「志摩子さん。貴女さえいなければ、私はあの方の妹に
なれたかもしれない。悪いけど、消えていただくわ!」
「静・・・。私もお姉さまを通してわかりあえると
思っていましたが、これ以上の話し合いは時間の無駄
のようですね。」
私と静は、廃墟で対峙している。お互い武器を構えた。
私はショートソードとスモールシールド。静も同じ
様なショートソード。間合いは、ほとんじ同じ。こちらの
攻撃が届かないということは、相手の攻撃も届かないと
いうこと。私たちは向かい合ったまま走り出す。先手を取らねば
静には勝てない。直感でそう思った私は、柱の陰から飛び出し、
跳躍して先制攻撃を仕掛けた。予想外の方向からの攻撃に静は、
一瞬焦りの色を見せるが、口元に小さな笑みを浮かべた。
「その勇敢さには敬服するわ。でも、甘いわよ!」
次の瞬間、私は自分の目を疑った。静のショートソードが
まるで蛇のように伸びてゆく。
「カインドランブラー!」
生きている蛇のように、伸びたソードは確実に私を狙ってくる。
空中では体勢の変えようがない。紙一重のところで身体をひねって
なんとか串刺しになるのを避けることには成功したが、着地のことまで
考えている余裕はなく、地面に叩きつけられた。
「くっ!」
「さすがね。白薔薇のつぼみの称号は伊達ではないと言ったところかしら。」
静さまは、余裕の笑みを浮かべて私を見下ろしている。激突の衝撃から
まだ立ち上がることができない。ここへ追撃されたら、いくら私でも耐えるのは
かなり厳しい。しかし、静さまは離れた場所から攻撃を仕掛けるそぶりを見せない。
私が立ち上がるのを、わざわざ待っているようだ。
「どう?素敵でしょ。蛇腹剣っていうの。私の意志で剣にも
鞭にもなるのよ。あなたを倒すためにわざわざ取り寄せた
甲斐があったわ。」
私は、なんとか立ち上がって再び武器を構えた。それを確認すると、静さまは
再び攻撃を仕掛けてきた。真面目というか、バカ正直というか。いや、真っ向勝負
で私に勝たないと意味がないと考えているに違いない。それならば、こちらも
それに応えるのが筋というもの。シールドを構えて、隙をうかがう。リーチの差は
圧倒的だ。しかし、そこにこそチャンスが生まれる。左右へ細かくステップを
刻んで攻撃をかわしながら、少しづつ間合いを詰めてゆく。多少のダメージは
必要経費と割り切って静さまの攻撃を避ける。直撃こそ避けたが、何度か攻撃を
喰らってしまう。あちこちが痛むが、構わずにさらに前進する。入った!この間合い
ならば、私の攻撃も届く。攻撃を避けた動作からから、そのまま横斬りを繰り出す。
「もらった!」
「それはどうかしら?クリミナルシンフォニー!」
何が起きたか全くわからないうちに、私は空高く持ち上げられて、
そのまま叩きつけられた。全身がバラバラになるような衝撃。
「さすがに勝負アリって感じかしら?」
静さまは、悠然と構えて私を見下ろしている。完全に勝ったつもりでいる
ようだ。私は、剣を支えにしてなんとか立ち上がろうとするが、下半身に
力が入らない。
「この技を喰らって立ち上がるとは、見上げた精神力ね。でも、
身体がついていってないみたいよ。」
「まだ勝負は・・・ついてません・・・!」
この人だけには負けられない。ただ、その感情のみが今の私を
支えている。戦闘において優劣を決するのは技ではない。己の
信念が強い方が勝つ。これまでの経験から得たことだ。満身創痍の
身体をひきずって、再び静と対峙する。身体に蓄積しているダメージを
考えれば、次の一撃でしとめない限り私は負ける。
「そろそろ終わりにしましょうか!」
静の言葉で、私は地面を蹴って駆け出した。蛇腹剣の攻撃を避けて、
剣が戻るまでに、攻撃を決めるしかない。ギリギリまでひきつけてから
蛇腹剣を避け、低い姿勢のステップからコンビネーションを繰り出す。
「ヘブンズジャッジメント!」
1撃目で静の身体を浮かせると、立て続けに剣での連撃を叩き込む。
最後は、右肩にキックを打ち込んだ。受身も取れないまま地面に
叩きつけられる静。
「ぐはっ!」
口から鮮血を吹き出す静。着地を決めたものの、これ以上
戦うのは不可能だ。静が立ち上がらないことだけを祈る。
「完敗ね。さあ殺してちょうだい。」
「それはお断りします。」
「どうして?」
「私もあなたも聖さまが好き。それでいいじゃありませんか。」
「ははははっ。やっぱり貴女には敵わないわ。」
私は踵を返して静の元から去ってゆく。あの方の待つ街に
帰ろう。キズの手当てをしていると、きっと悪戯をしてくるに
違いない。そう思うと笑いがこぼれた。
「・・・えさま。お姉さまっ!」
「・・・・乃梨子。」
私が目を覚ますと妹の乃梨子が心配そうに顔を
覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?ずいぶんと苦しそうな顔してましたから。」
「大丈夫よ。ちょっとおかしな夢を見ていただけだから。」
そう言って私は乃梨子がいれてくれた紅茶を口へ運んだ。
(終わり)