がちゃS・ぷち

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No.3420
作者:bqex
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2010-12-28 22:38:52
萌えた:0
笑った:7
感動だ:23

『目が眩みます』

『ミラクル江利子ビーム泣かないでお姉さま眼がくらみます』3/3
【No:3331】【No:3355】【これ】念を受け取り損ねてまさかのBGN(笑)【No:3336】



 花火があがったのが見えてから数分後、この時間の真美の持ち場である第一体育館の近くに由乃さんと志摩子さんが逃げてきた。

「おっ、真美さん」

「悪いけど、中立の立場だから何も教えてあげられないわよ」

「わかってるわよ」

 二人は隠れているつもりらしく壁に背中を預けて相談する。

「これで祐巳さんが来なければ最悪二対四で負けているということになるから、罠を覚悟で旗を落としに行かなくてはならないわね」

 志摩子さんが辺りをうかがいながら言う。

「旗を狙いに行っても守りに入られたらきついわよ。水切れになったらあの場所では給水出来そうなポイントは遠いし。自転車もないし」

 どうやら現役組は自転車まで用意して戦っていたらしい。
 なんて面白いことをやっているんだろう。これが新聞部主催のイベントだったら事細かに書けるのにそれが出来ないだなんて。真美は生殺しにされている気分だった。
 由乃さんと志摩子さんは脳内シミュレーションを繰り返し、ああでもない、こうでもないとブツブツ言っている。

「……祐巳さん、こないわね」

「捕まってるみたいね。じゃあ、旗を落としに行かないと……オペレーション『ロサ・ギガンティア』でいいかな?」

「ええ」

 会話から察するに、オペレーション『ロサ・ギガンティア』はゲリラ戦法らしい。
 二人は綿密に打ち合わせて話に集中し過ぎていた。

 ――ザッ

「あっ!!」

「先手必勝!」

 足音に気がついた二人は隠れてやり過ごすのが無理と判断したらしく、同時に水鉄砲のトリガーを引いた。

「うわあああっ!!」

「あああああっ!!」

「ぎゃあああっ!!」

 人が突然現れて頭が真っ白になった由乃さん、味方を攻撃してしまってショックを受ける志摩子さん、そして仲間から突然水鉄砲で攻撃され水浸しになり驚く祐巳さん。三人は同時に悲鳴をあげていた。

「あ〜あ」

 びしょびしょになった体操服を見て困ったように眉を下げる祐巳さん。

「ごめんなさいっ!」

「てっきり、江利子さまたちかと」

 必死に詫びる志摩子さんと由乃さん。

「いや、いいよ。気持ちはわかるし。保健室に行ってタオル借りるから。遭遇しても三人なら何とかなるでしょう」

 寛容な祐巳さんはそう言って二人を慰める。

「……いや、それが」

「ごめんなさい」

 なんと二人とも必死に攻撃したため、ほとんどの水を使い切ってしまっていたというのだ。

「二人が給水できるのはいつ?」

「あと十五分以上」

「ああ、給水ポイントにいるのに……いや、ここにいたら満水だと思って襲ってこないかもしれないから、もう少しここで待とう」

 真美のすぐそばの水飲み場を祐巳さんは恨めしそうに眺めた後、話を切り替える。

「で、状況は? こっちは瞳子が捕まっちゃった」

「こっちも見ての通り菜々と乃梨子ちゃんが捕まって。向こうは聖さまがリタイアだから三対四ってとこかしら」

「あ、蓉子さまもリタイアさせたよ」

 祐巳さんが言う。

「本当!? じゃあ、今は三対三の五分なのね!」

 由乃さんは急に元気になる。

「でも、三対三の五分ということは旗を落とすか、誰かをリタイアさせなくてはならないということね」

 志摩子さんが考える。

「向こうはケータイでリアルタイムに情報をゲットしてるから、もうこっちが三人しかないって事は知られてるだろうし」

「うわ、ケータイ! なんでそれ忘れてたんだろう。こっちは普段使わないから失念してたよ」

 祐巳さんは頭を抱えた。

「残りのメンバーを考えたら令ちゃんがディフェンスかな。旗は高いところにあって、令ちゃんが一番背が高い。旗をガードするウチワとか用意してるかも」

「逆に二人がディフェンスかも。令さまに一対一に持ち込まれたら勝てないよ。ここは自転車で速攻かな?」

「ごめんなさい。自転車の鍵は乃梨子と菜々ちゃんが持っているから使えないのよ」

「……」

 志摩子さんと由乃さんは祐巳さんに謝ってばかりである。

「一番難しいパターンになっちゃったみたいだね……あ、そろそろいいかな?」

 給水可能な時間になって由乃さんと志摩子さんが水鉄砲を満タンにすると、三人は話を一旦切りあげて保健室に向かってしまった。

(最後まで聞きたかった……)

 同窓会のイベントであることを激しく恨む真美だった。

 ◆◇◆

 乃梨子、菜々ちゃんを置いて祥子さまと江利子さまはすぐに部屋から出ていった。間をおかずリタイアした令さまが入ってきた。
 瞳子は捕らわれの身ではあったが、平日と同じように一同にお茶とお菓子を勧めると、令さまに「前より更に美味しくなったね」とお褒めの言葉をいただいた。
 五人の中で最も運動神経のいい令さまをリタイアさせての三対二は勝利に大きく近付いたためつぼみたちには余裕が生まれた。一方、リタイアした方はまだ頑張っている仲間に託してしまうと暇になったのか、日頃絡むことの少ない後輩たちに興味を持って積極的に会話してきて楽しいひと時になった。
 その弛緩した空気がおかしな方向に七人を誘った。それはこの言葉から始まった。

「叔母さんってばなんで私が負けた時に限ってミルクホールに職員室のお弁当の残りを下げに来るかな。オマケに『令ちゃんにはこれが似合うと思うわ』って、こんなことを書くなんて」

 『負け犬』と書かれたゼッケンを見せながら令さまはそうぼやいた。

「打ち合わせでは現役山百合会による誤爆を防ぐために『リタイア』がわかる言葉を書くことになっていたんだけど」

 山村先生は旗をチェックしながらそう教えてくれた。

「私も由乃ちゃんのお母さんに書かれた」

「私の時も『も』って言ってたからたぶん」

 『落伍者』と『落人』がそっと手をあげて申告する。

「お姉さまのお母さま、素敵な方ですね」

 菜々ちゃんがくすくすと笑う。

「あ」

 乃梨子が声をあげる。

「どうしたの?」

 瞳子は聞いた。

「いや、大したことではないんですが」

「言いかけてやめる方が気になるじゃない」

「くだらなくてもいいから言っちゃいなさい」

 聖さまと蓉子さまに促され、乃梨子は言った。

「江利子さまと祥子さまのゼッケンにはなんて書かれるのかな、なんて……」

 言った本人はふと思ったことを口に出してしまっただけなのだろう。
 しかし、ここには暇人が七人もいるのだ。
 次の瞬間、全員が真剣に考え始めた。

「『敗北者』とか」

「『戦死者』とか」

「『玉砕』……いや、もっとなんていうか、パンチのきいたことを書かれそう」

「『負け組』」

 ボソッと令さまが呟く。

「そんな感じなんですか」

 乃梨子が相槌を打つ。

「それだとなんかそのままこっちが負けそうじゃない。まだ勝つ可能性だってあるのに」

 蓉子さまが渋い表情で言う。

「思いつきました。『落日』っていうのはどうでしょう?」

 菜々ちゃんが言う。

「それだ!」

 全員が納得したようにうなずく。
 たぶん、江利子さまの額を一緒に思い浮かべたはずだ。

「最後の人は『絶滅』とか書かれそうですよね」

「嫌だわ。書かれたらこっちの負けってわかってるのに見たくなったじゃないの」

 瞳子の言葉に蓉子さまがそう反応すると、どっと全員が笑う。

(勝敗抜きに、リタイアのゼッケンが見たい……)

 薔薇の館の七人に妙な連帯感が生まれた瞬間だった。

「ここで決着がつかないかな?」

「どうせ、あの二人、旗を守っているんでしょうから見られるんじゃないの?」

 聖さまと蓉子さまが窓から覗き込む。

「……あれ」

「いないわね」

 お二方が戻ってくる。

「今、攻撃されたら負け確定か……何やってるんだろう、お姉さまたち」

「このままでも負けだから勝負に出たんでしょうね。……あの二人らしいわ」

 蓉子さまが唇の端を微かに上げる。

「現役の薔薇さまはどうしてるんだろうね?」

 聖さまが呟いた。
 つぼみたちはそのまま隠れていれば勝ちが決まるので現薔薇さまたちはうまく隠れているのだろうと思っていた。
 その時、下の扉が開く音がして、次に荒々しく階段を駆け上ってくる音がした。

「ゼー、ハー、ゼー、ハー」

 悔しそうな由乃さまが扉を開いて入ってきた。
 のんびりとしていた薔薇の館のサロンの空気が一気に変わった。

「ああっ! 令ちゃんがリタイアしてるなんてっ!!」

 悔しそうにテーブルを叩く由乃さま。

「お、お姉さま!?」

 お茶の準備をしていた菜々ちゃんが驚く。

「そうじゃなければ逃げたのに」

「一体、何があったの?」

 令さまが代表して尋ねた。

 ◆◇◆

 時間は少しさかのぼる。
 乃梨子ちゃん、菜々ちゃんを薔薇の館において祥子は江利子さまと一緒に薔薇の館を飛び出した。
 もう後がない。
 現役山百合会が用意した自転車を奪って使用することにした。なりふり構わず使える物は使う。荷台に使えそうなものを載せる。
 自転車を走らせ探していると三人揃って校舎から出てくるのが見えた。

「行くわよ!」

「はい!」

 気づいた三人は逃げずに水鉄砲で放水を開始する。
 射程範囲に入らないように注意しながら、ゆっくりと間合いを広げる。

「ノーガード、両手でハンドル握ってる今がチャンス!」

 由乃ちゃんがわかりやすく突っ込んできた。こっちもわかりやすく逃げたり水鉄砲を狙うそぶりを見せる。
 三人の間合いが少し広がってきたようだ。

「食らいなさいっ!!」

 江利子さまは手持ちのビームライトで由乃ちゃんの目を狙って照射した。

「卑怯な!」

 頭に血が上った由乃ちゃんは祥子の自転車を追いかける。

「祥子さま! 私の自転車を返せっ!!」

 こちらにむけて放水してくる。

「たまたま落ちてた自転車を拾っただけよ!」

 それは嘘。鍵は乃梨子ちゃんと菜々ちゃんから無理矢理奪った。

「えいっ!」

 祥子は足を伸ばして江利子さまに気を取られていた志摩子の水鉄砲を蹴り飛ばした。

「させませんっ!」

 祐巳が放水してくるので逃げる。
 由乃ちゃんが逃げ出した。水切れになったらしい。

「逃がさないわよっ!」

 江利子さまが追いかけ回す。
 祐巳がフォローに入ろうとするのを自転車で回り込み、水鉄砲にウチワで対抗する。

「祐巳さん!」

 志摩子が水鉄砲を拾ったのを合図に由乃ちゃんに狙いを絞る。
 孤立させて、回り込んで、じわりじわりと由乃ちゃんを追いこんだ。

「仕上げよ!」

「はいっ!」

「何を――」

 布で由乃ちゃんをくるむ江利子さま。

「うわあっ!」

 自転車を飛び降り祥子は由乃ちゃんをぐるぐる巻きにする。

「行くわよ!」

「はいっ!」

 由乃ちゃんを連れて薔薇の館に向かった。自転車は鍵をかけて使えないようにして乗り捨てた。
 暴れたりわめいたりする由乃ちゃんに苦労させられたが、祐巳たちは水切れなのか襲ってこなかった。
 薔薇の館に到着し、旗が無事なのに安堵しながら布を外してやると由乃ちゃんが飛び出した。

「ああっ! 薔薇の館っ!!」

 由乃ちゃんは現在地を察すると諦めて二階に向かった。

「あと、二人」

「はい」

 薔薇の館から段ボール箱を持ち出してバリケードを作って待つ。
 審判役の卒業生たちが何人か移動してきた。

「くるわね」

「はい」

 しばらく経って、茂みに隠れながら祐巳たちがやってきた。

「隠れても無駄よ。あなたたちがどこにいるかくらい、わかっていてよ!」

 祥子が呼びかけると志摩子が出てきた。カモフラージュのつもりかハチマキやら体操着やらに枝を挿していてもの凄い格好になっている。同様の格好をした祐巳は江利子さまと対峙している。

「行きます!」

「来なさいっ!」

 残り時間からいって旗を落とされたら負ける。
 とにかく水鉄砲を奪ってしまえば『子』は逃げるしか方法がなくなるが、そこは心得ていて地味にゼッケンを攻撃してくる。

「そんな攻撃が通じると思って?」

「祥子さまこそ、それでは私を捕まえられません!」

 戦いは熾烈を極めた。

「……やるわね、志摩子」

「ここまで粘れるとは思ってもみませんでした」

 志摩子の水鉄砲に水はほとんど残っていないはずだが、ここで焦って薔薇の館に連れ込もうとして旗を落とされては水の泡。
 隙を突くように志摩子は旗に向かって放水し、祥子はウチワを伸ばした。

「くっ!」

「はっ!」

 水は思ったより飛ばなかった。
 この飛距離では薔薇の館に連れ込んでも旗には届かない。

「ええいっ!」

「ううっ!」

 祥子は志摩子に飛びかかり、水鉄砲を押さえつけそのまま薔薇の館に引きずり込もうとするが、志摩子は精一杯抵抗する。ウチワがなければ一気に薔薇の館に持ち込めそうだが、どうするか。
 じりっ、じりっ、と薔薇の館に近づき、江利子さまが祐巳と互角以上に戦っているのに巻き込まれないようにしながら、最後は賭けに出て志摩子を抱え薔薇の館に飛び込んだ。

「はい。祥子さんアウト。志摩子さんは捕らえられたので二階へ」

 中にいた審判役の卒業生が宣言した。やはりやられてしまった。

「祥子さんは誤爆防止に……」

 二階のサロン兼会議室に入ると一歩先に入った志摩子以外の全員がこちらの方を見て爆笑した。

「なんなんですか?」

「『落武者』か! それ、ピッタリ!」

 確かに大立ち回りを繰り広げたので髪はばさばさになっているが。

「き、気にしないで。後で説明するから……」

 蓉子さまはうつむいているが、笑いが堪えられないようでプルプルと両肩を震わせている。

「お姉さまっ!」

 窓の外を見ながら瞳子ちゃんが叫んだ。祐巳に何が起こったのか。
 窓に駆け寄ろうとした時、令が止めた。

「祐巳ちゃんは私たちが落ちたことに気づいてないかもしれない。だったら、ここから見えないようにしてプレッシャーをかけるという手も――」

「いつまでも出ていかなければ気づくわよ! あなたもやせ我慢しないで自分のお姉さまを応援したら?」

 笑われて機嫌が悪かったので令に当たってしまった。
 だが、令はこれが引き金になったようで、窓に張り付くようにして外を見た。
 祥子もその隣からそっと覗いた。
 二人はまだ戦っていた。

 ◆◇◆

 祐巳ちゃんは予想通り手強い相手だった。
 このイベントを制するためには戦術、駆け引き、統率力、判断力、観察眼など人を引っ張っていくのに必要な要素が多い。
 そのことに気付いた祐巳ちゃんはそれを面白いと言った。そして、音楽を鳴らしたり、自転車を用意したり、自ら死んだふりをしたりと散々翻弄してくれた。
 今も水切れを起こしたように、ほとんど撃たないと思って不用意に近づくと撃ってくる。
 祥子がまだ戻ってこない。志摩子と相討ちになったのか? 後どの位水が残っているのか? 狙いはこちらなのか? 旗なのか? 時間は後どのぐらいある? 引き分けに持ち込むのか、あくまで勝利を狙っているのか?

 ――シュッ!

 考えていると放水してきた。ウチワで防ぐ。ビームライトを取り出した時、計算外の事が起こった。

 ――パシャ! パシャ!

 フラッシュが周りで光った。同窓会誌に載せると言ってたカメラマンがいたんだった。これではビームライトの効果が薄いし逆にこちらの目がくらむ。
 一瞬の隙をついて祐巳ちゃんが薔薇の館にダッシュした。真下から旗を確実に狙うらしい。
 江利子はすぐに追いかけ、祐巳ちゃんの肩に手をかけると思い切り引っ張った。

「うわあっ!」

 祐巳ちゃんは転んだ。水鉄砲を押さえつけようと伸ばした江利子の手を逆に祐巳ちゃんが捕まえて同時にトリガーを引いた。

「当たってーっ!!」

 ゼッケン狙い! 江利子は紙一重でかわし、水鉄砲をビームライトを握った手で払い飛ばした。ちょっと痛かったけど。

「残念だったわね」

 抵抗する祐巳ちゃんを無理矢理引き起こし、さあ薔薇の館に連れ込もうと玄関を見ると現役組の五人が飛び出してきた。

「な……!?」

 なぜここに五人がいるの? いつ旗が落ちたと? さっきの祐巳ちゃんの攻撃はゼッケンと旗の両狙いだった!? そう、そうだったの。と思った時には祐巳ちゃんに抱きつかれ、志摩子が、乃梨子ちゃんが、菜々ちゃんが、瞳子ちゃんが江利子の腕や脚にしがみついていた。

「お覚悟おぉーっ!」

 由乃ちゃんが叫びながらトリガーを引いた。

 ――シュッ!

 あ、終わったんだ。と思ったより冷静に受け止めている自分がいた。

「江利子さん、アウト! 現役山百合会の勝利!」

「令さまはっ!?」

「落ちてる! 勝ったよ!」

 令の脱落に気づいていなかった祐巳ちゃんに由乃ちゃんが勝利を教える。
 わっと現役組六人が集まって歓喜の輪を作った。
 茫然と見つめていると審判がやってきて江利子のゼッケンにリタイアの証を書きこんだ。
 敗北を知らされた卒業生組がぞろぞろと外に出てきた。

「あ。江利子のなんか綺麗じゃない?」

「私たちなんか『落人』とかなのに」

 真っ先に聖と蓉子がゼッケンを指して言う。
 江利子のゼッケンには『散華』と書かれていた。

「敗者をいたぶる趣味はないわよ」

 審判が言う。

「だったら、どうして私たちのゼッケンにはこんな事を書いたんです?」

 令が詰め寄る。

「だって、屈辱的な事を書かないと残った人が燃えたり怖がったりしないじゃない」

 と、にっこりと審判が笑うと令はがっくりと肩を落とす。

「あーあ、つまんないのぉ」

 わざとらしく蓉子が言う。

「中途半端に綺麗って面白くないですね」

「まあ、普通というか期待外れというか、平凡?」

「『絶滅』とか期待してたのに」

 祥子、令、聖が口々に言う。

「あなたたちね! 最後まで戦い抜いた仲間に対して言うことはそれっ? まるで私が面白くないような言い方はやめてっ」

「だって」

「ねえ」

 聖と蓉子が顔を見合わせる。

「実際、面白くないもの」

 ハモった。ハモりやがった。

「……いい加減にしろおぉーっ!!」

 暗くなったところに目を狙ってビームライト。

「あーっ!」

「目がーっ! 目がーっ!」

 目がくらんだところを頭突きで攻撃してやった。

「ぐふぁ!」

「いたたた……」

 フン。だ。

 ◆◇◆

 プールのところにあるシャワーで汗を流して着替えてミルクホールにいくと、審判役の卒業生の皆さま方が拍手で迎えてくれた。

「よく頑張った!」

「お疲れさま!」

 勧められるまま上座のテーブルに座らされると司会者が出てきた。

「うわ、菫子さん」

 乃梨子さまが呟く。

「『夢の対決! 現役山百合会vs卒業生山百合会』の表彰式を行います! まず、勝利チームの現役山百合会に同窓会からプレゼントです!」

 六人全員で立ち上がって前に出る。

「おめでとう。よく頑張りました」

 プレゼンターとして壇上に現れたのは学園長だった。派手な水引のかかった袋が手渡される。

「ありがとうございます」

 薔薇さま方が同時に受け取ると拍手が起こった。

「続きまして、敗れたものの健闘を見せてくれた卒業生山百合会チームには敢闘賞を!」

 五人のお姉さま方はちょっと複雑な表情で壇に上がって賞品をもらっていた。

「MVPは勝利の決め手になった旗攻撃を敢行した福沢祐巳さんです!」

 祐巳さまは予想外だったらしく驚いていたが、促され前に出る。

「お母さん!」

 壇上のプレゼンターを見て祐巳さまは思わず声をあげていた。

「祐巳ちゃん……」

 祐巳さまのお母さまは賞品を持ったまま祐巳さまに抱きついた。

「あ、あの?」

「おおっと、娘の活躍ぶりに感動したプレゼンターが泣いてしまいました! 皆さま、温かい拍手を!」

 拍手の中、わけがわからないというように祐巳さまは百面相をしている。
 そっと他の人たちが二人を促し壇から降り、祐巳さまはしばらくお母さまをなだめていた。
 それからお茶で乾杯して、夕御飯としてお寿司を食べていると卒業生山百合会の皆さまがこちらにやってきた。

「今回はやってくれたわね」

 蓉子さまが笑顔で祐巳さまに言う。

「旗に当たったのは運です。あれを江利子さまに避けられた時には負けたと思いました」

 そう祐巳さまは白状した。

「あれは避けるしかなかったわよ。旗に届くだなんて思ってなかったし」

 思い出してちょっと悔しそうに江利子さまが言う。

「運も実力のうちっていいますから」

 由乃さまが胸を張って言う。他人の水鉄砲を奪い取って江利子さまにとどめをさすと言って聞かなかったのはとりあえず内緒にしておく。

「あの自転車は反則よ。次にやることがあったら、あれは全力で阻止するわ」

 と、祥子さまが言うと。

「そうですね。来年やるとしたら、こっちが不利になりますから事前の申し合わせでそういうのは排除して――」

 なんて祐巳さまが言いだす。

「またやるつもり?」

 令さまが恐る恐る聞く。

「私たちはいろいろ忙しいけど、祥子と令はまだ余裕があるだろうし、祐巳ちゃんたちという力強い新メンバーも加わるしね」

 にやり、と聖さまが笑う。

「そうよ。勝ちたかったら乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんは妹を作って今から鍛えるのね」

 いつの間にか卒業生側についた由乃さまがそう言った。

「そうきますか!」

「やる気満々じゃないですか!」

 乃梨子さまと瞳子さまはブーブーと文句を言うが、いつの間にか薔薇さま方は卒業生側についている。

「菜々ちゃん、年度が変わったらすぐに妹を作れるように今から中等部の子で目をつけておかないと」

「へ?」

 菜々は予想外の言葉にうろたえた。

「そうよ、菜々ちゃん。来年度の現役チームのエースはあなたよ!」

「なんでいつの間に恒例化しようとしてるんですかっ!?」

 すると祐巳さまが言った。

「それはね。面白かったから」

 つぼみ以外の全員が笑った。
 でも、菜々たちつぼみはちっとも笑えなかった。

 ◆◇◆

 しばらく後の薔薇の館前。

「あっ、そこ割り込まないで! 押さないで!」

 そこには大勢の生徒たちが集まっていた。

「何の騒ぎなの?」

 様子を見に来たのは祥子さま。大学の方まで騒ぎが知れ渡ってしまったようだ。

「お姉さま、ごきげんよう。今日は茶話会なんです。今年はガーデンパーティーでして」

 ああ、と祥子さまは納得した。
 賞品は商品券とアイスクリーム券だったのでこのような形にしたのだ。今年は飛び入り参加しやすいようにとガーデンパーティーにしたら、アイスクリームを配っているのを見かけた生徒たちが大勢押し寄せてこの騒ぎになってしまったのだ。

「アイスクリーム目当てって子もいますが、二人が目当てって子もいっぱいいます」

 瞳子と乃梨子ちゃんが下級生に囲まれておしゃべりしている。二人の未来の妹があの中にいたらと思うと祐巳はちょっと不思議な気にもなる。

「去年みたいにならないといいわね」

 すみません、去年は参加者からは選びませんでした。

「ええ。でも、あの二人も本気で妹たちを選ぶきっかけになりましたし、本当に同窓会のイベントに参加してよかったと思います」

「まあ、あなたがそう思っているならいいわ」

 祐巳の言葉に祥子さまは微笑んだ。

「二人のことですからきっと手強い妹を作ると思いますけど、来年は一緒に勝ちましょう。お姉さま」

 祐巳がそう言うと、祥子さまは一瞬驚いた後、にっこりと笑った。

「そうね。負けたままでいるなんて、私、我慢できないもの」

「祐巳さーん!」

 由乃さんが呼んでいる。

「呼び止めて悪かったわね」

「いいえ。お姉さま」

 ごきげんよう、と微笑みあって二人は別れた。
 リリアン女学園。
 ここで手に入れた絆はひと時ではなく永遠に続いていく。今日の出会いがその続きとなりますように、と思いながら祐巳はみんなにアイスクリームを配るのだった。

「はい。これでアイスはラストです」

「あれ、私の分がない」

「祐巳さん、先に食べておけばよかったのに……」

 そりゃあ、甘党の祐巳がアイスクリーム券に目がくらまなかったかっていえば嘘になる。
 でもこれって山百合会を代表していただいたんだからって、還元することにして。それに茶話会の間にたべれるからいいやって思ってたのに。

「美味しかったですよ」

 ら、来年も勝って絶対にアイスクリーム券をゲットしてやる!


〜終わり〜


ガチャSファンさまへ

素敵なキー配列を
ありがとうございました。
三分割になりましたが、
気に入っていただけたら幸いです。
『ステップ』発売前までに引きたかったのですが、
こればっかりは……
年を越さなくてよかったというところでしょうか。
『目がくらむほどの美貌』キーに
腰砕けたのは内緒です(笑)

             bqex拝


(コメント)
bqex >これで年が越せます(笑)『ステップ』はAmazonで頼んだのでまだ読んでません(泣)(No.19550 2010-12-28 22:45:40)
ガチャSファン >完走おつかれさまでした。そしてありがとうございました。最敬礼! (ロ_ロ)ゞ(No.19551 2010-12-28 23:16:25)
ガチャSファン >どっちを勝たせるつもりなのか決着つくまでほんとーに読めなかったので、ちょっとドキドキしたのはナイショにして下さいね。(^^)b(No.19552 2010-12-28 23:23:00)
素晴 >おー、ついに完結。なんとか年内にキーが引けましたね。これで年が越せますw(No.19553 2010-12-29 02:35:27)
bqex >ガチャSファンさんへ> ギリギリの泥試合が好きなもので、こうなりました。敬礼ξ(・A・)ξゞドリッ(No.19557 2010-12-29 12:15:53)
bqex >素晴さんへ> 読み手もやきもきしてたのですね。念をありがとうございましたm(_ _)m(No.19558 2010-12-29 12:17:49)
ex >bqexさま、楽しい作品をありがとうございます♪ 笑いながら読ませていただきました。 わたしがssを書くようになったのはbqexさまの影響が一番大きかったんです。 それにいろいろとアドバイスをいただきましてありがとうございました。(No.19561 2010-12-29 22:55:42)
bqex >ありがとうございました、って過去形!? どこかへ行っちゃうんですか、exさ〜ん!(No.19572 2010-12-30 22:52:15)
ex >すみません、変なとこで挨拶が終わっちゃったんですね。来年もよろしくお願い申し上げます。(No.19577 2010-12-31 08:49:50)

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