「・・・まいったなぁ」
私は、やけにゆっくりと目の前に迫るモノクロの炎を見ながらつぶやく。
炎・・・といっても単純な火事なんかじゃない。
・・・いや、火事と言えば、火事なんだけども。
唯ここが、地上にはえている建物なんかじゃなくて、地上から3000mも離れた旅客機の中と言うのが問題だった。
「流石に今回は・・・無理かな・・・」
私の人生は、決して平坦な物ではなかった。
そもそも波乱万丈になった切っ掛けは、高校一年の時のアレだろうか?
古風・・・といえば聞こえはいいものの、周囲から見れば唯時代遅れなだけだろう・・・な校風のリリアン女学院。
その高等部の1年の時、私は彼女とであった。
私のお姉さま、小笠原祥子さまと。
唯の平凡な一学生でしかなかった、それも、特技も何も無く、平均点だけが売りだった私が・・・世界でも有数の小笠原財閥との関係を持った切欠。
今では財閥お抱えのカウンセラーなんかやってるんだから。
まぁ、そんなこんなで私の生活は一変した。
一生徒だった私が、薔薇様と呼ばれる生徒会長となり、何の注目もされていなかった自分が、一躍学園中の有名人となり・・・うぬぼれ出なければ、それなりに認められていたと思う。
卒業後、私は大学部へは進まず、カウンセラーへの道を選んだ。
その理由は単純だ。
高等部で、私は悩んでばかりだった。
自分に自信が無く、紅薔薇様とよばれる事が分不相応に感じ、一時期、それから逃げ出しそうにもなった。
そんな時支えてくれたのが同じ薔薇様の由乃さんと志摩子さん。
先代黄薔薇様の令さま。
先々代の薔薇様、聖さまと江利子さま、蓉子さま。
私の妹になった瞳子。
そして、お姉さま・・・
いろいろな人に支えられた。
いろいろな人に助けてもらった。
だから、私も誰かを支えられる人間になりたかった。
皆私の決めた道を祝福してくれた。
私も自分が間違った道を進んできたとは思わないし、思えない。
そして、思う必要もないと思う。
人の気持ちはどんな難解な書類よりも難しい。
その気持ちに長い間関わってこられた自分の人生を、否定する事なんてできない。
「・・・って、何だこの遺書じみた思考は?」
いや、まぁ、こんな状況だから、生き残るのは絶望的だとわかってる。
でも、余裕あるな私・・・
聞こえないけど、周りを見れば恐怖で顔を引きつらせた人ばかりなのに・・・
・・・いや、そういう感想を持てることじたい余裕の表れとも取れるか。
まぁ、それもこの能力のおかげか。
死にかかったけど、今この瞬間だけは感謝しよう。
カウンセラーになって一年、私は事故にあった。
こんな、旅客機での事故じゃない。
交通事故だ。
もっとも身近にあるのに、誰もそれが自分に降りかかるとは考えて居ない、そんな事故。
あの時も死んだと思った。
結果、私は死なず、約一年後に病院で目を覚ましたわけだけど。
あの時は落ち込んだなぁ・・・
人の精神の不安を取り除く仕事をしてる私が、大切な人たちに大きな・・・大きすぎる心配をかけた。
あの時は本気でカウンセラーを止めようかと思ったけど・・・
・・・いや、それは今はいいか。
病院で目を覚ました私は、ちょっと特殊な能力を持っていた。
それが、これ。
脳に伝達される情報を抑制する事によって知覚できる時間を数倍から十数倍にまで増幅できる、『超集中』とでもいえる能力。
音を脳に伝達させなくする事で約4倍、色を識別しなくする事で約5倍と言ったところだろうか。
そんなわけで、今私の感覚では20分の1のスピードで世界が回っている。
目の前から迫る炎も、地上に向けて落下する旅客機も。
ついでに言うなら恐怖に引きつる乗客も、だ。
まぁ、そんな訳で多少の余裕がある。
・・・とは言っても、身体の耐久力が上がったわけではないし、この状況をどうこうできるような能力でもないわけで。
現実逃避気味に過去を振り返っているといったところかな?
・・・そう言えば・・・自力で走馬灯(?)を見た人間なんて私位なものじゃなかろうか?
うん、凄いぞ、私。
・・・いやいや、そうでなくて。
・・・色々考えてるけど、結局私はどうしたいんだろ?
過去を振り返って喜んだり落ち込んだり。
確かに、もうすぐ終わるだろう人生だ。
それはそれでいいのかもしれない。
後悔しない為になら、残された実質数分・・・私主観では数十分を色々楽しかった事を思い出すのに使えばいいかもしれない。
でも、なんだろう?
私がしたいのはそんな事じゃない。
そんな気がする。
って、カウンセラーのクセに自分の気持ちも判らないのかよ私・・・
あ、なんか沈んできた・・・
う〜ん・・・
何だろう?
いつかも感じたような・・・
そんな気持ちだ。
・・・そうだ。
あぁ、そうか。
私は今の生活に満足してる。
それは間違いない。
私は今の行き方に満足している。
それも間違いない。
でも、まだ満足していない事も、あるんだ。
私は、今終わるこの人生に、満足していない。
あぁ、そうだ。
そうなんだ。
私は、まだ終わりたくないんだ。
志摩子さんと。
由乃さんと。
令さまと。
聖さまと。
江利子さまと。
蓉子さまと。
蔦子さんと。
真実さんと。
笙子ちゃんと。
菜々ちゃんと。
乃梨子ちゃんと。
可南子ちゃんと。
祐麒と。
優さんと。
・・・瞳子と。
・・・お姉さまと。
まだ、生きて生きたい。
まだ、30年に満たない時間しか生きていない。
こんな所で終わるのは・・・まだ、嫌だ。
私はまだ満足してない。
私は・・・
そう。私は・・・
「私は・・・まだ生きたい!」
そして・・・
だから。
私は。
旅客機の亀裂から青い海が見えた時。
シートベルトを乱暴に外し。
迷わずにその海に向かって飛び込んでいった。
〜だから私は生きていたい〜
完
はじめまして計架です。
まりみてのSSはこれが初めてですね。
「一体どんな状況だよ!」
なんていう突っ込みは無しの方向で(汗
key1の生と死の境はともかく・・・Key2に超・タヌキなんてのがあって吃驚で、なんとなく変な能力身につけさせてみました。
これで超になるんだろうか?
key3のどこへ向かってゆく・・・本当にどこへ向かっていくんだろう?
ではまたいつか。
・・・いつか・・・は来るのか?