『黄薔薇交差点』
┣ 『気づいた時には 【No:1074】』
┣ 『負けじ魂増殖 【No:1081】』 (分岐点)
┣ 『ためらわない君の首筋に 【No:1091】』 (由乃)
┣ 『迷わず歩き出す誰も知らないしゃべり場 【No:1103】』 (由乃)
┣ 『実質的な制圧宣言ノーと言えない招待されて 【No:1123】』
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続き。菜々独白
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私、有馬菜々には友達が居ない。
いや、正確に言うなら「心を開ける親友・仲間が居ない」だろうか。
別に人付き合いが悪いわけでもなく、人間嫌いでもないのだから。
ずっと昔、まだ小さかったころにはそんな想いを持つことは無かった。
そう、あれは小学校に通い始め、剣道を始めてからだろうか・・・。
祖父は私に剣道の素質があるという。
事実、同年代の子達よりも早くに昇段し、練習相手は姉さん達や年上の子が多く『特別』扱いされた。
しかし、それは結果として同い年の子達から浮いてしまうという事にも繋がった。
私は祖父の養女となり有馬の姓を名乗ることになった。
一番上の姉さんは田中の姓と道場を継ぐことが決まっているようなもので、自分には関係が無いと考えていたようだ。
しかし、あとの二人の姉さんにとっては、私が有馬を継ぐというのはかなり微妙な気持ちだったらしい。
姉妹仲が悪くなったということは無いが、年上である姉さん達よりも私が認められていることに、割り切れない何かがあるのは確かだ。
姉妹の中で私だけが『特別』なのだ。
中学に入るとき、姉さん達とは別の学校を選んだ。
学校で剣道を続けるのに、姉さん達と、いや姉さん達が比較されることが面白くなかったからだ。
それに四姉妹で一人だけ姓が違うことをとやかく詮索されるのもつまらない。
姉さん達と違う道を行くことで面白い何かが見つかるかもしれないという期待もあった。
実際リリアンの校風は独特で面白い。驚きに満ちていた。
だが、ここでも私は浮いてしまうことになった。中等部からの入学組であり、剣道に長けていることが知れ渡り、『特別』視されている。
一人きりの部屋で布団に包まれ、天井の染みをぼんやり眺めながら考える。
いつも『特別』扱いされていた私を普通に扱ってくれたのは島津由乃さまが初めてだった。
リリアンの生徒でありながら太仲の応援をしていたことも、田中四姉妹の一人とわかっても、生来の冒険好きが顔を出し突っ走っても変わらなかった。
それはとても嬉しくて・・・怖かった。
山百合会という『特別』に自分の身を置くことが。なにより、令さまのように由乃さまの『特別』になることが。
だから、由乃様とぶつかり合い、距離を置く・・・逃げてしまっていたのかもしれない。
しかし、もう逃げることは出来ない。白薔薇さまと紅薔薇さまに追い詰められてしまったのだから。
「でも、今さらどんな顔して由乃さまに会えばいいのよ?」
『うるさいよ!菜々!』と姉さんたちに叱られるまでずっと、布団の上を頭を抱えてゴロゴロと転がりまわっていた。