【1037】 いっしょに  (まつのめ 2006-01-15 14:49:06)


こっちばかりですみません。訪問編もうすこし続きます。
第一部【No:505】 No.530 No.548 No.554 No.557 No.574 No.583 No.593 No.656 No.914 No.916 No.918 No.972 【No:980】
第二部【No:1018】→No.1027→【No:1033】→これ



 子供部屋に戻って、少し着崩れてしまった着物を志摩子さんに直してもらいながら朝姫は聞いた。
「普通はこんな日は何してるの?」
「ええと、宿題かお母さまのお手伝いか……」
 お寺の方の手伝いをすることもあるとか。
「ふうん」
「でも今日は朝姫さんのお相手だからお手伝いは無いのよ」
「それは有難いことで」

 着物を直し終わって志摩子さんは言った。
「お夕飯まで時間がありますけど、どうしますか? 本堂や境内の案内なら出来ますけど」
 朝姫は眉を顰めた。
「あのさ、志摩子さん?」
「えっと、なにか私変なこと言いましたか?」
 困ったように志摩子さんはそう言った。
 どうやら本気で言っているらしいので朝姫も困った。
「女子高生がお友達呼んでおいて、いきなり『お寺の見学』は無いんじゃない?」
 志摩子さんは「え?」っとなってから、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。 こうしてお友達を家に呼ぶのって初めてだから……」
 ついでに一番親しい乃梨子さんはそういうの喜ぶ人なんだそうだ。
 今度会ったらそのへん突っ込んでみよう。
「まあ、乃梨子さんの趣味は置いておくとして、なにか遊ぶもの無いの?」
 今までが今までだから志摩子さんにはあんまり期待してないけど、ご両親や親戚がくれた玩具とかがあるかもしれないから。
「それなら、ここになにか……」
 そう言って志摩子さんは入ってきたとこと違う襖を開けた。
 いや、押入れだった。

「おお!」
「あら……」
 子供部屋の押入れの中におもちゃ箱を発見した。
「これは……、小さい子供だったら良かったのかもしれないけど」
「そうですね」
 カラフルな積み木とか、乗って遊べる車のおもちゃとか、幼児向けの玩具だった。
「ボードゲームとかないのかな」
「あったと思いますけど、ここではないようですね。探してきましょうか?」
「いや、それならこれでも」
 布製のボール。
 子供が遊んで危なくないようなやわらかいやつだ。 中身は多分スポンジ。
「それが?」
「えい!」
「きゃっ!」
 志摩子さんの顔めがけて投げつけた。
 顔で受けたものの取り落とさずに手でキャッチしたのは流石といえる。
「あははは」
 とりあえず驚いた顔を笑ってやった。
「うふふ……」
 志摩子さんはボールを持ったまま微笑んだのだけど。
「うぉっ!」
 すげえ。 一瞬、手が見えなかった。
 志摩子さんは正座したまま、上体をほとんど動かさないで片手でボールを投げ返してきた。
 朝姫は顔面に向かってきたそれをぎりぎりでキャッチした。
「あら」
「えへへ、セーフでした」
 そう言うと、志摩子さんは無言でおもちゃ箱を漁りはじめた。
「ちょっ、たんま、もしかしてそれ投げるつもり?」
 そんなのがどこに入っていたのか、志摩子さんが取り出したのはウサギだかクマだか得体の知れない生き物のぬいぐるみだった。
 しかもでかい。
 ついでに目付きが悪い。
「うふふ」
「うふふって、なに構えてるの!?」
 こうなったら攻撃は最大の防御っと。
「えいっ!」
 もう一回顔めがけてボールを投げたが、ぼすっ、とそのぬいぐるみで簡単に防御されてしまった。
「はいっ」
「うわっ」
 朝姫は志摩子さんが投げてきた結構なサイズの謎生物を抱きつくようにして受け取った。
「もうっ、志摩子さん過激なんだから……」
 と、ぬいぐるみ越しに志摩子さんを見たら、ピッチングモーションの途中だった。
「ぎゃっ!」
 顔に命中。
 朝姫が顔を上げるタイミングまで読んでいたみたいだ。
 まあ、軽いポールだから思い切り投げても衝撃はたかが知れてるんだけど。
「うふふ、おあいこですね」
「おあいこって、こんなの投げつけられたら割に合わないよ」
 といいつつ、これは……。
「あら、気に入りましたか?」
「ん、抱きごこちがなかなか」
 ちょっと目付きが怖いのが減点だけど毛並みがふかふかで気持ちがいい。
 どれどれと志摩子さんが寄って来たので向きを変えて触らせないようにした。
「駄目。これは志摩子さんが私にくれたんだから」
「ええっ、少しくらい抱かせてくださいよ」
「だーめっ」
「もうっ」
 そう言って何を思ったのか志摩子さんは朝姫の後ろに回った。
「わっ」
「うふふふ」
「ちょっと、志摩子さん?」
 なんと後ろから朝姫に抱きついてきた。

「これ、志摩子さんのじゃないの?」
「わからないわ」
 志摩子さんは朝姫の背中越しに毛並みをさわさわしてた。
「わからない?」
「もしかしたら小さい頃、買ってもらったものなのかもしれないわ。 でも……」
「覚えてないんだ」
「ええ」
「ふーん」
 そう言って抱きしめていたぬいぐるみをちょっと離してその顔を見た。
 もしかして顔が怖いから要らないって言ったのかも。
 朝姫がそんなことを考えていたら、背中から離れた志摩子さんがぬいぐるみに手を伸ばしてきたのでまた抱きしめて防御した。
「……惜しかったわ」
「油断も隙も無いわね」

 ぬいぐるみを巡ってじゃれあっていたら、お手伝いさんが志摩子さんを呼びにきた。
 小父さんが呼んでるとか。
 ところが。
「え? 私も? お客さまでしょ?」
「はい、旦那様が」
 お客さまに挨拶してくれという話なのに、朝姫にも来て欲しいとか言ってるのだ。
「お父さま……」
「志摩子さん?」
 志摩子さんも困った顔をしていた。
「あの、どうします? 父が何か悪戯を思いついたのだと思いますけど」
「悪戯ぁ?」
 ううむ、確かに小父さまはそんなことしそうなキャラだけど。
 疑問に思いつつも志摩子さんと客間に向かった。

「志摩子です」
「……です」
 襖をゆっくりと開けたら頭を下げる。
 朝姫は隣に座ってとりあえず志摩子さんの真似をした。
 そして目線はまだお客さまに向けずに敷居を踏まないようにお部屋に入りお客さまの前まで移動して座る、と。
 志摩子さんは小父さんが朝姫に礼儀作法を期待している訳は無いので、お客さまといってもごく親しい知人のはずだと言っていた。

 はたしてその知人とは?

「あーっ! 乃梨子さ……」
 小父さんのお客さまであろう、爺さんと言っていい年齢の男性と一緒に一寸びっくりしたように目を見開いていたのは私服を着た乃梨子さんだったのだ。




 (→【No:1040】)


一つ戻る   一つ進む