がちゃS・ぷち

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No.2833
作者:パレスチナ自治区
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2009-02-08 18:08:35
萌えた:10
笑った:17
感動だ:1

『初めて見た時から』

お目汚しすみません。【No:2832】の続きです。
今回は鼻血を浴びてしまった白薔薇様視点です。

<初めて彼女を見た時、運命だと思った>


ある日の放課後、この日は山百合会の仕事が無かったのでマリア像の近くで私のファンだという人たちと談笑をしていた。
この時だ。運命の出会いを果たしたのは。

ボスン…

誰かが私にぶつかってきた。
「きゃっ、あらごめんなさい。あなた怪我はない?」
「あ、すみません。私の方こそボーっとしてまして」
本当にボーっとしていたようで、彼女は少し驚いているようだ。
顔を少し赤くして私を見上げている。その表情は私の琴線に触れるのに十分だった。
「いいのよ怪我がないなら」
私は無意識的に彼女の小さな体を抱きしめた。
衝撃的だった。彼女の大きさといい感触、匂い、温もり。どれをとってもパーフェクトだった。
彼女の肩をもって顔を見てみると先ほどよりさらに顔が赤かった。この場で押し倒したくなるほどの破壊力。
周りはキャーキャー言っているが気にしない。彼女をもっと見ていたかった。
その時だ。

「キャー!!」
彼女の鼻から紅い何かが噴き出した。その場に崩れ落ちてゆく。
「ちょっとあなた、大丈夫?しっかりして!」
こんなことを言いながらも鼻血を垂らして気を失っているにもかかわらず、幸せそうな彼女の顔を見ていた。少し変態っぽいその表情ですら愛しさを感じずにはいられなかった。


帰り道、時々すれ違う人たちがギョッとした感じで振り返る。
無理もないだろう。私は先ほど鼻血をしこたま浴びたのだから。
一応落としたつもりだが完全には無理だった。だから気にしない。

「ただいま〜」
「おかえりってどうしたの?制服」
出迎えてくれた姉も驚いたようだ。
「鼻血を浴びたの」
「はあ?」
「ぶつかってきた子を抱きしめたらその子がね」
「ふうん、まあさすが2年生で白薔薇様をやってるだけのことはあるね」
「おねえちゃんのせいでね」
「なんでよ?」
「お姉ちゃんが入学したばかりの私にロザリオ渡すから」
「じゃあなんで受け取ったの、あんたにも責任があるでしょ」
「そうだけどさ」
「それはいいとして、早く風呂入んな」
「は〜い」

私の実姉は白薔薇様だった。
姉はリリアンに入りたての頃は頭痛いなんて言ってたくせに完全に染まってしまったようだ。特にリリアン特有の姉妹制度というやつに。
実家に帰ってくる度に「お姉さま」の話をする。前は趣味の話しかしなかったのに。
そんな姉は、「お姉さま」が自分以外の誰かを可愛がるのを見るのが嫌だったのか私がリリアンに入るまで妹を持たなかった。
私を妹にしたのも「身内」だからだろう。必要以上可愛がらなくてもいいから。
だから姉は今では「お姉さま」の後を追い、リリアン女大に進んだ。今でも「お姉さま」とはラブラブだ。

「で、小夜子はその子を妹にしたいの?いきなり抱きしめるなんて」
風呂上がりの夕食で姉はいきなりこんな事を言う。
「妹に?う〜ん…それもいいかもね」
「いいかもねって」
「少なくともその子に運命は感じたよ。あの腕にすっぽり収まる大きさとか感触とか匂いとか、鼻血を出した時の前後の表情とか」
「あんたそれやばいよ」
「なんで?」
「自覚ないのかよ。まあ今時珍しい子だよね、抱きしめられただけで鼻血出して倒れるなんて」
「そうでしょう」
「でもやりすぎないようにね」
「なんで?」
「あんたってガチだしやり手だし、今までたくさんの子に手を出してきたくせに」
「お姉ちゃんだって人の事言えないじゃない」
「私はノーマル!!それに手を出したのは「お姉さま」だけ!!」
「それをガチだっていうんだよ」

白薔薇家はいつの時代もガチなのだ

翌日、もう瓦版に事件の事が載っていた。さすが真理子さん、仕事が早い。
載せられていた写真を見ると昨日のことを思い出す。思わずにやけてしまった。

数日後、号外が出た。紅薔薇の蕾である美華柚さんが彼女に振られたらしい。
凄い子だ、転校してきて間が無いらしいがもう学校中にその名が知れ渡っている。

放課後、薔薇の館に行くと演劇部に出ている美華柚さん以外全員そろっていた。
「ごきげんよう」
「「「「「ごきげんよう」」」」」
おなじみの挨拶が返ってくるが一つを除いて生返事だ。
黄薔薇様である菜々様は仲良しの写真部エース小鳥遊雅さんと新聞部部長の真理子さんを伴って妹の吉田咲さんにいかに四季潟出雲という人物が面白いかをひたすら説いているようだ。
今年の報道陣は菜々様の後ろ盾もあり例年よりやりたい放題だ。
ああ、咲さんの困り眉がより一層…

出雲ちゃんが現れるまでは咲さんが話題になることが多かった。
へたれで有名だった支倉令様を凌ぐほど押しに弱い以外特徴のない人だ。
面白いもの好きの菜々様が私たちの入学式の日に、咲さんの教室に押しかけロザリオを渡したのだ。もちろん咲さんは拒まなかった、いや拒めなかった。
特別凄い美人でもなく、身体的特徴もない咲さんを菜々様が妹に選んだことは、この当時リリアンの七不思議のひとつに数えられていた。
私もすぐに薔薇の館に出入りするようになったので咲さんと接する機会が多かった。
だんだん菜々様が彼女を妹にした理由がわかっていった。
咲さんは押しに弱い以外にも特徴があった。家事全般が得意で、滅多に怒らない穏やかな性格、親切で丁寧で、正に女性の鑑だった。どこかでそのことが漏れたのか咲さんの人気はうなぎのぼりになった。
そしてついには「妹にしたい1年生」と「嫁にしたい1年生」という新聞部のアンケートで2冠を達成した。今では一部の生徒から「嫁にしたい薔薇様」略して「嫁薔薇」と呼ばれるまでになった。
そんな咲さんの素質を見抜いていたのかは定かではないが、彼女を妹に選んだ菜々様はすごいと思う。

一方的に話を聞いている咲さんが私に助けてくれと目で合図してくる。
当然私は巻き込まれたくないのでそれをスルーして一人号外を読んでいた紅薔薇様に声をかける。咲さんに睨まれている気がするが気にしない。
「ベイユ様、やはり気になりますか」
「うん。美華柚ったらずいぶんはやまったのね」
「そのようですね」
はあ〜っと重くため息を吐くベイユ様。
小さな体がいつもより頼りなく見える。

ベイユ様は本名を「ジュディフュイオベイユ・カーティス」という。
長ったらしい名前なのでみんな「ジュディ様」とか「ベイユ様」と呼んでいる。
ちなみに「フュイオ様」と呼ぶ人は居ない。発音が難しいから。
ベイユ様はアメリカ人と日本人のハーフで日本生まれの日本育ち。英語は苦手らしい。
身長は145pほどで思ったことがすぐ顔に出る百面相の持ち主。
親しみやすさではかの有名な福沢祐巳様を凌ぐほどといわれている。
その一方でフェンシングや剣道といった武道が得意である。
ドリルで知られる松平瞳子様の妹になる前は剣道部に所属していた。

「この号外読んでると美華柚を妹にしたときのこと、思い出すわね」
「どうしてですか?」
「この子も振られたでしょ」
「ああ」
「紅薔薇は必ず1度は振られる運命なのかな…」
「はあ…」
苦笑せずにはいられない。ベイユ様も1度、美華柚さんに振られているのだ。
本人は気付いて無いのかもしれないがベイユ様ご自身も瞳子様を1度振っている。
3代前の紅薔薇様、小笠原祥子様に至っては2回も振られている。
もはや運命ではなく呪いではないだろうか。
「美華柚ももうすぐ妹を持つのか…この出雲ちゃんって身長私とかぶってるよ。
あの子私に似た子を妹にしたいのかな…早く妹作ってほしいけどもう少し二人きりがいいな…ああジレンマだ」

なんだかベイユ様は要らん心配をしている。出雲ちゃんを妹にするのは私なのに。

しばらくすると報道コンビは出雲ちゃんを追いかけるために部屋を出て行った。
咲さんは真っ白になっている。可哀そうに。
最近はこれといって急ぎの仕事が無いのでのんびりだ。
菜々様は放心状態の咲さんを連れて帰っていった。
後はよろしくとベイユ様もいなくなって一人きりになった。
窓から外を見ると今日の出雲ちゃんは陸上部に追いかけられている。どうやら半べそを掻いているようだ。それを見てぞくぞくする私。昨日姉がやばいと言っていたのはこのことか。
すでに紅薔薇と黄薔薇は動き始めている。
転校してきて間もない出雲ちゃん。もう全校の注目を浴びている

「うふふふふ…あは、あははははははは!!!!」

出雲ちゃんを自分のものにした時のことを想像すると笑いが止まらなかった。
「待っててね、出雲ちゃん」
ペロッと唇を舐め、ニヤッと笑った。

この時、ビスケット扉の向こうでは忘れ物を取りに来た嫁薔薇こと咲さんが、小夜子の不気味な笑いに恐怖していた。



(コメント)
パレスチナ自治区 >本当にお目汚しすみません。ですが鉄は熱いうちに打てといいますし。(No.17325 2009-02-08 18:13:53)

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