がちゃS・ぷち

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No.3900
作者:こけら柿
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2022-07-10 16:09:28
萌えた:0
笑った:0
感動だ:5

『逆行由乃』

――はぁっ、はぁっ。

 息苦しさで目が覚める。
 ここは……自分の部屋のベッドだ。
 こんなに苦しいのは久々だ。手術をして以来、体調を崩して熱が出たりするのは度々あったが、こんなに身体が重く感じるのはしばらく無かった事だ。

 今は……眠る前はどうしてたんだっけ……。
 おぼろげな意識から、記憶をたどる。

 令ちゃんがリリアンを卒業し、菜々にロザリオをあげて姉妹になったのは、ついこの前の事。春休みに入って、菜々とデートの約束をして、それで――

 そうだった。デート前日の夜、珍しく熱を出したので、早く眠りに就くことにして、そのまま――

 
 え!?今何時!?寝坊した!!!?

 カーテンの隙間から漏れる日差しは、朝のそれではない。明らかに午後のもの。

 慌てて身体を起こそうとするが――


「うっ……!!」

 胸に痛みが走る。
 一体どうしたというのか。まるでこの身体は、手術前のあの忌々しい身体に戻ってしまったかのようだった。

 コンコン。
 この部屋のドアをノックする音が響く。

「由乃ー、入るよ」

 令ちゃんだ。
 
 そのままドアを開け、部屋に令ちゃんが入ってくる。

「れ、令ちゃん今何時!?どうしよう、私、寝坊しちゃっ……」
「落ち着いて、由乃。ちゃんと学校には連絡してあるんだから」

 ん?学校?

「入学式に出れなかったのは残念だけど、仕方ないよ。今は安静にしなきゃ」

 一体何を言って……

 そこで令ちゃんの格好に気付いた。

 リリアンの制服。
 ついこないだ卒業したばかりで、春休みの今、なぜ彼女はリリアン女学園の制服に袖を通しているのだろうか。

「それよりも、これをあげる約束だったよね」

 混乱して絶句している私をよそに、令ちゃんはあるものを私の手に握らせた。


 ロザリオ。


「私たちは、これで姉妹よ」

 私は、手の中で光るそれを顔に近づけて凝視する。
 間違いない。二年前に令ちゃんから貰い、ついこの前菜々の首にかけた、あのロザリオだ。

 そ、そんな……なんでこのロザリオが今ここにあるの……?

 私は部屋の中を見回す。そして、机の横にあるカレンダーを見つける。
 二年前の四月……?

 何が何だかわからない。

 私の手の中で、ロザリオがチャリチャリと金属音を鳴らし、緑色の光を反射している。

 ふう、と私は大きく息を吐きだした。

 この状況で考えられることは一つ。


 夢だ。


 そうとしか考えられない。

「令ちゃん、私、少し疲れちゃった。もうちょっと寝るね」
「うん。それがいい。お休み由乃」
「お休み令ちゃん」

 再び眠りに就き、目が覚めた時には、きっと元の世界に戻っている。

 菜々とのデート、どんな風に過ごそうか。

 そんなことを考えながら、私の意識は眠りに沈んでいくのだった。


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