「……残念ですが…お断りさせていただきます」
菜々は深々と頭をたれて由乃に謝った。
入学式の後の公孫樹並木でようやく菜々を見つけた由乃は『私の妹になってほしい』とロザリオを渡そうとしたのだった。
時としてかなり無理やりな理由をつけて何度か会っている由乃としては、断られるとは思ってもみなかったのだが、菜々は少し冷めた目をして断った。
「………理由…聞かせてくれるかしら?」
「……招いていただいたクリスマス会でのこと、覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、当然でしょ」
「会自体は大変楽しかったです。 お招きいただいて感謝しています。 ただ、あの時、支倉令さまが他の大学を受験されると由乃さまに告白された時……事前に聞かされていなくて驚いたとはいえ、その瞬間他の事に目が行かなくなられましたね。 私はそれを見てどう考えたと思います?」
菜々は正面から由乃を見据える、その強い意志を持った瞳に押されそうになる。
言葉が出てこない、怒りから? 由乃はブルブル震えだしそうになる手を押さえて首を横に振る。
「この人の世界は”支倉令さま”なんだ”支倉令さまが中心”なんだ、そういう狭い範囲の関係で満足できてしまうんだ。 紅薔薇のつぼみも白薔薇さまも同じですね。 お二人もそうでしたけれど”親友”だと言っていらっしゃいましたけれど、自分に言い聞かせるために、お互いにそのことを確認し合うために言い合っている、ただそれだけの虚構の関係なんだ。 私にはそう感じられました。 そして由乃さまは”支倉令さまが居てくれれば他はなにもいらない”んだと……」
「そ、そんなこと…「無いって言えますか?」」
由乃と菜々の間を桜の花びらをはらんだ風が抜ける。 晴れやかとはいい難い二人の雰囲気に下校する生徒達は遠巻きにして通り過ぎて行く。
「支倉令さまも考え無しにしていらしたと思いますけれど、無責任に甘やかしていらしたんじゃないですか? 由乃さまが本当の親友や友達を作れないのをどこかで安心している令さまがいる。 由乃さまもそれに甘えて今のままでいいやと思っているた」
淡々と話す菜々、言葉の端々になぜか若干の憎悪が含まれている。
「そういう関係もあるでしょうね、二人で完結できるならそれもいいでしょう。 でも知っていましたか? 人間の死亡率って100%なんですよ。 ”支倉令”という温室はひょっとしたら1秒先には無くなるんです。 温室の中でしか生きられない、咲けない花はその時どうなるんですか? 私は、そんな者のお守りはごめんです」
「……私だけならともかく……令ちゃんの…!」
由乃はキッと菜々を睨み付けると手を振り上げる、しかし由乃のそれに反応できない菜々ではない、平手が当たる前に片手だけで完全にガードしてしまう。
「…スール制についてとやかく言う気はありません。 ただ私は、そんな狭い範囲で満足することは出来ませんから。 せっかく高等部に来て、中等部以上に自由に動き回れるようになったのに『少数の人間関係で満足しなさい』なんて、そんな縛りは願い下げです」