【1161】 いつまでも怒ります涙はどんな色  (亜児 2006-02-22 08:30:31)


 
 みんなが寝静まったのを見計らって、私は寮を抜け出した。澄んだ夜の空気が
気持ちいい。私は極上寮を見上げて呟いた。

「神宮司の能力・・・。この私をもってしても
 わからないことがあるなんてね。」

 ゆっくりとした足取りで森へ向かう。別に怪しいことをするつもりではない。
こうして1人の時間をもつことで、任務を確認しているだけ。時々、あの人たちの
仲間になってしまったかのような錯覚を覚えるからだ。まさか情がわいたというの?!
背後にある気配に向かって話しかける。

「そこにいるのは、わかってるわ。出てきたらどう?」
「ふっ。さすがは隠密のトップですね。」

 音も立てずに登場したのは隠密の矩継琴葉。普段は私の部下として
働いてくれている。その彼女がこうして私をつけてきたということは・・・。

「久遠さん。これ以上目立ったマネはしないことです。
 そうでないと・・・・。」
「どうするのかしら?」
 
 私は挑発的な目つきで琴葉を見つめる。琴葉の目にあるのは敵意。できれば
敵には回したくない相手だったけど、話して通じる相手ではないか・・・。

「奏さまの件から手を引くなら許して学園に残れると聖奈さんも
 言ってくれました。貴女の事情もわかってます。それについても・・・」
「はいそうですか。と簡単に信じる人がいたら見たいですわ!!」

 言いながら私は大きく間合いを取り、制服に忍ばせているベレッタを
取り出して、セーフティを解除する。

「貴女は悲しい人だ。あんなに素晴らしい
 仲間を信じることができないなんて・・・。」
「仲間など私には必要ありませんわ。この学園に来たのも
 任務だからよ。どうなろうと知ったことではないわ。」
「・・・本気で怒りますよ・・・」
 
 次の瞬間、琴葉は空高く舞い上がり、手裏剣を放つ。私は横っ飛びでそれを
避けながらベレッタで応戦する。隠密ナンバーワンの看板は伊達ではなく、
ナフレスで幼い頃から戦闘訓練を受けた私であっても彼女を倒すのは、
かなり難しそうだ。負ける?この私が。そんなことがあってはならない。
もし、私が神宮司の軍門に下ったと知れば、ナフレスは私の家族を何の迷いも
なく消すだろう。

 琴葉は目にも止まらぬスピードで私の銃撃を避ける。この距離の弾丸を避けるなんて
この子はやはりタダ者ではない。その動きを逆手にとってやれば・・・・。

「その動きの良さが命取りよ!」

 琴葉の移動地点に向かって私は射撃する。制服が打ち抜かれる音が森に
響きわたった。私は琴葉の状態をを確認するために制服が落ちている場所へと
近づく。しかし、そこにあるのは制服をつけた木が落ちているだけだ。

「甘いっ!」

 私の世界は次の瞬間暗転した。

「気づきましたか?」

 目を覚ますと、琴葉が私を見下ろしていた。

「久遠さん。そろそろ素直になってください。貴女はこの学園が
 好き。そうでしょう?」
「・・・・・・・・・・。」

 私の脳裏に、編入してからの想い出がフラッシュバックする。ここは奏が
作り出した「永遠の楽園」。実際に、任務を忘れてしまうほど楽しんでしまうことも
何度かあった。奏会長・奈々穂さん・聖奈さん・・・。みんな私とは住む世界が違うと
思っていたのに。それなのに、どうして?気づくと私は涙を流していた。


「その涙こそ、貴女の本当の心です。久遠さん。」
「琴葉・・・・。」
「もう一度聞きます。貴女はこの学園が好きですか?」
「銀河久遠はこの学園が好きです・・・・。」
「会長は貴女の事情もご存知です。どうか安心してください。
 ご家族については、いずれ私たち隠密が解放してみせます。」
「そう・・・。私はここにいてもいいのね。」
「はい。問題ありません。」

 そう言って琴葉は手を差し出す。私は素直に琴葉の手をつかんで
立ち上がり、琴葉の肩を借りて寮へ向かって歩き出す。

 私立宮神学園。ここは、本当に素敵な場所。今まで任務で潜入した
どこよりも奥が深い。そんなことを考えながら月を見上げた。明日から
はあの方のために私は自分の力を使おう。そう心に誓った。



(終わり)


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