>SSに手を染めたきっかけとのクロスを書けという指令
言い出しっぺ書きます。
私の最初はこれでした。 笑っていいです。
(クロスオーバーとかGAINA×とか苦手な方はご注意ください)
抜けるような青い空。
白い白い入道雲。
微かに蒼く霞む緑の稜線。
祐巳は気がつくと公衆電話の受話器を握っていた。
『本日12時30分、東海地方を中心とした関東、中部全域に特別非常事態宣言が発令されました』
聞こえてくるのは良くわからないアナウンス?
『住民の方々は速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします……』
特別なに?
シェルターって?
本当に、なにがなにやら。
ここはどこか田舎の駅前らしいんだけど、自分がどうしてここに居るのかさっぱり判らなかった。
「学校、行かなきゃ……」
リリアンの制服を着ているってことは通学の途中なのか?
でもお日様は高く、気温も真夏の真昼間のように……。
……そうなのだ、もの凄く暑い。
着ているのは半袖の夏服なんだけど、それでもめりつくような熱気に汗がじわりと湧き出していた。
祐巳はとりあえず受話器を置いて周りを見回した。
山が目の前まで迫った風景は都会育ちの祐巳にはあまり馴染みの物ではない。
辺りは静まり返って人っ子一人居ない。
熱気を帯びたアスファルトの道がまっすぐ伸びて遠くの景色は陽炎に歪む。
その向うに一人の少女の姿が浮かび上がった。
(あれは……)
祐巳がその容姿の人物の名を脳裏に浮かび上がらせようとしたその時だった。
ひゅん、と電線が風を切る音がして、よどんでいた空気が動き出した。
突然とどろく爆発音。
「な、なに!?」
驚いて音のした方に振り返ると、目の前の山の谷間から大きな戦闘機が何台も現れた。
戦闘機といってもヘリコプターのように空中で停止できるやつ。
祐巳が見たことも無いその変わった飛行機を戦闘機だと思ったのはそれが何かに向かって攻撃してたからだ。
だが、本当に驚いたのはその『何か』。
戦闘機のあとに現れた巨大な物体の方だった。
胸の中央にある赤い玉。 妙に出っ張った肩。
まるで、一昔前にやっていたテレビアニメに出てくる宇宙人? いやあれはたしか……。
その宇宙人がいきなり光を放った。
「ええぇ!?」
戦闘機が光に貫かれ、爆発し、そのあおりを受けてもう一機が、祐巳に向かって落ちてきたのだ。
「ひっ、ひえぇぇぇぇぇっ!!」
祐巳は慌てて逃げだした。
とっさのことで上手く走れないで二、三歩で躓いたように地面に手をついてしまう。
(もうだめっ)
熱いアスファルトに身を投げ出して身体を折り両手で頭を抑えてそのときを待った。
でもそのときは来なかった。
「あれ?」
轟音がして、爆風が通り抜けた気がしたがそれは致命的なものではなかったのだ。
「早く乗って!!」
怒鳴るような声が墜落した戦闘機の燃える音とまだ飛んでいる戦闘機が放つ轟音にまぎれて聞こえてきた。
体を起こし、声のした方を見ると墜落現場と祐巳の間に割り込むように黄色い軽乗用車が停まっていた。
爆風を遮るように停車したそれが祐巳を守ったのだ。
「は、はい!」
祐巳は慌ててその乗用車の助手席に乗り込んだ。
そして車は軽乗用車は思えないほどの加速で急発進した。
〜 〜 〜 〜
「あのー……」
祐巳は車を運転するその日本人離れした堀の深い美人女性におそるおそる話し掛けた。
「あ、遅れてゴメンね福沢祐巳ちゃん」
「え?」
(聖さまだよね……)
あまりのことに失念してたけど、落ち着いてよく見るとハンドルを握るその女性はどう見ても佐藤聖さまだった。
(どうなっているんだろう)
「あの、遅れてって?」
「あれ? 手紙読んでなかったの?」
「手紙!?」
そういえば、転んだ時、ポケットになにか入ってる感触があった。
「手紙ってこれですか?」
ポケットには封筒が一つ。
中身を取り出すと、一枚の写真と便箋が。
便箋には一言、
『来い』
と書いてあった。
〜 〜 〜 〜
「あの、佐藤聖さま?」
封筒に入っていた写真には聖さまの名前とメッセージがかいてあった。
メッセージは聖さまが祐巳を迎えに来るという旨。
「あら、さま付けなんて。 佐藤さんでいいわよ、ていうかむしろそう呼んで」
「は?」
「いま私のなかで佐藤さんブームなの」
何のことやら。 でもやっぱり聖さまだ。
その時、聖さまはバックミラーを覗き込み、緊迫した声で言った。
「まさか、N2地雷使う気!?」
「え?」
「祐巳ちゃん、伏せて!!」
「きゃーーーーっ!!!」
どっかーんってな具合にそれはもう豪快に、祐巳の乗った軽自動車はごろごろと何回転も転がった。
どういうわけか車は無傷だった。
〜 〜 〜 〜
「特務機関N○RVですか」
「そうよ」
祐巳は読んでおいてと渡された小冊子を眺めながら聖さまと話していた。
もう判っていた。
これはアレだ。
ちょっと昔のテレビアニメ。
エ○ァンゲリオンとかいう。
祐麒が友達から借りてきたのを一緒に見たことがある。
よくわからないけど祐巳はその登場人物になっているっぽかった。
祐巳の記憶によると、この後、主人公がそのエ○ァとかいうのに乗って戦うはずだ。
なんかロボット物にしては主役がいきなり悲惨な目に会ってるのが印象に残っていた。
(って、もしかして、悲惨な目にあうのって私!?)
〜 〜 〜 〜
「遅いわよ佐藤一尉、何やってたの? 人手もなければ、時間もないのよ」
「ごめんこめん」
建物内で迷った聖さまを迎えにきたのは蓉子さまだった。
「ふぅ、例の子ね?」
蓉子さまは祐巳の方を見た。
「そう、マルドゥックの報告書による、サードチルドレン、福沢祐巳ちゃん」
「よろしくね」
「あっ、はい」
配役は適当なのか。
次は誰だろう。
どうも血縁とか人間関係に関わりなく適当に配役されてる気がするから油断出来ない。
たしかここで一番偉い人が主人公の父親だったはず……。
まさか本当にお父さんが出てくることはないだろうけど。
〜 〜 〜 〜
祐巳は大きな紫色の顔(?)の前にいた。
「人間が作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エ○ァンゲリオン、初号機。 我々人類、最後の切り札よ」
そう言う蓉子さまに答えて、祐巳はとりあえず今思い出した次の人物が登場するキーワードを言った。
「……これが父の仕事ですか?」
「そうだよ!」
げっ。
この無駄にさわやかな喋り方。
見上げると予想通りの人が立っていた。
「お、お、お……」
あまりの事に思い出して次に言おうとしていた台詞が口に引っかかった。
ニヤリじゃない。 ニヤリじゃないよ……。
一回だけ祐巳の方を見て微笑んだ後、彼は白い歯をキラリと輝かせながら言った。
「ふっ、……出撃」
さ、さわやか過ぎる!
わざわざ前髪をかきあげる動作がまたキザったらしい。
そうなんだよね。
リリアン関係者は美形が多すぎるのだ。
髭眼鏡親父が主役クラスの重要人物なんて誰を当てたらいいか迷うよね。
でもよりによって、祐巳の父親役をこの人にするかな?
上のほうで偉そうにしてるギンナン王子に祐巳は頭を抱えた。
それでも総司令と言われて納得できるのが微妙に悔しい。
「出撃!? 零号機は凍結中だろっ!」
声を荒げる聖さまに柏木さんは無言で答えた。 というか司令とタメ口なんだ。
聖さまはそれを見て何かに気づいたように蓉子さまの方に振り返った。
「まさか、初号機を使うつもりなの?」
「他に道はないわ」
「ちょっと、彼女はまだ動かせないでしょ? パイロットがいないわよ」
「さっき届いたわ」
「マジなの?」
蓉子さまは冷静。 聖さまは熱血。
このへんの配役は妙にはまってるなぁ、と思った。
いや、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。
「福沢祐巳ちゃん」
蓉子さまは祐巳の方に振り返って言った。
「は、はい?」
「あなたが乗るのよ」
「ええっ!?」
皆の視線が祐巳に集まった。
「でも、志摩子でさえ、エ○ァとシンクロするのに7ヶ月もかかったのよ! 今来たばかりのこの子にそんなの無理じゃないの?」
うわっ、志摩子さんが彼女の役だ。
なんか微妙。
「……座っていればいいわ。 それ以上は望みません」
「しかし……」
「今は使徒撃退が最優先事項です。 そのためには、誰であれエ○ァとわずかでもシンクロ出来ると思われる人間を乗せるしか方法はないわ。 判っているはずよ、佐藤一尉」
聖さまがぐっと拳を握り締める。
「……ねえ」
「なんだい?」
上の方に居る柏木さんに向かって発した祐巳の呟きはちゃんと聞こえていた。
「なんでここに呼んだの?」
つまるところ『来い』の手紙は柏木さんからなのだ。
「祐巳ちゃんの考えてる通りだよ」
「じゃあ、私がこれに乗って、さっきのと戦えっていうの?」
「そうだ」
祐巳は柏木さんがいる方を見上げた。
「いやよ、そんなの! 何であなたなんかの言うこと聞かなきゃならないの!? どうして私なんか呼び寄せたの!!」
「必要だから、それ以外の理由はない」
いままで割と優しい話し方をしていた柏木さんはここに来て突き放すように言い放った。
(柏木さんでもやるときはやるってことか)
祐巳は俯いた。
「……なぜ、私なの?」
「他の人間には無理だからだ」
「無理よ、そんなの。 見たことも聞いたこともないのに……。 できるわけないじゃない!!」
「説明を受けてくれ」
「そんな無理っ! 絶対できっこないっっ! こんなの乗れるわけないでしょ!!」
「乗るなら早くしろ。 でなければ帰れ」
うわっ。
同じきめ台詞なのになんで柏木さんが言うとどうしてこんなにさわやなかのか。
一番これをいいたかったのか、微妙に嬉しそうなのは言うとぶち壊しなので黙っておいた。
辺りに沈黙が流れる。
その沈黙を破ってどーんと爆発音がして、フロアが少し揺れた。
「奴め、ここに気づいたか」
「時間がないわ」
蓉子さまが急かすように言った。
祐巳はすがるような目で聖さまの方を見た。
柏木さんの方を見上げていた聖さまは意を決したように言った。
「祐巳ちゃん、何のためにここに来たの? 逃げたら負けなのよ。 あなた負けたいの?」
いや、柏木さんなんかに負けたくない。
負けたくないんだけど……。
「……私には無理よ」
俯いてそう言った。
「……ユキチ、彼女を起こしてくれ」
「えっ、マジかよ?」
「死んでいるわけじゃないだろ」
「鬼畜だな、先輩」
「柏木と呼んでくれ。 そういう役どころなんだから」
なんか副指令が祐麒だった。
役になりきってないあたりが祐麒らしいというか。
なにやらまわりが騒がしく動き出した。
しばらくして、フロアを転がるキャスターの音が聞こえてきた。
ふわふわの巻き毛に白い肌。
包帯ぐるぐる巻きで運ばれてきたのはやっぱり志摩子さんだった。
「志摩子」
「はい」
「祐巳ちゃんが使えなくなった。 もう一度だ」
ううむ、なんというか、柏木さんはもともとの話し方と冷たい言い方を上手いこと取り混ぜて柏木さんなりの役作りをしているのが負けたみたいで無性に悔しい。
「はい」
志摩子さんは、弱々しく無表情で答えたと思うと、表情を歪めながらゆっくりと起き上がった。
えーっと、演技?
それともマジなのかな?
いずれにしても怪我人に何かさせようとする柏木さんはさわやかな言動とは裏腹にしっかり悪役なので祐巳はほっとした。
いや、そこはほっとするところじゃないんだけど……。
「初号機のシステムを志摩子に書き直して再起動!」
蓉子さまが叫ぶ。
作業員の人が忙しそうに動き回る。
俯いたまま祐巳の祐巳はそこに取り残された。
(えーっと、このままだと志摩子さんが?)
点滴を揺らしてハァハァと荒い呼吸をしている志摩子さん。 すごく苦しそうだ。
そのとき。
どかーんとさっきより大きな音がして、足元が大きく揺れた。
「危ない!」
「え?」
頭上でがしゃんと大きな音がした。
(上!? 何?)
「うわぁ!?」
上を見たら例の紫色の顔があった方から迫り出した大きな手が頭上を覆っていた。
「まさかあり得ないわ! エントリープラグも挿入していないのよ? 動くはずないわ!」
「インターフェイスも無しに反応している? というより祐巳ちゃんを守ったの? ……いけるわ!」
蓉子さまと聖さまが驚いている横で包帯だらけの志摩子さんが床に投げ出されていた。
祐巳は慌てて志摩子さんに駆け寄った。
肩を支えるように抱き上げると志摩子さんは目を開き、祐巳と目が合った。
(期待してる。 なんか志摩子さん期待してるよ……)
ここは言わなきゃならないんだろうな。
すっごくイヤだけど。
役どころを忘れて期待に目をキラキラと輝かせている志摩子さん。
(わかったわよ。 言えばいいんでしょう、言えば)
祐巳は覚悟して言った。
「やります、私が乗ります!」