がちゃS・ぷち

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No.2212
作者:杏鴉
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2007-04-03 06:45:54
萌えた:1
笑った:0
感動だ:0

『お願いだから・・・』

『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズ

これは『ひぐらしのなく頃に』とのクロスオーバーとなっております。本家ひぐらしのような惨劇は起こりませんが、気の毒なお話ではあります。
どうぞご注意を。

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――水曜日――


いつもよりかなり早い時間にリリアンに着いた私は、何か身を守るような物がないか薔薇の館の一階を物色していた。
見知らぬ男につけられていた、という昨日の出来事は、私の気持ちをより一層、暗く沈めた。
あの男がもし、私の想像通りの人間だった場合、私は今、非常に危険な状態にいることになる。
自宅には家族が居るし、通学は周囲に気を付け、できるだけラッシュ時にあわせればそれほど危険は無いように思う。
けれど学園内は……。
リリアンは女子高だから、外部の人間が簡単に入れるようにはなっていない。
その点は安心できるが、危害を加えようと思っている人間が内部に居る場合は話が別だ。

いざとなったら自分の身は自分で守らなければ……。

私は学園内で身の安全を守る為の武器≠探していた。
しかしこの薔薇の館で、武器になるような物がごろごろ置かれているわけもなく、探す場所を間違えたとあきらめかけた頃、ソレは見つかった。

「これは……竹刀? なんでこんな所に竹刀が……誰のだろう? えっと……鳥? いや、島……かな? う〜ん、かすれててよく分かんないなぁ」

持ち手の部分に名前らしきものが書かれていたのだが、残念ながらハッキリとは読み取れなかった。
けれど少なくとも今の山百合会メンバーの私物ではない筈だから、借りておいても問題ないだろう。

私は時代劇に出てくるような武士を真似て構えてみた。
剣道なんて生まれてこのかたやった事も、ちゃんと見た事すらないが、不思議と強くなったような気がする。


――ブンっ!……ブンっ!


ためしに外に出て振ってみたが、ちょっと……いや、かなり竹刀に振りまわされている気がしないでもない……。
それでも私は夢中で振り続けた。それが義務であるかのように。
あまりに必死だったせいだと思う……彼女が私のすぐ傍に来ていたのに、まったく気付けていなかったのは……。

「――祐巳さん」
「ひっ……!」

急に背後から声をかけられて、私は思わず持っていた竹刀を声の方に振ってしまった。彼女の髪が、私の作りだした風によって乱暴に揺れ動いた。
あと一歩近くにいたら、私は彼女を殴りつけていただろう。
自分の鼻先を竹刀がかすめたというのに、彼女――志摩子さんは悲鳴を上げるどころか、微動だにすらしなかった。
私はあまりの驚きに何も言えず、目を見開いて志摩子さんを見つめた。そうやって志摩子さんの方から何か話してくれるのを待っていたのに、彼女はただジッと私を見ているだけだった。

志摩子さんは敵≠ナはない……筈だ……でも……。

私は志摩子さんから目を離さず、竹刀をギュッと握りしめた。
どれくらいの間見つめ合っただろうか……。私の緊張の糸が限界をむかえる直前、志摩子さんは私から竹刀へと視線を移した。

「祐巳さん。その竹刀――」
「こ、これ薔薇の館の一階にあったんだよ! 別に誰も使ってないみたいだから、ちょっと借りててもいいよね?」

言い訳するように早口で志摩子さんの言葉をさえぎった。
志摩子さんはそんな私に視線を戻すと、静かに言った。

「――その竹刀、無くさないでね。絶対に……無くさないでね」
「え? 志摩子さん……?」

ねぇ、志摩子さん。どうしてそんなに哀しそうな顔をするの? どうして……?
志摩子さんは私の物問いた気な視線には何も答えてくれず、私に背中を向けた。
待って……行かないで。お願いだから行かないでよ、志摩子さん。
私の心の声は志摩子さんには届かず、彼女は一度も振り返らなかった。
私は声をかける事も、追いかける事もできず、ただ樹木のようにその場で彼女の後姿を眺めていた。
胸の奥で何か≠ェ音をたてて剥がれ落ちた気がした。

私は……何か大切な物を……失ってしまっ――

――ブンっ!! ブンっ!! ブンっ!!

私は竹刀を振った。
もう見えなくなってしまった志摩子さんの背中を……私を見つめる哀しそうな眼差しをかき消すかのように、振った。
型も何もあったものじゃない。子供が駄々をこねるように、ただメチャクチャに振りまわした。
何も考えなくていいように、力任せに、不様に、振り続けた。

「……祐巳? あなた何をしているの?」

今度は志摩子さんの時のように、驚いたりはしなかった。
ちゃんと足音が聞こえていたから……二人分。

「ごきげんよう、祐巳さま」

瞳子ちゃんは昨日とはうって変わって、可愛らしい笑顔を私に向けている。お姉さまが隣にいるからだろうか……?
また……二人は一緒に、いたんだ…………。
志摩子さんと別れた時にカケてしまった何か≠フ代わりに……ナニか<hス黒い物が胸の奥にへばり付いた気がした。

「ごきげんようお姉さま。瞳子ちゃん」
「ごきげんよう。それで祐巳? いったい何をしているの?」
「素振りです」
「……それは見れば分かるわ。私が知りたいのは、剣道部でもないあなたがどうしてそんな事をしているのか、という事よ」
「私が剣道に目覚めてはいけませんか?」

私の物言いが癇に障ったのか、お姉さまは眉間にシワをよせて不快感をあらわにした。
あまりお姉さまを刺激するのは良くないと思い直した私は、もっともらしい事をうつむきがちに呟いた。

「……ダイエットしてるだけです」
「ダイエット?……あなた全然太っていないじゃないの」

いくぶん声を和らげたお姉さまに、私は調子をあわせておく。

「いえ、私脱いだら凄いんです。お腹なんて、モチモチのタプンタプンですから」
「「も、モチモチの……タプンタプン……」」

お姉さまと瞳子ちゃんは完璧にハモった後、二人そろって私のお腹の辺りを凝視した。
うぅ……。何でそんな鷹のような目で見るの……?
私が視線に耐えかねて、両腕でお腹を庇うようにすると、二人は気まずそうに視線を剥がした。

「そ、そういえば剣道は太仲女子が強かったですわよね? 祥子お姉さま?」
「え、えぇ。太仲の田中さん、だったかしら? 祐巳も頑張って田中さんくらい強くおなりなさいな。ね?」
「はぁ……」

その後も二人はよく分からない事を言うだけ言って、どこかに去っていった。
何だったんだろう……?
モヤモヤした気持ちを払拭する為に、私は素振りを再開した。


朝の時点で筋肉痛になってしまっていたが、かまわず昼休みも、放課後も、振った。



――次の日、私は体調をくずして学校を休んだ。





(コメント)
杏鴉 >間隔があきすぎて感覚が…。(No.14799 2007-04-03 06:54:01)
MMM >竹刀じゃあ・・・撲殺はできないですよねぇ(No.14800 2007-04-03 19:07:22)
杏鴉 >最初から人死にだけは起こさないと決めていましたので。そして竹刀の出番、これで終わりだったりします(苦笑)(No.14803 2007-04-04 02:54:09)
杏鴉 >一つ前のリンクが抜けていたので修正しました(汗)(No.14804 2007-04-04 03:34:16)

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