『や・み・にかぁ〜くれて、い・き・る〜♪
私たち新聞部姉妹なのサ〜♪』
蔦子と真美が今日の成果を早速現像すべく、揃って写真部の部室に戻ってきた時だった。
妙に軽快でノリノリで、楽しそうな声が扉の向こうから聞こえてきた。
「今のは……日出実ちゃんの声じゃない?」
「あの子ったら……何をしているのよ……」
思わず口元を緩めて蔦子が尋ねると、真美ははぁとため息を吐いて頭を押さえた。
「くふふ……妖怪人間なんて、渋いチョイスじゃないの」
「……全く。恥ずかしい……」
『人に姿を見せられぬ〜♪
けもののようなこの眼光♪』
『早くスクープをものにした〜い!』
ノリノリの日出実の歌に、絶妙な合いの手が入る。蔦子にはイヤになるくらいに聞き覚えのある声だった。
「……今のはあの子よね、最近写真部によく来てる。笙子さん」
「笙子ちゃん……あなた、何をしてるのよ……」
真美の指摘に蔦子は額を手で覆って、がっくりと項垂れる。
『黒いうわさを吹き飛ばせ〜♪』
『三奈子! 真美! 日出実!』
『新聞部姉妹♪』
思わずがっくりと廊下に膝を着いて沈み込んでいた蔦子と真美は、顔を見合わせて立ち上がった。とりあえず早いところ踏み込んで、注意しなければ。なんというか、こんな歌が流れてくる写真部というのは、正直恥ずかしすぎる。
蔦子がノブに手を伸ばしたその瞬間――
『ネガに涙を流す〜♪
わたしは写真部エースなのサ〜♪』
笙子の声で2番が始まった。
「ちょっと……」
「蔦子さん、ストップ。写真部エースって言えば、蔦子さんのことじゃないの。これは聞かない手はないわ」
真美は素早く蔦子の手を掴み、にやりと笑みを浮かべた。
『技をこらして祐巳の絵を
写す望みに燃えている〜♪』
『早く祐巳さんを撮りたい!』
「おー、さすが良く見てるわ、笙子さん」
「笙子ちゃん……orz」
『邪魔な祥子を吹き飛ばせ♪』
『蔦子! 蔦子! 蔦子ぉ!!』
『写真部エーース♪』
「それにしても、紅薔薇さままで呼び捨てにするとは、中々やるわね、あの子たち」
笑いを堪えながら真美が蔦子の肩を叩く。
「まぁ『さま』付けだと、やっぱり文字数が合わないものね。じゃ、今度こそ止めに行きましょう、蔦子さん」
面白い物を聞いて上機嫌な真美がノブに手をかけた瞬間。
『写真に願いをかける
私は一般生徒なのサ♪』
再び笙子の歌が聞こえ、真美は動きを止めた。
『蔦子サマのために頑張って
いつかは生まれ変わるんだ♪』
『早く妹になりたい!!』
『蔦子サマのポリシーを吹き飛ばせ♪』
『蔦子! 笙子! いつかは!』
『写真部姉妹♪』
『イェ〜イ!』とノリノリの声が聞こえてくる写真部部室に背を向けて、真美は笑いで肩を震わせて、蔦子はぐったりと顔を覆って項垂れていた。
背後からは「中々良い出来じゃないですか、笙子さん」という日出実の賞賛の声と、「昨日一晩考えたんですよ〜」という笙子の得意げな声が聞こえてくる。
なんと言うか……笙子には、もっと有意義な生き方ってものを教えたくなるような会話である。
どうしたものかと蔦子と真美が途方に暮れていると、部屋の中のテンションは更に上がったのか、再び先程の歌が、しかもよりハイテンションになって聞こえてきた。
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新聞・写真部姉妹(一部仮) 作詞:内藤笙子
闇に隠れて生きる
私たち新聞部姉妹なのさ
人に姿を見せられぬ
けもののようなこの眼光
(早くスクープをものにしたい!)
黒いうわさを吹き飛ばせ
(三奈子! 真美! 日出実!)
新聞部姉妹
ネガに涙を流す
わたしは写真部エースなのさ
技をこらして祐巳の絵を
写す望みに燃えている
(早く祐巳さんを撮りたい!)
邪魔な祥子を吹き飛ばせ
(蔦子! 蔦子! 蔦子!)
写真部エース
写真に願いをかける
私は一般生徒なのさ
蔦子サマのために頑張って
いつかは生まれ変わるんだ
(早く妹になりたい!!)
蔦子サマのポリシーを吹き飛ばせ♪
(蔦子! 笙子! いつかは!)
写真部姉妹
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「……だ、そうですが、蔦子さん?」
「……これを聞いて、何をどう答えろと……?」
蔦子はふらりと立ち上がって、よろよろと部室から遠ざかっていった。
その脱力した後姿に苦笑して、真美は呟く。
「蔦子さん……早いところ妹にしてあげないと、ますます変な子になっちゃうわよ、笙子さん……」
そして呟く真美の背中から。
3度目の替え歌が聞こえてきたのだった。