症で甘すぎる性格では、この学園にある昔から保たれてきた秩序が崩壊してしうから。
二つめは、一年生にして志摩子が特殊清掃部隊に所属していたから。
お姉さまである聖さまには、聖さまの卒業と同時に特殊清掃部隊の一人であることを告白した。
お姉さまはただ一言「そっか」と仰っていた。
後日、「あの時のアレはひょっとして志摩子だった」と電話がかかってきたことは記憶から消したい事実である。
志摩子には心当たりがないので他の部隊員か、風紀委員の方だろう。お姉さまの素行からして風紀委員の可能性が高いと思う。



環境整備委員は有志によって組織、運営されているため全てのクラスに環境整備委員がいるわけではない。
ましてや特殊清掃部隊に所属する者ともなれば数も限られる。
そのため特殊清掃部隊で全てを監視、対処できるわけでもないので、基本授業中の減点者イコール日常生活における要注意者みたいなものである。
でなければ、特殊清掃部隊所属者がいるクラスとそうでないクラスで明らかに罰則対象さの数が変わってしまう。


今では志摩子も要領を得て、授業中は多少の事は大目にみるようになったが、昔はそうでもなかった。
1年生の頃、授業中ある生徒が手紙を友達へと回していた。手紙といってもメモ帳やノートの端を切って、小さく折りたたんだものである。
手紙の回し読みに関しては他の生徒もやっているし、志摩子自身それを初めて目にしたわけではなかった。
ただあの時だけはどうしても我慢できなかった。
なぜ我慢できなかったのか、あの時は分からなかったが、今ならなんとなく理由がわかる気がする。


桂さんから祐巳さんへの手紙だった。
内容はわからない。わからないが、たわいのないものだったのではないだろうか。
ノートを切って、伝えたい言葉を書いて、小さく折って、桂さんの席から祐巳さんの席へ。
ただそれだけのこと。
しかし志摩子は見てしまったのだ。
桂さんがノートの切れ端を床へ落とす動作を。何気ない仕草の中のそれを見てしまったのだ。
その瞬間、志摩子は激昂した。


許せなかった。
祐巳さんと仲が良いくせに、そんな事するなんて。祐巳さんなら、きっとそんな事しない。きちんと授業の後にゴミ箱へ捨てに行くはずだ。
許せなかった。
必要ないものを簡単になかったことにするその顔で、祐巳さんに近づくことが。祐巳さんなら簡単に必要ないと切って捨てたりしないはずだ。
「(いいえ、違うわね)」
本当に許せなかったのは、祐巳さんと仲がいいこと。
私だって、いいえ、藤堂志摩子は祐巳さんと一番仲良くなりたかった。だからたぶん、ただ理由が欲しかったんだ。


その後のことはよく覚えていない。
あとで聞いた話だと、志摩子は怒りながら泣くという荒業をやりながら桂さんに詰め寄っていたそうだ。
我ながら、よくそんな感情表現豊かな行動をとれたなぁと志摩子は思う。
幸い、そんな祐巳さんみたいな不思議な行動をとったため、志摩子が特殊清掃部隊の一人であることが周りにバレル事はなかった。
それから時が少し流れて、志摩子は祐巳さんの一番の仲良しの一人になれた。
ただ祐巳さんには仲良しがいっぱいいるので時々嫉妬してしまうけれど、今では乃梨子という心のより所を得たのだ、まぁ何とか折り合いをつけている。




4.

放課後。今日は環境整備委員会の会議がある。
もっとも志摩子は会議には出席しない。表向きは出席になってはいるが、今日は特殊清掃部隊の任務をこなさなければならない。
ただでさえ少数精鋭のため活動時間が限られてしまうので、活動できるときに活動しなければ環境の秩序は保たれないという考えである。
志摩子にとっては会議であれこれ上の連中に言われるよりも、こうして暗躍しているほうが気が楽というのも本音である。
(けっ、けっして環境整備委員の名にかこつけて大量の銀杏を確保できるからとか、そんな卑しい考えなどないんだから)
気配を消しながら学園内を巡回していると部室塔の裏手あたりで怪しげな二人組を志摩子は見つけた。


「いい、乃梨子ちゃん。私達は部室塔へプリントを届けた帰りにたまたま蔦子ちゃんと会う。わかったかしら?」
「はい、紅薔薇さま。それから、偶然別の用事で出かけた私達二人が、偶然会って一緒に薔薇の館に戻ってきた。と、いうことですね?」
「ええ。それと、わかっていると思うけれど、道中それぞれ誰と接触したか、私達は互いに何もしらない。いいわね?」
「はい。例え誰と、どんな取引があっても、私達は互いに何も知りません」
「そういうことよ。そろそろ蔦子ちゃんとの約束の時間よ」
「た、楽しみですね。何か緊張してきました」
「は、はしたなくってよ。気持ちはわかるけれど家に帰ってから楽しみなさいね。でないと誰かに見られでもしたら・・・」
「そして、志摩子さんや祐巳さまに知られたら・・・っ!考えただけでも恐ろしいです」


うわー。私の妹と、私の親友の姉だわ。
特殊清掃部隊の仲間から話しには聞いていたし、自分でも薄々は感付いていた、あの二人が蔦子さんから怪しげな写真を貰っていたことを。
どんな写真か。
考えたくはない。考えたくはないが、私や祐巳さんの写真だろう。しかも割と際どい感じの。
はぁぁぁぁ。溜息しか出てこない。
それにしても風紀委員に見られたら、かなりヤバイ状況である。だって乃梨子も祥子さまも鼻息あらげて目が血走っているもの。
これは風紀委員にしょっ引かれても文句言えないろ思う。それに際どい写真云々を取引しているという会話だけでアウトだ。
それに乃梨子と祥子さまの二人は環境を荒しているわけではないから、私には手が出せないし。
しかも蔦子さんガラミの出来事は厄介なのよねぇ。どうしたものかしら?



写真部エースの蔦子さん、彼女は何を隠そうリリアンでは珍しくも環境と風紀どちらも乱す存在なのだった。
蔦子さんの盗撮ぎりぎりの活動は風紀委員に、また活動中に植木や茂みに身を潜めるため学園内の設備や備品や環境を破壊するとして環境整備委員に目をつけられている。
しかも彼女の特殊なところは特殊清掃部隊のみならず、環境整備委員全員からブラックリスト扱いされていることである。
だから志摩子も迂闊に手が出せない。
普段ならそれとなく注意できるし、注意すれば蔦子は引き下がってくれるのだが、しかし志摩子は今、会議に出席していることになっている。
瞬時に仕留めるにしても、流石に乃梨子と祥子の目を盗んではやりずらい。
いっそ三人まとめて仕留めても良いのだが、乃梨子と祥子は普段は模範生徒なため後で上や風紀員から色々言われそうだった。


「(いえ、まって。そうだわ!)」
乃梨子と祥子の二人を監視しながらも、この状況を打破すべく試案していた志摩子の脳裏に突如天啓がおりてくる。
そう、こういったややこしい事態のために朝の件の少女を風紀委員に引き渡し貸してを作ったのではないか。
もともと、志摩子が作った貸しだ、志摩子の手でちゃらにして何が悪いというのだ。
「(ふふふ、これも私の日頃の行いが良いからね。マリア様はちゃんと見ていて下さっているということね。ありがとうございます、マリア様)」
恐ろしいことを心の中で呟きながら微笑する白い悪魔。


罪状は、部室塔裏手の植木および茂みに不用意に侵入し破損させたためとしてデッチ上げてしまおう。
そうと決まれば、行動あるのみ。
いくら志摩子とて、三人よりも二人の方が仕留め易い。だから蔦子が来る前に乃梨子と祥子をヤッてしまおう。
蔦子が来ても、環境を破壊しなければ、そのまま見逃してもいいし。
どちらにせよ、まずは目の前の二人だ。これは環境云々もそうだが、個人的な制裁の意味合いも含めてであるが。


志摩子は気配を消しつつ、その足を加速させる。乃梨子と祥子の背後へと移動しつつ、ぐっと両足に力を込める。
やはり、一瞬で相手の意識を刈り取るにはこの技がいい。そう思いながら志摩子は空へと飛び立つ。



「(藤堂流、フライング・ドロップキック!!)」



刹那、部室塔の裏手に声なき叫びが二つ同時に木霊した。
なお、後から来た蔦子を討伐し、その懐から祐巳と自分の写真を失敬して、ちゃっかり家に持ち帰ったのは志摩子だけの秘密である。



おしまい



【 あとがき 】

読みづらいかもしれませんが読んで頂けたのなら嬉しいです。誤字脱字等ありましたらお許し下さい。
ごくまれに志摩子さんが銀杏ボムを投げてくるので、ご注意ください。


(コメント)
徹りすがり >キックというと・・・志摩子「お姉さま、あれを使うわ」 聖「ええ、よくってよ」(No.19378 2010-11-24 09:06:21)

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