【1095】 傑作だけでは飽き足らず  (投 2006-02-07 20:25:20)


【No:1088】→【No:1093】の続き




ふっふっふ、何度見ても、これは最高傑作!
しかも二枚も!
祐巳さん、驚くかな?
確か今は音楽室の掃除のはず、早速、探しにいくとしますか。






「祐巳さん、祐巳さん」

ちょうど掃除が終ったのか、祐巳さんが同じ掃除当番の三人と音楽室から出てくる。
あまりの間のよさに、思わず笑いを零しそうになりながら、彼女に声を掛ける。

「あ、蔦子さん。私に何かご用でも?」

「少々お話が……」

お話……、と言うか交渉なんだけどね。
他の掃除当番の人たちに別れを告げて、私達は話を続ける。

「私が写真部なのは、よ〜っく知ってるわよね?」

そう言うと、彼女は苦笑いを浮かべながら「うん、よく知ってる」と応えた。
まぁ、当然といえば当然で、
彼女が転校してきて二日目に、カメラへの思いとか、ポリシーとか、
趣味とか好物とかその他諸々を叩き込んだのは私だ。
当然、ばっちり覚えて貰えるまで。
なにしろ、被写体が人間だけに、最初からこういう人間なんだって知ってもらえていれば、
こちらとしても動きやすいから。
それに、そうそうトラブルも起こりはしない。

「まさか、また変な写真?あんまり変な写真はイヤよ?」

「変な写真ってひどいなー、祐巳さん。でも安心して今回は最高傑作よ!」

言って二枚の写真を取り出す。
彼女はポカーンと、美少女にあるまじき表情でしばらく写真を見つめていたが、
その写真が何を写したものか理解できたらしい。

「えー!」

叫んだ後に、目に見えてうろたえ始める。
あー、こんな表情もいいな。やっぱり祐巳さんは最高の被写体ね。

「二枚とも祐巳さんと祥子さまのツーショット。一枚は望遠でのアップ。
 よく撮れてるでしょう?どう?欲しい?」

「す、すごい……。欲しい!!」

「タイトルは『逢瀬』。でも、さすがにそれはマズイから展示する時は『躾』ね」

「逢瀬って……。え、展示?」

「学園祭の写真部展示コーナーで飾らせてもらいたいのよ」

ご冗談でしょう?
いいえ、冗談なものですか。

「この写真を上げるのはいい。そのかわり二つ条件を呑んで欲しいの。
 一つ目がさっき言った展示の件。もう一つが、紅薔薇のつぼみに許可を取ること」

「許可って、さ、祥子さまに?」

「そう、祥子さまに」

無理、絶対に無理だってば!
祐巳さんはそう言うけれど、私はそうは思わない。
なにしろ、あの祥子さまが下級生と頬を染めて見つめ合ってるのよ?
そればかりか、タイまで直してあげてるし。
今までになかった不信な行動。
私でなくても、何かあると疑ってしまうじゃない。
それにこの二人の表情は間違いなく……。
おっと、それどころじゃない。今はこっちに集中しないと、
さて、弁論部に誘われたこともある私の腕の見せ所ね。






リリアン女学園高等部の生徒会である山百合会。
今のこの時間なら山百合会のメンバーは、木造二階建ての『薔薇の館』と呼ばれる、
教室の半分ほどの小さな建物の中に集まっているはず。
あっけなく陥落した祐巳さんを連れて、私はその薔薇の館の前に来ていた。

「じゃ、ノックするね?」

別に私に断らなくてもいいと思うけど、祐巳さんはそう言って木の扉をノックする。

ヤバイ緊張してきた……、祐巳さんの方を見ると、なんだか彼女の方が落ち着いて見える。
と、彼女は首を捻った。

「出てこないね?聞こえないのかな?」

確かに。
聞こえているのなら、出てきてもいいくらいの時間は経っている。
もう一回ノックしてみるね?言って彼女が手を振り上げたと同時に、

「山百合会に、何かご用?」

うわぁ!!
思わず叫びそうになったけど、なんとか堪え、全身で後ろに振り返った。
そこにいたのは白薔薇のつぼみこと藤堂志摩子さん。
ふわふわ巻き毛の、見目麗しい私達のクラスメート。
微笑まれたりしたら思わず赤面しそう。
考えてみれば、祐巳さんも美少女なんだよねー、ひょっとして来るとこ間違えたかな?
と考えていると、祐巳さんがちょうどいいとばかりに志摩子さんに目的を話す。

「私と蔦子さん、紅薔薇のつぼみにお話があって。とりついでもらえるかな?」

「あら、でしたらお入りになったら?祥子さまは二階にいらっしゃると思うし、どうぞ?」

志摩子さんは私達に微笑みながら扉を開け、入り易いように扉を押さえる。

「行こう、蔦子さん」

祐巳さんが私の腕を取りながら声を掛けてくる。
ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が……

入ってすぐのフロアに人気は無い。

「こちらよ」

フロア左手にあるやや勾配の急な階段へと案内される。
志摩子さんはその階段の手前で止まった。

「この階段を上って右手側に会議室があるわ、そこに祥子さまもいらっしゃるはずよ」

ごくり……、思わずつばを飲み込む。
そんな事言われると、ただの階段がすごく怖い……。
ここに入ってきた時と同じように、祐巳さんが私の腕を取る。
だから、なんでそんなに落ち着いてるのよ?
思ったけど、祐巳さんの事だから何も考えてない可能性がある。
わざわざ言わないけど……。

ギシギシと鳴る階段を上りきると、確かに言われたとおりに扉がある。
祐巳さんが小さくビスケットみたい……、と呟いたのが聞こえた。
薔薇の館でビスケットの扉とか、よくそんな発想が浮かぶなぁと、
呆れ半分に感心していると、扉の向こうから耳をつんざくような声が聞こえてきた。

「横暴ですわ!お姉さま方の意地悪!」

あれ?この声って……、

「よかった。祥子さまいらっしゃるみたい」

志摩子さんがドアノブに手をかけた。

「ええっ?」

祐巳さんが、やたらと驚いている。
まぁ、確かにあの写真にこういうのは写らないし(写すつもりはないし)、
朝に、私が見ていたときも無かったから、祐巳さんが驚くのもムリはない。
というか私も驚いた。

いつものことよ……、志摩子さんは言って、ノックもせずにゆっくりと扉を開けた。

「分かりました。そうまでおっしゃるなら、ここに連れてくればいいのでしょう!
 ええ、今すぐ連れて参ります」

そんな言葉と共に、一人の生徒が勢いよく部屋から飛び出してきた。
ちょうど内側からドアノブに手をかけたところで、こちら側から引いてしまったからだ。
結果……、

「え……?」
「わぁっ!」

飛び出てきた人影は、私の前にいる祐巳さんを道連れに廊下に倒れこんでしまった。
何が何だかわからない、すごい状態になってしまっている。

ああ、まいったなぁ、こんなことになるとは思わなかった。
思えばあの最高の二枚の写真に浮かれていたのが悔やまれる。




 カメラを持ってくるのを忘れていた事に今ごろ気付くなんて……




まだまだ続く……のか?


※設定3 蔦子は表面上変わりありません ほぼ原作のままです。
    どこまでも蔦子さんなのです理想はw
    原作片手に色々手を加えてますが、今回はあちこち端折って話を進める事を
    一番に考えていたので、あんまり蔦子らしさが出てないです。
    なので、思考が微妙(?)に投仕様(注1)になってます。せっかくSS書いてるんだぜー、
    しかもパラレル設定なんだぜーちょっとくらい弄ろうぜーと神の声が(嘘

※注1  妖しい病気のこと


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