がちゃS・ぷち
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No.2383
作者:朝生行幸と『がちゃS』の愉快な姉妹たち
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2007-10-06 21:16:27
萌えた:200
笑った:6
感動だ:1
『真剣な表情できっと巡り会えるそんな人』
※調子に乗って、読者参加企画第二弾。
(↓お題↓)
──────────────────────────────────────
「よし、決めた!」
花寺学院生徒会室、通称ガラクタ小屋にて、唐突に何かの決意を宣言したのは、生徒会会計担当の小林正念だった。
「……で、何を?」
握り拳でそのまま固まっていた小林──突っ込まれるのを待っていたのか?──に、ようやく生徒会長の福沢祐麒が声をかける。
同僚の高田鉄や、有栖川金太郎も、大して興味なさそうに小林を見ていた。
「僕……いや俺、あの娘に告白する!」
『………』
また始まったか。
一同がそんな目で小林に視線を送るが、彼はそんなことをいちいち気にするタマではない。
「それで、相手は何処の誰なんだ? 勝算はあるのか?」
「当然リリアン生だが、名前も学年も知らん。勝算については、全く解らん」
男子校花寺の生徒にとって、お隣とはいえ接点がほとんど無いリリアン女学園の生徒とのお付き合いは、羨望の的になれるこの上ないステータスなのだ。
もっとも、そういった打算でリリアン生と交際したがる者はほぼ皆無ではあるのだが、交際出来れば出来たで、大きな付加価値があるのも事実。
「つまり、いつもの行き当たりばったりってことだな?」
「だって、それは仕方がないだろう? お前みたいに身内がリリアン生ってんならともかく、只でさえムサイ花寺だ、リリアン生との接触は極めて少ないんだ。遠くから見て、恋心を募らせるしかないじゃないか」
ちなみに祐麒の姉は、リリアン女学園の生徒であり、しかも生徒会役員の一人でもある。
「まぁ確かに」
「だから、先のことをとやかく考えるよりも、まずは接触してみないことにはな」
「……そうか、まぁ頑張れよ」
「そうね、結果はともかく、挑戦する意気込みは大切よ」
「心配するな、オレ達はお前の味方だからな」
「みんな、ありがとう!」
励ましのような慰めのような、どっち付かずの微妙な声援に、気付いているのかいないのか小林は、とにかく妙に前向きな姿勢で、決意を新たにするのだった。
準備期間に一週間を費やした後、ついに小林は行動に出た。
遠くにあの娘の姿を確認し、電柱の影に身を隠して深呼吸しつつ、タイミングを計る。
「あ、あの!」
影から飛び出し、頭を下げた。
「俺と付き合って下さい!」
──────────────────────────────────────
と言う訳で皆さん、この後小林君がどうなったのか考えて下さい。
この企画の意図は、皆さんの様々なアイデアを拝見して、一緒に楽しみたいというもの。
資格は特に必要ありませんので、参加されたい方は、当がちゃSでお馴染みの方からリードオンリーの方まで、ご自由にどうぞ。
なお、参加されるにあたっては、以下の諸項目に留意していただくようお願いします。
・お題を弄ってはいけません。
・ハッピーエンド、グッドエンド、バッドエンド問いません。
・あまりにも短すぎるものや、長すぎるものはお控えください。
・一応マリみてSSですので、他作品とのクロスは禁止です(パロディは可)。
・オリジナルキャラクターの使用は禁止です(皆さんには、この意味を汲んでいただきたい(笑))。
・ネタが被らない限り、書き込みの回数は自由です。
・上記に反しない限り、手段は問いません。
・リレーSSではありません。
・出来れば、参加者殿の名前を表記し、簡単な後書きを添えてください。
・現在の編集パスは、「黄革で、入院中の由乃が読んでいた小説の作者の苗字」をアルファベット小文字で、です。
・編集パスは予告なしに変更する場合がありますが、その時はコメント欄で公表します。
・変更する場合、既刊文庫の中から無作為に単語を選出しますが、これは、悪意を持って“がちゃがちゃSS掲示板”に接するスットコに対する防衛策ですのでご了承ください。
・書き込む前に、正しい編集パスかどうか、ご確認をお忘れなく。
がちゃSに投稿してみたいけど二の足を踏んでいる方や、リハビリが必要な方は、練習のつもりで如何でしょう?
なお、荒らしや意味不明の書き込みがあった場合、見つけ次第即座に消去します。
万が一、心無いイカレポンチに丸消しされるようなことがあれば、その時は管理人殿、お手数ですが復帰作業よろしくお願いします。
もし、誰一人として参加されなかった場合、泣く泣く消去しますので、皆さん挙ってご参加くださいいやホント。
ただ、話を長くしにくいお題ですので難しいかも知れませんが、そこは工夫の為所であり、挑戦しがいがあるものと考えていただきたい。
目指せ、参加者20人オーバー!(……無理かも)
(↓ここからどうぞ↓)
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(1.お題から続く)
「……え?」
言われた彼女のほうは、驚いた表情で小林を見返す。
それはそうだろう、突然見も知らぬ男子高校生に「付き合って下さい」と言われたのだから。
「あ、怪しい者ではありません。お、俺は隣の花寺学院の二年生で、小林正念っていいます」
さらに畳み掛ける。こういう時は押しの一手である。少なくとも小林はそう思っている。
「えっと……小林さん?」
「はい、なんでしょうか」
これは脈ありか。
小林はそう思った。自分の名前を覚えてくれたのである。少なくとも自分に興味を持ったのである。
「あなたは、私の事、知っていらっしゃるのでしょうか?」
小林は詰まった。
回答が難しい質問だ。
「知らない」と答えれば、「誰なのか知らないのに告白してきたの?」と言われる可能性がある。
「知っている」と答えれば、「ストーカー?」と言われる可能性がある。
百戦百敗の小林をして難しい回答である。
だが、小林は躊躇無く正直に答えた。人間、誠実が一番である。誠実さを示すためには正直なのが一番である。
「だ、誰かは知りません。でも、そんなの関係ありません。俺は一目見た時からあなたの事が……」
「あなたも、私の事、知らないって言うのね」
小林がそこまで言ったところで、彼女に遮られた。
あまり良くない反応だった。
ここで引いてはそれまでだ。
小林はさらに押した。
「い、いえ、確かに俺はあなたの事知りませんけど、でもあなたのことを一目見た……」
「あなた、また私の事、知らないって言ったわね」
小林がそこまで言ったところで、彼女に遮られた。
あまり良くない反応だった。
いや待て、今の反応は自分に向けられたものだったか?少なくともお断りの台詞ではなかったようだが……?
小林がようやくその事に気付いた時、それとは関係無く彼女はまくしたて始めた。
「どうしてみんな私の事知らないって言うの!?
去年は紅薔薇のつぼみの妹だった祐巳さんの親友で同じクラスだったのよ!?
今年は白薔薇さまの志摩子さんと同じクラスなのよ!?
『黄革』でも『いばら』でも『蟹名』でも『ヴァレン』でも出番があったのに、
二年生になって祐巳さんと違うクラスになった途端忘れ去られたように出番が無くなったのよ!?
代わりに新聞部の真美さんの出番が異様に増えて、私は新聞部とのトレード要員なの!?
しかも巷では名前まで忘れ去られてるのよ!?
元々名字が出てきてないのに、名前まで忘れ去られたら、私はどうすれば良いの!?」
小林が呆然としていると、彼女は小林に問いかけてきた。
「ねえ、あなた。本当に私の事、知らないの?」
「はい」
小林は正直に答えた。
それ意外答えようがなかった。
「ひどいわ!!!」
彼女は大声でそう叫ぶと、走り去ってしまった。
小林の恋は、終わりを告げた。
後日、名前だけでも知りたいと、祐麒経由で祐巳さんに聞いたが、回答は
「心当たりは無い」
だった。
合掌。
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自分の作品の筆は全く進まないC.TOEです。
とりあえず、前回より条件設定が厳しいかなーと思いました。
この文章におかしな所があったら、それは乃梨子の志摩子に対するガチ故にです。
ところで、新刊で出番無かったですよね・・・?
(↓次の方どうぞ↓)
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(2.お題から続く/ちなみに山百合会とまだ出会ってない頃と設定 by.柊)
「……なぜ俺はこんなところにいるんだろう?」
小林は自身の立つ場所を見渡して、首を捻っていた。
静謐な空気に満ちた板張りの大部屋。小林の知識に照らし合わせてみれば、これは『道場』とかいう場所である。
「そしてなぜ、俺はこんなものを被っているんだろう?」
なんとも表現し難い匂いに満ちた仮面。小林の知識に照らし合わせてみれば、これは『面』とかいう物である。
「そしてなぜ、俺は彼女と竹刀を合わせて向き合っているのか?」
面の向こう側から伝わってくる緊迫した空気。小林の知識に照らし合わせてみれば、これは『真剣勝負』と呼ぶに相応しい空気である。
「……苦節17年」
小林が首を傾げていると、感極まったような声で彼女が呟いた。
「ついに小説とかで憧れていた、果し合いの申し出を受けるとは。生きてて良かった。手術受けて良かった……」
言って彼女がぷるぷると震え始める。なんか感動しているらしい。
「由乃、あのね。私思うんだけど……」
「令ちゃんは黙ってて。これは私が受けた勝負なんだから!」
恐る恐るといった感じで彼女に話しかけた、背の高い人――令ちゃんさんとやらが、彼女の一喝ですごすごと引き下がる。
なんか雰囲気がおかしいと感じつつあった小林は、そこは粘れよとも思ったが、とりあえず彼女の名前を知ることができたので良しとした。彼女の名前は由乃さんというらしい。
「小林くん、だったかしら……?」
「あ、ハイ。そうッス」
「あなたが何を思って私に声をかけたのかは分からない。けれどこの由乃、決して逃げも隠れもしないわ」
「はぁ・・・…」
逃げも隠れもしないというのは、あれだろうか。OKなんだろうか。どうなんだろう。
小林が彼女――由乃さんの真意を量りかねていると、由乃さんはそこですっと立ち上がった。
つられて小林も立ち上がる。
「令ちゃん、見届け役をよろしく」
「あー……うん、まぁ……いいけど……」
令ちゃんさんが何かを悟ったような表情で頷いている。
「勝負は一本勝負。良いわね?」
なんのことだか小林には分からなかったが、とても言い返せない雰囲気にとりあえず頷いておく。
「結構。それではいざ――突き合いましょう!」
「!!!」
経緯と状況はどうあれ「付き合いましょう」の一言に思わず小林が内心ガッツポーズを取った瞬間――
令ちゃんさんの「はじめ!」の声と共に、由乃さんが襲い掛かって来た……。
とりあえず、純然たる事実として。
花寺の生徒会の連中には『一度だけだけど、つきあったぜ!』と報告しよう、と。
容赦なく思いっきり突かれた喉を押さえつつ、小林は帰宅の途に着くのであった……。
──────────────────────────────────────
柊です。
恐らく早いもの勝ちっぽい「つきあいましょう」誤解パターン。
時系列的にどうか、とかは検証してないので大目にみてください。
(↓次の方どうぞ↓)
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(3.お題から続く)
「 ・・・・・・・・・はぁ 」
顔を赤くして叫んだ小林とは対照的に、告白された少女は実に淡白な反応だった。
まさに「ピンとこない」といった感じである。
あまりの反応の薄さに、決死の覚悟で告白した小林も、一瞬どうして良いか解からなくなる。
「 えっと・・・ 言ってる意味解かりますよね? 」
「 ええ、一応。私に交際を申し込んでらっしゃるんですよね? 」
「 ・・・ええ、まあそうなんですけど 」
どうやら自分の言いたいことは正確に伝わっているらしい。しかし、この反応の薄さはどういうことだろう?
全く予想していなかった事態に、小林の背には、さっきまでとは別の意味で冷や汗が流れ始めた。
「 あ、あの、お・・・ 僕は小林正念っていいます! 」
とりあえず、伝えるべきことを全て伝えよう。小林はひらきなおり、自分をアピールし出した。
「 花寺学院の2年生です! 」
「 はぁ 」
「 えっと・・・ 一応、生徒会役員をやっていまして 」
「 はぁ 」
「 得意科目は数学で・・・ 」
「 はぁ 」
「 あなたにひと目惚れしたということで・・・ 」
「 はぁ 」
「 こうして・・・ 告白しに来たんですけど・・・ 」
「 はぁ 」
「 ・・・・・・・・・・・・ 」
「 どうしました? 」
何? この無反応。
ひととおり告白と自己紹介が終わっても無反応な彼女の様子に、小林はさらに冷や汗が噴き出す。
この1週間、小林は彼女に断られる可能性を考慮し、妄想の中の会話で何十通りものシミュレーションを繰り返してきたのだ。ゆえに、彼女から何か自分との交際に否定的な言葉が出たならば、それに対応するセリフなども用意してきたのだが、肝心の彼女から反応が返ってこないのでは、なすすべも無い。
計算が得意な人物は、その計算が崩れてしまうと脆いものである。
何の感情も浮かんでいない瞳で見つめられ、固まってしまった小林に、彼女は静かな声で問いかけた。
「 それで、私が小林さんとお付き合いするとして・・・ 」
「 は、はい! 」
やっと反応来た! しかもお付き合い前提?! もしかして俺彼女ゲット?!
そんな勘違い100%な興奮状態で再起動した小林をよそに、彼女はそれまでと同じクールな声でこう続けた。
「 小林さんは、私をどんなアドベンチャーにいざなってくれるのでしょうか? 」
「 ・・・・・・はい? 」
何? アドベンチャーって。
理解不能な言葉に、小林の脳は再びフリーズ。
「 えっと・・・ アドベンチャーって?・・・ 」
「 日本語で言うと冒険。つまり、小林さんは、どんな心躍る冒険に私を連れていってくれるのですか?」
「 ぼ、冒険っすか・・・ 」
「 ええ、スリルとサプライズに満ちた冒険 」
「 ええと・・・ 」
頭の中で様々なシミュレーションをして今日に臨んだが、まさかそんな要求が来るとは予想できなかった。
小林は、困った顔で言葉に詰まる。
そんな小林を見て、彼女は「なんだつまらない」とでも言いたげにため息を一つ。
「 ま、待ってください! 」
彼女のつまらなそうな顔に危機感を覚えた小林は、思わず彼女の手をつかみ、慌てて弁解し出した。
「 あの、手を・・・ 」
「 ぼ、冒険とかは無理かもしれないけど、普通のデートとかでなら、いくらでも貴方を楽しませてみせますから! 」
小林の口から出た「普通のデート」という言葉に、彼女の顔がいっそう不満そうになったのに、小林は気付かない。
「 いいから手を・・・ 」
「 お、俺、頑張りますから! 」
「 手を離してもらえますか? 」
「 きっと貴方を幸せにしてみせます!! 」
脳が熱暴走し始めた小林の様子に、彼女もそろそろ実力行使に出ようかと思い始めた時、実はさっきから二人の様子をイライラしながら見ていた人影が、突然物陰から躍り出てきた。
「 天誅ぅぅぅぅぅ!!! 」
そんな言葉とともに、闖入者の少女は持っていた竹刀を袋ごとフルスイング。
革製の袋の重みもイイ感じにプラスされ、そのスイングの軌道は「ガスッ!」っと鈍い音とともに、見事小林のテンプルをジャストミート。
フルスイングに殴り倒され悶絶する小林。呆然とそれを見下ろす少女。そして、ハァハァと荒い息で立ち尽くす闖入者の三つ編み少女。
もはやそれは、とてもさっきまで青春の1ページ的告白タイムが展開されていたとは思えない地獄絵図だった。
「 ・・・あの、よし『 逃げるわよ!!』・・・・・・え? 」
何か言いかけた少女の手を取り、闖入者はいきなり逃走を開始する。
「 あの、やたらと鈍い音がしましたけど・・・ 」
走りながら問い掛けてくる少女に、闖入者の少女は気まずそうに反論する。
「 ・・・だって、貴方が襲われてたから、思わず持ってたモノをフルスイングしちゃったんだもの 」
「 流血してましたよ? 」
「 竹刀袋に金具が付いてるって忘れてたのよ! 」
「 それにあの人、なんだかビクンビクン痙攣してますけど? 」
「 だからこうして逃げてるんじゃない! もう後は野となれ山となれよ!! 」
勢いまかせで、あとさきは何も考えて無さそうな闖入者の発言に、なぜか少女は楽しそうに笑う。
その笑顔は、まるでアドベンチャーを楽しんでいるかのようだった。
後日、奇跡的にも、この騒ぎはおおやけにならなかった。
それは、偶然にも一部始終を目撃していたリリアンマニアな花寺の生徒が、告白された少女の胸元にあるリボンに気づき、彼女が中等部の生徒だと気づいたことに起因する。
その目撃者から、見事「ロリ林」というあだ名を授かった小林が、いくら「背後から凶器で襲撃された」と主張しても、「黙れ性犯罪者め。オマエに人権など無い。むしろ自業自得だ」と斬り捨てられ、誰にも相手にされなかったそうな。
──────────────────────────────────────
いぬいぬです。
最初はゴロンタとの感動的ラブストーリーを展開させてやろうかと思いましたが、「リリアン生」という縛りに断念しました(笑
なんだか最後は告白タイム関係無くなって、ただの黄薔薇暴走SSになったけど気にしないで次の人どうぞ。
(↓次の方どうぞ↓)
──────────────────────────────────────
(4.お題から続く)
「お前の血の色は何色だーーーーーーーーー!!」
どぐぅ!!
頭を下げ、審判の時を待つ小林が最後に聞いたのは、そんな叫び声と自身の下半身最大の急所に突き刺さる、容赦ない蹴りの炸裂音であった。
「あへぇ!!」
脳髄を駆け巡る電撃みたいな激痛に、あり得ない悲鳴を上げて、小林の意識は文字通り昇天した。
† † †
「志摩子さん、大丈夫!?」
K1ルールなら一発で反則負け確実の、後方から天に届けとばかりに繰り出したフロントキックで害虫を駆除した乃梨子は、ぽかんと呆けたような表情の志摩子さんに駆け寄った。
「おっふおっふ」
背後でなんか感極まったような、地獄に咲く花園を発見したような嗚咽らしき物が聞こえたけれど、気にしない。虫に人権はないのだ。
「え、乃梨子?」
「うん、そうだよ志摩子さん! 怪我はない? 精神汚染はされてない!?」
ぱちくりと目を瞬く志摩子さんの様子に、乃梨子は「志摩子さんの戸惑いの表情もギザ萌えス」などと思いつつ、志摩子さんの至高にして究極の玉身(乃梨子命名:志摩子さんの最高にステキでムテキなぼでーを指す造語)を気遣う。
「おっふおっふ」
背後でなんかビクンビクンと四肢を痙攣しつつ、悶絶しているタンパク質の塊が奇声を発しているけど気にしない。アミノ酸に人権はないのだ。
「怪我、はないけど・・・えっと・・・」
志摩子さんが気遣うような視線を、背後の産業廃棄物に向ける。なんという慈悲の心だろう。股間を押さえて「おっふおっふ」とか呻いている生ゴミなんて火曜日にゴミ捨て場に投げ捨てておけばいいのに。
「もう・・・びっくりしたよ。志摩子さんのストーキングポイント――じゃなくて、待ち伏せポイント――でもなくて、朝の志摩子さんの尊顔を見る絶好のスポット――でもなくて。とにかく、私のモーニング特等席にあのXY染色体を持つ物体が潜んでいたのを見た時は――でもなくて。たまたま、偶然、運命の輪が命じるままに行動した結果の絶対運命黙示録的なタイミングで通りかかったところ、まさか志摩子さんが襲われている場面に通りがかるなんて!」
「えと・・ストーキングポイント・・・?」
「とにかく! 志摩子さんが無事ならそれでいいの! それが今は一番大事なの!」
志摩子さんが「なんか今気になる単語を聞いたような?」みたいな調子で首を傾げるのを、乃梨子は強引に勢いで誤魔化すことにして、志摩子さんの両肩にがっしと手を置いた。こんな「おっふおっふ」とか言いながら秘密の花園に足を踏み入れつつある畜生以下で家畜以下の、豚のバラ肉以上に役に立たないアデニン・チミン・グアニン・シトシン成果物ごときに、毎朝乃梨子の心を癒してくれるモーニング志摩子さん鑑賞ポイントを潰されるのは、消費税が7%になることよりも痛手である。
「とにかく・・・ごきげんよう、志摩子さん」
「う、うん。ごきげんよう、乃梨子・・・」
志摩子さんの視界に背後のスクラップが映らないように超至近距離まで顔を近付けて、にっこり微笑んだ乃梨子に、志摩子さんが戸惑いがちながら弱々しい笑みを浮かべる。ヤバイ、萌える。
「あの、乃梨子・・・その人、大丈夫なの・・・?」
「志摩子さんは気にしちゃダメ!」
恐々と聞いてくる志摩子さんに、乃梨子は首を振った。乃梨子以外の哺乳類ヒト科に関する事項について、志摩子さんの脳細胞が一つ以上酷使されるのは、人類の大いなる損失以外の何物でもない。
「大丈夫だから、志摩子さんは先に学校へ向かって! 先に薔薇の館に行ってて!」
「で、でも・・・」
「お願い、志摩子さん! 私を信じて!」
背後でごろごろ転がって「おっふおっふ」と苦悶する細胞の塊を気にする志摩子さんだけど、乃梨子の「信じて!」の一言でハッと表情を改めた。そうよね、妹を信じられなくてどうするの、乃梨子が大丈夫と言うなら大丈夫なんだわ・・・なんて、穢れのない健気な思考が手に取るように分かる様子で、志摩子さんはこっくりと頷いた。素直な志摩子さん萌え。
「そう、よね・・・私、乃梨子を信じるわ・・・」
「志摩子さん・・・」
「薔薇の館で、待ってるから・・・」
「うん。すぐに行くから」
乃梨子の説得に応じて笑顔を浮かべる志摩子さんに「この人将来大丈夫かなオレオレ詐欺に引っかからないかな」と思いつつ、まぁ自分が守れば良いやと結論を導き出して、乃梨子は笑顔で志摩子さんを送りだした。
そして――
「――おい、そこの原子の凝固物」
「おっふおっふ」
乃梨子の呼びかけに、電子の集合体は体をビクンビクンと震わせた。
「次に志摩子さんの視界に入った時は――容赦なく、潰す・・・」
乃梨子の座りきった視線を受けて、その物体は目から零れ落ちた塩水で濡れた顔を、こくこくと何度も縦に振る。
「結構」
その様子に、乃梨子は満足げな笑みを浮かべて頷いた。
† † †
「よし、決めた!」
花寺学院生徒会室、通称ガラクタ小屋にて、再び決意を宣言したのは、生徒会会計担当の小林正念だった。
「俺……あの娘に告白する!」
『………』
懲りずにまた始まったか。
一同がそんな目で小林に視線を送るが、彼はそんなことをいちいち気にするタマではない。加えてしかも最近、なんか妙な体質になりつつあるのを一同は敏感に感じていた。
「それで、今度の相手は何処の誰なんだ? 勝算はあるのか?」
問い掛ける祐麒に、小林が首を振る。
「今度もリリアン生だが、名前も学年も知らん。だが、俺の体があの蹴りを覚えてる。そして勝算がない方がむしろ好ましい」
「……は?」
目を点にする一同を他所に、小林はふるふると体を震わせた。
「桃源郷が・・・俺を待っているんだ・・・」
準備期間に一週間を費やした後、ついに小林は行動に出た。
遠くの電柱の影にあの娘の姿を確認し、深呼吸しつつタイミングを計る。
「あ、あの!」
電柱の影へと飛び込み、頭を下げた。
「俺を蹴り上げてください!」
「志摩子さんとの朝の爽やかな邂逅を邪魔するなーーーー!」
小林は、背筋を駆け上る幸せな桃源郷へと旅立つのだった・・・。
はっぴーえんど?
──────────────────────────────────────
2回目の柊です。今回はハッピーエンドを目指してみました。小林君、幸せだね。
解釈違いに続いて、早い者勝ちその2。志摩子さんルートです。
さぁ、早くしないとお約束パターンがどんどんなくなりますよ?>各位
うん・・・正直に謝っておきます。ごめんなさい。
(↓次の方どうぞ↓)
──────────────────────────────────────
(5.お題から続く)
キキキキィーーーーーーー!
ガン。
「げふぅっ!?」
突然小林の前に現れた真っ赤なスポーツカーが、彼を数メートル先まで吹っ飛ばした。
キリキリと回転しながら、車田漫画よろしく顔面から『ズシャァッ』と落っこちる。
「バ、バカな……」
何故か額「だけ」から血を流しつつ、よろりらと立ち上がろうとする小林の前に、人を跳ね飛ばしたにも関わらず、落ち着いた足取りで車から降り立つ人物が一人。
「大丈夫かい? マサムー」
「柏木……先輩?」
小林に心配そう……には聞こえない声をかけるのは、花寺学院の元生徒会長にして、彼の先輩、そして光の君(笑)こと、柏木優その人。
「ダメじゃないか、いきなり道に飛び出すなんて。生活道かつ通学路だから、ゆっくり走っていたからいいものを、これが幹線道路や高速道路だったら酷い目に遭ってたぞ?」
まるで悪びれた風も無く、悪いのは小林と言わんばかりに説教する柏木。
「うう、すいません……」
なんとなく釈然としないが、小林はとりあえず謝った。
なにせ相手は、下手に敵に回すと死んでも後悔するような力を持つ人物だ。
大人しくしているのが得策と言えよう。
「立てるかい? なかなか愉快な格好で顔面から落ちたから、一応病院で見てもらった方が良い」
「誰が愉快ですか? そもそもアンタのせいでしょう?」
「はっはっは、面白いことを言うようになったね」
この余裕、「幾らでも示談に応じるよ?」とか「揉み消すのは結構簡単だよ」といったニュアンスが窺えるのは、小林の気の回し過ぎか?
「さぁ、助手席に乗るんだ。馴染みの病院に連れて行くよ」
「そのまま僕を消そうってんじゃないでしょうね」
「はっはっは、それは名案だ。前向きに検討してみよう」
「ちったぁ悪いと思って下さいよ? 大体、さっき跳ねられる直前にアンタの顔を見たのを思い出したけど、確かアンタ、笑っていたよな?」
「うん? 何のことだい?」
「……いえ、何でもないッス」
顔は、それはもう素敵に笑っているのに、目は全然笑っていない柏木の表情に恐れをなした小林は、それ以上追及するのを止めた。
「それじゃ、行くよ」
ボンネットに、小林の顔型のヘコミを付けた赤い車は、意外と静かな音で走り出した。
小林の恋は終わった。
何故なら、柏木とやりとりしていた小林の横を、『愛しのあの娘』は「くすくす、ヤーダ何あれ?」といった顔で通り過ぎて行ったのだから。
なお、検査の結果、軽い打撲で済んだという……。
──────────────────────────────────────
はい、無謀な企画立案者の朝生です。
これも割りとありがちな展開ですが、『恋の行方』とはまったく関係ない話ですね。
うん、小林クンには悲劇が似合う……?
他にも二つ三つと考えていますので、また書き込むかも。
──────────────────────────────────────
今回は、どうにもイマイチ評判が悪いようで、思うように参加が振るわない模様。
なので、勝手ながらここまでとさせていただきます。
ご参加くださいました、C.TOEさん、柊さん、いぬいぬさん、ありがとうございました。
……って、三人だけ?
うう、参加された皆様には申し訳ないですが、予想以上に酷い結果でした。
今回の反省を踏まえて、次回はもっと盛り上がるように、もちろん皆様にも盛り上げていただきつつ、良いネタを提供できるようにしたいと思います。
(コメント)
朝生行幸 >お久しぶりで、第二弾。ちなみにこのタイトル、一発で決まりました(笑)。(No.15774 2007-10-06 21:19:04)
C.TOE >前回に続き先鋒を努めさせていただきます。とりあえず彼女を選んでみましたが・・・なんかあんまり面白くない味付けになってしまいました。皆さんはがんがんとばして盛り上げてください。(No.15777 2007-10-07 04:11:18)
朝生行幸 >姿を確認してから告白までに間がありますから、小林クンの前に現れるのは『リリアン生』だけとは限りませんよ(笑)。(No.15783 2007-10-08 18:38:09)
とおりすがり >?(No.15786 2007-10-08 22:03:57)
とおりすがり >? ということはこういうのもあり?(No.15787 2007-10-08 22:16:41)
とおりすがり >あ、あの小林君これはどういうこと? え、僕の名前を知っているのですか? 当然じゃない。いつもあってるでしょ? えっとまさかアリスか? そうよ、アリスよ。 なんでアリスがリリアンの制服着てんだよ?(No.15788 2007-10-08 22:17:00)
とおりすがり >ちょっと、漫究に用があったんだけど、さすがに花寺の格好じゃ入りずらいから制服貸してもらったんだけど、まさか小林君が私に一目ぼれするなんて思いもしなかったわ(No.15789 2007-10-08 22:17:32)
とおりすがり >その後、花寺では小林がアリスに告白したという何とも言いがたいうわさがたったそうな。(No.15790 2007-10-08 22:18:14)
とおりすがり >オリキャラでもなくドッペルネタということで(^^;(No.15791 2007-10-08 22:29:05)
とおりすがり >オリキャラでもなくドッペルネタということで(^^;(No.15792 2007-10-08 22:33:36)
C.TOE >コメントを書きこまないといつ書きこんだのかわからない罠:誤字・フォーマット修正。フォーマット揃えて書いたつもりが全然そろえていませんでした。行間の取り方等を他人にあわせるって難しいですね。(No.15800 2007-10-09 00:50:06)
柊雅史 >↑とおりすがりさん↑・・・そのままもう少し肉付けして投稿すればいいのに。(No.15801 2007-10-09 01:09:35)
柊雅史 >ところで、いきなり萌え200票というのは・・・? なんかちとおかしいような・・・?(No.15802 2007-10-09 01:14:38)
名ナシ >すぐ下の海風さんのSSのコメ欄でもいぬいぬさんが言及されてますね、票数。いぬいぬさんの予想のように誰かのボタン連打?(No.15804 2007-10-09 07:50:41)
柊雅史 >うーむ。まぁ、あまり気にせずいきましょう。(No.15805 2007-10-09 11:59:22)
名無し >「おっふおっふ」これだけで、ご飯3杯はいけますね(笑(No.15815 2007-10-12 11:31:51)
朝生行幸 >うむむ、今回は不調ですなぁ。このお題、難しいですか?(No.15819 2007-10-15 20:53:57)
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