がちゃS・ぷち

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No.2668
作者:さおだけ
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2008-06-30 19:10:20
萌えた:3
笑った:1
感動だ:13

『人間関係』

中途半端が嫌なので、さっさとUPしちゃいましょう!
ところで、ここまでで話しの全貌が分かった人って居るのでしょうか…?

本編 【No:2663】【No:2664】【No:2665】【No:2666】→ これ 。




  ■■ SIDE 祥子



こんな情けない死に方をするくらいなら、もっとお姉さまと話していればよかった。
言いたい事だってたくさんあるし、したい事だってたくさんあるのだもの。

【それ】が私を飲み込もうとしている。

逃げる事が不可能だと、私の理性のどこかで分かっていた。
踵を返して、叫びながら走る。この距離では後へ向く事すらできないわよね。

あと数m

どうせ死ぬのなら、エレガントに死にたいわ。
腕を組んで【それ】と対峙した私は、溜息を吐いた。
【これ】に襲われた人は、一体どんな死に方をするんだったかしら。
ニュースでは、様々な殺され方だって言っていたけれど…私は何かしらね。

現実逃避も末期に入り、私は覚悟を決めていた。
それは、自殺とも言える類のものだった。
だって、生きているという事を諦め、自ら死と対面してなお、逃げるという選択肢自体がないのだから。
しかしまぁ―――祥子がこの死に方をしても【天使】になる事はないのだが。



「駄目ぇ!!!」



どこからか……声が聞こえた。
それは私を突き飛ばし、【それ】があけた空洞から遠ざけた。
しりもちを付いても状況は把握できない。
それは、目の前に【この子】がいたから。

「諦めるなんて赦さない!立ちなさい!そして走りなさい!」

「ぁ……え………」

【この子】はとても小さな体躯をしていた。
夢魔と対峙するには小さすぎる【この子】は、茶色い体に、尻尾をつけた―――タヌキ。
どこか大切な人の面影のある【この子】は必死に身体を張り、私を助けてくれた。
立った時の身長が私の膝まであるかないかだった【この子】の背中には、白い1対の羽。
タヌキ、いやタヌキの縫い包みは、夢魔と戦うために前へ出た。

「祥子っ!!」

「……え?」

背後から、また別の声が聞こえた。
お姉さまかしら、なんて期待をしてみたはいいけれど、振り向いた先には乃梨子がいた。
黒い翼を展開させ、真剣な眼差しで私を見つめ、また夢魔と対峙した。
乃梨子はタヌキに「おや?」という顔をしたものの、大して気にせず戦闘が始まった。

何がどういう原理で動いているのかは分からないけれど、
 夢魔はまるで霧を払うようにぼんやりと薄れながら消えていった。

「祥子、無事?怪我とかしてない?」

「え、ええ……この子が助けてくれたから」

「………」

タヌキの縫い包みは辺りを見回し、そして乃梨子をキツク睨んだ。
傍から見たら結構間抜けなシチュエーションだが、タヌキにはとても迫力があった。

「乃梨子、ここは乃梨子の管轄だったわよね?」

「………はい、申し訳ありませんでした」

乃梨子は黒い翼を犬の尻尾のように垂らし、反省していた。
でも説教しているのがタヌキの縫い包みだというのが笑えない。
というか、笑いたいのに笑えない。
茶色を基調とした、どこにでもあるタヌキの縫い包み。ちょっとキャラクターっぽいけど。
二本足で立ったまま、タヌキは腕を組んで溜息を吐いた。

「祥子さ……祥子って言ったっけ。貴女」

「え、ええ。助けていただいて、どうも…」

「いいの。天使……ここら一帯は乃梨子の仕事だから」

「仕事……?」

そういえば何か聞いた事がある気がする。
会議中とかにたまに窓から飛んでいく乃梨子のいい訳が「仕事だから」だったはずだ。
そこまで認識すると、タヌキの縫い包みは背を向けた。

「じゃぁ私は帰るわ。それじゃ」

「あ、待って!」

「え?」

タヌキは振り返る。
私は地面に座ったままだからちょっと大きく見えるそのタヌキを、何故か呼び止めた。
この子があの人に似ているからなのか、別れが辛いように感じたのだ。

「なに?祥子」

「…………お、お礼がしたので、紅茶でもいかがです?」

「ほえ?」

似てます!あの人がタヌキ似だと言う事を差し置いても、この反応は酷似してますわ!
でもまぁ……あの人はこんなに【お姉さま】っぽくはないのですけど。
私がタヌキにそう言うと、タヌキは困ったように笑う。
縫い包みなのによく表情が変わる子だ。

「いや、私も仕事があるのよ。だから遠慮して…」

「少しだけでも駄目ですか?」

「う〜〜〜……」

タヌキ、悩む。とても可愛い仕草だと付け加えよう。タヌキ、唸る。
しかしそれは少しだけだったようで、乃梨子に向き直って注意をした。

「私は祥子と行くから、ちゃんと仕事しなさいね?」

「もとはと言えば貴女が……」

「し な さ い ね ?」

「はいっ」

日本人形、タヌキのマスコットに倒れる。
タヌキはまだ地面に座っている私のところまで来ると、小さな羽根で浮かび上がった。
そして私の前でぴたりと止まると、タヌキは手を差し出してくれた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

やっぱりどういう原理なのか分からないけれど、タヌキの手を力一杯引いても、びくともしなかった。
重力とか引力とか慣性の法則とか全部無視してるけど、天使だから良いわよね。
タヌキの手を離して自立すると、タヌキは私の肩に座った。どうしよう、可愛いのですがっ!

「……………」

乃梨子がなんだか複雑な顔をしていた。
私の考えている事が読まれたのかもしれなかった。結構恥よね。
そんな中タヌキは何も言わずに私の肩に座り、どうやら縫い包みのフリをしているらしかった。
どうせなら鞄の中に入って欲しかったけど、どうせ車に乗るのだから問題はない。
携帯で車を呼んでいるうちに、乃梨子は消えてしまっていた。



  ■■ SIDE 志摩子



夜。

 そろそろ寒くなってきて、お仕事の乃梨子は風邪をひかないかと心配した。
 最近は前と比べて夢魔の出現が多くなっていると、司会者さんが言っていた。
 乃梨子のおかげでこの街に犠牲者なんかはいないのだけど、世界では数多くいる。
 乃梨子はこの街担当の【夢魔退治天使】。
 他の地域では他の天使がアクセクと働いていて、とても忙しいのだと言っていた。

 そういえば、帰り際に祥子さんが走っているのをみかけた。
 珍しい……そう思っていると、後から祐巳が走ってきた。
 祥子を見なかった?と聞かれたので、あっち、と教える。
 私の指した方を見ると、瞬時に顔を真っ青にして走り出した。
 速かった。
 向こうに何がいたのだろうか?
 興味に駆られて何気なく祐巳の向かった先へ行くと、乃梨子にあった。
 乃梨子が突然私の胸に飛び込んでくると、甘え始めた。
 状況は読めないが、――たまにお姉さまに空気を読んだら?と言われるが――甘えさせた。
 頭を撫でると、とても喜んでくれた。でも、寂しそうだった。
 
 祥子さんの自家用車、というか黒塗りベンツが通りかかったのを見た。
 だけど、いつまで経っても祐巳とはすれ違わなかった。
 遠回りでもして帰ったのだろうか?

「こんなものかしら……」

私は溜息を吐いた。
最近から書き始めた日記だけど、どう書いていいのか勝手が分からない。
まぁ要点だけでも伝わればいいのではと納得する。
納得したら、私は日記を読み返し始める。
世界が可笑しくなってきて、皆まで忙しくなっている気がする。
やっぱり、人間は安定している方が好ましいのではないだろうか。

前の日の日記。

 祐巳が授業中に熟睡。先生に怒られる。 
 乃梨子が昼休みに羽を生やして飛んでいった。頑張って。
 蓉子さまが困った顔だった。理由不明。
 お姉さまがアメリカの大統領交代を支持していた。無理だと思う。
 江利子さまがお姉さまと中国の被害者数について語り合う。黙祷。
 由乃ちゃんが銃刀法について令と討論。私は令を支持。
 祥子さんが祐巳を見ながら溜息を吐く。祐巳は会議中でも寝ている。

「…………」

その前の日の日記。

 @今日はいい天気だった。
 Aゴロンタの姿を見かけなくなってしまい、ちょっと寂しい。
 B会議で避難経路を確認した。憶えた。
 C祐巳が授業中に話しを聞いてなくて怒られた。 
 D帰って来て見たニュースで、夢魔のよって殺害された人数が出ていた。増えている。
 Eそういえばお姉さまがニュースを見て愚痴を言っていた。

「…………今度から今日みたいに書きましょうか」

それがいい。なんかよく分かるから。
というよりも今日の日記の方がとても日記らしかったから。
日記は難しい。
そう、今日の日記の最後の行に付け加えた。



  ■ ■ ■



今日はなんだか一味違う。
いつもならお茶会をしながら繰り返しに近い議論をするのだが、今日はゲストがいた。
机上に女の子座りをしているタヌキが一匹。縫い包みだから1つ?
タヌキは私と祐巳を見て会釈した。

「こんにちわ」

「ごきげんよう」

反射神経って奴でごきげんようと変換。
タヌキは凛々しい顔で出された紅茶を飲んでいた。え、飲めるの?
背中の羽がパタパタいっているから天使なのだろうか。十人十色よね。
タヌキに紅茶を出していた祥子さんが素っ気無く祐巳に挨拶。
私に対してはいつもどおりだった。

「祐巳、喧嘩でもしたの?」

「え、ああ、うん。ちょっと…」

「そう」

「……心配かけてごめんね」

「いいわ」

タヌキは私達に対してそう興味もないらしく、紅茶を必死で飲んでいた。
指定席に座り、出してくれた紅茶を頂いた。乃梨子はまだ来ていない。
まぁ【お仕事】があって来れないなどは多々ある事。
祐巳は祥子さんを見ながら気まずい表情をしていた。

「……お姉さま、少し宜しいですか?」

祥子さんが先手を打った。
ピクリ。祐巳の肩が大きく震え、反応をしようとして…扉が開けられた。
この部屋の空気に目を丸くしたのは、私のお姉さまだった。




(コメント)
tk >もーー祐巳の存在が気になるね!!(No.16645 2008-06-30 20:13:13)
さおだけ >そろそろ答えがちょこちょこ出てきます。笑 というか本当に毎日みて下さっている…感謝します!(No.16646 2008-06-30 21:08:01)

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