がちゃS・ぷち

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No.2386
作者:杏鴉
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2007-10-08 09:37:08
萌えた:3
笑った:6
感動だ:0

『ある意味で時は遡る』

『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズその2

これは『ひぐらしのなく頃に 綿流し編』とのクロスオーバーとなっております。
本家ひぐらしのような惨劇は起こりません。しかし無駄にネタバレしております。
そしてある人物の設定が、かなりおかしなことになっています。
諸々ご注意くださいませ。






大切なモノを失った少女は 運命を呪い 大きな声で泣きました
けれど誰一人 少女が泣いていることに気が付きませんでした

大切なモノを失った少女は 他人を呪い 大きな声で叫びました
けれど誰一人 少女の叫びに振り返ろうとはしませんでした

大切なモノを失った少女は すべてを呪い 口をつぐんでしまいました
けれど少女は失ったモノを忘れはしませんでした

なにが大切だったのかは忘れてしまっても


                            [ある少女の日記より]




  ――プロローグ――


私こと福沢祐巳は、ただ今窮地に立たされています。
どうしてこんなことになってしまったのか、私には分かりません。
唯一つ分かっているのは、ここ薔薇の館には私の味方など一人もいないということ……。

「――祐巳」
「はっ、はい!何でしょうか?お姉さま」
「言わなくても分かっているでしょう?いいかげん観念なさい」
「……」
「祐巳」
「……はい。……ご主人さま」

お姉さま(ご主人さま)の満足ゲな顔が恨めしい。
いつからだろう。何かミスをすると罰ゲーム、というのが薔薇の館で定着してしまったのは……。

「祐巳。私、のどが渇いたわ。紅茶を淹れてくれるかしら」
「……かしこまりました。ご主人さま」
「まだ少しぎこちないわねぇ。もっとメイドに徹しなさい」

私は生まれてこのかたメイドさんになったことも、なろうと思ったこともありません。
お願いですから無茶言わないでください。
というか誰かうちのお姉さまの暴走を止めてください。

救い主を探して視線をさ迷わせると、こちらを見ていた志摩子さんと目が合った。
私はありったけの想いを込めて志摩子さんを見つめた。

「あの、祥子さま。ちょっとよろしいでしょうか」

想いが通じたっ!さすがは親友!
お願い志摩子さん。お姉さまを正しい道に戻してあげてっ!

「どうしたの志摩子?」
「申し上げたいことがあるのですが……」
「何かしら?」
「あまり祐巳さんに無理を言うのは良くないと思います」
「あら、私がいったいいつ祐巳に無理を言ったと言うの?」

怖っ!?目が全然笑ってないよお姉さま……。
しかし私だったら0.5秒で謝ってしまいそうな迫力の祥子さまを前にしても、志摩子さんは実に堂々としている。
すごいや志摩子さん。こんな人を親友に持てて私は幸せ者だなぁ。

「先ほど祥子さまは祐巳さんに、メイドになりきれていない、というような事をおっしゃいましたが――」
「それのどこが無理なの?罰ゲームといえど……いいえ、罰ゲームだからこそきちんとこなすべきでしょう?」

祥子さまは志摩子さんの言葉をさえぎって高圧的に言った。
……かなりご機嫌ななめになっているようだ。なんだか志摩子さんに申し訳なくなってきた。
元はといえばミスをした私が悪いわけだし、それで私が罰を受けるのは仕方ないけど、志摩子さんが責められるのは間違ってる。

私が『もういいよ』とゼスチャーで伝えようと志摩子さんの方を向いた時、なぜか彼女は笑っていた。
それもいつもの聖母のような微笑みではなく、なんというかその、天使のような小さな子供のような……、とてもあどけない笑顔だった。

「祥子さまのおっしゃるとおりだと思います。ただ祐巳さんがメイドになりきれないのは祐巳さん本人のせいではなく、シチュエーションに問題があると思うのです。
 ですからそれを改善すべきではないかと」
「改善って、具体的にどこをかしら?」
「口調だけメイドにするからダメだと思うんです。いっそ服装もメイドにすれば、祐巳さんだって身も心もメイドさんになれるはずですわ」

な、なんだってーーーーっ!?
……いやいや、落ち着こう。大丈夫。大丈夫よ祐巳。
メイド服なんてそうそうその辺に転がっているわけない。ましてや薔薇の館にあるわけがない。

「あら、それは盲点だったわ。確かにそうね。(ごそごそ)――祐巳。これを着なさい」

なんでそんなモノさらっと出すんですかご主人さ……じゃないお姉さまっ!?
メイド服を手に「さぁ、さぁ」と迫ってくる祥子さまからジリジリと後ずさりながら、私は救い主を探して視線を巡らせた。

「にぱぁ〜〜☆」

あどけなく笑う志摩子さんから私は一瞬で視線を逸らした。
これ以上、事態を悪化させてたまるもんか……っ!!
私は志摩子さんの隣に座っている、年下だけど私よりもしっかりしてる乃梨子ちゃんに縋りつくようなまなざしを向けた。
けれど彼女は志摩子さんを眺めるのに忙しく、私には見向きもしなかった。

なんてこった。私に対して興味ないにも程があるぞっ乃梨子ちゃん!
ダメだ!白はダメだ!昔からどっかダメだ!

残るは――

「令さま助けてください!」

私は黄薔薇さまこと支倉令さまに救いを求めた。
そうだよ。最初から令さまにお願いすれば良かったんだよ。令さまならきっと暴走したお姉さまを止めてくれる。
私の助けて光線≠浴びた令さまは、やれやれといった表情で口を開いた。

「ちょっと祥子。祐巳ちゃん嫌がってるじゃない。やめてあげなよ」
「――何か言ったかしら?」
「……イヤ……ナニモ」

弱っ!?いくらなんでも負けるの早すぎです令さまっ。
確かに今のお姉さまの目は、邪魔する者は一片のカケラも残さずこの世から消し去るわよ、と言ってますけど。確実に実行するでしょうけど。
私はダメもとで、もう一度令さまに助けて光線≠送ってみた。

……目も合わさないよこの人。
ダメだ。白も黄色もダメだ。

「祐巳。着かたが分からないのなら、私が着付けてあげてよ」
「い、いえ。着物ではないので一人で大丈夫です」
「分かっていないわね祐巳。こういった服は着こなすのが案外難しいのよ?だから私が手伝ってあげるわ」
「……私こう見えても服を着こなすことには定評があるので一人で平気で「いいからさっさと脱ぎなさい」――ぎゃぁあぁあぁぁっ!?」

心にうっすらと傷を負った私は、次こそは絶対にミスをしないと自分自身に固く誓った。




その日の夜。
自分の部屋で、いかに罰ゲームを回避するかというテーマで一人ミーティングを開催していると、お姉さまから電話がかかってきた。
子機を持ってきてくれたお母さんへのお礼もそこそこに、私は飛びつくように電話に出た。
こんなにも浮かれて舞い上がってしまう自分がちょっぴり可愛い。
あんな目に遭わされたっていうのに……。
どうやら私の祥子さま病は止まるところを知らないらしい。

「――祐巳。聞いている?」
「は、はいっ!聞いていますっ」

いけない、いけない。ちゃんと祥子さまのお声を鼓膜にこびりつかせないと。

「そう?じゃあ、どうなの?」
「へっ!?あの、何がでしょうか……?」
「もう。祐巳ったら、やっぱり聞いていないんじゃないの」
「す、すみません……」
「まぁ、いいわ。明日の日曜だけど、何か予定はあって?」
「え?いえ、特に何もありませんが……?」

な、なんだろう?この期待させられる会話の展開は……。
もしかして、もしかして……。

「急で悪いのだけれど、もし良かったら明日は私に付きあってくれないかしら?」
「はい!喜んでっ!」
「……」
「お姉さま?どうかされましたか?」
「……私、まだどこで何をするとも言っていないのだけれど?」
「お姉さまとなら、私はどこへだって行きますよ」

祥子さまと一緒なら、きっとどこで何をしていたって楽しいに決まってる。だから私には迷う理由なんて何もない。
明日はお休みで祥子さまに会えないと思っていたのに、なんて嬉しい誤算だろう。
よぉーし!明日は思いっきり祥子さま分を補給するぞーっ!
握りしめた拳を天に突き上げる私の耳に、少し怒ったような声が聞こえた。拳と一緒に突き上げていた受話器からだ。
我に返った私は慌てて受話器を耳に押し当てる。

「――もしもし」
「は、はい。聞いています」
「私まだ何も言っていないけれど」
「え……」

受話器から大きなため息が聞こえた。
私は正座してぺこぺこと謝った。

「明日は伯父の経営しているオモチャ屋さんでイベントがあるの。伯父から手伝いも兼ねてそのイベントに参加してほしいと頼まれたのだけれど……私だけでは、その……」

気を取り直した祥子さまの説明を聞きながら、私はなるほどと思った。
どういうイベントでどの程度のお手伝いかは分からないけれど、少々物事に疎い(あくまで庶民的なことにおいてだけど)ところがある祥子さまは一人では不安だったというわけだ。

「祐巳が一緒にいてくれれば心強いのだけれど……」

はぅ……っ!
お姉さま。私はそのお言葉だけで、どこまでだって逝けますよっ!

「お姉さま。この福沢祐巳、誠心誠意お手伝いさせていただきますっ!」
「本当にいいの?」
「お姉さまの為なら、たとえ火の中水の中です!」

祥子さまは、待ち合わせの場所と時間を告げると最後にこう言った。

「ありがとう祐巳。……おやすみなさい」

その後私は、祐麒が「お風呂空いたぞ」と言いに来るまで、ずっと子機を握りしめたままニヤついていた。
早く明日にならないかなぁ。





(コメント)
篠原 >このシリーズも久しぶりですね。今回はどんな方向に転がっていくのか、楽しみです………くすくすくすくす。(<いきなり歪んでる)(No.15798 2007-10-08 23:53:38)
杏鴉 >コメントありがとうございます。篠原さま。一応大筋は決めているのですが、たぶん書いているうちにあらぬ方向に転がり落ちていくと思います(笑) (No.15799 2007-10-09 00:16:42)
杏鴉 >こっそり修正。(No.18593 2010-05-22 16:19:15)

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