がちゃS・ぷち
[1]前
[2]次
[3]最新リスト
[4]入口へ戻る
ページ下部へ
No.1994
作者:杏鴉
[MAIL][HOME]
2006-11-18 06:02:31
萌えた:1
笑った:16
感動だ:0
『あ・・・』
【No:1989】の続きだったり、そうでなかったり……。
お祈りを済ませた私達(私は祈っていないが)は、一緒に薔薇の館へと向かった。
交わす言葉は少ない。
けれど、心は満ち足りていた。
彼女も私と同じように感じてくれているなら、どんなにいいだろう。
想いや気持ちが目に見えるものだったら……。
そんなどうしようもない事を考えながら、また私はそっと彼女の横顔を見つめる。
彼女は空を見上げていた。
私もつられて空を見た。
そこにあったのは、どんよりとした黒い雲。今この瞬間にも降りだしそうな、そんな空だった。
私は憂鬱な気分になった。
雨は嫌いだ。面倒くさいから。
「今日はお天気が悪いので、髪がまとまらなくて大変でした」
その声に、無意識のうちにしかめていた表情を緩め、空から彼女へと視線を戻す。
大変≠ニ言いながら、彼女は笑っていた。
どうして彼女はこんなふうに笑えるのだろう?どうして彼女は…………
私は内心の惑いをカケラも出さず、そうなの、とだけ言った。
「お姉さまの真っ直ぐで、艶やかな髪が羨ましいです」
そう少し拗ねたような、それでもどこか楽しそうな顔で言われた。
だから私はこう答えた。
――私は貴女の髪、好きよ。
とたんに真っ赤になってうつむいてしまった。
少し意地悪したくなって顔を覗き込んだら、アワアワ言いながら表情をくるくると変えて
さっきよりももっと真っ赤になって、よりいっそう深くうつむいてしまった。
私はクスクス笑いながらもう一度空を見上げる。
空はあいかわらず黒い雲に埋めつくされているけれど、もう私は顔をしかめたりなんかしない。
だって隣に彼女がいるのだから。
彼女が隣で微笑んでくれるのだから。
バサバサバサっ!
その時、一羽の鳩が少し離れた木から飛び立った。
こちらの方へ羽ばたいてきた平和の象徴を、私は幸せな気持ちで眺めていた。
ぴゅ〜〜〜〜
〜〜〜〜ぴちょっ
――っ!?
平和の象徴……いや、ただの鳥が飛び去り姿を消した後も、私はその場で固まったまま身動きがとれなかった。
隣で彼女が傘を差そうとした手を止めて、不思議そうな顔でキョロキョロと空を見上げている。
彼女がそうする度に、リボンで二つに結ばれた髪がゆらゆらと揺れて
いつもならその愛らしさに目を細めるのだが……今の私の視線は彼女の後頭部にロックオンだ。
本当の事を話してしまおうか……?
――いや、やめておこう。
もう少し、彼女の姿を見つめていたいから。
(コメント)
[6]前
[7]次
[8]最新リスト
[0]入口へ戻る
ページ上部へ