がちゃS・ぷち

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No.298
作者:柊雅史
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2005-08-04 02:26:43
萌えた:7
笑った:7
感動だ:2

『由乃、負け惜しみモード』

【No:162】がちゃがちゃ江利子さま一撃入魂 及び 【No:166】正解は貴女の心に の続きですが読まなくても大丈夫です。


「素敵なブレスレットですね」
由乃が得意満面に渡した金庫を開けてブレスレットを取り出すと、菜々が嬉しそうに口元を綻ばせた。
「イニシャルまで入ってますね」
にこにことブレスレットを弄っている菜々。
それとは対照的に、由乃は驚愕の表情を浮かべていた。
「……んで」
「はい?」
「なんでいきなり開けられるの!?」
「はぁ?」
むきー、と両腕を振り回してやるせない気持ちを爆発させた由乃に、菜々の目が点になる。
「だから、どうしていきなりそれが開けられるのよ!」
「どうしてって……ああ、これですか?」
菜々が得心したように一枚のメモを取り出す。それは由乃が金庫と一緒に渡したヒントの書かれた紙。そのヒントを解かなくては金庫を開けることが出来なくて。
由乃としてはうんうん唸る菜々をまったりと眺めながら、最後には「もう、仕方ないわね。いい、これはこうやって開けるのよ?」なんて、得意げに開け方を披露して、尊敬のまなざしなんて集めちゃおうかしら、とか思っていたのだが。
由乃の目論見はあっさり外れ、菜々は金庫とヒントを二・三度見比べるや否や、あっさりさっくりすっぱりズバッと金庫を開けてくれちゃったのだ。
かつて、金庫が開けられずに祐巳さんに答えを教えてもらうという屈辱を味わった由乃としては「なんでよ!?」と叫ばずにはいられない状況だった。
「あ、私、こういうのは得意なんですよ」
菜々が事情を察して言う。
「冒険物とかミステリーとか、大好きなので。そういうのには暗号解読なんかが付き物じゃないですか」
「それにしたって……少しは悩んでも」
「それに、それほど難しい暗号でもないし」
しれっと続けた菜々に、由乃の口元がひくひくと引きつる。
「そ、そう? ま、まぁそうよね。うん。私もちょっと簡単かな、なんて思ってたのよ! あっはっは!」
「……お姉さま?」
空笑いをする由乃に、菜々は少し眉を寄せて――それから「ふーん」と呟いて。
きらり、と悪戯っぽく瞳を輝かせた。


それから数日後。
菜々は一枚のフロッピーを手に、薔薇の館へやって来た。
「お姉さま、ちょっと良いですか? お願いがあるのですけど」
「ん、なに?」
由乃よりよっぽどしっかり者の妹が、お願いなんて珍しい。
由乃は祐巳さんとの会話を中断して、にこにこと菜々を隣の席に座らせた。
「で、お願いって?」
「お姉さまは、鳥居江利子さまのメールアドレスをご存知ですか?」
「江利子さまの? うーん、令ちゃんなら知ってると思うけど」
「良かった。実は江利子さまに送っていただきたいメールがありまして」
菜々がフロッピーを見せて言う。
「この間頂いたブレスレットのお礼なんですけど」
「お礼なんか別にいいのに」
「そういうことはお姉さまが言うべきセリフではないと思いますよ」
菜々がちょっと苦笑する。
「とにかくこのファイルをですね、送りたいのです。私とお姉さまのツーショット写真集なんですけど」
「……なんですって?」
菜々の口にしたお礼の内容に、由乃がちょっと顔色を変えた。
「ツーショット写真?」
「はい、そうです」
「ちょっと待ってよ。私、そんなの持ってないわよ?」
由乃は菜々の手からフロッピーを素早く奪い取る。
「先日、笙子さまに頂きました」
「笙子さん……あ、蔦子さんの」
「はい」
「ふーん。――ねぇ、これ。私ももらって良い?」
「構いませんよ。――あ、これ、ファイルのパスワードですので。メールの本文に書いておいて下さい」
菜々が一枚のメモを由乃に渡す。
由乃はメモとフロッピーをしっかりと鞄にしまいこんだ。


その夜、由乃は上機嫌だった。
「ふんふんふん〜♪」
お風呂上りにタオルを首に掛けたまま、島津家を出て支倉家に向かう。
玄関に迎えに来た令ちゃんはさすがに呆れた様子で由乃を迎えたが、まぁ冬ならともかく最近はすっかり暖かくなったから、風邪をひいたりしないだろう。
由乃は令ちゃんの部屋に入ると、菜々から預かったフロッピーを渡した。
「これ、江利子さまに送ってくれる? メールで」
「メール? 構わないけど……」
大学生になって令ちゃんもノートPCを購入して、祥子さまや江利子さまとメールのやり取りをしている、と聞いたことがある。
令ちゃんは慣れた手付きでフロッピーに保存されていたファイルを添付し、菜々のメモに書かれていた通りの本文を打ち込んで、メールを送った。
「あと、私もそのファイル、見たい」
令ちゃんの背中越しにディスプレイを指差して、由乃はリクエストする。
「私と菜々のツーショット写真なのよ。令ちゃん、プリントできる?」
「できるけど……」
それを私にやらせるんだもんなー、とちょっと令ちゃんが不満そうに呟く。
令ちゃんがフロッピーのファイルをPCにコピーしてファイルの解凍を始めると、小さな窓が出てパスワードを求めてきた。
「由乃、パスワードは?」
「んーとね、『ei?+1=0』だって」
由乃がメモを読み上げると、令ちゃんの指が華麗に踊り――
ブブーという音がして『パスワードが違います』と表示された。
「令ちゃ〜〜〜ん」
早くツーショット写真を手にしたい由乃は口を尖らせる。
何しろほんの数日前、由乃は祐巳さんから瞳子ちゃんとのツーショット写真集(正に写真集と呼ぶに相応しい品揃えだった!)を自慢げに見せられたばかりなのだ。
私も菜々との写真が欲しいな、と思っていた矢先のことである。由乃は「ちゃんとやってよ!」と令ちゃんを軽く叩いた。
「おかしいな。ちゃんと打ったはずなんだけど……」
令ちゃんが首を傾げてもう一度キーを打つ。今度はしっかり由乃も目で追って確認し――
結果はやはり『パスワードが違います』だった。
「……ちゃんと打ったよ、私は」
「むー……?」
言い訳する令ちゃんを追いやって、今度は由乃が椅子に座ってキーを叩く。
けれど、やっぱり結果は変わらなかった。
「これ、菜々ちゃんが間違ってるんじゃないの?」
「そうなのかな……?」
由乃と令ちゃんが首を傾げたところで、ポーンと音がしてメールの受信を知らせた。
令ちゃんが確認する。差出人は江利子さま。
「お姉さまだ。ええと……素敵な写真をありがとう、中々面白い趣向だったわ、だって。パスワード、間違ってないみたいよ?」
「本当だ」
由乃も江利子さまのメールを確認する。文面を見る限り、江利子さまの方ではしっかりファイルを開いて写真を見た様子だ。
もう一度『ei?+1=0』と打ち込んで、由乃は「もしかして……」と眉を寄せた。
「これ、このまま打つんじゃないのかもしれない」
「どういうこと?」
由乃が江利子さまからもらった金庫の話をすると、令ちゃんがなるほどと頷いた。
「パスワードが謎掛けになってるわけね。それでお礼、か」
「あり得るわよ。菜々ってば、そういう変な性格だし」
由乃が断言すると、令ちゃんが小さな声で「由乃に変って言われてもなー」と呟いた。
「とにかく、菜々が作って江利子さまが解いたんだもの。負けてられないわ!」
令ちゃんを一発蹴ってから、由乃はぐっと気合いを入れて拳を握った。
「そうよ、どうせ菜々のことだもの! 私が写真を欲しがるのを見越した上で、このファイルを渡したに違いないわ! あの子はそういう子だもの!」
「……由乃、どんな子を妹にしたのよ……」
自信満々に言う由乃に、令ちゃんが溜息を吐く。
「どんなって、面白くて可愛い子よ」
「私相手にのろけないでよ」
「この勝負、受けてたった!」
顔をしかめる令ちゃんを放置して、由乃は菜々の書いたメモを広げ、ディスプレイを睨みつけた。
パスワードは『ei?+1=0』だ。
本文に「PS:どうぞ心にゆとりを持ってご覧ください」と添えられているのがどうにも憎らしい。
「――で、令ちゃんは何か思いついた?」
「いきなり私を頼る?」
呆れた様子の令ちゃんに、由乃はちょっと口を尖らせた。


「ごきげんよう、お姉さま」
寝不足気味でふらふらと薔薇の館を訪れた由乃を待っていたのは、満面笑みの菜々だった。
その輝かんばかりの笑みを見て、由乃は昨日令ちゃんに語った菜々の思惑が、大正解のビンゴだったことを確信する。
菜々は由乃が写真を欲しがるのを見越して、その反応を楽しむつもりなのだ。
なんて可愛くない妹だろうと思いつつ、由乃は引きつりそうになる頬を叱咤激励して、にっこりと笑みで応えた。
「ごきげんよう、菜々。今日は早いわね」
「はい、お姉さまに紅茶でもご馳走しようと思いまして」
「そうなの、それは嬉しいわね」
「座って待っててくださいね。――ところで、写真はどうでした? 良い写真でしたでしょう?」
にこり、と花が咲いたような無邪気な笑みを浮かべる菜々に、由乃はまたもや頬を叱咤激励する必要に迫られた。
なんでこう、この妹は、こういう妙なことをおっぱじめると、綺麗で魅力的な笑みを浮かべるのだろう。
これじゃまるで何かに夢中になった時の江利子さまだ、と思いつつ、由乃は余裕癪癪を装いながら、頷いた。
「そうね、とても素敵な写真だったわね」
答えながら思う。
これで菜々に正解を聞くことも、笙子ちゃんに手を回して写真をもらうことも、菜々に伝わる可能性があるので、出来なくなってしまった。
なんとか祐巳さんたちの協力を得ながら頑張ろうと、あくまでも負けを認めず優雅に微笑みながら、由乃は決心するのだった。


そんな由乃の様子を見ながら、菜々が楽しそうに笑いを漏らしているのは、きっとお姉さまとのささやかなお茶会が楽しいから、に違いない。
由乃の強がりが見抜かれている――なんてことはない。
――と、思いたかった。



【No:307】ヒント編へつづく


(コメント)
柊雅史 >プチ推理ゲーム第2弾! 今回はマリみてとか関係ないのであしからず。お暇な方はゆとりをもってお考え下さい。(No.1029 2005-08-04 02:27:48)
ケテル・ウィスパー >拙者・・・・謎解き苦手ですから・・・・切腹〜!!(No.1037 2005-08-04 19:45:53)
篠原 >今回のはサッパリですねえ。系統がわからない。(No.1039 2005-08-04 22:29:19)

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