【1102】 未来へGO!  (投 2006-02-09 21:54:36)


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クラシック音楽が鳴り響く体育館。
現在ここでは、ダンス部のメンバー約二十人と、
山百合会のメンバーでのシンデレラの舞踏会シーンの練習中。
パートナーである祥子がいないので、私は一人で踊っているわけなんだけど……。


昨日は大変だった。
色々な意味でほんとうに。
あのあと話し合って、祐巳ちゃんにはシンデレラに参加してもらうことになり、
その事を志摩子から伝えてもらう事になった。
今日の昼には用件を伝えたと言ってたけど、
祐巳ちゃんは掃除当番で少し遅くなるらしいから、きっとそろそろ来るだろう。
本来なら迎えにいかなければいけないんだけど、本番まであと少し。
まだまだ色々覚えなければいけない事もあるし、演劇の練習だけでなく、
生徒会としての仕事も沢山あるので、正直、時間が全く無い。
と、そんな事を思ってたら、祐巳ちゃんがやってきた。
辺りを見回して、きょろきょろとしているのは祥子の姿を探しているからかな?

「いらっしゃい、祐巳ちゃん」

壁際にいた紅薔薇さまが、祐巳ちゃんを呼んで白薔薇さまとお姉さまの四人で何かを話している。

練習中なので、ずっと見ている訳にはいかないけど、ちらっと見た限りでは、
普段通りの祐巳ちゃんのようだ。
と、言っても普段の祐巳ちゃんを知らないので、あくまで私の知る限り、
昨日出て行った時のままでは無いってことだけど。
見た限り、特に何も無く大丈夫そうなので、チラチラ見るのはやめるけど、
それにしても思ってたよりも、ずっと強いのかも知れない。

音楽が終った。
少しだけ休憩時間に入る。
由乃がみんなにタオルを渡し、最後に私のところにきた。
渡されたタオルで首筋に浮かんだ汗を拭く。
と、小さな声で話し掛けてきた。

「ねぇ。祐巳さんのこと、どう見える?」

「どうって……、あんまり変わりないように見えるけど?」

「うん。ちょっとびっくりした」

「それは私もおんなじ」

二人でそちらの方を見る。
祐巳ちゃんは、白薔薇さまに手を引かれてダンスの基本を教えて貰っている。
紅薔薇さまはダンス部員たちに、最初の立ち位置や身体の向きを指示している。
お姉さまは……、壁際で欠伸をしていた。
すぐに視線を外して見なかったことにした。
まぁ、たまたまだろう。
その証拠に、手に書類を持っている。
先ほどまではダンスの練習を見つつ、そっちの仕事もこなしていたようだし。

「一、二、三、一、二、三」

白薔薇さまのリズムをとる声が体育館に響いている。
どうやら祐巳ちゃんはダンスは初めてらしい。
まぁ、でなければ基本からって事は無いだろうけど。
あんまり運動は得意ではないようで、かなり四苦八苦しているのが分かる。
それでも、一生懸命覚えようとしている姿がとっても微笑ましい。

あ、足踏んだ……。

「令ちゃん?」

おっと、由乃が私を呼んでる。

「大丈夫。私達が心配するほど祐巳ちゃんは弱くないと思う」

「うん……、そうみたい」

由乃もそう思ったようで呟くように言った。
視線を再び戻してみると、振り付けの打ち合わせを済ませたダンス部員たちが、
奇妙なものでも見るように祐巳ちゃんたちを見つめている。
と、白薔薇さまが大きく片手を上げて告げる。

「はーい。それでは皆さんに新しいお友達を紹介します。福沢祐巳ちゃんです。
 今日から群舞に参加しますから、仲良くしてあげてくださーい」

祐巳ちゃんは相当驚いているようだ。
口をパクパクさせながら目を白黒させている。
そんな祐巳ちゃんに何事かを耳元で囁いてから、白薔薇さまはその背中をそっと押した。

「誰か組んであげて」

周囲がざわめく中、お姉さまが面々の顔を見回しながら言った。

「じゃ、私が」

お姉さまが言ったからではなく、ただ祐巳ちゃんが気になっていたから、私はすぐに立候補した。


練習が再開された。
クラシック音楽が体育館に再び流れ始める。
祐巳ちゃんは思ったよりも物覚えが早いらしい。
たどたどしいながら、しっかりとステップが踏めてる。
まぁ、人の事を言えるほど私もうまくはないけど。
これならちょっとくらい話をしても大丈夫かな?

「昨日はごめんね、止められなくて」

え、って顔したあとに首を振るからちょっとステップが乱れてしまう。
なんとか元に戻して、

「そんな、私の方こそ、すみませんでした」

申し訳なさそうな顔して謝ってくる祐巳ちゃん。
そのまま言葉を続ける。

「薔薇さま方にもさっき謝られたんですけど、っと」

また少しステップが乱れる。
それでも今度は、先ほどよりかなり早く元に戻せた。

「もう大丈夫ですから」

「そう……」

もう大丈夫。
どういう意味の大丈夫なんだろうか?
祥子のこと、もうどうでもいいって事だろうか?
それとも?

「祥子さま、今日は来てないんですね」

少し残念そうに、そして少し安堵したように祐巳ちゃんが言った。

「祥子のこと、気になる?」

「……」

答えなかったけど、表情を見ればよく分かる。
すごく気にしてる。
祥子のこと、祐巳ちゃんは大好きなんだね。
嫌っても嫌っても、嫌いになれないくらい。
大丈夫、うん大丈夫。
祐巳ちゃんなら大丈夫。
祥子だって大丈夫。
昨日の、あのあとのこと言ったらびっくりするかな?
祥子もね、祐巳ちゃんの事が大好きだよ……。

笑顔はまだ曇ってるままだけど、祐巳ちゃんは凄く可愛い。
外面だけでなく内面もすごく可愛い。
祐巳ちゃんにこんなに想われている祥子が、ちょっと羨ましいなって思ってしまう。

一、二、三、一、二、三。

ステップを刻もう、がんばれ祐巳ちゃん。

一、二、三、一、二、三。

ステップを刻もう、がんばれ祥子。




 大切な人と刻む未来は、きっと素晴らしいものになるに違いないから……




まだまだまだまだまだ続く……のか?



ダンスシーンて短いなぁ……


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