いつものように、放課後の薔薇の館。
山百合会の助っ人、演劇部所属の松平瞳子が、サロン兼会議室にただ一人。
今日は掃除も部活動もなかったので、早めに来過ぎたかなと思っていたら、案の定誰もいなかった。
取り合えずザっと掃除して、お茶を淹れるために湯を沸かす。
手持ち無沙汰なので宿題に手を付けたところに、階段を上がる軽快な足音。
「ごきげんよう、黄薔薇のつぼみ」
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・フェティダ・アン・ブゥトンこと島津由乃に挨拶する瞳子。
「ごきげんよう瞳子ちゃん。今日も縦ロールが決まってるわね」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「ところで、一人だけ?」
「はい、由乃さま以外は未だ誰も」
「そう」
そのまま由乃も、瞳子と同じように宿題に手を付けたところで、階段を上がる豪快な足音。
「ごきげんよう、黄薔薇さま」
「令ちゃん」
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・フェティダこと支倉令に挨拶する瞳子、由乃。
「ごきげんよう瞳子ちゃん。今日も縦ロールが良く似合ってるよ」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「ところで、二人だけ?」
「はい、お二人以外は未だ誰も」
「そう」
そのまま令も、瞳子、由乃と同じように宿題に手を付けたところで、階段を上がる規則正しい足音。
「ごきげんよう、白薔薇さま」
「ごきげんよう志摩子」
「ごきげんよう志摩子さん」
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・ギガンティアこと藤堂志摩子に挨拶する瞳子、令、由乃。
「ごきげんよう瞳子ちゃん。今日も縦ロールが弾んでいるわね」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「ところで、三人だけですか?」
「はい、今のところ、この人数です」
「そう」
そのまま志摩子も、瞳子、令、由乃と同じように宿題に手を付けたところで、階段を上がる大人しい足音。
「ごきげんよう、乃梨子さん」
『ごきげんよう乃梨子ちゃん』
「乃梨子」
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンこと二条乃梨子に挨拶する瞳子、令、志摩子、由乃。
「ごきげんよう瞳子。今日も縦ロールが麗しいね」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「ところで、四人だけ?」
「はい、今のところ、この人数です」
「そう」
そのまま乃梨子も、瞳子、令、志摩子、由乃と同じように宿題に手を付けたところで、階段を上がる静かな足音。
「ごきげんよう、紅薔薇さま」
「ごきげんよう祥子」
『ごきげんよう祥子さま』
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・キネンシスこと小笠原祥子に挨拶する瞳子、令、志摩子、由乃、乃梨子。
「ごきげんよう瞳子ちゃん。今日も縦ロールが美々しいわね」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「ところで、これで全員?」
「はい、今のところ、この人数です」
「そう」
一応ある程度の人数は集まったので、そろそろ仕事に移ろうと書類を準備し出したところに、階段を上がる落ち着いた足音。
「ごきげんよう、可南子さん」
『ごきげんよう可南子ちゃん』
「ごきげんよう可南子さん」
ドアが開くと同時に、現れた同じく山百合会の助っ人細川可南子に挨拶する瞳子、祥子、令、志摩子、由乃、乃梨子。
「ごきげんよう瞳子さん。今日も縦ロールが素晴らしいわね」
「はぁ、ありがとうございます」
いきなりの誉め言葉に、困惑する。
「遅くなって申し訳ありません」
「大丈夫よ、始めたばっかりだから」
「そうですか」
そのまま可南子も、仕事に参加したところで、階段を上がる落ち着かない足音。
「ごきげんよう、祐巳さま」
「ごきげんよう祐巳」
『ごきげんよう祐巳さん』
「ごきげんよう祐巳ちゃん」
『ごきげんよう祐巳さま』
ドアが開くと同時に現れた、ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンこと福沢祐巳に挨拶する一同。
「ごきげんよう瞳子ちゃん。今日も縦ロールが目立っているね」
その祐巳の誉め言葉を最後に、
「もう、さっきから何なんですか?人の『ドリル』を縦ロール縦ロールって!?」
とうとう瞳子がキレた。
「私のトレードマークと言うべき麗しの『ドリル』を、縦ロール呼ばわりされるなんて迷惑ですわ!」
『………』
全員、瞳子の言葉に絶句した。
「あのー、瞳子ちゃん?」
「何ですか!?」
見かねて祐巳が確認する。
「ドリルじゃなくて、縦ロールだよね?」
「ですから、縦ロールではなくドリルと言ってるではありませんか!」
その言葉に、
『逆だよオイ』
全員、突っ込まずにはいられなかった。
あまりにもドリルドリルと言われ続けたが故、いつの間にか認識が逆転していた瞳子だった。