【1159】 祥子がおいしい人としてどうかと思う  (mim 2006-02-22 01:55:04)


今日はお姉さまの卒業式。
私はお姉さまたちへの送辞を述べることとなっていた。次期紅薔薇さまとしての任を立派に果たせることを示してとお姉さまに安心していただくために堂々とした送辞にするはずだったのだ。

「送辞。在校生代表。二年松組、小笠原祥子」
「はい」
私は落ち着いていた。私の家は少し特殊な環境であったため、大勢の前で挨拶を行うことは幼少の頃から度々あり慣れていたのだ。
私は在校生の列から離れ、背筋を伸ばし壇上に向かった。
私は卒業生の席の正面に据えられたマイクの角度を直し、送辞の原稿が記された白い巻紙を開き、顔を上げて卒業生のお姉さまたちの海原に向かい冷静に視線を漂わせた……はずだった。

けれども、海原の中にお姉さまの姿がまるでスポットライトが当たったように浮き上がっていたのだ。
お姉さま……。
中等部までと同様に孤高を装った孤独の中で過ごす予定だった私の高等部生活を変えてくださったお姉さまが卒業してしまう。
「リリアン女学園高等部を巣立っていかれるお姉さま方。 ご卒業おめでとうございます」
そこまで言うのが精一杯だった。脳裏にお姉さまとの様々な思い出が蘇ってきて私はパニックになり、更に悪いことに涙が後から後からこみ上げてきて言葉を発するどころではなかったのだ。

その状態がしばらく続いたと思う。
気がつくと隣から耳慣れた声が聞こえてきた。
「在校生を代表して、心よりお祝い申し上げます」
令だった。
まるでそれが本来の形であるように、令は自然体で私の手にしている送辞の続きを読み始めた。
令が送辞を読み上げる声を聞いているうちに私も徐々にではあるが落ち着きを取り戻していった。そして最後だけは令と一緒に読み上げを再開することができた。

「最後となりましたが、お姉さま方のご健康とご活躍をお祈り申し上げ、これを送辞とさせていただきます」
「在校生代表、小笠原祥子」
「そして」
「支倉令」

一瞬、会場が息を吸い込んだようにしんとなり、次の瞬間割れんばかりの拍手が会場に鳴り響いた。



卒業式終了後、山百合会の仲間たちで記念撮影をすることとなっており、私たちは昇降口まえで待ち合わせをしていた。
私は卒業式で涙を流した余韻で呆然としていたらしい。
遅れていた祐巳がいつの間にか私の横におり、私をみんなの輪からこっそりと連れ出した。

「何?」
卒業式での姿を祐巳に見られ、ばつが悪かったので私は少し攻撃的に受け答えをしてしまった。
「お姉さま、鼻をかむとすっきりします」
「あなたね―」
私にこんなところで鼻をかめというのか?そんな恥ずかしいことは私にはできない。
いや、いままでであればできなかったと言おう。
私の可愛い祐巳。お姉さまが卒業なさっても、私を支えてくれるこんなに可愛い妹がいるのだ。祐巳の言葉は私を心地よく動かしてくれるのだ。
祐巳はまだなにか言っているようだったが、少しぼーっとした私にはあまり理解ができなかった。

「本当にすっきりするのね?」
といいながら私は思いっきり鼻をかんだ。



―「リリアンかわら版卒業記念号」より抜粋―

「卒業生のお姉さま方、いかがお過ごしでしょうか?(中略)お姉さま方が卒業なされて
生徒数が1/3となり淋しくなりましたが、リリアンの校内ではあいかわらず仲睦まじい姉妹たちの姿が見受けられます。ただ、いままでと少し違うのは、なぜかうっすらと歯型の跡を鼻に浮かべた姉妹たちが増えていることです。これは、卒業式終了後に新紅薔薇姉妹が(後略)」




後日、新聞部にて

「きゃー!誤植よ!誤植。卒業生の『通りすがり?』さまからご指摘があったわ。 お姉さま方が卒業して生徒数が1/3に、ってどういうことなのッ! この記事書いた人と校正した人って誰ッ!」
「両方ともお姉さまです」
「………真美、そんなこと言うと鼻をかみたくなっちゃうわよ」

年度末でほとんど予算を使い果たしていたため、三奈子の自腹で正誤表が配布されることになったという。


「リリアンかわら版卒業記念号 正誤表」
誤:お姉さま方が卒業なされて生徒数が1/3となり
正:お姉さま方が卒業なされて生徒数が2/3となり
    
   申し訳ありません。
        新聞部部長:


一つ戻る   一つ進む